第11話 オトラル戦8

  人物紹介

 ホラズム側

イナルチュク・カン:オトラルの城主。カンクリ勢。


  人物紹介終了


 イナルチュクは次のモンゴル軍の動きに驚くこととなった。それを自分の目でも確認し、想わずつぶやく。


「あやつら、あれを用いるのか」


 その顔は引き歪んでおった。モンゴル軍が、オトラルのぐるりを囲む位置にて、投石機をいくつも組立て始めておったのだ。


 その攻め手は騎馬によるものとたかをくくっておった。ならば野戦に応じず、堅く守ることで、この大軍をしのげるのではないか。


 矢も命じて新たに大量に作らせた。城下にモンゴル兵が押し寄せたならば、にて応じ、死体の山に変えてくれよう。そう意気込んでさえおった。


 敵に城壁を崩されれば、オトラルはどうなってしまうか。しかしイナルチュクは経験ある武将であった。自らに物想いに沈むことを許す気はなかった。早速、投石隊の長を呼び、自軍の投石機の配備を命じた。


「石は十分か」


「以前から蓄えておるものがあります。それでしばらくは持ちます。しかし投石機で撃ち合うことは予想しておらず、十分かと問われますと・・・・・・」


とそこで言葉をにごした。


 ただ叱りつけることはできなかった。騎兵を相手にしては、素早く狙いを変えることのできぬ投石機は有効な兵器とはいえず、使うことはほぼなかろう、そうイナルチュク自らが想いなしたのだ。そして、それゆえにこそ、新たに石の備蓄を増やせとの命も出しておらなかったのである。

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