第10話 オトラル戦7
人物紹介
ホラズム側
イナルチュク・カン:オトラルの城主。カンクリ勢。
モンゴル側
チンギス・カン:モンゴル帝国の君主
ジョチ:チンギスと正妻ボルテの間の長子。
人物紹介終了
あまりの大軍勢を見て驚き
(チンギスが残っておるのか、それともいずこかへと進軍したのか)
イナルチュクは知りたく想った。ゆえに部隊を発して――恐らくはオトラルの防備を調べるためであろう――不用心に城壁に近付いた敵小隊を襲わせ捕らえさせた。そして、その隊長を連れて来るよう命じた。
完全武装のイナルチュクと側近たちの前に、その者は後ろ手にしばられ引き立てられて来た。ガタガタ
「進発したのはカンの大中軍とジョチ大ノヤンの軍です」
「そのカンの軍はどこに向かったのだ」
「ブハーラーに向かったと聞いています」
「この者が本当のことを申しておるか否か分かりませぬぞ」
そう側近の一人が割り込んできた。
「どうしてわたくしが嘘を言う必要があるのです。逃げたのではありません。進軍しておるのです。どこに向ったかは、いずれ
とむきになって答える。答えの正しさのみが己の命を保証する、と知る者の必死さがそこにあった。
「この者はどうします。こんな口の軽い奴。生かしておいても仕方ありますまい」
先の側近に更にそう言われ、モンゴル兵は
「まだ他に聞くべきことがあるやもしれぬ。
イナルチュクの命に従い、モンゴル兵が連れ去られた後、
「お前は、あの者に我が告げた言葉を聞いておらなかったのか。我を平気で約束を破る者とでも想っておるのか」
距離を詰めることもなく声を荒らげることもなく、イナルチュクは問うた。
「
と側近は言ってのけた。
「それでは聞くが、あの者がモンゴル兵であるという他に、あえて約束を破らねばならぬ理由があるのか。あの者を殺して、何が得られるのだ。もう情報は得られぬぞ」
そう問われ、側近は黙り込んだ。
「お前はしばらく糧食倉庫の護衛に回れ。それから我のかたわらに来ることを禁ずる」
イナルチュクは己が少しぴりついておる自覚はあった。しかし下した処分を撤回すべきとは想わなかった。
平時ならばあのような者。誇りだけ高く、それゆえ敵を必ずあなどる者が側近におっても
城壁の外を再び見やる。戦そのものはまだ始まっておらぬ。ただ信じ難いというほどの軍勢ではなくなっただけで、大軍にオトラルが攻囲されておることに変わりはなかった。
チンギスがブハーラーに向かったという話は納得の行くものであった。スルターンの御座所は、ここのところブハーラーかサマルカンドとなっておった。その情報を手に入れ、自ら進軍したに違いなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます