第11話 和平協定4(スルターンとモンゴル使節団)カクヨム版

  登場人物紹介

ホラズム側

スルターン・ムハンマド:ホラズム帝国の現君主。

  登場人物紹介終了



 翌日スルターンは、ようやくモンゴル使節団と謁見した。その長たるヤラワチがまず誇らしげに伝えるところでは、

 チンギス・カンよりの贈り物として、

――金国からの戦利品である大量の黄金と絹織物を、

――更には臣従する西夏の貢納する極上のラクダの毛織物を

――携えましたとのことであった


 その後にスルターンはチンギスの言葉を伝え聞いた。その内容は全く対等な立場での交易の申し出であった。




 次の日の夜に使者との二度目の謁見を行った。やはり公平かつ寛容たらんとするスルターンは、その考えに従って導き出された返答を伝えた。




 その謁見の後、やはりナイチンゲールが美しい声でさえずる夜のただ中、ニザームはどうしておるかと、スルターンは近侍の者に尋ねた。出立の挨拶に来てもよさそうなものが、いつまで経っても来ぬゆえであった。


 あるいは殊勝しゅしょうにもモンゴル使節との交渉が終わるを待っておるのかとも想ったので、とりあえず放っておいたのであるが。


 臣下は臣下で、スルターンが激しく嫌っておることを知っておれば、その逆鱗に触れるを恐れて、ニザームに関して何であれ進んで報告しようとはせぬ。


 臣下が答えるには、前日の朝早く、つまりスルターンとの謁見の翌朝には、本来なすべき辞去の挨拶もせずに、着の身着のまま、ろくな財産もたずさえることなく、立ち去ったとのことであった。


(我の気が変わるのを恐れたか。我はそれほど考えを変えぬぞ)


 その考えの変わりやすさのために、自らの身の滅び、果ては国の亡びさえ招いたと伝えられる歴史上の支配者達、あれらとは異なるぞとの自負をスルターンは一層強くした。


 そして顔は、ほころばざるを得ぬ。もうあの顔を見ずに済む、何よりその称号を聞かずに済むと想えば。


 それにあれだけ脅せば、ニザームは二度と姿を見せぬだろう。母上が行けと命じても、その足にすがりついて嘆願するであろう。


 また我が嫌う理由も教えてやった。ニザームは母上にそれを訴えることもできる。最終的にあわれと想うて許すか、それともその頭を踏みつぶすかは母上次第である。


 そして今回の解任のやり方であれば、母上の反撃は限られよう。こちらが強引に罪をでっち上げた訳でさえない。あくまでニザームが自ら選んだところによって罰したのであった。


 スルターンは気分が良かった。





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