第5話 始まり5(クナンとボオルチュ、ふたたび)
人物紹介
モンゴル側
チンギス・カン:モンゴル帝国の君主
ボオルチュ:チンギス筆頭の家臣。アルラト氏族。四駿(馬)の一人。
ジョチ:チンギスと正妻ボルテの間の長子。
クナン:ジョチ家筆頭の家臣。ゲニゲス氏族。
ケテ:ジョチ家の家臣。
トゥルイ:チンギスと正妻ボルテの間の第4子。
ホラズム側
スルターン・ムハンマド:ホラズム帝国の現君主
人物紹介終了
オルドを去る日、見送ってくれたのもボオルチュであった。カンの引き留めを受け続けたこともあり、またジョチには別途カンとの謁見の報告の伝令を発したゆえ、改めて急ぐ必要もなかった。
四ヶ月余りを過ごし――その間に夏営地サアリ原への移動もあった――自らもまた配下の者も馬も十分過ぎるほどに休んだ。
この間に、カンよりジョチに授けられておった軍が、約束通り戦利品を携えて戻って来た。それに付き従って、カンにご
滞在中は食事や様々なものをカンが提供してくれた。
多少暑さが緩んでから、各地の王族やノヤンの配下の商人たちが集まり始め、その度ごとに歓迎の宴が開かれた。宴も酒も嫌いでないクナンにその誘いを断る理由はなかった。クナンは、
ジョチとその妃やお子への贈り物として、カンより賜った品々を運ぶ牛車三台が後方に加わっておるのが往路との違いであった。それらは、金国より得た絹織物や
ボオルチュと並んで
「こたびの件。もしかするとカンのお怒りを買うことになるやもしれぬと想い、急ぎ
そう声をかけられたボオルチュは――うまくクナンの意をくみ取ることができなかったのか――あるいはみだりに言葉をさえぎってはと気づかっておるのか――黙したままであった。
「いや、あのような温かき言葉をかけて頂けるのなら。我はその喜びを奪ってしまったのかもしれぬ」
「それはどうでしょうか。カンは我らノヤンより
「そうか」
そう言われてはクナンも
そのキョルゲンに対してはそんなことはないが、年長の四子に対しては、その要求するところも接し方も厳しい。カンを恐れておらぬお子はおらぬというのは、臣下たち皆の知るところである。その軍才を最も評価され、軍征時には常にかたわらにおるを望まれるトゥルイにしてさえ例外ではないと聞く。
「カンは何より忠義を好まれます。自ら敵との交渉に赴いたのも、その後の戦を指揮したのも、いざとなればクナン
そこでボオルチュは一端口ごもった後、言葉を継いだ。
「カンの一族の中にさえ、その血を悪く言われる方はおられます。しかし我自身、長年お側にお仕えして、そうしたことをカンの口からお聞きしたことは一度としてありませぬ」
クナンは黙したままであった。そのことはジョチ家の家臣の中では
「あの悲劇を防ぐことができなかったのは、我の落ち度でもあります。ボルテ・ウジンにもカンにも申し訳が立ちませぬ」
想わずその
その後は二人黙して、しばし駒を並べて進み、そしてクナン配下の百人隊が待っておるところに至ると別れた。
そのおよそ半月後にホラズムへの使者が出発した。隊商の到着前にスルターンと和平の協定を結べとのチンギスの命を受けて。
その更に二十日ほど後の十月半ばには東方の
(完)
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