第8話「置いていくつもりは無い」

 集落の近くにある雑木林。

 俺達はそこで、宛てもなく歩いている。


 一応名目は、今晩の飯の為だ。

 とはいえ、適当に狩りをして獲物はもう十分手に入れてある。

 これ以上狩る必要がないので、ただただ歩いているだけだ。

 夕暮れにはまだ時間があるが、雑木林だからかやや薄暗く感じる。 


 歩いていると、不意に俺の裾をクイクイと引っ張られた。

 立ち止まり、振り返る。


「ねぇねぇ、あんちゃん。どうする?」


「さて。どうしようかな」


 クーが困った表情で聞いてくるのは、別に迷子だからでも、これ以上狩りをするからでもない。

 昇格試験の事だ。


「ふぅ」


 静かにため息をつくモルガン。

 口には出さないが「どうするつもりですか?」と目で訴えかけてくる。

 ちなみに、今この場にベルは居ない。


”お父さんの説得はボクがしておくから!”


 ベルはそう言って、俺達を家から追い出し、家の中で両親と話をし始めた。

 集落に居ても特にする事は無い。だからといって、集落の人間がまだ働いているのに、自分たちだけブラブラして暇をつぶすのは居心地が悪い。

 なので、狩りに行こうという流れになった。


 ううむ。雰囲気が重いな。

 適当な切り株を見つけ、そこで休憩をしてみるが会話が無い。

 ここでクーがバカな事を言うかやってくれれば、それをきっかけに喋ることも出来る。

 だが、そのクーも今は空気を読んでか読まずか、黙って俺を見つめるだけだ。

 はぁ。仕方がない。


「多分、無理だろうな」


「ベルちゃんが説得しても?」


「あぁ。無理だろうな」


 モルガンはともかく、クーは単純だ。

 ここで「大丈夫」なんてありもしない希望を口にすれば、後で余計にガッカリするだけだ。


「それで、どうするつもりなの?」


「どうするつもりもない。あえて言うなら、他の方法を探すくらいだ」


「ここでベルを置いていく選択肢は?」


「モルちゃん!」


「クー、少し黙ってて」


 口を出したクーだったが、モルガンの強い口調に対し何も言い返せないようだ。

 年上で、純粋な力比べでも勝てるというのに、これはちょっと情けないな。

 クーが助けを求めるような目で俺を見る。


「安心しろ。ベルが嫌だと言わない限りは、置いていくつもりはない」


 そう言って頭をなでると、クーはパッと笑顔になった。


「アンちゃん!」


 そのまま両手を広げて抱き着いて来ようとするが、頭を抑えて阻止する。

 ここでクーに抱き着かれれば、モルガンに頭を叩かれるだろうし。


「でも、あの様子だと許可が下りないわよ?」


「だろうな」


 ベルの父親が許可を出さないと言ったのは、当たり前と言えば当たり前だ。

 Sランク冒険者しか行く事を許可されない程の、今までとは比べ物にならないくらい危険な土地だ。


 だから、ベルの父親が許可を出さないと言った事には納得している。

 それでもベルがついて行くと言うのなら、俺は他の方法を探すつもりだ。


 今まで冒険者をやってきて、危険だという事は十分過ぎるほど理解しているはずだ。

 身近な人間が、クエストの最中にちょっとしたミスで死んだなんて話、何度も聞いた。

 それを承知の上で付いてくると言うのなら、止めるつもりは無い。


「さっきも言ったように、ダメなら他の方法を探すだけだ」


「それで見つからなかったら?」


「見つかるまで探すだけだ」


 とはいえ、許可が下りるに越した事は無いが。

 ちゃんと家族が納得した上で行くのがベストだ。  


「貴方。出会った頃と比べると、大分変わったわね」


「自分ではよく分からないが、どう変わったんだ?」


「なんでも自分で背負い込もうとしなくなったわ」


「なんだそりゃ?」


 確かに出会った頃は教官だったから、そうかもしれない。

 しかし今は対等のパーティだ。


「役割分担はパーティの基本だぞ」


 俺の言葉に、モルガンがわざとらしい大きなため息をついた。


「そうじゃないわ」


「じゃあ何だよ?」


「今は不幸を背負い込まず、もしもの時は一緒に不幸になってくれって言うようになったわ」


 そう言うと、モルガンは少し嬉しそうに笑った。

 普通に考えて、一緒に不幸になってくれは相当クソ野郎だと思うのだが。


「それはどうかと思うのだが」


「そう? 私は今の方が好きよ」


「クーもアンちゃんが困ったら一緒に困ってやるぞ!」


 出来れば一緒に解決して欲しいが。

 

「そろそろ戻るわよ」


 立ち上がったモルガンが、さっさと歩き始める。

 全く。照れるくらいなら、好きだと口に出さなければ良いのに。


「アンちゃん顔赤い?」


「夕暮れだからな」


 俺は断じて照れていないからな。



 ☆ ☆ ☆



 集落まで戻って来た。

 日は沈み影が伸び始めているが、雑木林の中よりは明るく感じる。


 さてと、許可が下りるにしろ下りないにしろ、問題が無ければ良いのだが。


「うわああああああん。お父さんのバカ、アホ、アンポン!!!」


「フン。何と言われても認めないからな!」


「うわああああああん!!!」


 家の外どころか、集落中に聞こえるくらいに、ベルの泣き声が響いていた。

 ……やっぱり置いていこうかな。一瞬だけそんな考えがよぎった。


 はぁ……俺達はベルの家に入って行った。

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「専門職に劣るから居ても邪魔だ」とパーティから追放された万能勇者、誰もパーティを組んでくれないので、教育係として新人と組んだらヤベェ奴らだった。ちなみに俺を追放した連中は勝手に自滅してるもよう。 138ネコ @138neco

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