第7話「よし、集落まで走るか」
ベルを先頭に、その後ろにクーが立ち、二人の陰に隠れるようにモルガンが立った。
対してブラックゴールドウルフ達は3匹とも横並びだ。
この陣形の場合、ベルが3匹から狙われるのが定石だ。
普段は俺もベルの横に立つが、今回は観戦なのでベル一人で3匹をいなさなければならない。
遠目から見るベルは、両手で盾を構え、内股になってはいるが怯えた様子はない。
決して相手を舐めているわけではないだろうが、今までの経験があるから、大丈夫という自信に繋がっているのだろう。
ベルとクーに隠れながら、モルガンが相手に見えないように補助魔法をかけている。
一部の賢いモンスターの場合は、補助魔法をかけているかどうか見てくる奴がいる。だから見えないようにコッソリかけているのだ。
どんな補助魔法をかけたかバレたら、その効果が切れるタイミングを狙われることを、彼女は知っているから。
もっとも、その効果が一番発揮する相手は対人戦なのだが。クーと一緒に、故郷へ殴り込みに行かないか心配になる。
「ワン!」
離れた位置から、3匹が同時に声を上げた。
鳴き声に魔力を込めて音の球を出すモンスタースキルだろう。
「えい!」
咄嗟にベルが盾を構え直すと、”ブラックゴールドウルフが”吹き飛んだ。
ブラックゴールドウルフ達が起き上がると、周りを一瞬見回した。
吹き飛んだ原因は、盾戦士のレアスキル『
盾戦士のスキル『
普段からカイトシールドに「カイト君」と名前を付けて大事にしていた彼女が、少しでも盾を傷つけないように『誘導盾』スキルを磨いた結果得られたスキルだ。
ブラックゴールドウルフ達は、何が起きたか分からないが、自分たちの攻撃を跳ね返されたのは理解出来たのだろう。
遠距離からの戦いを諦め、ベルに距離を詰めていく。
「あわわわ」
ベルが盾に収納していた木の棒を取り出し、応戦をする。
やや間合いの外から腕を振り下ろすブラックゴールドウルフに対し、ベルが一歩踏み込む。
1匹目の攻撃を『誘導盾』で受け流し、2匹目の腕を木の棒で突き戦士の『パリィ』スキルで受け流す。
『パリィ』は本来剣で強く弾いて受け流すスキルだが、ベルがそれ以外の剣を使うスキルが無いので、持ち運びやすい適当な木の棒を使わせている。
3匹目が襲い掛かろうとしたところで、クーが飛び出し、ブラックゴールドウルフの後ろ脚を掴み、そのままぶん投げた。
俺は隣のラルに話しかける。
「今の投げられた奴はアウトだから、戦闘不能だと伝えてくれ」
「今ので負けなのか?」
そういえば、ラルもクーの『魔力伝導』を見たことが無かったか。
「あぁ、理由は後でちゃんと教えてやる」
「わかった」
ラルが素早く投げられたブラックゴールドウルフを回収してくる。
どうやら納得していないらしく「俺はまだ戦える」と言わんばかりに、唸り声を上げて俺を睨んでくる。
「あっちも終わったようだし、理由を説明してやるよ」
ブラックゴールドウルフがこちら目掛けて飛んでくるのが見えた、そのまま首を掴みキャッチする。
最初に投げ飛ばした奴をラルが連れて来たのを見て、クーが気を利かせて2匹目はこっちに投げてくれたのだ。
最後の1匹はベルかクーのどちらに狙いをつけるか悩んだ一瞬の隙を、モルガンが死角からこん棒で殴り手痛い一撃を与えていた。
こん棒をもろに頭に受け、気絶したのだろう。ピクピクしているから、死んではいないはずだ。
☆ ☆ ☆
まだ納得いかない様子のブラックゴールドウルフ達の前で、クーの『魔力伝導』を目の前で見せてやった。
クーがちょっと触っただけで、岩が大爆発をする。
その様子を見たブラックゴールドウルフ達やラルは、ただ口を開け驚くばかりだった。
「納得いかないなら、まだやるか?」
俺の言葉に、ラルとブラックゴールドウルフ達はその場で仰向きになり、腹を見せて「きゅーん」と鳴くだけだった。
完全に戦意喪失したようだし、これで問題はないだろう。
「行くぞ」
集落へ向かった。
☆ ☆ ☆
2年ぶりに来たベルの故郷。久しぶりにみた集落だが、特に変わった様子はない。
あえて言うなら、池にした場所は誰かが入ったりしないように柵で覆われているくらいか。
集落が見え始めてから、ベルがこれでもかと言わんばかりに尻尾を振っている。
今にも走り出したいといった様子だな。やれやれ。
「よし、集落まで走るか」
「えっ?」
「よーい、ドンだ!」
ベルが突然の俺の言葉に驚きながらも、ドンのタイミングで誰よりも先に駆け出した。
走り出した俺達を見て、ラル達も負けじと走り始めあっという間に見えなくなった。流石にブラックゴールドウルフの足には敵わないな。
俺の突然の奇行に、クーとモルガンは何も言わずについて来てくれた。
まぁ、生殺しにされているベルの姿を見れば納得するというものだ。
俺達が走って来た事により、集落の人間が何事かと驚いているが、気にせずそのままベルの家まで走り抜ける。
当然だが、ベルの家まで全力疾走をしてきた俺達に対し、ベルの家族も困惑していた。
「何かあったのですか?」
「いや、何でもない」
「は、はぁ」
俺の返事に対し、気のない返事で返された。
じゃあなんで走って来たんだよと思っているだろうな。
「ただいま!」
「お帰りベル。色々と話をしたい所だけど、丁度パーティの方も全員居るようだから、そちらと先に話をさせてもらいたい」
「話?」
「あぁ。単刀直入に言おう。キミ達の試験なのだが、合格には出来ない」
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