第6話「この子達がリーダー達の実力が知りたいって言ってる」

 俺達はベルの集落の近くまで来た。

 2年ぶりに行くわけだが、今更ながらラルが大丈夫か心配になって来た。


 一応、ニーナにはギルド経由で事の顛末を伝えてあるから、ブラックゴールドウルフの討伐依頼は出されていないはず。

 もしラル達が何かしでかしていれば、ラル達を集落に置くことを決めた俺にも連絡が入っているはずだし。


「どうやら、お出迎えのようだ」


「えっ?」


 俺の言葉に、ベル達が同時に反応した。

 少し遅れて、アオーンという遠吠えが聞こえて来た。


 『遠目』スキルで声の聞こえた方向を見ると、ブラックゴールドウルフとそれにまたがった集団がこちらへ向かって来ているのが見えた。

 数がブラックゴールドウルフが5匹に、それにまたがった獣人が3人だ。

 先頭を走るブラックゴールドウルフに乗る獣人には、見覚えがあった。


 黒い髪をなびかせて、奴隷の模様を顔に彫られた少女。ラルだ。

 

「本当にリーダーだ!」


「気づかずに向かってきたのか、お前は」


 もし違う冒険者だったらどうするんだ。

 ラル達がまたがっているとはいえ、遠目ではゴブリンが乗ってると間違われる可能性だってある。

 勘違いして襲われたらどうするんだ。

 冒険者をケガでもさせたら、討伐依頼だってだされかねない。


「ううん。ララがね、リーダーの臭いがするって言って」


「そうか。一応確信があって来たんだな?」


「うん」


「なら良いんだが」


 ちなみに、ブラックゴールドウルフの名前はそれぞれララ、リリ、ルル、レレ、ロロらしい。

 正直見た目でどいつがどいつか判別出来ないから、どうでも良いが。


「ところで、そのガキ共は?」


「集落の子だよ」


「ベルは知ってるか?」


「うん。近所に住む子達だよ。前会った時より大きくなってるから、二人とも見違えちゃった」


 獣人のガキ共にベルが挨拶すると、ブラックゴールドウルフから降りて頭を下げた。

 そのままベルが他愛もない世間話を始めだした。同郷の人間に久しぶりに会ったのだろうから、家がどうなったかとか気になるのだろう。

 特に止める理由もない、そっちはそっちで盛り上がって貰うとしよう。


「それでラル、いくつか聞きたいことがあるが良いか?」


「うん」


「何で集落のガキ共が一緒なんだ。もしモンスターや、モンスターと勘違いした冒険者が襲い掛かってきたら危ないだろ?」


「集落の大人に頼まれたからだ。狩りやモンスターの倒し方を教えてあげて欲しいって」


「そうか」


 ラル達は思ったよりも信頼されている、のか?

 子供たちに狩りとかを覚えさせるための護衛みたいなものだろう。

 一応Cランクモンスターの集団なのだから、ここら辺でこいつらに敵うモンスターはそうそう居ない。

 ラル達が何か悪さをしない事前提で考えれば、安全性は高いな。


「まぁ、集落の人を噛んだりしないなら良いか」


「するぞ」


「するのかよ!?」


「悪い事して怒らせたら、ちゃんと噛んで教える!」


「あぁ、そういう事ね」


 ラルやブラックゴールドウルフに対し、調子に乗った事をしたら仕返しをするって事か。

 それは良い事だと思う。変に舐められるとエスカレートするだろうし、モンスターの怖さを教えるという意味でも有りだ。

  

「最後にもう一つ聞いて良いか?」


「うん」


「なんで、そいつらブラックゴールドウルフも服を着ているんだ?」


 それぞれ違う服を着せられ、ちょっとドヤ顔気味のブラックゴールドウルフ達。

 お前ら、それで良いのか?


「ラルだけ服を着るのは、不公平だからだ」


「……そうか」


 野生児目線の発言だった。

 ラルの発言に納得して、「確かに」って顔をして首を縦に振っている子が一名見えるが、きっと気のせいだ。


 これ以上会話をしても頭が痛くなりそうだし、ここはさっさとベルの集落に行って話が分かる人間に聞くか。

 まだ世間話が続いているベルに、そろそろ行くぞと声をかけた。


「はい。行きましょう」


 ベルの声が少々浮ついている。

 久しぶりの故郷で浮かれているのだろう。もしかしたら、態度に出さないだけで故郷が恋しかったのかもしれないな。


「あっ、リーダーちょっと待って!」


 はいはい。どうした?


「ふむふむ。あのね、この子達がリーダー達の実力が知りたいって言ってる」


 おいおい、実力が知りたいって。


「前にあれだけやられて、まだ懲りてないのか?」


「その時この子達は居なかったよ?」


「居なかったって、ちゃんと5匹相手にしただろ?」


「だから、その時居なかったよ?」


 どういう事だよ。


「その子達は、ララとルルの子供なんだよ」


 助け舟をくれたのは、獣人のガキ達だった。

 なるほど。前やった時のとは別個体か。


「リーダー、見て分からない?」


「さっぱり分からん」


 ラルが心外だと言わんばかりの顔をしているが、分かると思われた事の方が心外だ。 

 じっくり見てみる。が、どいつもこいつも同じ顔にしか見えない。


 どうやって見分けをつけているのやら。

 それとブラックゴールドウルフと会話が出来てるのも謎だ。

 とはいえ、聞いても頭が痛くなるだけだろう。スルーしておこう。


「それで、リーダーどうする?」


「そうだな」


 ここで舐められたら、自分たちがリーダーだと思い込み、集落で暴れかねない。

 きっちり上下関係を分からせておくか。


「ラル、そっちは何匹で来るんだ?」


「ララとルルとラルは見てる」


 気まずそうな顔でそっぽを向いているのが、多分ララとルルだろう。


「ならこっちはベル、モルガン、クーの3人で良い」


「アンリ。貴方は?」


「俺はラルと観戦しておく。やりすぎたり、戦闘不能と判断したら止めに入る」


「ボク達だけだね。分かった」


「クー頑張る!」


 こいつらが今Bランクで、ブラックゴールドウルフはCランク相当のモンスター。

 これくらいなら楽とは言わないまでも、苦戦する事もないはずだ。

 万が一にも、負ける事は無いだろう。

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