香織お姉さま……見てください
――あれから二か月が経過した。
なんて言うと何の変化もない日常のように聞こえるし、実際驚くような事件はなかった。水位の上昇は一週間ぐらいで収まり、その後は特に変化もない。台風レベルの災害もなく、時折降る大雨に難儀したぐらいだ。
でも私はこの二か月、死にそうなぐらいに歩いて竹を切っての繰り返しだった。ほぼ毎日竹を切ってたし、それ以外にもペットボトルなどを使っていろいろな道具を作ってたりしていた。
先ず竹が切れない。マンガみたいに日本刀でスパッと切れるものじゃなというのは初日で痛感した。ナタを何度も何度も振るってようやく切れ目を入れられる。そこからまた何度も何度もナタを振るって、ようやく切断完了。
そこからがまた大変だ。この竹を香魚がいるキャンプまでもっていかないといけない。竹を引きずって、だ。竹だって軽くはない。ラノベの空間倉庫とかなんてあるわけがないので、持っていけるのは一本だけ。
そこから枝を伐採する。ナタを使って枝を除去。軍手越しでも手が痛んでくるのが分かる。除去した枝葉もいろいろ利用できるので、竹本体も含めて日干しで乾燥させておく。
そして切った竹をフレームにしてイカダの作製……と同時に拠点ともなるテントの強化。竹を骨組みにしたテントを作り居住性を増す。草木や竹の葉を使って風防性を高め、寝床に乾燥した草を敷いて温もりを増す。これだけで次の日がとても気持ちよく起きれるようになったから、文句は言えないんだけど大変だったわ。
イカダ作製も簡単とは言えなかった。ペットボトルと竹をひもで括り付けて形にする。ペットボトルが浮きで、竹は浮きを縛ってイカダの形を整える。原理はそれだけなんだけど、うまく縛れなかったり形が歪んだりだ。
でも何度かの試行錯誤の末に、少しずつ形になってくる。
「さすが香織お姉さま。縛るのが上手くなってきましたね。そう言う才能があるなんて、香魚も楽しみです」
「そう言う楽しみをする気はないから」
「どう云う楽しみを想像したんですか?」
「……ノーコメント」
「逆に縛られるほうが趣味とか? 恥ずかしい格好に縛られた香織お姉さま。抵抗できない香織お姉さまの体を香魚が優しくなでるように、そしてすこし激しく心も体も責め立てて……痛ーい痛ーい痛ーい! やっぱり香織お姉さまは攻める側です!」
なんて香魚とふざけたり楽しみながら、イカダづくりは続く。
香魚と言えば、この二か月で少し変化が生まれてた。
「香織お姉さま……見てください」
胸を強調するように寄せて、それを私に近づける香魚。そのポーズとセリフにドキドキする。何度も触れて触ってるのに、それでもそんなことされるといろいろ変な気分になる。
「いや待って、香魚。今はまだお昼だし、そのそう言うことは嫌いじゃないんだけどメリハリって大事だと思うの。お昼の唾液交換だってさっき済ませたし、竹を切る前に体力使うのは――」
「あ、そう言うんじゃなくて。ココ見てくださいよ」
香魚が指さすのは、乳房の一部だ。健康的な肌色がそこにある。何の変哲もない乳房。私のDNAなのに、なんでここまで大きくて柔らかいんだろう? いやいやそうではなく……。
「鱗が……なくなってる?」
「はい! 少しずつ人間の体に戻ってきているんです!」
言ってガッツポーズをする香魚。隠されてた部分が見えて、体の動きに合わせて大きな胸がたゆんと揺れた。私以外に見せたくない光景だ。この場には私達以外に誰もいないんだけど、おもわず香魚の胸を押さえてしまう。
「やーん。香織お姉さま、香魚の胸にお熱すぎます。いきなり触ろうとするなんて」
「違うわよ。隠しなさいって言ってるの。誰かが見てるかもしれないじゃない。あの触手とか」
「うへへ。お姉さまと香魚のラブラブっぷりを見せたいんです」
「……香魚ってもしかして、露出狂のケがあるの?」
えへへ、と笑顔で答える香魚。だとしたら、全力阻止。この子の体は私のモノだもん。誰にも見せてやるもんか。
「でも、良かったじゃない。これっていつかは人間に戻れるってこと?」
「さすがにそこまでは。呼吸器系は海洋生物寄りですから、内臓器官の変化は容易じゃありません。あくまで体表情報は変化が容易というだけです」
さすがにそんな都合のいい話はないらしい。やっぱり根治には
「毎日香織お姉さまの熱いベーゼをいただいているから、その愛が香魚の体に奇跡を起こしたんです」
「あー。はいはい」
「最初は優しく触れ合って、その後で香魚の体を抱き寄せる香織お姉さま。それがスイッチになって一気に舌を絡めてくるあの熱さ。香魚が反応するとそれに合わせて動く香織お姉さまの舌。シーソーのように攻めと受けが交代して、最後は香織お姉さまに体をゆだねて……きゃー! 思い出すだけで顔が熱くなってくるー!」
頬に手を当てて喜ぶ香魚。言われた私も少し顔が熱い。毎日朝昼晩版は、大体そんな感じだ。
「……香織お姉さま」
熱っぽく名前を呼ばれる。体を寄せられて、何もつけていない柔らかい胸が圧しあてられた。潤んだ瞳で見つめられて、香魚が何を求めてるかが伝わってくる。あ、だめ。今から竹を切りにいかないといけないんだから。ここで体力を使うのは――
「ん、ちゅ……んんんん」
「ふぁ、む、ふむ……ぁ」
重なる唇。互いを求めるように手は動き、呼吸の度に熱い喘ぎ声が漏れる。耳朶に響く声と、口内から内耳への響き。目を閉じているからこそ深く強く脳を刺激する音の媚薬。くらくらする段階を一気に飛び越えて、そのまま重なり合う。
訂正するわ。毎日朝昼晩どころじゃない。何かあったらこんな感じになっちゃう。やんないといけないことはたくさんあるのに。それでもこうなったらいろいろ止まらない。
「あゆ、あゆ、あゆ……」
「は、ふぅ……かおり、おねえさまぁ」
蕩けるように名前を呼び合い、水面で唇を重ねあう。理性とか頭の冷静な部分ではこの辺で終わらせておかないとと思いながら、それでもお互い止まらない。香魚の事を想うと止まらない。香魚もきっと同じ気持ちなんだろう。
さっきの香魚の言葉じゃないけど、毎日こんな事ばっかりしてるからDNA交換回数が増えて香魚の体に変化が起きたのかもしれない。そう考えるなら、こういうのも、あり? アリよね。
「……むぅ、香織お姉さまが何か考えてる。香魚のこと以外を考えるのはゆるしませーん!」
あと香魚の変化としては、嫉妬を隠さないようになってきた。
材料調達の都合上で道の駅に行ったりするんだけど、立花兄妹と仲良く話をした話をするとでちょっと不満げになる。香魚は隠してるつもりだし我慢してるんだろうけど、そう言うのもわかってきた。
「考えるぐらいいいじゃないの」
「やーだー。こういう時に香織お姉さまが香魚以外の事考えてるの、やー。何考えてたんですか?」
「最近私たちこんな事ばっかりしてるから、香魚が奇麗になってるんだなぁ、って」
「……ホントに?」
「ホントホント。香魚、可愛いから」
嘘は言ってない。奇麗や可愛いも本気で思ってる。でも――
「うへへー。じゃあ許します」
ここまでチョロいのは少し心配になるかな? 頭がいい子なんだけど、こういう所は脆いというかなんというか。
「香織お姉さま、好きー」
…………まあ私もこんな一言でどうにかなっちゃうんだから、お互い様なんだろうけど。
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