第8記~『ぬいぐるみたちに祝福あれ』 <3章>


*****

清楚な足運びにカーペットを踏む、メルの室内スリッパは音もなく、そのテーブルの傍に立つ。

凛とした佇まいは常に姿勢を正し、両手をロングスカートの前で重ねる。

眼鏡の端を指でくいっと上げて、小さなテーブルの前で立って作業をしているエルを見下ろす。

気配に気づいたのか、そっと、エルは小さな胸に息を吸いつつ、メルを見上げた。

じっと見つめていたメルが、微笑む。

「さあ、教えた通りに」

エルは・・・こくりと頷き。

そして、僅かに震える指先で、テーブルの上に置いてあるその・・衣服を手に取り。

・・・制服のシャツを、ハンガーにかけ・・・。

・・かけ・・・生地がよれる・・けど、皺ができないように、なんとか、ハンガーにかけた。

メルが見つめるその目つきは、鋭くは無いが、静かにじっと常に見つめている。

エルの細い指先が・・シャツのボタンを閉じていく。

そして、両手で、ハンガーを持ち上げ。

エルは、じっと見つめていたそのシャツを。

・・・メルを見上げ、そして、見つめる。

・・それはきっと、ちょっとだけ、得意げかもしれない。

「・・エル、」

メルは静かに少女に呼びかける。

エルは・・・。

「よくできました・・!」

跪いて至高のエルを抱きしめるメルは紅潮した笑顔で至福に至ってる。

一瞬の出来事に、エルは少し瞬いた。

「さすがエルですねぇ~。教えたらすぐできちゃう。えらいわぁ~」

ちょっと口を締めるエルは、やっぱり少し、得意げかもしれない。

でも、次の瞬間には、すっくと立ち上がるメルを・・瞬いて見上げているエルは。

「では、次にやることを教えましょう。」

メルが再び、エルを見下ろし。

それを見上げているエルは・・・。

「・・いい?エル、これからはちゃあんと一人でできるようになるのよ。私がお世話してたことはたくさんあるんだから、寮には私はいないから。ね?」

「はい・・・。」

素直に頷くエルは。

メルはにっこり微笑んで。

それから、エルが手に持ってるシャツを、クローゼットのハンガー掛けへ、仕舞い方や並び順に、他の衣服の注意点に・・・って、少しやることを考えたていたら、見つけてしまった。

「・・ぁ、エル・・・その、」

って、メルは少し、言いにくそうに。

「ボタン、かけ間違えてますよ」

「・・・・」

エルが・・・手に持ってたハンガーにかけたシャツを見たら、ボタンが1つずつ、確かにかけ間違えている。

エルは、・・ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ、ほっぺが膨れたかもしれない。

それに気が付くメルは、だから、くすっと笑って。


洋服が、シャツも、下着も、ちゃんと見よう見まねでやっているのに、ぐちゃっと折れ曲がる。

エルはちょっと、膨れてるみたいだけど。

「・・ちゃんと覚えてね。」

そう、少し可笑しそうに笑うメルに。

エルは少しだけ尖らした唇を向けてた。

「うふふ、皺の取り方も後で教えてあげますからね。それはとっても簡単ですから。最近はとっても良いアイロナーがあるんですよ。・・あれも必需品だし・・あ、同じもの、買った方が良いわね、うん。他にも。いっぱいね。」

ちょっと楽しそうなメルを、ちょっと膨れてるエルは、見てて、少し瞬けば。

「・・ん、・・」

って、そのほっぺの膨らみも、すぐ元に戻ったようだ。



****

ココさんが、ドアを開けたら、いて。

ノックが聞こえて、ドアを開けたけど、ココさんは私に。

「アヴ、今は何もやってない?」

って。

私は、・・・ちょっと、この前みたいなことが、あるような、気がして。

・・ちょっと、答えれなかった、けど。

「お掃除しましょう」

って、ココさんは。

・・お掃除、なら、この前も、した、けど・・・。

「じゃあ、バケツを持ってきて。」

って。

えっと・・・。

だから、私は。

・・ドアから離れて―――。

「―――ベッドに机も入るって言ったでしょ?あの子のために。だから、お掃除してスペースを・・」

ココは、そう、言い掛けて。

さっきまで、俯き加減に、とことこと歩いてたアヴェが・・・ちょっと、振り向いたのを見てて。

「・・ね?綺麗にしておかないと。最高に。あの子を、迎え入れるんだから」

・・アヴェは、こくこくと、少し慌てたように頷いて。

小走りになって、隅の掃除用具入れに向かって。

ほんのり顔が赤くなってきたようなアヴェは。

そのドアを開いて、中のバケツを顔を上下させて、探してて。

ココは、そんな姿を見てて。

自然と、知らずに、頬を持ち上げて微笑んでた。

バケツを、ちょっと、急いだように引っ張り出してきたアヴェは、ぺたぱたとスリッパを鳴らしてココの傍まで駆けてきて。

見上げてくるアヴェに。

「さあ、行きましょう」

ココは笑顔で。

眼を円くして見つめてくるアヴェは、その笑顔に、こくこくと、何度か頷いてた。



****


スタッフルームで、棚から備品のテープを取り出した彼は棚扉を閉じながら、室内で各々の仕事をしてるスタッフ仲間に聞いてみた。

「今日来る子、『訳アリ』なんですか?」

それを聞いて、彼は眼鏡の奥の目を細めて苦笑いしていた。

「そういう言い方は感心しないな。」

「すいません。」

言われた彼も苦笑いをし返していた。

「まあ、準備は大掛かりみたいだし、気持ちはわかるよ。」

熱いコーヒーを片手に、もう片方の手にはクリームを挟んだドーナツを持って、少しずつかじって堪能している。

最近、お腹が出始めたとスタッフ仲間たちにもぼやいていたので、気にしているんだろう。

まあ、誰も口にはしないが、それよりも。

「ですよね。越してくるのにこんなに人数が必要なのって珍しいですよ。」

「そんなの問題じゃあないさ。」

ドーナツ片手に、ニヒルに笑う彼で。

「まあ、お給料もお手当ても、もらえれば全然いいんですけどね。」

「でも、確かに私も気になったなぁ。今回はなんだかマレットさんがピリピリしてるような。」

そう会話に入ってくる彼女は、差し入れのドーナツの箱から白いチョコレートのかかったものを摘まみ出して、被りついたら笑顔になる。

「寮長がってことは、上からなにか言われたのかな?」

「噂だと、なんでも、偉い人と親睦がある関係者とか・・?」

彼女はにやり、と新鮮な情報提供者らしい顔だ。

「そんな噂、感心しないぞ、ってソラーノがきっと言うよ。」

「代弁ありがとう」

通じ合ったらしい彼がクリームドーナツを、くいっと見せてくる。

その後、自分でかじって笑ったが。

「やっぱりウソですかね」

って、彼女は肩をすくめてた。

「そこも重要じゃないさ。」

「というと?」

聞き返されたソラーノは、コーヒーを1すすりして。

それから、香ばしい息を感じてから言葉を紡ぐ。

「どんな子でも特別扱いはしないし、入寮する子は選んでるわけじゃないよ。入りたい子は誰だって寮に来れるんだからさ。自分でやりたい、って自覚するのが大切なのさ。そんな子たちを無下にはできないだろう?まあ、それは大人でも言える事だが。」

「たしかに、やりたいなぁ、ってのと、やるぞ、ってときはやる気が違いますよね」

「そういうのとちょっと違うんじゃない?」

「そうっすかね?」

「まあ、こんな寮に入れるなんて幸せですよね。俺も学生の時はこういう所に来たかったな 」

「ですよねぇ。憧れるなぁ」

「まあ、現場の我々は仕事をしっかりこなすだけですね。」

「ココさんが担当ですよね?会ったことあります?」

そう聞かれて、ちょうどカップのお茶を手に、ドーナツをつまもうとしてたココさんは。

「なにが?」

きょとんと瞬いて。

「今度新しく来る子のことですよ」

ココさんは、だから目を細めて。

「ええ、可愛らしい子でしたよ。」

そう、彼らに微笑んでた。


****


カーペットの上を長身の黒髪の女性と、栗色のゆるいウェーブがかった髪の少女が、手を繋いで隣並び歩いている。

その寮の廊下を歩くのはこれで2、3度目であって。

行く先を案内するスタッフの彼はさっきまで、笑顔交じりに彼女たちに学校の施設の案内や世間話をしたりしていて。

それから、女性が娘さんへ微笑みを向けたり、周囲の光景を少し珍しそうに眺めるのに目を細めつつ、顔を前に向ければもう目的の部屋の前へ近づいてきていた。

扉を開き、その部屋へ入るとそこは応接間で、簡素だが気品のあるソファやテーブルが用意されていた。

「どうぞ、」

案内を終えた彼は、ドアをそのままに美人の母娘を室内に招き入れる。

中で待っていたのは寮長と、担当スタッフの1人のココで、彼女には以前案内をしてもらったのを覚えている。

「ようこそいらっしゃいました。」

「お世話になります。」

寮長のあいさつに母親のメルが柔和な笑顔で応える。

その視界の端にはソファから立ち上がったアヴェが、入口へ振り向いていて。

気が付いたメルが微笑んだら、アヴェは紅い顔で少し、俯いていた。


――――その彩色が煌めく瞳へ、メルはその目で見つめて。

「ちゃんと連絡してね。毎日、毎晩、待ってるから。」

揺れる瞳は涙をこらえるように、胸の中へエルを抱き寄せる。

「・・・はい、」

跪いたメルの胸の中で、エルは静かに頷いていたけれど。

「エル・・なら何でもできると思っているけれど、何かわからないことがあったらすぐ連絡してね?困ってもすぐ連絡して?」

そんな光景をちょっと、生温かい、苦笑いを交えて見守っているココや寮長たちも傍にいるわけで。

室内に足を踏み入れた時のメルたちは清楚で気品のある佇まいに、貴婦人の微笑を見せていたのだが。

感情が溢れて止められない今は、めそめそしている。

まあ、気品は変わらずに感じられるのだが。

娘を離して顔を見つめ合って、立ち上がるのかと思えば、またはっしと抱き合って、を繰り返してるだけで結構な時間になっている。

ここにいる誰もが、美人母娘の熱い抱擁を邪魔するのも気が引けるのだが、放っておけばいつまでも続くかもしれない。

なので、ココは勇気を出して。

「それではフェプリス様。ここからは寮生だけで・・・」

ココも笑顔でメルを引き離そうとするわけで。

「え、は、はい」

少し、目に涙を溜めて、本当にめそめそしてたような彼女だけど・・・、素直に立ち上がってくれたのにはみんなもほっとした。

「・・アヴ、」

振り返ったココに呼ばれて、少し目を丸くして見ていたアヴェも瞬いてて、呼ばれたら、ぴくっとココを見てた。



「それでは、」

扉を閉めたココは、目を潤ませてるようなメルが見送る姿が見えなくなる廊下に出てから、思わず小さな溜息を吐いてたけど。

傍で2人の小柄な少女が立っているのを思い出して、またすぐ姿勢を正していた。

傍のアヴェと今回お預かりになるエルちゃんはそれぞれの面持ちで、エルちゃんは周りの廊下をきょろ、きょろ、見回していて。

アヴェは傍で俯き加減で、こっちを静かに待っている。

対照的な2人、でも雰囲気はどこか似ているような。

まあ、ああいう親御さんがいるのはわかるし、我が子が愛おしいのも理解はできるが。

子離れしていない、というか、それが悪いわけではないけれど。

でも、環境を変えることでお子さんの成長をまた違う可能性を示し、また私たちがいろいろな事を促す。

この学校で掲げるその理念は、何度も聞いたし、目標であるべきことだ。

甘えさせることだけが、成長じゃないのだ。

その理念を胸の中で再確認しながら歩き出す。

「それじゃあ、2人ともこっちへ」

そして、廊下の角まで来て、ココは振り返る。

「寮へようこそいらっしゃいました、エルザニィアちゃん。歓迎するわ。」

笑顔を見せて。

「さて、」

ココさんは、後ろをついてきた2人の小柄な少女たちへ。

「ここからは2人で、行ってみてね。」

見上げてくる2人の少女、アヴェとエルは、瞬くような。

すぐ俯き加減になる遠慮がちな、アヴェと。

まっすぐにじっと瞬くように見てくる、エルと。

なんだか似てるような、でも似てないように個性的な2人で。

「寮にはいろんな施設があるわ。遊んできて、って言いたいところだけど。さっきお話した通り、エルザさんのベッドや机はもう運び込まれてるわ。他の荷物は少し遅れてるみたいなの。後で届くからお部屋で待っててね。他に室内の詳しいことは先輩のアヴェに案内してもらってね。その後は、自由だから。」

それでも、ココさんは知ってる、アヴェのことはとってもよく。

だから、ココさんは、アヴェに向かって伝える。

「アヴ、あなたの新しい相棒よ。お部屋まで、よろしくね。」

ココは、にっ、って笑って。

アヴェは、前髪にちょっと隠れるような目で、瞬いてたけど。

こくこくこく、頷いて。

「さ、」

ココは横に1歩、2歩、道を譲って。

促されるままに歩き出すようなアヴェに。

「後で様子を見に行くからね」

廊下を、前を歩き出すアヴェに。

「は、はい・・」

ちゃんと返事をしたアヴェと。

エルは瞬くような、アヴェについていくまま、肩越しに、ちょっとの会釈をココにしてた。

ココは微笑んで、少しだけ手を振って見せてた。




****

カーペットが敷き詰められた廊下を制服の少女が2人、隣並んで歩いて。

制服の子達もちらほら見えるけれど、その広い廊下は至って静かである。

栗色の、長い髪のエルは前を向いて、廊下の先からたまに、周りに目を留めて。

長い黒髪のアヴェは、俯き加減に、時折隣の少女の横顔を少し見るように。

・・エルが時折、隣を見ても、俯くようにするアヴェに、エルはまた少し瞳を瞬いて。

静かに、歩く2人の少女はそれからも、そんな様子で。

・・・と、アヴェが、ふと顔を上げて。

廊下の先を見て。

エルも、その目の先を追って見て。

でも、続く長い廊下があるだけで。

・・傍でもう、目を伏せた、黒髪の少女に気がついて。

「・・・」

・・それからまた、顔を前に戻し、静かに廊下を歩いている。

・・・彼女が、何を見たのかはわからなかったけれど。

・・彼女が立ち止まって、それに気がついて、エルも立ち止まり。

彼女が少し、こっちを気にしたようにして。

でも、廊下のすぐ傍を、部屋の扉の1つを、鍵を差し込み、開くのは、もう間もなくのことだった。




開いた扉の先にあの子が進んで、入って。

「どうぞ・・・」

小さく呟いたのが聞こえて。

「お邪魔、します・・・。」

エルは中へ、入って、見回す。

・・部屋の中は、前来たときと同じ・・・じゃなくて、机・・ベッドも、増えてる。

前、あった、あの子の机の隣に・・机があって。

・・・あの子のベッドも動いてるみたいだった。

隣のあの子を見ると、私を見てた目と目が合って。

それから、ドアが閉められなかったのに気付いて。

私は、横に少し、動いた。


―――エルは、扉を閉めるアヴェを見ていて。

ぱたんと、閉じ扉を見届けてから、エルはまた辺りを見回して。

そのエルの傍にアヴェは、いて。

「・・・」

・・・隣のアヴェを見たエルは、また少し瞳を瞬かせてた。

「・・・・・・」

・・って、少し、顔を上げたアヴェは、エルの瞳を見て。

「・・・ぁ、ど、どぞ・・」

と。

「・・・はい。」

エルは頷いて、それから、もう少し、1歩、2歩と中に進んでみてた。

そうすると、見える、奥の方のベッドが、もう1台、増えてて。

壁と、反対側の壁とに、離れてるベッド・・。

「・・・あの、ベッドは・・」

アヴェを振り返り、指差すエルの。

傍で、また少し、俯き加減にしてたアヴェは、慌てたように顔を上げてて。

「え、・・エルの、・・・です・・」

って。

「・・・そうですか」

そう、呟いたようにエルは。

また、向こうの方を見つめてた。

「・・ぁ、す、座って、・・ください・・・」

気が付いたようにアヴェが、テーブルの椅子を手の平で示してて。

「・・ありがとう」

エルは、そう、傍の椅子に、手をかけて。

気が付いて、肩の鞄を下ろして。

2つしか無い椅子・・・鞄を椅子の上に置いて。

椅子を、引いて・・ずりずり、絨毯が引っかかる。

顔を上げるエルは。

「つ、つくえ・・、とか・・」

って、アヴェがちょっと、指さす、エルの机へ。

「はい」

立ち上がるエルが鞄を持って歩き出す。

って、気が付くアヴェも、自分で肩にかけてた鞄を持って。

机へ歩いていき、いつもの場所へ置くと。

こっちをちょっと、見てたエルと目が合って。


・・それから、エルとアヴェは、テーブルに戻って、エルが腰を下ろして、座って。

・・テーブルの傍でちょっと、見てたアヴェが、気付いて、紅い顔のまま。

それから、隣の椅子を引いて、お尻を乗せて。

・・・それから、エルはまた少し、周りを見回してる。

きょろ、きょろと、瞳を向けて。

アヴェはその隣で、まだ緊張したように、テーブルを見ている。

・・・それから、ときどき、エルの様子を、少し、見て。

・・ふと動く、エルの瞳の中で、アヴェはまた少し驚いたようにして、俯いて。

少し瞳を瞬かせて、エルはアヴェを見つめてた。

そうしていても、静かな部屋の中の、2人の静かな息遣いだけが、そこでは聞こえてるみたいだった。




****

ノックの音がして。

振り向いたエルは。

それから、アヴェも同じ様に扉の方を見てたのを、振り向いて見つけて。

だから、ふと目が合うアヴェは。

ちょっと、緊張したような面持ちのまま、椅子から立ち上がる。

・・その後ろを見てたエルは、やっぱり、立って。

その子の後をついていった。

もう一度聞こえるノックに。

それから、アヴェがドアノブを取るその傍で、一緒にちょっと覗き込むように。

開いたドアには、あの、前にも、いろいろ教えてくれたココさんが、いて。

ココさんはドアから覗き込む2人を見て、少し目を円くしたように、けれど目を細めて笑ったみたいだった。

「待ってたのね。今、荷物が届いたから、運んでくるわ。」

って、ドアを開くアヴェにそう言って。

それからエルに。

「ごめんね、手伝いたいんだけど、ちょっと用事が入っちゃって・・、あとでまた様子を見に来るから、今は、荷物を受け取ってちょうだい」

「はい・・・。」

こっくりと頷くエルに、ココも少し微笑んで。

「それじゃ、すぐ来るから・・・」

と、廊下の向こうに目を向けたココは何かを見つけたみたいに、ちょっと瞬いてた。

『・・・・?』

2人がドアの向こうを乗り出すように、覗き込むようにすると。

・・向こうの方から、廊下の真ん中を、大きな箱たちが積まれた、台車がいくつも、倒れないように気をつけながら、何人かで押してくる人たちが見えてた。



部屋の中には・・幾つも、運び込まれてくる、箱が・・・何個もあって。

「そこにまとめて置いておけばいいですかね?」

「そうですね。なにか重いものが?」

「軽いものが多いです」

次から、次へと・・・。

大きな男の人たちが箱を抱えて、部屋を出たり入ったりしてて。

ずっと。

ずっと・・・。

「これで全部だな?」

「ソラーノに聞いています。もしもし、荷物、もう無いですよね?・・もう無いそうです。」

・・部屋の中には、箱が、いっぱいで。

「荷物全部、終わりましたー」

って、大きな声でこっちに。

「それじゃ俺達はこれで」

運んでくれた人たちはスタッフの人らしくて。

扉の方へ歩いて、帰ってく・・・。

「・・ありがとうございました。」

丁寧に、頭を下げるあの子に、荷物を台車とかで運んできたスタッフの人たちも手を上げて、少し笑って。

扉が閉まると。

部屋の中には、あの子と・・あの子と同じくらいの高さに積まれた箱が、何列も・・残った。

奥行きもあるけど・・・。


・・・何個あるんだろう。


アヴェが・・ぽけっと瞬いて見ている荷物の山を・・・。

「・・・はい、」

・・エルが、荷物の山を見つめていて、小さく・・・。

・・・それから、きょろきょろと、部屋の中を見回して。

アヴェに気が付いて、・・・瞳を瞬かせた。

それに気づいた・・アヴェはまたちょっと、顔を伏せたようにしてて。

それから、エルは箱を、背伸びして、覗き込むみたいにして。

箱のロックを外して、中を見る。

そうやって、隣のも、もう1つ、開く。

それからまた隣の一個を開いて覗き込んで。

そんなエルを見てたアヴェは・・・あっちを、見たり、こっちを見たり・・。

それから・・ベッドの方へ歩き出すのは、やることがなかったからで。

ベッドに・・ぽすんと座って、・・ベッドの上で、・・えっと、・・・エルが、箱を覗いたりするのを、眺めてた・・・。


エルは、箱を抱えて持ち上げ、床に下ろしてく。

そして、その下の中段のものも覗いて、それから、床に下ろそうとしてて。

でも中段の箱は重いらしくて、少しよろよろ、ふらつくような、でも、落とさないように慎重に、でも重いみたいで。

たまに、あきらめるエルは、両手を下ろして、なんだか脱力してる・・・。

・・・私も、手伝った方が、いい、のかな・・・?

でも・・・余計な事かもしれないし・・・。

・・・見られたくないものがあるかもしれないし・・・それは、お節介かもしれないし・・・。

だから・・・全部自分でやったエルが、大きな一仕事に、一息吐いてた。

部屋が、床一面が箱でいっぱいになってて。

そして、下の方の、箱を開けて覗き込んだエルは、じっとそれを見てて。

少しの間、瞳を瞬かせてた。

目当てのもの、なのか。

知らない変なもの、だったのか、わからないけど。

屈んで。

・・箱の中へ両手を入れて、引っ張り出す・・・それは、木製の・・箱で。

重そうに、持ち上げて、身体をぷるぷると、震わせてるみたいに、ごん、とやっと床に置けた・・・箱じゃなくて、棚だった。

というか、棚が箱の中に・・・そんな風に運ぶのが普通・・・なのかな。

箱の中に棚・・・。

・・エルは、肩で大きな息を1つ吐いてた。

それから、じぃっと、棚を見てて。

・・・こっち、見て。

その視線に、私はちょっと、びくっとしたけど。

「・・・あの、」

エルがそう、私に。

「持ってくれませんか・・?一緒に・・・。」

って、エルが・・だから、私は。

「は、はい・・・」

ちょっと慌てて、ベッドから立ち上がって。


エルの方に、急いで歩いてくアヴェは・・。

「ありがとう・・。」

棚の傍で、エルがそう言ってくれるのを聞いてた。

少し顔を赤くしながら、アヴェは棚の後ろを・・・どうやって持つのか、

えっと、・・・なんとか持って。

エルも持つところを探してるけど。

・・・エルが、手を止めて、こっちを見たから。

・・頷く、俯き加減に。

2人で持つと、少し軽い、新しい綺麗な棚を。

一緒に、エルの行く方へ、新しい机の隣まで運んで。

倒れないように、気をつけながら・・床に置いた。

手を見たら、少し赤くなってるアヴェだけれども。

エルはそれから、棚を見上げてて。

床の方とか、周りをきょろきょろと。

「・・もうちょっと、こっち・・?」

って、持ち上げようとして。

アヴェもちょっと慌てて逆側を持った。

こだわりがあるような、ようやく決まった位置に、エルは棚を見上げてて。

それから、また箱の方に歩いてく。

アヴェはその場で、エルの背中と、ベッドの方を、気になるように見てたけど・・・。

エルが、覗き込んでた箱を1個、こっちに抱えて持ってくる。

その隙間から、・・ちょっと、何かが見える。

いっぱい、詰まってるような・・カラフルな毛とか・・・はみ出してて・・。

・・エルが、持ってきた箱を、床にとすんと置くと。

箱を開くエルの、屈みながら、少しの間、考えたように見つめてて。

・・箱の中には、耳とか、円らな目とか・・、アヴェは・・いくつかの目と合ってて。

・・・ふと、エルが、アヴェを見上げた。

急に見上げてきた瞳に、アヴェはちょっと、驚いたように、目を逸らすけど。

箱の、中に、いる。

いっぱいの縫いぐるみ。

・・ぬいぐるみが、箱の中にいっぱい詰まってて。

エルは、じぃっと、屈んだまま見つめてて。

それから、1つの縫いぐるみを抱えて、立ち上がって。

棚のほうに、近付いて。

その、白い毛の犬、のような、縫いぐるみを・・・、考えてるみたいな、置く場所を選んでるみたいだ。

置こうとしている手が左に、右に、下に、上に、迷ってる。

たぶん、こだわりが、あるみたいで。

・・・そんな、エルを・・呆けたように見てたアヴェは。

ふと、足元の、開いた箱の中を、・・・ちょっと、1歩、2歩近づいて、覗いてみたけど。

中に見えるのは、やっぱり・・・箱いっぱい、全部、縫いぐるみ・・・。

ぬいぐるみ・・・いっぱい。

・・・ぬいぐるみ、コレクション・・?

って、エルが、また傍で屈んで。

次の縫いぐるみを入念に、選び始めるのを。

その栗色の長い髪の、後ろ頭、動いてるのを、アヴェはぼうっとしたように見てた。



****

広くて大きな部屋の中を・・・縫いぐるみが、大きめの棚にいっぱい。

壁一面の棚に、縫いぐるみのコレクションが陳列されている。

色とりどりな・・・可愛い動物とか、お人形とか・・、赤とか、パステルグリーン、パステルカラーのいろんな色とか、黄色いキリンとか、白色、茶色い・・犬?エルと同じ髪色の、とか、中にはどんな生き物かわからないものも、いっぱいあって、いろんな可愛いの、・・・いくついるんだろう・・って。

・・テーブルの傍の椅子で、そんな光景を、瞬いてたアヴェだけれど。

その傍でエルは歩き回っていて、今も縫いぐるみを抱えて、きょろきょろと、棚とか、空いてる所を探してる。

抱えている縫いぐるみは、白い毛と黒い毛のシマウマのような、長い頭の毛の、角が生えてる、架空の生き物のような・・・可愛いけど。

目の前のテーブルの上には、もう、いっぱいの縫いぐるみが綺麗に置かれてる。

そう、綺麗に並べられてたり、エルは1つ1つ、配置を気にしたり、ぬいぐるみを入れ替えたりして、それから、そのぬいぐるみを見つめてたり、ぬいぐるみに頷いたり。

・・元々置いてあった置き時計が、柔らかくて可愛い縫いぐるみに囲まれてしまってるくらいで・・・。

アヴェも手伝って、一仕事終わったばかりで、疲れたけど。

・・次から次へと箱を開けてくと、中はほぼ、縫いぐるみで。

エルが持ってきた棚がいっぱいになっても、まだいっぱい残ってたから。

机の上や、テーブルの上、元々ある棚の小物の横にも、1つずつ置いていって。

・・・でも、あの子が少し夢中のようにしてるのを。

今も、ずっと、アヴェは・・・ぼうっと目で追っていた。


・・・えっと。

箱の中の、全部の縫いぐるみを置き終わったらしいあの子は。

他の箱を開けて、中を見て、確認したみたいに。

それから、部屋の中に溢れた縫いぐるみの様子を見回して。

瞬くような。

・・周りを見て、どれかの縫いぐるみに、満足みたいに、ちょっと、頷いてた。

それから、やっと、他の箱の中を取り出して。

箱の前で持ち上げて、じっと見てるそれは、お洋服で。

きょろ、っと周りを探したのも。

「・・ぁ、・・クローゼット・・・」

私は立ち上がって、クローゼットの方に。

私の、制服とか、掛けてる、クローゼットを開けて、あの子を振り向いたら。

こっちを見てたあの子は、目が合って、・・ちょっと頷いたみたいにして。

箱を抱えて、ちょっと、重そうに、こっちに歩いてきた。

・・・えっと。

箱の中は、たくさんのお洋服で。

・・クローゼットは半分以上空いてたから・・、なんとか入ると思うけど。


クローゼットの中に増えた、可愛い服・・・リボンとか、フリルとかの・・中にはサマードレスみたいなのまであるけど、白とか、ピンクとか、オレンジとか、いろいろな色がたくさん・・・。

・・ドレスとかも着るのかな・・・?・・私服なのかな・・・。

って、アヴェがクローゼットの中を、見つめてる間にも。

エルは、他の箱の中のものを開けて、1つ出して、部屋に置いてく。

アヴェが気付いて、部屋の中を見回せば、・・・室内は、とても変わってしまってて。

・・・アヴェは、クローゼットを、閉めて。

あっちの、近くの自分のベッドに。

その端っこに、また腰をすとんと落として、弾んだ。

部屋は、あの子の、色んなものが部屋の中を、・・彩って。

いろんな色で・・・違う雰囲気、だけど・・・、明るくなったような、そんな気もして。

きょろきょろと、見てた。

・・・気付いたら、あの子は、全部終わったみたいに、部屋を見回して。

・・そしたら、急に、あの子は、思い出したように。

振り返って、机の方に小走りに駆けてく。

机の上の、エルの鞄を開けて。

中から、お人形を取り出した。

そのお人形を抱えて、棚のほうに歩いてく。

棚はいっぱい、でも、ちょっと考えたように、縫いぐるみを横へ、避けて、なんとか場所を空けて。

棚の、一番真ん中に、そのお人形を置いた。

それから、中腰に、顔を近づけて・・お人形の、小さな顔に、何かを呟いたみたいだった。

何て言ったのかは、聞こえなかったけど。

・・返事を聞いてるみたいに、そのお人形を見つめてて。

ちょっと、・・ちょっとだけ、瞬いたのは、ちょっとだけ・・柔らかく。

背筋を伸ばして、振り返った、エルが。

あの子が、私を、見て。

・・笑った。

嬉しそうに。

楽しそう・・・。

ちょっとだけ、ちょっとだけ、笑って・・だから、私・・・も。

ちょっと、驚いたけど・・・。

・・・嬉しくなってる、みたいなのが。

・・微笑んでたみたい、だった。




ベッドの端に座りながら、エルは部屋の中を見ていて。

その隣で俯くアヴェはすぐ傍の横顔を、少しだけ、見上げて。

エルが、部屋を見ていて・・アヴェに気付いて、ふと目が合うのを、また少し顔を伏せるアヴェで。


・・・さっき。

アヴェの傍に来たエルは、すとん、とアヴェのすぐ隣に座って。

ベッドがちょっと弾んで。

それから、ずっと。

部屋の中の照明に。

天窓からの夕焼けの明かりが、少し混じるのを。

エルは、最初は珍しげに見つめてた。


「・・・ともだち・・、」

エルが呟いたように。

アヴェはぴくりと、微かに聞こえて。

エルを見て。

こっちを見てた、エルの瞳は。

「・・置いてよかったですか・・・?」

って、私に。

・・・ともだち?

と、ともだち・・・?

ともだち、を、置く・・・、・・・?

「・・ぬいぐるみ、」

・・あ・・・。

「です。」

「は、はい・・・」

エルと、返事が、ちょっと声が、被ったけど・・・。

・・友達の、縫いぐるみを、置いて。

「・・よかった。」

ちょっと、ほっとしたのかもしれない、エルに。

アヴェは目を少し、そらして、部屋の中を、・・見るけれど。

・・・今さら、かもしれない。

・・ダメって、言ったら、また片付けるわけだし・・・。

って、エルが・・ぬいぐるみの棚を、向こうを見てて・・・。

こく、こく、ちょっとだけ頷いたような・・急に、こっちを見た。

どきっと、したけど・・・。

「・・・来て?」

隣のエルが、ベッドから立ち上がったのを。

アヴェは見上げて。

あの子が、自分を見てるのを。

・・だから、アヴェは立ち上がって、ベッドから。

エルが、あっちの方に歩いていくのを。

よくわからないまま、ちょっとどきどきしながら、ついていったけど。

エルが立ち止まって、振り向いたのは、縫いぐるみがいっぱいの棚で。

見上げても、下のほうまで全部・・・、ふわふわしているような、いろんな色の縫いぐるみとか、お人形で。

「・・・ん。」

・・と、エルはちょっと、考えているようにして。

「この子が、マリーです。」

真ん中に置いた、一番最後に置いた女の子のお人形を両手に、取って。

私に、目の前に、差し出して、見せてくる。

だから、私は、・・こくこく、頷いてて。

「・・それから、」

マリーを胸に抱いたまま、エルはそれから、棚の縫いぐるみたちを見て。

「この子が、クマの、エントンで、この子が、ハニィル、この子は、グリジー、この子は、ウィッコ・・・」

・・って。

端から・・・、端まで。

「―――・・ビノンとヴィーは、・・よくケンカするんです。でも仲が良いらしいです・・・よくわからないけど・・。」

上の段のお人形も、全部。

「ニウは、クマの中でも小さいから、甘えん坊で、だから、クマのお友達が隣にいないと、ダメなんです。・・この子はいつも、ニウと遊んでるロロノ。キホノも、クマじゃないけど、仲良しです。・・・あと、」

・・・ずっと、エルは1つずつ、教えてくれて。

・・棚にあるお人形、全部の名前を、それから・・・。

「机にいるのは、頭が良い子で・・、頭が良い・・・、あたまが良い・・・?・・・うん、・・お勉強を、教えてくれる子、達、・・で。」

・・・なぜか言い直したエルは、ちょっと、棚のほうとかを振り向いて。

私も、見たけど・・・縫いぐるみたちが並んでいるだけで・・。

えっと、・・まるで、お人形達を気にしたみたいなエルのような・・。

「・・眼鏡を掛けてる、この子が、ジラッチモ。この子は、アッパーで・・。」

・・なんか、お人形は、良いとしても、・・動物が混じってるけど・・・。

「ワユは、数学が得意です。」

・・・サルなんだけど、この子は、数学が、得意らしい・・。

じっと、私を見つめてる、サルの子は、円らな瞳だ。

・・ちょっと、何でも知ってそうな風には、見えてきたけど。

・・・遠くを見てるみたいな目は、何も考えて無さそうでもあった。

それから、棚の上とか、色んな所に置いた縫いぐるみも全部、教えてくれるあの子、だけど。

「・・・門番、だから、ここに、いるんですけど、ギィギは、マリーといつもケンカしてて・・、」

・・って、ちょっと、私を、見る、あの子で。

「・・ぇ、・・ど、う、して・・・?」

「・・遊びに、抜け出すから・・・」

って。

「・・・」

・・私は、こくこくこくって、頷いてた。

そしたら、エルは、一回、頷いて。

「・・ギィギが、怒ってるんです。他の子達は、あまり、怒ってないけど・・・」

・・エルの、胸に、抱かれてるマリーは・・可愛いドレスを着てるけど、けっこう、元気な子、みたいで・・。

「あと・・、こっちの、ピリンポは・・、んー・・・、この、リーリーと、仲良くて・・・」

・・部屋に置いた、全部の縫いぐるみたちの、名前も、全部、教えてくれる、あの子は。

全部、覚えてるみたい・・。

・・・凄い・・――――。




こんこん、と。

ドアからノックの音が聞こえて。

振り返ったエルとアヴェはドアを見たら。

独りでにドアが開くと、ココが立っていて。

部屋を見たら、ココはその目を瞬かせて。

「・・うわ」

って。

部屋の中を見て、驚いたみたいだった。

そんなココを、エルとアヴェはきょとんとしてるみたいだった。

「・・凄いわねぇ・・・」

部屋の中を見回しながら、ちょっと笑いながら、ココは入ってくる。

見渡す限り、ぬいぐるみが目に入ってくるくらい。

「ぬいぐるみのお部屋になったのね?」

って、アヴェに言ってきたから、アヴェは、こくこく頷いてた。

「すごいなー、全部フェプリスさんのでしょ?」

「・・はい。」

近づいてくるココに、エルも、こっくり頷いてた。

そして、じっとこっちを見ているエルに気がついて、ココは少しの微笑みを浮かべた。

「さっきはごめんなさい。手伝うつもりだったんだけど。」

瞳を瞬かせるようなエルは。

「・・・いえ。」

「・・それにしても、部屋の雰囲気すごく変わったねぇ・・」

また周りを見回しながらココは、感嘆したようだった。

「2人で全部やったの?」

・・ちょっと、考えたように、瞳を瞬かすエルは。

隣のアヴェを見て。

その瞳に気付いたアヴェは、ココにぷるぷるぷると、首を横に振ってて。

「あ、そう?」

瞬くココだけど、なんとなく、2人の仕草に笑う。

「じゃあ全部、フェプリスさんがやったのね。」

「はい・・いいえ。」

こっくりと頷くエルに、ココはまた少し微笑みを・・しかけたけど、どっちかわからなかったので。

とりあえず微笑んでた。

「・・あ、そうそう、フェプリスさん、呼び方を決めましょう。」

「?・・・」

首を傾けてくエルで。

「できれば、愛称を決めたいの。呼びやすいようにね。私の事は、ココって呼んで?あと私は、アヴェエさんのことを、アヴェエ = ハァヴィだから、『アヴ』って呼んでる。」

と、エルは隣のハァヴィを見て。

じぃっと。

その視線に気付くとまた、顔を赤くして俯くハァヴィで。

「あなたをなんて呼べばいいかな?」

と、ココを見上げるエルは、また少し考えた様に。

「・・・エル、・・ザ?」

小首を傾げるように。

「エルザ?エルザって呼んでいいかな?」

「・・はい。」

「ありがとう。嬉しいわ。それじゃあ、エルザ、これからよろしくね。」

・・と、ココが微笑むのを見てたエルは。

「・・よろしくお願いします」

両手を重ねて、淑やかに少しばかり頭を下げる。

それを、瞬くように見てるアヴェも。

ココは2人の様子を見て、なんとなくまた、少し笑ってた。

「じゃあ・・、座ってお話しようかと思ったけど、」

って、ココさんは。

「まだ制服だから、着替えて、それに汗も少しかいただろうから、まずは2人ともお風呂に行ってくる?」

って。

エルは、ココを見上げてた瞳を、瞬かせてて。

「・・・おふろ・・?」

少し不思議そうに呟いてた。




「・・・うわ・・」

湯気が立ち込める曇りガラスのドアを開けて。

中に一歩入ったあの子が、湯気を浴びて、そう驚いたようにしたのを聞いてた。

頬の紅いあの子が瞳を大きくして、きょろきょろと、あちこち見回してるから。

だから、私も、少し、周りを見てみてた。

・・・広い浴場は、立ち込める湯気の中におぼろげに灯るような照明に。

誰かが歩いて、話をしてたり、何人も、何十人も入れそうな大きな浴槽があって。

誰かが浴槽の中で座って、友達とお喋りしてるような。

きゃはははっ・・って、遠いあっちで、浴槽の中ではしゃいでたり、歩いてたり。

あの子は、・・私も、バスタオルを身体に巻いてるけど。

タオルを身体に巻いてる人も他に少しはいるから、変じゃない、って思うけど。

あの子も、服を脱ぐときも、ちょっと、恥ずかしがってたし・・・今はもう、それを忘れてるみたいに、きょろきょろしてるし。

・・・楽しそうで。

・・って、あの子が、あっちの方に歩き出すのを。

私は少し慌てて、追いかけた。

バスタオルが、胸で抑えてる手も、ちょっとずれかけたから。

シャンプーとかが入ってる袋も落とさないように、私は握りなおして。

前の方で、きょろきょろしてるあの子は、なんか、珍しいから、みたいで。

あの子の後ろを追いかけて、私は、歩いてて。

・・・白いバスタオルを纏う、あの子の身体と、細い脚を・・・追いかけてて。

・・・白い生地が、背中が、動いてるのを見てて・・。

・・って、急に立ち止まって、振り向いた、あの子は。

・・・瞳をきらきらさせてて。

向こうの、個室になってるほうのシャワーを指差して。

「・・あれは、シャワー?」

って。

「そ、そう・・・」

私はこくこく、頷いてて。

「ですか・・」

またやっぱり、あっちの方を見てた。

・・あの子の横顔は、やっぱり、紅くて。

さっきまで、服を脱ぐ時とかも、恥ずかしがってるみたいにしてたから、なんとなく、・・どきどきしてる、みたいで。

「・・・・・・」

歩いてくあの子は、それから、空いてるシャワールームを見つめて。

瞬いて。

・・中に入っても、きょろきょろしてて。

「・・・ぁ」

って、気がついたようにあの子は、私に、こくこく、頷いて。

だから私は、ちょっと、どきっとしたけど、こくこく、頷いて。

エルは、こくんと頷いて、ちょっとだけ、ちょっとだけ微笑んで・・・。

・・から、私も、隣の、空いてる個室に入って。

袋を置いて、カーテンを閉める。

それから、袋の中を、取り出して・・・。

しゃわっ・・・って。

「・・あっ・・・・」

・・って、隣からシャワーの音と。

慌てたような声が、聞こえてた。

・・・えっと。

・・なに?

・・・カーテンを開けて。

隣を覗き込んでみたら。

カーテンは開いたままで。

中で、あの子が、バスタオルのまま、勢いの良いシャワーの中で、眉を顰めてるような、困ったように、・・あたふたし始めてて。

・・・・・・えっと・・。

「そ、その・・、レバー、みたいなの、の横のボタン、押して・・・」

・・って、私が言っても、聞こえてないみたいで。

じっと、レバーの前で手を、考え込んでるような、だから。

「よ、横のボタン・・っ」

お、大きな声で、言ったら。

あの子は、ぴくっと。

振り返って、私を見つけて。

指差して、私は、それをエルは・・手で触ってみて、私を見るから。

こくこくこく、頷いたら。

押して。

シャワーが、止まって。

「・・・・・・」

・・・ぽた、ぽた・・・濡れてる、エルの・・・。

・・ボタンを見つめてた、振り向いたエルは。

バスタオルを巻いたまま、髪まで濡れてて・・・。

・・ちょっと、・・頬っぺを膨らましてたような、あの子は。

・・・少し、少しだけ、怒ったのか・・・こっちを見たのは、拗ねたような・・エルで・・・。

・・私は。

・・・えっと。

ど、どうしようか、ど、・・・・・どうしよう。




端っこを絞った、濡れたバスタオルはロッカーの端っこに置いて。

バスタオルの下で、下着だけはなんとか、着て。

エルはそれから、ロッカーの鞄から引っ張り出した、乾いたハンドタオルで。可愛い下着姿のままで、まだちょっと濡れてる肩や足を拭いてる。

・・私は、隣でちょっと、・・・目をそらしてて。

周りの子たちも、着替えている中の、お風呂に入る前か入った後だから、で。

・・気が付いて、着替え途中の、シャツのボタンを留めながら。

・・・あの子が履いてくワンピースのスカートに、白い上気した肌も下着も、隠れてった。

それで、ちょっと、ほっとしたようなエルは。

その瞳で私を見て。

だから私は、ちょっと、目をそらしてて。

留めかけてた、シャツのボタンを思い出して、また。

・・あの子が、それから、タオルで髪の毛とに挟んで。

濡れてるのを吸い取ってるような。

私は、・・・ボタンを最後まで留めたら。

でも、エルが向こうの方を、じっと、見てたのを。

私は・・、エルの見てる向こうを見て。

鏡の前で、ドライヤーで乾かしてる子がいるのを。

・・振り返ったら、あの子は、私を見てて。

私は、ちょっと、どきっとしたけど・・・。

あの子は、瞳を、少し瞬いて。

ちょっとだけ、首を傾けたから。

私は、こくこく、頷いてた。

・・あの子は、だから、こくっと頷いて。

向こうへ、とことこ、歩いていった。

空いてる鏡の前で、ちょっと、きょろきょろ、してて。

それから、棚の中の、収納されてた備え付けのドライヤーを見つけて、・・・すっ、と手に取ってみたりして。

・・・私は、ロッカーの中に、袋へ、着替えたものとかを・・・詰め込んで。



少し首を傾けて。

栗色の長い、ちょっと丸く跳ねるような髪の毛を、指先で転がしてみたり。

タオルで挟んで、濡れてるのを吸い取ったりしてて。

洗面台の前の椅子に座ってるあの子は。

それから少し、綺麗な瞳を瞬きさせて。

紅い唇を結んだみたいだった。

可愛い、ワンピースの、スカート。

ほのかに淡いピンク色が色づいてるような。

白い華のような、飾りが1つだけ付いてて。

ちょっと、綺麗な。

腕や頬の白い肌は紅色にちょっと染まって。

丁寧に手に挟むタオルと髪の毛の。

甲に遊ばせたような栗色の髪の毛と、その手を見つめてたあの子は、ふと、私を見て。

私は、ちょっと、どきっとして・・。

顔を逸らしてて・・。

鏡の、方の・・。

私が・・、見えてた。

いつも、着てる、シャツの、私で。

男の子っぽいような・・・。

傍で、座って、待ってる・・・。

・・ちょっと、顔を動かすと。

鏡の中の私も動く。

黒い、髪の毛が、ちょっと、跳ねてて。

私は、手で、流して、ちょっと、直してた。

・・・ちょっとは、直った、かも。

・・膝元に袋を抱えてる、ズボンの上で。

ずっと着てる、私の。

・・隣の、あの子が、鏡の中のあの子が。

両腕を開いて、タオルを広げて、肩に掛けると。

紅い唇をちょっとだけ開いて。

少しだけ動かしたような。

・・息を吸ったみたい、それから、閉じて。

ドライヤーをつけて、熱い風に、髪の毛を当て始めたのを。

風にちょっと動く髪の毛に。

ドライヤーを使う、あの子が瞳を細めたりするのを、見つめてた。

温かい風が、良い匂い、シャンプーの。

あの子の、横顔の、綺麗な瞳、鏡を見つめてて。

あの子はちょっと、頭を動かしたり、・・頑張ってもいるみたいだった。

栗色の髪は、綺麗だけど、長いから。




タオルや入浴グッズとかの、袋を持って廊下を歩いてると。

寮の施設に周りの人たちは、段々と多くなってきて、賑やかになってくる。

隣で、あの子はときどき、周りを、きょろきょろしてる。

やっぱり、どこも珍しいみたいで。

だけどまた、どっかに1人で行こうとしないように、私はあの子をちゃんと見てた。

微かに、頷くようなあの子の横顔も。

ココさんには連絡したから、待ち合わせして・・・それから、一緒にご飯食べて、どっか行くとか、お話しするとか言ってたから・・・。

・・あの子は、やっぱり、なんだか、周りから目立ってるみたいで。

・・・傍で見てると、当たり前、かもしれない。

やっぱり、あの子は、可愛いと思うから。

あの子が歩く姿は、綺麗で。

柔らかく白くて淡いような、濃淡が揺れるワンピースの生地は、可愛い。

薄いピンク色だけれど、光の加減で白くも見えたり、明かりのせいで。

近くで見てると、普通の生地じゃないみたい。

高級なもの、なのかも。

シンプルなんだけれど、ちょっとだけ裾にレースも入ってる。

・・・お風呂行くときも、準備をけっこうしてて。

ドライヤーとかもお家から持ってきたみたいだし。

髪を乾かした後は、保湿のクリームとかも塗ってた。

それに、シャンプーのいい匂いもするし。

艶やかな、長くて、丸く跳ねる栗色の髪の毛から。

・・・あの子は、ちゃんとしてる、っていうか・・。

「・・・・」

どっか、足を止めて、見てると、ふらふら行こうとしちゃうけど。

「こ、こっち・・・、」

エルが振り返ると、素直に付いてくるんだけれど・・・目は離さない方が良いと思う。



ときどき、こっちを見てる人がいるから。

私は、あの子がどこかに行かないように気を付けながら。

大きな入り口へと、入ってく。

人がいっぱいいるそこは、食堂で。

大きな高いホールは、夕日が少しだけ混じるような色で、昼間みたいに明るい。

美味しそうな匂いの、立ち込めるのは、ご飯を作るスタッフの人たちがフル稼働してるからで。

隣で、瞳をきらきらさせてる・・・あの子が、いて。

なんとなく、ちょっと、・・・気持ちはわかる。

もう夜なのに、ここだけは昼間みたいな、どこかの世界のテラスみたいだから。

って、エルがまたどこか、木組みの低い階段を歩いて、ふらっと行きかけたのを。

ひ、人がいっぱい、いるから。

「ぁ、あの・・・」

もう、聞こえてないようなエルは、どこかへ行くから・・・。

私は、慌てて、手を、握ってた。

振り返ったあの子は、ちょっと驚いたように。

私を・・・瞬いてて。

私が握ってる、手も見たから・・・。

ぇ、え、えっと・・・。

でも、じっと、エルは、私を見てて、ちょっとぷくっと膨れたみたいだった。

私は、だからちょっと、俯いてたけど。

怒った感じじゃないとは、思うけど・・・。

・・ぇっと。

あ、あったかい・・手は・・・て、手・・離さないと、いけないのかもしれないけど・・・。

離すの、変・・かもしれないし・・・。

だから、あっちの方、私たちが行かなきゃいけない方・・・あっちに、あの子の、手を握りながら。

ココさんの姿を、ちょっと、探したけど。

傍に、あの子は、・・付いて来てて。

・・・私が、歩くと、・・とても素直で、ついてきて。

・・だから、私は、歩いて。

いつもの、場所へ・・・向かって。

ご飯を運んでる人とか、食べてるがいっぱいの中で・・・顔を上げれば。

向こうの方に、ココさんが、私たちを見つけてるような姿が、見えてた。


「案内してくれたのね。ありがとう」

ココさんはそう、笑ってた。

「ここが食堂。時間内だったらいつでも来てメニューのものを食べれるわ。曜日や時間帯でメニューも変わるから、そこは注意ね。まあ、食堂って言っても凄いから。あ、カフェとか、アリスとか呼ぶ人もいるのよね。あ、正式には『アンジュ・リストランテ カフェ』。あそこに書いてるでしょう?」

ココさんが指さす入口のゲート、天井近くには確かにオブジェのように1文字ずつ貼られていて、ライトアップされていて、そう書かれている。

入口もやっぱり、テーマパークの入り口みたい。

「まあ、呼びにくいから。みんな自由に呼んでるみたい。」

って、ココさんは笑ってたけど。

「人多いでしょう。ご飯時はいつもこんな感じ。まあ、自慢できる場所だからね、ここは。メニューもとっても多いし。」

「・・はい」

「ね?」

って、ココさんが、私の笑って見せたのも。

なんて、答えればいいのか、わからなかったけど・・・。

「エルザは、お風呂どうだった?」

ココさんにそう聞かれて、ちょっと考えてるような、エルみたいで。

・・・こくん、と頷いていた。

「気に入ったみたいね。良かったわ。」

ココさんは、一応、そう思ったみたいで。

でも、確かに、エルは寮の中をずっと楽しそうにしてる。

「浴場の大人数、珍しかったでしょ?慣れない、っていう人もシャワールームもあるし。大浴場も面白かった?」

エルは、ふるふる首を横に振ってた。

「入ってない?じゃあ、アヴがエルザにいろいろ教えてあげてね」

・・・えっと、私も、まだ、入ったことないんだけれど・・。

ずっとシャワーだし・・・。

少し噴出したように笑ったココさんは・・えっと、なんでだろう。

「お姉さんだね、アヴって」

って。

それを聞いたアヴェは、びくっと、驚いたけど。

ぎゅっと、握り返されたような手が・・・。

・・・手・・っ?

握ってた手を、離した・・・っ。

エルの手、握ってたのを、ココさんが笑ったみたいだから・・・隣では、瞳を向けてくる・・不思議そうにしてるエルがいるみたいだけれど・・・。

「ご飯もらいにいきましょう?けっこう美味しいんだから、ここのご飯は」

ココさんがそう言ってた。


見上げる瞳が煌めくエルザと、まだ少し俯き加減にしているアヴに。

先を歩くココは少し、2人がちゃんとついてきてるのを、振り返って見て。

そんな対照的な2人の様子にまたちょっと、苦笑いのようにしながら前を向いていた。

「ほんと、似てる」

そう、誰にともなく、呟いたけれど。

独り言を言ったのもすぐ忘れるだろう。

空いていたテーブルを確保して、荷物も置いてきたので、それからエルザに食堂の利用の仕方を教えていく。

「学生カードは持ってるね?ここに、ピっとして。トレイを取る。」

機械にタッチさせるカードを、素直にじっとエルザはココの手元を見つめて、真似をちゃんとする。

重なってるトレイを持って、列に並ぶ間も同じ様に、2人は隣並んで。

「後は好きなものを取ってね。なんでも好きなものを取っていいけれど、残しちゃいけないよ。お勧めは、日替わりセット1・2・3ね。ちゃんと栄養バランス考えられてるから、体にいいし、美味しいわ。デザートはついてないから、好きなものを取ってね。」

エルザとアヴは、ときどき目を合わせるような、で。

それから、すぐ恥ずかしがるように目を伏せるアヴと。

そんなアヴを、じっと見つめてるエルザを見てたら。

実は『お姉さん』は逆で、アヴじゃなくてエルザなのかもしれない、とも思った。

そんな様子を見てたら、また少し可笑しくて、頬が持ち上がるココだ。

ここからはパンやスープ、サラダやパスタ、肉料理やサンドイッチ、他にもあるメニューのカウンター列に好きに加わったりして、好みのメニューを取り揃えれる。

「好きな物を選んでね。」

元気な学生たちにはいつものように、ピザやハンバーガーとか甘いジュースとかが人気みたいだけど。

好きな食べ物は、いろんなところから、ケースの中にあるパンとか、並んでるけど、エルザは迷ってるみたいだけど。

「私はセットを貰ってくるわ。2人はどうする?」

見上げてくるような、エルザとアヴの、きらきらした瞳と困ってるような目だから。

「・・行きましょうか?」

こくこく、頷く2人を連れて、日替わりセットの列に並んでいた。

それから、並んでいる間に見えるモニタに映ってる、日替わりセットの内容と美味しそうな写真とを眺めて。

「・・・ん-」

と、少し考えてみるココの、隣でも。

2人の少女が一緒に、じっと同じものを見て、何を食べたいか考え込んで、動かなくなってるみたいだった。



今日の『日替わりセットの3番』は、大きめのサンドイッチを何個かに切り分けた、瑞々しい野菜やお肉やソースがパンの挟んだ口から溢れる、とても美味しそうなセットだった。

他にも温まりそうなコンソメスープやピリッと味を変えるピクルス、チキンクリスピーにマスタードソースをかけて、コップに100%野菜ジュースも入れて、トレイに乗せた。

空いたお腹が満足しそうなトレイの上の光景にココは満足そうに、もう一度頬を持ち上げてた。

荷物を置いてたテーブルに着いてから、エルザとアヴもちゃんと選んでるようなのを見て、さりげなくチェックもする。

アヴもエルザも、ココと同じ『日替わりセット3』を乗せたトレイが2つ、目の前に置いた席にあって。

座ってる見上げてくる2人に、ココはちょっと微笑んで見せた。

セット3以外に加えたメニューは、エルはコンソメスープにブドウジュースにバニラアイスクリーム、アヴはコンソメスープだけとか、ドリンクやデザートの好みはやっぱり違うみたいだ。

「それでは食べましょう」

と、ココさんが言えば。

頷いたようにしたエルザはそれから、頭を垂れて、その瞳を閉じて。

何かを小さく呟いてるようだった。

少し、目を瞬いたココは、お祈りをしているのか、とすぐわかって。

隣のアヴがそんなエルザをただ見ていて、待ってるのを見て。

なんとなく、いつものことなのかと思った。

すぐに、瞳を開いたエルザと。

それから、アヴは、トレイの上のものを見つめ、小さく呟いたようにして。

・・なんとなく、顔を上げて、エルを、ココを見たようにしたアヴは。

みんなが、顔を合わせるようになったのを。

またちょっと、赤くなった様に、俯いてた。

そんなアヴに、エルザに、微笑んだように笑ったココは。

それから、トレイの上のスプーンを取って、スープを掬って口に運ぶ。

食べて、・・何口か目をすれば。

ちょっとだけ、横目で見たエルザとアヴも、同じ様に、スプーンを使い、スープを食べ始めてた。

ココはだから、ちょっとまた、笑って。

また口に、スプーンの先を運んだ。


食堂ではたくさんの学生たちがお喋りしたり、食事をしてる。

テーブル席はいくつもあるし、何の話をしてるのかもわからないけれど、とても楽しそうだ。

夕日の色に植物の蔦が這うようなガラス張りの、大きくて広い球形の格子が天井まで編まれ結ばれていく、夕方のテラスホールのような光景の中にいて。


それから、サンドイッチを両手で持つと、大きな口を開けてかじりつく。

美味しくて満面の笑顔に、幸せ・・!と叫びたくなるのを胸の内に抑えるのは、礼儀正しい子供たちの前だからかもしれない。

そんな様子を、エルザが瞬いて見てたのを、ココは気づかなかったけど。


アヴェが、隣で見てた、エルが瞬いて大きなサンドイッチを見ていたような。

それから、ココさんの真似をしたように、両手で持って、口を開いて。

その口が全然、小さいから。

気が付いて。

息を吸うみたいに、もっと頑張って、大きな口を開いて。

そしたら、サンドイッチの端っこが、やっとちょっとだけかぶりつけたエルで。

・・・今度はちょっと、自分で驚いたみたいに、もぐもぐしながらサンドイッチのかじった部分を見つめてた。


・・確かに、今日のサンドイッチは大きくて。

つい、みんなそれにしたから、それにしたけど・・・。

私も、エルみたいに・・・えっと、・・はむっ、って嚙みついた。




寮の子たちがお喋りして歩く廊下を、食事を終えてココはまったりした気分で一緒に歩いてる。

傍にいるエルザとアヴェは、相変わらず大人しく見えるけれど。

少なくとも、ココは美味しいものでいっぱいのお腹が満足で。

「どう?寮のご飯は美味しかった?」

ココさんが聞いてみれば。

「・・・はい。」

エルザは少し考えたようにして、頷いて。

「よかった」

ココさんはエルザに微笑んで見せた。

隣ではアヴェが少し俯くようにして歩いてるけど、2人ともお腹がいっぱいみたいで、ほんのちょっとまぶたが重そうだ。

特にエルザが、歩く様子がぼうっとしてるような、少し眠そうで。

もう部屋に戻って、休んだ方が良さそうだ。

初めての場所だし、引っ越してきたばかりで、部屋で整理もして、いろいろ疲れたんだろう。

「そういえば、さっき部屋の箱を片付けようとしたんだけど、まだ中が入ってるものがあったから、後でそれを少し整理しちゃいましょうか」

「・・はい」

やっぱりエルザは、静かに丁寧に返事をしてた。


部屋に戻ると、2人と一緒にココさんも、テーブルに座って。

なんとなく、静かに、特に誰かが話し始めるわけじゃなくて。

のんびりとした雰囲気が、横たわっていて。

・・・次第にまぶたが重くなってくるのも時間の問題だなぁ、ってココは感じ始めてて。

「・・寮を一緒に案内して回りたかったんだけど、今はのんびりしてた方が良さそうね」

そう、口にしてた。

また後日そうしよう、って。

「エルザは、寮は大丈夫そう?」

エルザにそう聞けば。

「・・はい」

ちゃんとこっくり頷くエルザで。

今聞けば、さっきよりはちゃんとした返事が返ってくるみたいだった。

「アヴが案内してくれたのね。」

「はい・・・」

エルザはそう、ちゃんと頷いて。

アヴは、名前を呼ばれたからか、口をちょっとむんとしてる。

まあ、いつもの感じだ。

ちょっと笑うココだけれど・・・。

今日初めてじっくりエルザと過ごして。

食事中は何かを訊ねても、やっぱり頷いたり、首を横に振ったりするようなだけで。

お話、というものをあまりしない子みたいだ。

そういう所はアヴも似たようなものだ。

だから、悪い気はしていないと思うから、問題はないだろう。

エルザは緊張しているようには、あまり見えないけれど。

リズムというか、2人はやっぱり似ているところがあるな、って思う。

きっと、それは良いことなんじゃないかな、とも思うわけで。

そんなことを考えたりしつつ、のココは。

「・・よし、じゃあ、お片付けしましょうか?」


それから、いつの間にかココとエルザが部屋の中を行ったり来たりし始めてて。

荷箱に残っていた日用品のものとか、美容品っぽいものとか、小物とかも。

「あそこの棚ならまだ入るかな。あなたはこっち、アヴはそっちを使ってるから。ふむ、アヴのスペースが空いてるからこっちに借りちゃうけど、いい?アヴ。」

テーブルの椅子に座ったまま、こっくこく頷くアヴェだから。

「ありがと。」

それからも、ココさんとエルの行ったり来たりする様子をしばらく見てたアヴェだけど。

・・・ぬいぐるみは、もう全部飾ってあるんだなって、ちょっと思った・・。

・・1番最初に飾ったのがぬいぐるみだったし。

・・・・1番、重要だったのかもしれない、エルにとって。

たぶん・・・。

・・・エルは、ぬいぐるみが好きで。

・・そんな子なんだな、ってちょっと思った。


「これで全部かな。ふぅ、」

ココさんがちょっと疲れたようにして、部屋を見回してた。

それから、気になったらしく、振り返って見上げてくる少女2人に。

「座ってて」

ココさんがそう言えば、2人はお互いに顔を見合わせたようにして。

それから。

テーブルの、椅子に隣り合って座ってた。

「エルザは今日が初めてだから、いろいろあったと思うけど。」

そう、ココが2人に伝えながらテーブルの傍へ、椅子に座れば2人とも見つめてきて。

「困った事があったらなんでも私に言ってね。」

エルザにも、アヴにも言ったつもりである。

「欲しいものがあったらとか、なんでもいいからね、アヴも。」

こくこくと、2人同じ様に頷くのを。

「・・ベッドの方はあれで足りる?」

そう、ココが聞けば、エルは自分の、新しいベッドの方を振り返って。

「毛布足りなければ持ってくるけれど。枕2つ欲しいとかね。見てくる?」

そう伝えれば、ココを見上げて。

それからエルザは立ち上がって、ベッドの方に、てこてこ駆けてく。

・・・なぜか、アヴも、ちょっと、エルザの方を、不安げに見てたのに、ココが気が付くけど。

エルザはベッドの傍で、布団をじっと見つめていて。

・・・エルザはちょっと手を伸ばして、触ってみたみたいだった。

「・・もし寒かったらクローゼットにも入ってるから、それはアヴが知ってるね?」

アヴはこくこくと頷いてて。

「エルザが聞いたら教えてあげてね。あとは・・・、可愛らしいお部屋になったねぇ・・」

さっきから気になってた、テーブルの上の縫いぐるみを見ながら、思ったことが口から出たみたいだ。

1体、ココさんは動物の縫いぐるみを持ち上げて。

ちょっと、縫いぐるみの手をつまんで、くいくい、目の前で動かしてみる、・・・と、傍のアヴと目が合った。

「・・あ。」

と、我に返ったココは。

「ま、まぁ、あとはないかな。うん。」

そっとテーブルの上に戻すココは。

「この部屋の事はアヴが詳しいから、何でも聞いて。ね、よろしくアヴ。」

そう、にっと笑ったココに、アヴも慌てたみたいに、こくこく頷いてた。

「それじゃあ、私は帰りますかな・・、あ、今日は、初日だから、いろいろ口を出したけど。」

と、ココはエルザにも。

「いつもは言わないから安心して。ベッドでゴロゴロしててもお菓子食べてても、叱ったりしないから。基本的に自由な校風なんだよね。まあ、流石にダメだなって時は言うけど。」

そう、目を細めたようにするココがアヴを見たのを。

アヴェはぴくっと、顔も身体も緊張させたみたいだった。


「それじゃ私は帰ります。ちゃんと休んでね。明日の学校・・まあ、アヴに聞いてね。いつもの通りよ。じゃ、また明日。」

手の平を見せて、立ち上がるココに。

「さようなら・・・」

エルが小さくそう言って。

ココが、扉を開いて出て行くのを。

扉が、ぱたんと閉まるのを。


それから。

・・・2人は、静かになった部屋で。

・・またちょっと、顔を見合わせてて・・・。



****


お勉強を。

今日は、帰ってから、してなかったのを。

ふと思い出したアヴェは。

机に向かってて。

ちょっと、あの子を気にしながら。

静かな部屋の中で、ノートをぱらぱらと捲ってた。

・・そうしてると、いつの間にか、隣の机に、座ってたあの子が。

ノートを開いてて。


ノートを見つめてた。


少し、瞳を細めたように。

・・文字を追っていて。

だから、アヴェは、まだ少し。

・・どきどき、してたけど。

・・・自分のノートを見つめて、ちょっと、目を瞬かせてた。



「・・ふぁ・・っ」

って。

声が、聞こえて。

アヴェは、どきっとして。

・・隣のエルを、ちょっと、見てて。

エルは少しだけ、瞳を円くしたみたいに。

ちょっと、驚いたみたいに、してて。

唇をぎゅっと、閉じてて。

それは、まるで、欠伸を、しかけたみたいに。

その、横顔を、見てたら。

エルも、横のアヴェに、気付いて。

お互い、ちょっと瞳を瞬かす。

ちょっと、不思議そうに。

見詰め合った目を、瞬かせて・・。

・・・そしたら、2人は。

可笑しそうに。

どちらともなく。

一緒に、笑ってしまって。

可笑しそうに、静かな部屋で。

微笑んで。

笑っていて。




あの子が、着替えるって、言ったから。

私も、パジャマ姿に着替えるのを。

向こうのベッドの方で、かさこそ、服が擦れる音を。

ちょっと、どきどきしてて。

ボタンを、留めて、ズボンを脱いで。

それから、パジャマの下を履いてから。

・・振り返ったら。

・・・あの子、背中に入った髪の毛を両手で出してるとこだった。

・・・・淡い白色の、ワンピースみたいな、長いスカートみたいな、ネグリジェってやつだ・・・。

私は、着たことないけど・・・あの子は、・・可愛くて。

両手で長い髪の毛を後ろに、ふぁさっと、流して。

それから、・・自分の格好を、身体をちょっとだけひねって見下ろして。

そして・・・ベッドの上の、脱いだ服を畳んでる。

・・・私も、脱いだ服を、畳んで。

・・えっと。

・・いつもどこに置いてたっけ・・・?

・・・あ、そか、エルがいるから、・・・えっと、ベッドの配置も変えたから、まだちゃんと決めてない・・・。

「・・・しょ・・だ・・」

って、あの子の声が聞こえて。

きょろきょろと、周りを見てるあの子は。

・・私を見つけたみたいに。

・・・近付いてきた。

「・・あの、」

そう、私に不思議そうな、瞳を瞬かせて。

「お化粧台、って、どこ・・・?ですか。」

・・おけしょ・・。

「・・・え・・」

・・ちょっと、変な声が出たかもしれない。

「・・お化粧台・・・」

あの子は、ちょっと、また、不安そうに、した、から・・。

「・・え、あの・・、な、・・ない・・・」

よね・・?

って、部屋の中を、見回しちゃった、・・けど・・。

ない・・・あったら、・・絶対に、知ってるし・・・。

「ないん、ですか・・?」

って、あの子は、瞳を瞬かせてて。

不思議そうに、首を、小さく傾けて。

・・すごく、不思議そうみたいだった。

・・・片手には、ヘアブラシが握られてて。

寝る前に、梳かそうとしたみたいだけど。

・・じっと、見てくるあの子に。

「・・・ぁ、・・ぅ・・」

ちょっと、怯んだ。


あの子は結局、手鏡を持って、テーブルの椅子に座って、栗色の長い髪をちゃんと梳かしてて。

・・・長い髪を、リボンで纏めてて。

・・寝るのに。

傍にあるのは、それから、ナイトキャップ、みたいで。

・・どれも、可愛くて。

なんか・・・。

お姫様みたいだった。




・・・あ。

気付いた時には、もう、パジャマだったから。

・・歯を、磨くの、忘れてた・・・。

・・・向こうのあの子は、棚の、縫いぐるみを、見つめてて。

・・顔を、クマの縫いぐるみの目の前に、それから、首を少し横に振ったり。

・・・会話してる、のかも・・。

って、きょろ、っと振り返ったあの子は、私に気付いて。

えっと・・・。

それから、またちょっと、部屋の中を探すようにして。

・・・棚の上の縫いぐるみに、目を留めたあの子は、背伸びして。

縫いぐるみを、1つ、2つ、取った。

その2つを胸に抱えて。

離れて、私のほうに・・。

・・・こっちに、なぜか、歩いてくる・・。

それで、私の、目の前に来て・・。

「・・はい、」

・・って、差し出されて。

・・・えっと・・。

「ニウと、ロロノ、です・・」

・・さっき、教えてくれた、名前は、覚えてるような・・。

私は・・、えっと、見つめてくる、クマの、縫いぐるみを・・・。

・・・えっと。

・・両手に、もらって・・・。

えっと・・・。

・・そしたら、あの子は、少し、嬉しそうに、微笑んでて。

「・・ちゃんと、抱いてください。ニウは、そうしないと、眠れないんです・・・」

って。

私は・・・。

・・・こくこくこく、あの子に、頷いた、けど。

・・・・・ぁ、一緒に、寝て、ってこと・・?

この、2匹の縫いぐるみと一緒に・・・。

・・・なんだか、あの子は、私を見てて、・・それから、私の抱いてる、縫いぐるみを見て・・嬉しそうだった。

・・えっと・・・。

「ぁ、あ、ありがと・・ぅ・・」

「・・いいえ。」

・・やっぱり、笑ってた。

・・・どきっと、したけど・・。

・・えっと・・・。

・・・一緒に、・・寝る・・・?

この、縫いぐるみたちと・・・。

エルは、それから、あっちへ向いて、歩き出す・・・テーブルの方へ、てくてく・・・。

・・・あ。

「あ、あの・・、」

「・・・はい・・?」

足を止めて、振り返るエルへ・・・。

「は、歯を・・磨きに、・・・。」

「あ・・・。」

・・って。

ちょっとだけ口を開いたあの子も、忘れてたみたいだった。




廊下を歩いてると。

・・・人もちょっと、少ないのに、みんながこっちを見てる気がする・・。

パジャマで、部屋を出るのは、ちょっと、嫌なんだけど。

あの子もいるから、仕方なくて・・。

でも・・、みんな、隣の、あの子を見てるみたいだった。

あの子は、・・・全然気にしてないみたいだけど。

たぶん・・、みんな、可愛い・・って、思ってるんだと思う・・。

柔らかそうな、淡い白色の生地がたっぷり使われたネグリジェとか。

寝巻きなのに、こんなに可愛いの着てる子、私も、初めて見たから。

・・・ちょっと、変わってる、って思ってる子もいるかもしれないけど。

でも、なんか、エルは・・・とっても、似合ってるし。

しゃこしゃこ、歯を磨いてても。

・・私は、隣のあの子の、横顔を、ちょっとだけ、見てて。

歯を磨いてるあの子は、口に少し泡を付けて、少し口を膨らませたまま。

・・・しゃこしゃこ。

・・私に気付いたみたいに、綺麗な瞳を向けてた。



****


寝る前までの静かな時間の部屋は。

あの子が、ベッドで、選んだ縫いぐるみを、並べたりしてて。

一緒に寝る縫いぐるみは・・私が受け取った2匹より多いみたいだ。

・・・私は、ちょっと、ベッドに座ってあの子の方を見てたけど。

ベッドとベッドの間の仕切りの隙間、飾りの隙間からは、少ししか見えなくて。

あの子の枕元は見えないから、音とかでしか、あの子が何かをしてるのがわからなくて。

・・だから、ちょっと、あの子からもらった、枕元の縫いぐるみを見てて。

2匹のクマの・・・小さい・・。

・・・じっと見てるその子たちを、ちょっと、持ってみてて。

・・小さい、柔らかい、縫いぐるみ・・。

・・・もう片方の、も。

じっと、見つめてくる縫いぐるみを見てた。

ベッドの上で・・・あの子は、いつも、縫いぐるみを抱いて寝てるのかな・・。

・・・・・・いつも、いつ寝てるのかな・・。

・・・もう、寝る準備してるみたいだし。

明かり、消した方が、いいのかな・・。

・・って、あっちの方を見たら、あの子はこっちに、スリッパで、ぺたぺた、歩いてきてて。

ぇ、えっと・・・。

私の、ベッドの傍で。

私を見てて。

「・・おやすみなさい。」

って・・。

「ぁ、ぉや、すみな、さい・・」

・・って、私が言うと。

あの子は、ちょっと頷いたようにして。

また戻ってく。

・・私は、寝巻き姿の、あの子の、後ろ姿を見てて。

・・・ベッドに上ったのも・・。

・・・・・・ぁ。

私は、ベッドから、降りて。

スリッパを、ぺたぺた鳴らして、テーブルの方に。

リモコンを、取って。

上に、向けたら。

・・・。

・・・・あの子の方を、振り返ったら。

あの子が、ベッドから、こっちを見てて。

・・・えっと。

・・あの子は、ちょっと、頷いたようにしたから。

・・・リモコンのスイッチに触れた。

――――ふっ・・と、辺りは暗くなって。

小さな、橙色の灯りの部屋になる。

・・・ちょっと、暗くて、周りが、見えない、んだけど・・。

消しちゃったから・・・、もう1回つけたら、あの子が、驚くかもしれない、から。

・・手探りに、テーブルの上に、リモコンを置いて。

それから、ベッドの方を、なんとか、・・えっと、あっちの方だから。

暗がりの中に、ぺた、ぺた・・・歩いて。

ベッドの端が、なんとなく見えるの・・・のを、触って。

スリッパを、脱いで、ベッドに上った。

布団の中に、もぞもぞ、入って。

暗い中で、・・枕に頭を乗せた・・・。

・・・まだちょっと、どきどきしてて。

・・なんでか、どきどきしてて・・。

・・・枕の、傍の、・・小さな、縫いぐるみを。

ちょっと、手で、探して。

頬に当たってる枕に擦れて・・。

・・・あった。

触って、柔らかいのを、・・・目の前に持ってきて・・。

・・暗い中でも、ちょっと、あの、瞳が、見えた気がして。

・・・じっと、私を、見てると思う、から。

・・胸に、ちょっと、・・・ぎゅっと、してみて。

・・・そしたら、柔らかくて。

なんとなく、温かい。

胸の中で、もぞもぞと、動く縫いぐるみを。

ちょっと、指で、柔らかいのを、触ったり、して・・。

・・・感じながら。

・・お布団の中で、目を、閉じてた。

・・・・なんだか、むに、むに・・・縫いぐるみが、柔らかくて。

・・・ちょっと温かくて。



―――――音の無い、暗がりの中は・・・寝静まってる。

小さな明かりの中にかろうじて、灯る・・・。

ベッド・・・部屋の主の、2人の少女に・・。

・・・顔を近づけてみれば・・・・安らかな吐息が耳を擽って。

少し擽ったいと、縫いぐるみは可笑しそうに、身を捩るんだろう。

「・・・よっせっ・・」

声が、・・・聞こえる・・―――?

「・・まったく、エルったら、」

・・・それは、少女の・・。

「パミーとタマルは仲良いわけじゃないって、」

もぞもぞ、向こうのベッドの中から、音がする。

「いつもケンカしてるでしょ?ね、勘違いしてるんだから。」

その少女は誰かと話をしているように。

「また隣にしちゃうなんて・・・、あ、だからって言ってケンカは絶対ダメなんだからね。エルがまた泣くよ?」

ぴょこんと、ベッドの上に立つ影は、エルの腕の中からの、・・小さい、影・・・。

「うん、よろしい。・・うん?」

耳を澄ましたように。

「・・うん。うん、ねー、そう思うでしょ?やっぱわかってるねウビタは。」

少女の、人形は、笑ったみたいだった。

「ニウはあの子に捕まっちゃってるみたいだし。ニウは泣き虫なんだから。知らない子だと泣いちゃう・・、泣かない?あ、そう、けっこう我慢してるんじゃない?・・あはは。ちゃんと見ててよ、ロロノー」

ぴょこん、と仁王立ちになった、その子は。

「さあ、で、今日は、なにして遊ぶ?」

みんなに問いかけると。

すぐに答えは、一斉に返ってきたようだ。

「・・やっぱり?探検?ふふんぅ・・・っ。」

そして嬉しそうに、楽しそうに笑ったみたいだった。



****


・・・目が覚めた瞳の。

・・ぼうっと、・・・眠そうな瞳はまた少し、瞬く。

辺りは少しの暗がりの、けれど、ほのかに明るい静かな・・・朝の。

・・身体を起こした、エルは。

それから、少しぼうっと。

片手で、その眠そうな瞳をちょっと、擦った。


それから、またちょっと、顔を、きょろ、・・きょろ、と。

周りを、見てて。

・・眠そうな瞳で瞬いてた。

・・・隣の、いつの間にか。

手の中から逃げてたマリーが、ベッドの上に、傍で寝てるのを見つけて。

・・手に、持って。

腿に乗せて。

・・長い髪の毛を、ちょっと撫でながら、・・・少し大きな欠伸をした。

・・・はむ、って気付いて、閉じたみたいに。

口元を片手で抑えて。

まだ眠そうな瞳を瞬いて。

それから、手元のマリーを見下ろして。

「・・おはよ・・」

小さく、友達に呟いた。

綺麗な瞳で見つめる、マリーは。

・・・まだ、寝てるみたいだった。

・・隣に、ゆっくり、そっと置いて。

布団を、掛けて、寝かせてあげて。

エルは、もぞもぞ、ベッドの中から動いて。

床の上のスリッパに足を置く。

静かな部屋の中はまだ、眠ってるみたいに。

でも、テーブルの、方は、白い光が、上から。

天井の上から、窓があって。

白い光に当たってる部屋の真ん中は。

もう、夜じゃなくて。

朝、みたいだった。


もう1つのベッドの方、あの子のベッドの方は、まだ静かで。

テーブルの椅子に座りながらエルは、帽子を脱いで、リボンを解いて。

手鏡で、ちょっと、見てみても、寝癖はついてないみたいだった。

ブラシを少し、掛けて、静かな部屋の中で。

それから・・・、きょろきょろと。

立ち上がって、・・棚に置いた洗面用具を、あの子のと並んでるのを、取って、行こうと・・・して。

気付いて、自分の、寝巻きのスカートに。

だから、やっぱり置き戻して。

ベッドの横の台に見つけた、ワンピースのスカートに。

ぺたぺた、歩いていって、スカートの傍まで来たら。

寝巻きに手を掛けて、上に引っ張って、脱いだ。




歯を磨いて、顔を洗ってきても。

まだ、ベッドで、寝てるあの子の方を見つめながら。

エルは、棚に洗面用具を置きなおしてた。

時間は、・・よくわからないけど、学校にはまだ、大丈夫だろうけど。

廊下では、起きてる人たちもけっこういて・・。

・・静かな部屋の中で、エルは、きょろきょろと。

・・・・・きょろ、きょろ、と。

・・・でも、テーブルの椅子に、静かに座って。

・・・・・・並んでる、棚の縫いぐるみたちのほうを見つめてた。

・・明るい、白い光は、天井の、窓からみたいで。

空が見えるのを、エルは、見上げてて・・・。

・・ピリリリリリリリ・・っ・・・―――。

ぴくんと、震えて、エルは部屋の中を見回してて・・。

リリリリリリ・・・っ・・―――。

驚いたその音は、全然、鳴り止みそうにないけど。

何の音か、きょろ、きょろ、少し慌てて探してるエルは。

・・音の鳴るほう、なんとなく、わかって。

・・・向こうの、あの子のベッドの方を、見てて。

・・椅子から・・・立って、瞳を瞬かせながら、歩いてく。

リリリリリリリ・・っ・・―――。

鳴り止まない、音だけど。

・・ベッドの傍で、じぃっと見つめるエルは。

枕元にある、縫いぐるみと、時計を見つけてて。

リリリリリリリリリリ・・・っ・・・―――。

・・・けっこううるさいのだけれど。

「・・・・・・すぅ~・・・」

って、・・眠ってるみたいで。

・・・エルは瞳を瞬かせたまま、あの子の、枕の上の、向こうを向いたままの頭を見つめてて。

リリリッリリッリリッリッリッリリリ・・・―――。

・・音もなんだか変な風に聞こえてきた――――。

・・・と、ぴくん、と。

動いたような、気がした、あの子は。

・・・・・・・止まってて・・・。

リリッリリッリッリッリリッリッリリ・・・―――

・・それから、ゆっくり、もぞもぞと。

手を、伸ばして。

・・ぺたん、・・・ぺたんって、ベッドの上の、その音の元を探してるみたいだった。

・・転がってるそれは。

手が、届かなさそうで。

・・・エルは、ちょっと、手を伸ばして。

でも、届きそうに無くて。

・・片手を、ベッドに突いて。

手を、伸ばして・・・、やっと、届いて・・。

・・あの子に、渡そうと、下を見たら。

・・・あの子が、ぼうっと、見つめてて。

エルを・・・。

「・・・」

「・・・・・・」

リリリリリリリリリリリリリリ・・っ・・・―――。

エルが瞳を瞬かせていれば。

「・・・・・・・・・」

リリリリッリリッリリリリ・・っ・・・―――。

真下の、あの子の、アヴェの、寝ぼけたような、顔は、みるみる内に赤くなっていってて。

「・・・・・・・・・・・・」

見詰め合うその目も、表情も段々と、引きつっていってるような。

リリリリリリリリリリ・・・・っ・・・―――。

「・・・ぁ・・」

と、思い出したようなエルは、その時計を。

取って、目の前に持ってきて、止めようと・・・、時計を回転させながら、一緒に、首を傾け・・・。

・・ばさっ、・・と、下の、ベッドでは。

あの子が、布団の中に、また潜ってしまってた。

それを、目覚まし両手に、瞳を瞬かせて見つめてるエルで。

・・時計に目を戻して。

・・・押しやすそうな、ボタンを、押してみても。

堅くて、全然押せないし、止まらない目覚ましで。

リリリリッリリリリリ・・・っ・・・―――。

だから、エルは・・・。

「・・・あの、朝、です・・・よ・・?」

目覚まし片手に、布団の中に潜ってしまったアヴェを揺り動かして、起こしてみるエルで。

「・・・・・・・」

・・また眠ってしまったみたいに、全然反応の無いアヴェで。

「・・・あの、あさ、に・・・―――」

何度か呼んでた・・・。

―――あさ・・・です・・」

エルが・・・少し、泣きかけた頃に。

ようやく、アヴェは、布団の中から、もぞ、もぞ、と。

それから、ちらっと、黒髪を、頭を出して・・覗くようにエルを、見てくれて。

「・・あ、あの・・・」

未だ、困ってるみたいなエルに、ゆっくり、手を差し出して・・・。

その手を・・・見つめるエルに、・・アヴェを見る、エルは。

目覚ましを・・その手に、渡して。

リリリリリリリ・・っ・・・―――。

握ったその手は、それから、布団の中に、目覚ましを。

リリリ・・・っ。

・・すぐに、止まった。

・・・それから、またちょっと、布団に隠れるように、・・見つめてくる、アヴェは。

「・・・・・・・」

エルは、じっと見つめてて。

・・・少し、見つめ合ったままの2人は。

・・それから、エルが。

「・・おはよう、ございます・・・。」

って。

「ぉ、おはよ、うござぃます・・っ・・」

ちょっと、掠れた様な、寝起きの、あの子の声が、布団の中から、聞こえてた。




ちらちらと、見てるような気がする、あの子に。

背中を向けて、ベッドの横に私は立ってて。

ボタンを全部外したパジャマを脱いで、すぐ制服のブラウスを羽織って。

腕を通して、ボタンを閉じてく。

・・・ちょっと、後ろを見たら。

・・あの子は、私に瞳を瞬かせてて。

私はすぐ前を向いたけど。

・・・やっぱり見てる。

・・ベッドの、上の、クマの縫いぐるみの、大きなほうが、枕元で。

こっちを見てたから。

・・その子も、手を伸ばして、置き直して。

あっちに、壁に向かせといた。

・・・そんな事だったら、後ろに縫いぐるみはいっぱいいるんだけど。

・・あの子が見てるかもしれなくて。

どきどきしてたけど。

・・私は、思い切って、パジャマの下を下ろしてた。

すぐにスカートを、履いて。

留めたら。

・・あとはストッキングだけど。

向こうのテーブルの方にはあの子がいるから。

・・・ベッドの、なるべく、足元の方に座って。

・・そういえば、あの子は・・・。

やっぱり、・・なんで、私服・・・。

テーブルの椅子に座って、こっちを見てたあの子と、目が合ったら。

・・あの子は、気付いたみたいに、立ち上がって。


クローゼットの方に歩いて。


中から、ハンガーに掛かった、あの子の制服を取り出して。

あっちに戻っていく。


ベッド横のテーブルに制服を置いて。

あの子が、ワンピースのスカートを上に引っ張って脱ぐのを。

下着姿になったあの子が、ブラウスを、持つのを、見てて。

・・はっとして、私は、足元を見て。

それから、黒いストッキングを、足の先に入れて。



****


朝の賑やかな食堂を、エルはまだ少しきょろきょろとしてて。

たくさんの学生の人たちが歩いていて、朝ご飯を食べていて、おしゃべりしていたり。

エルとアヴェも制服姿に鞄を持って、部屋からやってきたところで。

アヴェは、向こうのココさんが壁の傍で待ってるのを見つけて、・・あっちを向いてるエルの裾を小さく引っ張る。

気付いたエルは振り返るとアヴェを見て。

それから、アヴェが見る向こうの方に瞳を瞬かせた。

人通りが多い中でココさんを見つけたらしいエルは、それからアヴェを振り返って、こくこくと頷いてて。

2人は一緒にココさんの方へと歩き出す。

「あはよう、アヴ、エルザ」

並んで歩いてくる2人を見つけてたココさんは、小さく手を振って。

「今日はちょっと、遅いわね?」

相当、食堂に遅れて来た2人に言ってた。

いつもよりも食べる時間は少なさそうだ。

「何かあった・・?」

そんなココさんにアヴェは、慌てたように首をぷるぷるぷると振り。

エルはそんなアヴェを、瞬いたように見てて。

その瞳のまま、ココさんに。

同じ様に首を横に振ってた。

「・・・そう?」

ココさんは少し不思議そうにだけれど。

「ご飯を食べましょうか。」

すぐ納得したみたいだった。

そう言うココさんに、2人はやっぱりこくこく、頷いてた。




「よく眠れた?」

そう聞いてきたココさんに、エルはじぃっと。

スプーンを口に咥えたまま、瞳を瞬くと。

スプーンを抜いて、それから口を動かしてもぐもぐと食べていて。

・・それから少し首を傾げてた。

既に口へ、美味しいドレッシングの掛かった野菜を運んでたココは。

それが答えなのかと、少し眉を上げていて。

それでも、もしゃもしゃ口を動かしたまま、じっと見つめてくるエルを見ていた。

ごっくんと飲み込んで。

「あぁ・・、いつも通り起きれた?」

と、ココがもう一度聞けば。

「・・はい。」

こっくりと頷くエルで。

「そう、なら良かった。」

少しばかり微笑んでみせるココである。

「アヴも、」

って、呼ばれて。

どきっとしたように顔を上げるアヴェは、口のものを噛んでる最中みたいで。

「もう寂しくないでしょう、部屋にいても。1人じゃないから」

って。

アヴェは、頬を染めたまま、眉を上げたみたいに。

それから隣のエルを見て、見つめ合うと。

・・・また顔を赤くしたように俯いた。

そんなアヴェを見てて、やはり笑うココは、それから野菜ミックスジュースの入ったコップに口を付けて。




ご飯を食べた後、廊下を歩くココは目の端に、ちょっと跳ねてたアヴェの髪を追ってたけど。

「・・アヴ、ちょっと。」

やっぱり、声をかけて。

見上げたアヴに、ココはいつもの道の途中の、水場の方へと歩いて行ってて。

・・アヴは、ちょっと、エルザをちらりと、見たけれど。

エルは瞳を瞬かせてるだけで。

・・・アヴは、ココの方に、歩いていってた。

いつものこと、なんだけれど。

いつもの・・・なんか、見られるのは・・・ちょっと・・あれで。


「少しじっとしててよ?」

そう、ココに言われて。

アヴェは、紅い顔のまま俯き加減に。

櫛を髪の毛に通されてるのを、感じてて。

・・ちょっとだけ、顔を上げれば、エルがこっちをじっと見てるのを。

やっぱり、顔を俯かせてた。

エルは少し、不思議そうに瞳を瞬かせてたけれど。

ただ、そんなアヴを、エルを見てて。

ココは少し可笑しそうに、笑っていた。

エルはその傍でアヴと自分の2人を、じっと見てたみたいで。

だからアヴは、なんとなくいつもより紅いようで。

そんなアヴを見ながら、エルにも気付いてるココさんは少し笑ってた。

黒い、柔らかな髪を一束摘み、手の中でさらっと零れ流れ落ちてくのが、指どおりが良くて。

ココはまた、アヴの髪に櫛を通した。


「はい、いいわ」

そう、背筋を伸ばしたココに、それからアヴェは振り返り、俯き加減にだけど見上げていて。

何かを、言いたそうな、紅い顔にだけれど。

「・・・それじゃ、いってらっしゃい。アヴ、エルザ、ちょっと急いだ方がいいかもよ?」

そう微笑むココに。

エルザは見つめていた瞳で、1つ頷いて。

「はい、いってきます・・。」

ココを見上げていた、その傍で、アヴェは俯き加減のまま。

「・・いってきます・・・」

小さく呟いたみたいで。

「いってらっしゃい。」

ココのその声を聴いてから、向こうを向く2人の。

肩を並べて行く背中を、・・軽く嘆息めいたココは、微笑み、見つめていた。


静かに歩いてくエルザとアヴは、両手に鞄を提げたところも似ていて。

その制服の後ろ姿も、髪の色以外の背格好も少しは似ているけれど。

でも、背筋を伸ばしているエルザと、俯き加減のアヴはやっぱり対照的で。

廊下の途中の、通る子達が多い中でも、少し追い抜かれ気味な2人のゆっくりとした足取りに。

「もう少し急いだ方がいいよぉ~」

ココは、そう声を掛けてみた。

でも、周りの声も大きいみたいで、2人には気づかないみたいだった。




白い廊下を歩く2人は、時折、隣に目を向けて。

静かな横顔を見て、またそっと前を向く。

登校途中の子達が溢れる中で、2人は並んで離れずに隣を歩いてた。

少し騒がしい、挨拶の声が、溢れて。

アヴェは、ときどき隣の子を気にしてちょっと目を向け、伏せて。

俯いた先にある白い床は、光の当たる床は、通るたくさんの人たちの影が動いてく。

・・隣の、あの子の、床を歩く足元を見つめて。

・・・隣のあの子が、向こうを見つめてたような、煌く瞳を見て。

顔をちょっと上げてその先を、追えば、人の歩く向こう、窓の外を。

明るい光の、緑の、青い空の景色を見てたような気がして。

・・・あの子を、ちょっと、見れば。

・・私を、見てて。

綺麗な・・・。

ちょっと、どきっとして・・、煌く瞳から、下を、見て。

・・足元を見て、歩いてた。

あの子は、ずっと私を見てるような、気がしてたけど。

ちょっとだけ見たら、前を、見てて・・。

歩く人たちを、瞳を、少し動かして、見てたみたいに。

その瞳はやっぱり、綺麗で。

・・あの子が、気付いたみたいに、私を見て。

・・・どきっと、したけど。

・・私は、・・今度は、その、光に煌く、瞳を、少しだけ、だけど、・・見つめてた。




『ねぇねぇっ、学校来るの早くなったよね・・っ』

と、エルはちょっと気付いたように、横に少しだけ動かしかけた瞳を、上に。

それから。

「・・マリー・・?」

そう、静かに呟いた。

『おはよっ、お引越し、けっこー良いアイディアだったんじゃないっ?来るの楽でしょ?』

「・・うん。」

『へへぇ・・っ』

少し、嬉しそうなマリーの声を聞きながら。

「・・おはよう」

エルはまた少し、周りの廊下に瞳を巡らしてた。

隣で歩く、あの子と一緒に。

「・・マリーは、お寝坊・・?」

『かぁっ!』

ちょっと、大きな声に、ぴくっと震えるエルで。

『ちょっと夜更かししただけよっ、私も忙しいんだからっ。』

「そうなの・・?」

『ええ、だから仕方ないの・・っ』

「・・・何してたの?」

『え・・?』

「夜更かしして・・・」

『それがね、昨日中には大体新しい居城を制覇して、ちょっとだけ外に行こうとしたらドアが開かなく・・・、なんて・・っ』

「・・・冒険?」

『・・そう、冒険。』

「どこで・・?」

『に、・・人形の国のお話・・。』

「・・人形、の・・・?」

『そうそっ。みんなも、・・いるんだよ、・・・エルも、来てよ。あまり、みんなと話してないでしょ?』

「・・うん。」

『・・って言っといて、いっつも寝ちゃうからねぇ・・・』

「・・・そう?」

『うん。』

「・・ごめん。」

『うん?いいのよ、忙しいんでしょ。疲れてるんだから、エルのことはみんなもわかってるんだからね。』

「・・うん。」

『昨日も、新しい部屋でしょ。みんなはしゃいでたんだから、元気なのは私たちくらいよ。』

そう、マリーの声は微笑んだみたいに。

「・・うん。」

鼻を鳴らすように、エルは少しだけ微笑んでた。

・・・そのエルの横顔を。

ちょっと、覗くように、見つめてるアヴェは。

・・さっきから、一人で頷いてたり。

何も無いところを見つめてたり。

少しだけど、ときどき不意に表情を変えるエルを。

「・・・・・・」

じっと、その横顔を、見てて・・。

今も、また、嬉しそうに?笑った・・。

・・・な、なんだろ・・、エル・・・。

・・少し、どきどきしながら、戸惑ってるみたいに。

でも、じっと、見つめてた。



****


あの子は遠くを見ていて。

その瞳を少しだけ瞬く。

先生の声を聞きながら。

ノートを見つめて。

瞳を細めた。

静かなあの子は、私の隣で。

私は少しぼうっとしてたかもしれなかった。

・・あの子は、今朝は、私の部屋にいて。

私の部屋で支度して、私の部屋から一緒に来て。

隣にずっと、いた、あの子は。

・・それが、当たり前で・・・。

・・・当たり前になる・・。

・・ずっと・・・一緒に・・・当たりまえ・・の・・・。

あの子が、当たり前のように、・・ずっと傍にいる。

・・可愛くて、綺麗なあの子が、ずっと。

・・・そう、当たり前なのに、思い出しても、凄く、不思議な感じで。

部屋で、ずっといっしょ・・・今もずっと・・・。

・・・朝は、起きた時は、吃驚したけど。

・・学校だと・・・、やっぱり、いつもみたい。

あの子は、静かに、ノートを見つめて、勉強してた。

・・ふと、向こうに瞳を向けたりする・・・あの子の・・。




「ねぇ、アクオンマリ・・リンズって知ってる?」

ススアが、突然、そう言い出したのを。

周りの席に座るみんなは、見回すススアに目を瞬かせる。

「・・あくぉん・・?」

そう、目を瞬かせるキャロが不思議そうに繰り返してた。

「アクオンマリアンズ・・っ。」

とちょっと強く言うけれど。

みんなはススアを見てて瞬かせる目を、そのまま隣同士で見合わせるようにするだけで。

「・・知らないかぁ・・。」

ススアは他のみんなの顔も見回して、ちょっと諦めたみたいに、残念そうに呟いてた。

それから、ノートとにらめっこするみたいだ。

机の上に片肘を着いてたキャロは起き上がって、ススアに目を瞬かせているけれど。

ススアがそんなことをするのが気になって、キャロはススアのノートを覗き込んでみてた。

「それってなに?ススア。」

そう聞くエナもキャロの隣で、目を瞬かせてて。

ススアはそんなエナにもみんなにも、少し大きめに口を開いて教えてあげた。

「あのね、・・すーぱーふっとぼーる、の、チーム、なんだけど。」

って、ススアは瞳を瞬かせながら、ちょっと思い出しながらのように、言うけれど。

「スーパーフットボール?」

キャロもさっきと同じ様なまま、目を瞬かせてる。

「ススアって、好きだったんだ?」

エナも驚いてるように、で。

「私じゃないよ、お兄ちゃんが好きなんだよ。」

ススアはきょとんと、首を横に振ってて。

「あぁ、お兄さん。」

そう、納得するビュウミーを見つけるススアは。

それからみんなも頷いたりしてる。

「んー・・みんな知らないかぁ、うーん~・・・?」

と、ススアは困ったみたいに唸り始めて、またノートを操作し始める。

それを目を瞬かせて見てた隣のキャロは、ススアがノートで検索してるみたいなのがわかった。

ついでに、正式な名前は『アクオン・マリオンズ』って書いてた。

「その、あくおんがどうしたの?」

キャロはススアに聞いてあげて。

「うん?」

ぴこんと、反応したススアはキャロを見て少し瞳を瞬かせた。

「あのね、お兄ちゃんが好きなんだけど、お土産に欲しいんだけど、帰るんだけど、どこ行けばいいのかわかんなくてぇー・・・」

少し、切羽詰ったような言い方だけど。

・・・目を瞬かすキャロに、隣のエナに。

「・・はい?」

向こうのビュウミーは首を傾げてた。

「・・・はい?」

そんなビュウミーに、逆に首を傾げるススアで。

「はいっ、」

しゅっぱと、キャロが手をびしっと上げた。

「ぉ?」

そんなキャロにぴくっと、ススアはちょっと瞳を大きくして見つめ、瞬いて。

「話をもっとわかりやすくっ。」

はきはきと答えてくれた。

そのキャロのお陰で、みんなも、またススアに注目を。

「え、えぇ・・?」

ススアは思い切り、みんなを訝しげに、瞬く不思議そうにしてるけれど。

うんうん、と頷いてるビュウミーに、じっと見つめてるエナに。

隣でじっと見つめてるだけのシアナも、前に座って振り向いてるエルザやアヴェエたちからでさえ、早くなにかを言って欲しいんだ、って見て来てるみたいだ。

「んーー、えっとねぇ」

そう、ちょっと考え始めるススアは。

「お兄ちゃんが大好きなの、その、あくおん。・・・ん?・・あ、・・・アクオンズ?メリモンズ!」

ススアが言い切った。

「おい・・っ。」

すかさず、気持ちよく突っ込むキャロであって。

「さ、さっきと違うね」

と、言ったエナがその隣で、何故か頬がほんのり赤くなっている。

「?あくおん。あっくおん、あっこん・・?」

「どんどん離れてるよきっと・・・。」

キャロは一応そう言ってあげるけど、ススアは頭を両手で押さえてまで、ぐらぐら悩んでる。

「あー、あー、あっ、あっこん、こんぐ・・あっぐおんっ・・!」

「なんかONしてきたよ」

ビュウミーがちょっと食いついた。

「ススアなら応援してそうな、」

チームかもしれない、なんて言いかけるキャロに。

「・・ん?なにを?」

ススアがきょとんと、瞳を瞬かせてキャロを見る。

「・・ううん。」

キャロは曖昧な笑顔で、首を横に振ってごまかしてた。

「で、なんだっけ?」

もう一回聞けば。

「ん?えっとぉ・・・、あ、・・あ~あっこん・・・?あ、あ、ああぁ・・・・っ?アクオンマリオンズ!」

ススアが言えたのは、モニタの文字を見つけたからで。

「あははは」

キャロが笑ってる。

「・・お、お兄ちゃんが・・」

って隣の、エナの声に気付いて。

キャロが振り向けば、エナが頬を紅くしたまま、ぼうっと、何かを考えているような。

「・・好き」

「は?」

キャロが瞬いてるけど。

エナはなにかを、ぶつぶつ言ってる。

けっこう漏れてるみたいだけれど。

そんなエナが、顔を紅くして首を横に振り始めてるのを、傍のビュウミーがちょっと、眉を顰めて見てるのは、キャロにも見えてた。

キャロは瞬いて見てるだけだけど。

「・・・アクオンマリオンズ、じゃなかったっけ?」

・・って、振り向けば。

シアナが、冷静に隣のススアに伝えてあげてるみたいだった。

「うん?あ・・、そうそうっ。それっ・・、たぶん。」

と、ススアは瞳を煌かせるけれど。

「たぶんなの・・?」

キャロはちょっと眉を顰めたのだけれど。

「シアナ知ってるの?」

「知らない」

シアナが首を横にふるふると振ってるのを。

「えぁー」

ススアはまたちょっと変なな声を出して不服そうにしてた。

「知らないのかー・・」

机に突っ伏しそうな勢いのススアを、半眼の横目にじっと見てるシアナだけれど。

「それがどうしたの?」

ビュウミーがそう、ススアに聞いてみた。

エナが、ススアを頬を染めながら見てて。

「・・・言ってみたい・・」

なんて、少しうっとりと、囁いたような。

まあ、ビュウミーは視界の端に入るエナの声はとりあえず無視をした。

「あのね、アックォンムリオンズのお土産買って帰ろうって思ってて。」

「ムリオンズねぇー、お土産?」

とりあえず、噛み掛けのススアのそれは流しといて、ビュウミーはちょっと眉を上げた。

「あ、今度の休日でしょ。」

キャロが思いついた。

「そうそう・・っ、実家に帰ってきてって言われてさ。だから帰るんだけど、アー・・・ムリオンズ、買える所、知ってるかなぁって」

「まあ、チームは買えないかな。」

ビュウミーがとりあえず、静かに言っといてあげる。

「ふぇ?」

不思議そうにきょとんとするススアだけれども。

「なんでもない。どんなグッズがいいの?」

って、ビュウミーは。

「うんっ、そう、だから、知ってる?」

子犬のように瞳を煌かせて小首を傾げてくるススアだけれど。

「・・知らない。」

って、ビュウミーも。

隣のキャロも、みんなも首を横にふるふると振ってた。

みんなを見回してくほどに、その可愛い耳のパタパタも尻尾も落胆していくススアだけれど。

「あぁーーだめかー・・・」

ぐったりと肩を落とすススアである。

「やっぱりお兄ちゃんに聞こうかなー・・・?」

「は・・っ」

またぴくっと反応したエナは、たぶん『お兄ちゃん』という言葉に反応したのかもしれない。

とりあえず、顔の紅いエナを、隣のビュウミーが肩に手を置いて、ぽんぽんと、意識をなんとか保たせているのは置いといて。

そんな2人をキャロは瞬いてたけど。

「それがいいんじゃない?」

ススアにさも当然、って感じのキャロだ。

「うん・・、でも、ちょっと驚かしたかったんだけどなぁ。」

「あぁ、そっかぁ。」

キャロも少し納得してた。

サプライズなプレゼントがしたかったみたいだ。

「ススアのお兄さんって、グッズ集めてるの?」

ビュウミーがそう聞いてみれば。

「うん?ううん、知らないけど、この前ね、優勝した、・・んだっけ?勝ったぁっ、って凄く喜んでたから、記念品みたいなのないかなって。」

と、ビュウミーもなんとなくわかったみたいで。

「あぁ、優勝メダルみたいな」

「そうそう。あるでしょ?」

ちょっと、表情を輝かせるススアに。

「・・ありそう、だけどねぇ?」

ビュウミーはキャロへ。

その視線に気付くキャロは。

「・・ありそうだよね?」

って、ビュウミーから隣のエナに。

「・・・え?」

って、反応がなぜか遅い、ぼうっとしてたようなエナから。

・・えっと、きょろ、きょろと探したような、ススアの奥のシアナに。

目を細めたまま、そのじっと見てくる視線を受けたシアナは。

「・・・さぁ・・?」

シアナは小さく首を傾げ、小さく肩も竦めてた。

「ネットで買えるんじゃない?」

「ネットで売ってないのがいいんだもん」

「そっか」

「ふぅんむ・・・・、今度探しに行こうっかな、広い所なら売ってるよね?」

って、ススアはあまりめげてない。

「検索するなら出るんじゃない?」

「グッズとか?」

「スポーツ店とかじゃない?」

「ね、誰か一緒に行かない?」

と、キャロの方を見れば。

「いいよ、リューキーの方に行くんでしょ?」

って、キャロの軽い返事が返ってくる。

「うんっ。」

ススアもそう、すぐ頷いた。

「ついでにいろんなとこ行こうよ」

「ファンのお店とかもあるんじゃない?」

「それネット検索」

「エナたちどうする?エルザも・・、」

「・・そういえば、」

シアナが、そう・・・。

「いるわよね・・?エルザも、お兄さん。」

振り向くススアは、シアナがエルザたちの方を見てるのを見つけて。

エルザはシアナの目に、不思議そうに瞬いてるけれど。

「・・そういうのって、男の人なら好きそう、だなぁって・・」

って、シアナがそう言って、みんなが自分を見てた視線に気付く。

「おぉっ、そうだねっ、そういうの知らない・・っ?」

一気に瞳を輝かすススアに。

エルザは不思議そうに瞳を瞬かせてた。

隣のシアナはじぃっと、エルザを見てるのを。

・・少し考えたようなエルザは、それから。

「・・・いえ。」

小さく、首を横に、ふるふると。

てことで、ススアはまたも、がっくりしたみたいで。

「えぁー・・。」

不味そうなものを食べたみたいな顔のススアが机に突っ伏しかけてる。

・・じぃっと、エルザを見てるシアナに。

ふと、エルザがまた気付けば。

シアナは少し口を開いて、聞いてて。

「・・お兄さんは、・・好きじゃないの?」

少し半眼のシアナがそう、大して興味無さそうに・・。

ただ、その問いに、エルザはきょとんとしてて。

ぴくっと、横の空中を見たような、なぜか。

それから、シアナへ、ふるふると首を横に振って。

少し、眉根を寄せて小首を傾げるシアナである。

「・・好きじゃないの?」

もう一度のシアナの質問に。

エルザは、・・少し、きょとんと。

シアナを、その煌く瞳で、見つめてて。

・・どうにも、よくわかってなさそうなエルザに。

「・・あなたが、お兄さんの事を、よく知らないのよね。」

少し、めんどくさそうにだけれど、丁寧に言い直してあげるシアナで。

・・・エルザは、ぼうっとしたような、瞳を瞬かせて、シアナを見てて。

「・・・・・・」

・・・急に、はっと、したような。

こく、こくと、ちょっと、少し慌てたように頷き始めた。

・・・そんな、はにかんだようなエルの仕草で。

・・シアナは細めてた目を少し伏せ、ぴくりと眉を動かしたまま。

「そっかぁー」

って、ススアが、素直にちょっと、頬を膨らませてたみたいだけれど。

「・・・あなたが好きかなんて今さら聞いてないわよ・・。」

敢えて誰をとは言わないシアナは呟いたように苛立ってるような半笑いだ。

「はん?」

ススアはきょとんとしてるけど。

すぐ、ぽっと頬を紅くするエルに。

・・それから、シアナを見つめたまま、少し怒ったような、恥ずかしげに、微かに頬を膨らませてくるエルに。

シアナは、また少し、いらっとしたみたいに、半笑いが、ぴくっと動く眉も一段と濃く顰まったけれど。

・・隣のアヴェはちょっと、そんな二人に慌てたように首を動かし、目を配りながらも、警戒してるしかできなかったみたいだ。

「・・・」

ビュウミーが、なんか微妙な空気だなー、と思って見てたけど。

「ほぉ・・」

エナが感心しているようだった。

少し顔を紅くしているエルの色味が、アヴェの頬にも伝わっているみたいなのだけれど。

「・・うーんー・・・、なんとか調べたりするよー・・」

机に突っ伏してるススアがノートを見ながらちょっと、諦め気味だ。

「うん、調べたらありそうだけどねぇ?」

ノートを代わりに指一本で、適当にいじってるキャロは、ちょっと考えてるようだ。

「お土産って、家族にいつも買って帰ってるの?」

「ううん、お兄ちゃんだけ。」

キャロにきょとんと、当たり前のように言うススアを。

「・・・と、特別・・」

・・と、エナが、さっきまで落ち着いてきてた筈なのに、また少し反応したのをビュウミーは見逃さない。

「うん。」

ススアはきょとんと、エナに頷いてた。

「・・ぅぉぅ・・・」

その無垢なススアに眩い光を見たのか、エナが眩しそうに怯んだみたいだ。

ビュウミーがとりあえず、ぽん、と強めに肩に手を乗せてあげるわけで。

その感触に、はっと気付くエナは、傍のビュウミーが頷いたのを見つけたみたいだった。


「海外から帰って来るんだ。だからお土産買ってあげようと思って。」

「へー、海外って、すごいね?」

ススアにキャロも驚いてた。

「ぁ、そうなんだ・・。」

なぜかちょっと残念そうな、エナを見てるビュウミーである。

「海外で仕事してるんだよね?」

「うん。」

「どこの国?」

「ギルタだよ、あっちの会社なんだって」

少し、机を見つめるように俯いてるエナの耳元に、口を近付け。

「・・また変な小説とか読んでるでしょ、最近、エナは・・」

こそっと、ビュウミーが小さく囁けば。

「えっ・・!?」

くすぐったかったのか、ぴくんと、エナは紅い顔をビュウミーに向ける。

――――じっと、その瞳を覗き込んでくる・・、目と、鼻の先のビュウミーの真摯な眼差しが、虹彩の奥の煌めきを・・。

「そ、そんな・・・・、ぅ、」

ぼっと顔が紅くなったエナは、目が泳いで・・ビュウミーを真っ直ぐ見れないみたいで。

顔を背けようとしたら、そっと頬を手で・・導かれて、ビュウミーの鼻の先へ向きなおさせられて。

・・ビュウミーの真っ直ぐの眼差しに、・・吸い寄せられて。

微かに、吐息がかかる・・・――――。

「・・ん?どうなの?」

―――ひそひそ、と甘い吐息のように、ビュウミーの艶やかな紅い唇が、柔らかく形を変えて動いて・・妖しく・・・――――。

「・・そういうのばかり読んでるなんて、エナ、悪い子だね・・?」

細めたビュウミーの、熱っぽい瞳が目の前で見つめてくる。

・・それは、少し、顔を、近づけただけで。

2人は・・、吸い寄せられるように、・・唇が、熱い眼差しで繋がって、・・自然と、唇同士が・・――――。

・・重なって・・・、2人は・・・ふ、ふ、2人は・・、・・って・・・―――。

「ち、ち、ち、ちがうもんっ・・・・・・」

可愛らしい、紅い顔のエナが拗ねたらしい。

「・・・・・・・」

そっぽを向いてたんだけれど。

ビュウミーは眉根を寄せたまま、目を閉じたまま面倒ごとに頭が重いようだ。

気が付けば、エナの恥じらいなのかちょっともじもじしている。

こっちをちらちら、困ってるように潤んだ瞳で見つめてくるエナで、ビュウミーの予想外の反応だ。

とりあえず、エナに掛ける言葉を、また頭の中でぐるぐると探し始めた間はビュウミーも口をぴったり閉じていた。

『・・・・・・・』


「そんでぇ、またいっぱいお土産の約束をしてまた帰ってきてもらうんだぁ・・っ」

「おぉ、そっか、頭良いねススアは。」

「え、へへぇ・・?」

ススアは照れたように、嬉しそうに笑ってて。

「あ、私にもお土産ちょうだい、今度でいいから」

って、キャロは悪戯っぽい。

「えー、頼んでもいいけどぉ」

なんか嬉しそうなまま、迷ってるような、焦らすようなススアみたいで。

「ギルタって大きい国じゃん?お土産ってなんだろ?」

「んん?ギルタの、なんとかタワーのキーホルダーとか、こういう、引っ張ると、足が動いてね・・・?」

「ススアのお兄ちゃんって、あれだね?」

「えぇっ?なんでっ?」

「久しぶりに会う妹に、観光地のお土産って、ちょっと・・」

「最初の時だけだよ!最近は美味しいお菓子くれる!」

「お菓子ならいいね!」

「でしょー!」

・・そのお菓子も観光地のやつなのかな・・・って、アヴェはちょっと気になりながら、2人を見てたけど・・・―――。

―――・・・みんなを眺めてるシアナは。

そんな嬉しそうにキャロに話してるススアに。

「・・・あのね、私はね、エナの事が好きよ。でもね・・」

なんか、ビュウミーに肩を支えられてまで介抱されてるような、耳まで紅い、具合の悪そうなエナに、いや、あれはお説教されているな。

それから、なんだかまだアヴェと一緒に顔を紅くしたまま、お互いにちらちらと見てるような、黙りこくったままのエルザに。

「・・・・・・」

ノートに目を戻して・・・シアナは、なんだか、半眼のまま、難しい事を考えてるような、手で抑えた頭が少し痛そうに目を閉じてたけれど。

――――鐘の音が聞こえてきて。

とりあえず、ノートの時計を目の端に、つまらなさそうに見てた。



****


授業が全部終わったら、元気に教室の外へ飛び出していく子たちもいるわけで。

放課後はどこに行くとか、クラブとか、帰るとか、遊ぶとか、なにするかで盛り上がってる子たちも教室内では何人もいる。

「モチャプンが、高級コスメに手を出したって」

「なにそれ。」

「新しい動画。この絵だけで、面白い」

「ぶはは、」

「お金の無駄遣い、」

「変な顔ー」

「ススアー、ラクロス行くよー」

って、キャロの声に、振り返るススアはそこの女の子のグループから顔を上げて振り返ってた。

「頑張ってねー」

「うん-」

ススアは元気な返事に、すぐそこに戻ってくる。

授業が終わったら、なんだか楽しそうな方へしゅぴっと顔を出したススアで、なんか一通り笑った後すぐ戻ってきてた。

「ススアってすごいよね?」

「うん?すごいの?」

キャロが言うのを、言われたススアはきょとんとしてたけど。

「そだね」

エナがちょっと微笑んでた。

「んー・・・?あ、そうだ、だから、買い物行かない?次の休み」

帰り支度をするみんなと一緒の中で、やっと、さっきの話が戻ってきた感じのススアである。

さっき、お昼ご飯の時間に、アヴェエにスーパー・フットボールの説明を聞かせてもらってた。

略して『スフボー』、『アクオン・マリオンズ』の話を散々していたのに、ルールは誰も知らなかったわけで。

だから、アヴェエがいろいろ教えてくれた。

相変わらずアヴェエは1つ説明するのにも恥ずかしそうに、とっても自信なさげだったけれど。

アヴェエってそんなに博識なんだ、ってみんな見直してたし、ルールもなんとなくわかったと思う。

まあ、ここにいるみんな、試合を見る機会なんてほとんどないだろうけど。

「うん?・・・あぁ、グッズ買うってやつだっけ・・。」

って、ススアのお誘いを聞いてシアナはちょっと、もうめんどくさそうな顔が素直に出てる。

「そうそう、あとぉ・・、エルザ、にアヴェエも行かない?」

って、ススアがそう、2人に瞳を煌かせてた。

見つめられてるエルザは瞳を、きょとんとさせていて。

アヴェエは、・・まぁ、いつものように顔を紅くしたまま俯いてる。

「・・・お買い物、ですか?」

エルザの声は、ちょっと、きょとんとしてるみたいだ。

「そうっ、お兄さんいるから、もしかしてわかるかなって、相談に乗ってくれたら嬉しいな。」

って、にっと笑うススアに、エルザは・・ふんふん、と頷いてるみたいだけれど。

隣でぴくっと、耳が動いたかもしれないシアナはまるで気配を絶ったように、すん・・、とするけど。

「・・お兄さん・・・、」

って・・・、ちょっと顔の紅いエナが。

「どした?」

キャロが覗いてみてた。

「・・優しい、ぉ、ぉにぃ・・、・・ぉにぃさんって、良いよね・・・?」

小声で、紅い頬で微笑んでたけれども。

「・・エナ、気をしっかり」

「・・え・・っ」

エナはぴくっと驚いて、生暖かく目を細めているビュウミーを見つけてた。

傍で、考えていたようなエルザは、ススアを見つめたまま。

「・・・」

それから。

「・・わかりました」

微かに頷いたみたいで。

「ぉ、やった・・、」

ちょっと嬉しそうにススアは笑った。

それから。

「アヴェエは?」

そうアヴェエに微笑む目を瞬かせる。

ススアに呼ばれたアヴェエは驚いたみたいに、ススアを見上げて、けれど目を俯き加減に。

「・・・ぇ、ぁ・・」

アヴェエは。

「、ぇ、っと・・ごめん、なさい・・」

口の中でなんとか、もごもご呟いた。

「え、ダメなの?」

ちょっと目を瞬かせるススアは。

「そっか・・なんか用事?」

きょとんと聞いたけれども。

「ぇ、ぇっと・・・、・・・」

・・・考えるようなアヴェエは。

「・・・・・・」

そのまま・・・。

・・・・・・。

・・・ちょっと長い。

「・・んまぁ、いいや、」

なので、苦笑いのようにススアはアヴェに笑ってた。

「で、あと・・・、シアナは?」

目を少し彷徨わせたススアは、すぐシアナを見つけて。

シアナは、そんなススアを半眼で見つめるように。

少し考えたようにしてから。

「・・・仕方ないわね、もう・・」

「ぉ、来る?」

ちょっと意外そうなススアの表情に。

少し目つき悪くした、シアナは。

「・・・行くけど。ちゃんと他のも見るんだからね、疲れるだけなのは嫌よ。」

って、釘を刺したみたいだった。

「わかってるって。」

そう、にいぃっと笑うススアがちゃんとわかってるのかはわからないけれども。

「ちゃんと事前に探しときなさいよ?」

「口コミとか流れてるんだけどねー、ファンカフェで優勝おめでとうメニューとか出してるって」

「食べ物は別にいいでしょ。持って帰れないでしょ。お兄さんへのプレゼントは、」

「すっごいおいしいパフェとか甘いのも出すんだってー」

「へー、美味しそうだね。ね、シアナ」

「・・・い、行ってあげてもいいけどね。一緒に行きたいなら。」

「疲れたらそこで休憩しよっか?」

ビュウミーの提案に。

「そだねー」

みんな賛成みたいだ。

「ファンカフェとか行くの初めてだ」

「ファンじゃないんだけど、いっか」

「いいんじゃない?ススアのお兄さんがファンなんだし」

「あ、行くのは誰もファンじゃないのか」

「あっはは、」

「お土産あるかもよ?」

「・・ぁ・・、」

と、エルザが、何かを思い出したらしく。

ススアに瞳を向けるエルザは。

「・・すいません。」

と。

「ん?なに?」

不思議そうにススアは目を瞬かせた。

エルザは、その瞳でススアをじっと見つめてて。

「・・・行けません、荷物の整理が、あって・・」

「荷物・・?」

ススアはきょとんとしてた。

「はい・・・。」

こっくりと頷くエルザの、その、隣で。

シアナが思いっきり眉を顰め、エルザの横顔を見下ろして、じっと、まるでエルザを睨んでいるけれども。

「・・ねぇ、シアナ、なんか怖くない・・?」

少し、怯えたようにキャロに囁くエナが。

「・・・あぁ・・」

聞こえてたビュウミーはなにかを思ったぽかった。

「・・なんで怒ってるの・・・?」

キャロは恐る恐るエナにひそひそと、聞いてみたけれど。

「・・・例えば、だけど・・・ちょっと、『期待、しちゃったじゃないの』・・、とか・・?」

エナの、少しだけ、シアナの口真似が聞けた。

「・・あー」

言いそうだなー、ってキャロは納得・・・。

「・・え?シアナって・・エルザのこと好きなの?」

「ふはっ、それは・・とぅ・・・」

「どしたの?」

エナの、意味不明な反応だ、口元を両手で抑えてるし。

キャロがよくわからなくて、首を捻って眉を顰めてエナを見てる。

「・・・ぬぅ。」

ビュウミーはとりあえず唸っただけみたいだった。

――――・・・ようやくちょっと、顔を上げたアヴェは。

・・シアナの、睨み顔を、見てしまって。

・・・また、びくりと、驚いて動けなくなったみたいだ。

「・・荷物ってなに・・・―――」

―――きーんこーん・・。

ススアが言いかけたのを。

鐘が、鳴って遮ってた。

「・・・おぉ?」

ススアも、みんなもそれに気がついて。

そんな中で、シアナだけはそのまま、面白く無さそうな視線をエルザに向けてた。

言いたそうなことが、とても募ってきているようだけれども。

その目の先のエルと、隣のアヴェは、2人並んで。

その鐘の音につられたまま、エルは少し宙を、アヴェはちょっと驚いたみたいに、宙を見上げてた。

・・閉じてたシアナの唇が、そんな2人に開きかけると。

「ぇ・・・」

「ここの教室使うぞー」

・・って、いつの間にか教室に入ってきてた学生や先生に、急かされる教室を見て。

シアナはまた・・、ぱくっと、口を閉じてた。

「おぉ、先生だ、」

ススアがそんな風に驚いてて。

みんなが慌ててノートを片付けたり、鞄を肩に担いでる中で。

シアナはそこの、マイペースな2人の背中を見つめたまま、その頬が少しだけ、ぶむっと膨らんだ。



****


―――・・・エルは、そして、その壁の、シャワーのお湯の出口をじっと見つめる。

・・隣からの、しゃぁ・・っと、シャワーの飛沫の音が聞こえても。

エルは、じっと、見据えるように前を見つめてた。

その瞳を少し瞬いて。

・・顔を背けたエルの、流れる長い髪が、彼女の細い肩を、素肌を少し撫ぜ落ちていく。

白いバスタオルに白い素肌を、裾を左手で閉じて、包んだままでいて。

エルは空いている右手を伸ばし、水を弾くカーテンを、引っ張って、閉めた。

シャワールームは、そうしてエルだけの個室になって。

エルは、瞳を少しだけ瞬き、閉じたカーテンを見つめていたようだった。

ふと足元を見たエルは、その場の水気の残る床に、手に提げていたお風呂バッグを、そっと置いて。

膝を折って、中を覗き込み。

容器に入ったシャンプーのボトルを右手で摘んで。

お湯で湿った床に、ことん、と小さな音をさせて。

リンスや、ボディシャンプー、それからスポンジなど1つずつ取り出していく。

少し、バスタオルの胸元を抑えてる左手がずれて、手に生地が当たって。

だから、ちょっと持ち直して。

一式、全てを取り出したのを。

・・床の上に並ぶ、それらをもう一度、屈んだまま、じっと見てるエルは。

・・・ボトルのラベルを、1つ1つ確かめてて。

・・エルは、それから、ふと顔を上げて、立ち上がった。

身に纏っていた、一枚の白いバスタオルを、左手を緩めて、胸元から開いて。

はだけるその白いバスタオルは、横手にあるタオル掛けを見上げて、湿った床に着かない様に気をつけて掛けて。

それを見て、1つ頷いたエルだ。

・・またその場に、腰を曲げて屈んで。

もう一度、お風呂バッグの中に手を入れて、探してたシャワーキャップを取り出す。

それを両手で持ったまま、じぃっと、ちょっと、見てて。

・・腰まである長い髪の毛の先を、右手に絡めるように持ち上げてく。

纏め上げていく艶やかな髪の毛を、丁寧に。

・・でも、少し、・・ぴたりと動きを止めたエルは。

・・・髪の毛を持ってる右手の、見えない手先を見つめてるように。

固まっているみたいだった。

・・それから、左手で持ってたキャップに、気付いたように。

その薄いキャップを、お風呂バッグの上に引っ掛けるように置いて。

左手も背中に回して、背筋を伸ばすように。

両手でその長い髪の毛を丁寧に纏めていった。

頭の上にまとめて、手で止めたその髪の毛たちを、それから片手で抑えながら、屈んで・・キャップを拾って。

キャップの中にその髪の毛たちを被せて、抑えながら、少しずつ引っ張っていく。

髪の毛があまり崩れないように、注意しながら、ゆっくり、入れていって。

ぎゅっと、キャップを深く被れば、勝手に零れてこないようになって。

首筋や生え際を、手で指で、髪の毛が零れてないのを、確かめて。

ちょっと手に当たった、髪の毛をキャップの隙間にぐいぐいと押し込んだ。

そうやって零れた髪の毛が、手に当たらなくなったのを。

キャップをぎゅっと、抑えてみてて。

エルは床を見て屈んで、並べてたボトルたちを1つ、1つ、拾っていって。

両手に、胸に抱えるようになったけど。

ひんやりと冷たいそれらを、ちょっと我慢しながら。

向こうの壁の方を、後ろを向き直って。

・・さっきからずっと、後ろでずっと、こちらに首を向けてたそれと、向き合ってた。

・・・エルは、ささやかな胸にあるその冷たさを忘れたように。

少し、じっと、その突起の、それを見てて。

・・瞳を、少し警戒したように、瞬かせてた後、ようやく一歩ずつ、踏み出してく。

それの目の前まで来れば、その下の台のようになっているところに、胸に抱えてたボトルを1つずつ、並べていけて。

エルは、全部を置いてから、それから、その、相手を・・見上げる。

・・目の前の、少し高い所にある、その突起の、先端を。

・・それから繋がるように、下にある、手元の、すぐ近くの、記号が書いてある取っ手を、見つめて。

・・・エルは首を上げて、瞳を上に向けると、そっと、手を伸ばした、その堅くて冷たいその先端を、・・きゅっと握ると。

引っ掛けられていたそこから外して、引っ張って、両手の手元に引き寄せる。

柔らかく伸びるそれは、エルの胸元まで簡単に届いて。

胸の前の、両手の中にあるそれを、じっと、少し、見つめてた。

・・・それから、その視界の端にある、取っ手のような、つまみを見て。

・・そっと、手を伸ばす。

1つ、つまみを取ろうとした、けど、・・その手も、ちょっと彷徨う。

幾つかの、つまみのようなそれらの上で・・、迷うようにした、手を、・・息を呑んだように、引っ込めかけたけれど。

・・だけどエルは、細い指をそれに、伸ばして、・・その、突起を、指の腹に、そっと、掛けるように。

その堅い感触の、それを、そっと、つまんで・・。

・・・少し躊躇ったように、それを見つめたまま、止まるけれど。

・・その細い指は、そっと、少しずつ、動いていく・・。

―――・・・ずず・・っ。

・・そうすると。

・・じゅっ・・・じゅぶ・・っ・・。

少し、おかしな、音が。

じゅぶぶぶ・・っ・・。

手の中に、それに伝う、震える感触が。

漏れてるような、その先端の、水音は・・。

・・しゅ、ぅ・・しゅぁ・・・っ・・・。

急に溢れて胸元へ当たる、その先端の口からの温い勢いが、一気に、熱いのが、溢れ出してきてた。

その胸元への熱さに、少し、ぶるっと、肩を縮こめて身体を震わしたエルだけれど。

しゃああぁぁ・・・っ・・と。

溢れる熱が、湯気と共に流れていくのを。

瞳を瞬かせて。

・・その先端から、迸っていくものを、少し、その瞬かせる大きくした瞳に見つめていた。

少しの間、そう・・・見つめてたようなエルだけれど。

・・そう、すぐに、胸に、お腹に、伝っていく、その身体に馴染む、その温かさに、流れていく・・少し、緊張してたその細い肩が、少しずつ、下りていく。

・・そうして瞬く瞳で見つめる、白い肌を流れていく、熱めの水を。

・・その細い指に握る、そのシャワーヘッドを少し、動かして。

・・・水をかける所を変える、噴出す熱さが胸の辺りから、お腹に流れ、・・腕にも、脚にも、足先へと伝って勢いよく落ちてく、感じる・・・。

白い素肌に当たると、溢れて飛沫をあげるような。

上気していく、紅が染まっていく肌を、見つめていた瞳は。

・・それに合わせて、ゆっくりと動く、細い手の甲を見つめながら。

・・・また少し、違うところへ、自分へ、優しく滑らすように、ゆっくりと動かし始める。

湯気に溢れる中の、エルの上気してきた頬が、紅く染まり始めれば。

少しだけ、瞳を細めたように、微笑んだみたいに。

ちょっとだけ、気分の良さそうに、ほかのかに微笑むエルは。

手の中のそれを、引き寄せて、胸の先から伝わっていく、その温かさに。

・・そっと、首を上げて、唇を少しだけ動かす・・・。

誰かに伝えたように。

何かを、伝えたように。

嬉しそうに。

その細い首筋から伝う、体温のような熱さに流れていった。




・・・・・・アヴェは、少し、じっと。

「・・・・・・」

・・隣で、着替えてるあの子を見つめてた。

少し、瞳を瞬かせながら、足元を見つめるあの子は。

他の子に、ちょっと、隠れるように、バスタオルを巻いたまま、下着をつけてて。

アヴェも、タオルを肩に羽織ったまま下着を履いてた、けど。

・・・でも、隣のあの子は。

ちょっと、・・良いことがあったみたいに、楽しそうだった。

・・・別に、笑ってるとか、そういうわけじゃないのに。

・・なんだか、そんな感じで。

・・片足を上げて、昨日とは違うワンピースのスカートをもぞもぞ、してても。

肩に掛かった、捲れた所を直してても。

スカートの裾を直して、ちゃんと着れたのを確かめる・・・。

・・今日のワンピースも、やっぱりかわいい。

昨日とはちょっとデザインが違うけど、白色がベースの柔らかそうな生地に、エメラルドグリーンのような淡い色が薄く色づいている。

襟から肩にかけて白いフリルとレースがあしらわれてる。

可愛いけど・・繊細そうな・・・やっぱり、高級そうな、・・お嬢様みたいな。

それからエルは、ロッカーの中の物を、覗き込んで、ちょっと手を入れて取り出そうとしてるけど。

・・・ずっと、なんだか、嬉しそうなのを、アヴェは。

・・ちょっと、じっと、見てたから。


あの子が、アヴェに、気付いて。

あの子の綺麗な瞳が、不思議そうに、見つめて、ちょっと、細められたように・・・。

アヴェは、ちょっと、どきっとしたように。

ロッカーに、すぐ向き直った横顔が、シャワーを浴びたすぐだからか、上気してた頬はまだ紅く染まってて。

・・でも、アヴェが気がつくのは、まだ自分が服を着てないのを、下を見て・・・。

・・・だから、ちょっと、慌てたように、ロッカーの中を、ごそごそして。

・・隣のあの子は、ロッカーの中を、何かを探してるみたいにしてたけど。

・・・気がついたみたいに、アヴェを、見た、あの子は、やっぱり、不思議そうにちょっと、小首を傾げて。

・・その、綺麗な瞳に、ふと優しく・・・。

・・・だから、アヴェは、ちょっと、はっとして。

紅い顔のまま、シャツを、ロッカーの中から引っ張り出してた。




廊下を歩く2人は、どちらも、ほかほか、紅く上気してて。

アヴェは、通りすがる子達の、どうしても、こっちの方を見てくるような。

そんな、目を、ちょっと、気にしながらも。

俯き加減の、顔を、ちょっと、上げて。

隣のあの子の、・・前を真っ直ぐ見てる、上気した、ほかほか紅い頬の横顔を、ちょっと、見てた。

白い肌に、上気した頬がほんのり色づいてるあの子は、・・かわいくて。

・・長い髪の毛も、今日は洗わなかったのか、柔らかくウェーブの掛かる髪が軽く跳ねている。

・・ふわっと、溢れるような風にときどき、たぶん、あの子からの、良い香りもして。

そんな香りが鼻を擽ると、アヴェはちょっと、どきっとする。

またちょっと吸うのも躊躇う・・ように、息を止めかけるのだけれど・・・。

・・伸びた背筋のあの子は両手に鞄を提げて、スカートの裾を揺らしてる。

前を真っ直ぐ見て、歩いて。

ときどき通りすがる人たちが、あの子を見てる。

アヴェは、見えてたけど・・・。

少し顔を、俯かせて。

歩いてるアヴェは足元を、見つめてて。

「・・ハァヴィ、」

ふと、聞こえた、あの子の声に。

アヴェは、どきっとして。

・・でも、何も言ってこない、あの子に。

「・・は、はい・・。」

アヴェは、ちょっと、・・覗くようにして、顔を上げ、かけたけど・・。

・・・手に、温かい、のが、ぎゅっと、包まれて。

どきっとしたアヴェは、肩を少し震わせて。

その手は、あの子の・・熱い・・・白くて細い手、掴んできて・・・。

・・繋がるその、手よりも、・・肩よりも、上のあの子は、こっちを見てて・・、優しく・・、微笑んでて。

アヴェは、どきっとしてた。

・・そのまま、顔を、紅くしてたけれど。

あの子を見つめてる目が、少し、煌いていた。

―――服の裾をつままれた感じで・・・手をつままれた感じ・・でも、指が、手が、熱い・・・。

・・・紅い頬のアヴェが顔を、俯けて。

・・でも、手はぎゅっと、握られたまま。

・・・あの子の、温かい手が、動いて。

・・ちょっと、回り込んできて、手の平を、・・私の指の中に、・・握りたそうに、してた気がして・・・。

・・・・えっと・・・。

その・・・ちょっと、私は、指を、・・開いて、・・ちょっと、だけ、開いて。

・・あの子の、手の平が、だから・・私の手の平に、くっつくのを。

・・・指が、ぎゅっと、握られるのを。

・・私も、ぎゅっと、あの子の、熱い手を握った。

・・・あの子の、手は、・・熱くて、温かくて。

・・少し、気持ちいい。

・・・ちょっと、・・動く指が、ぎゅっと、してくるから。

・・私も、ぎゅって、握り返してて。

――――あの子の、温かい手を、感じてる。

・・隣のあの子の、横顔を、ちょっとだけ、見て。

・・・あの子の、背筋の伸びた。

・・紅い頬の、横顔を。

・・私を見たあの子の。

―――瞳が、少し、瞬くのを。

――細まって。

――――煌いた瞳が、嬉しそうに、微笑んでた。





かちゃっと、お皿とフォークの当たる音が鳴って。

お皿の上に置いた食器から手を離した、アヴェは。

コップを手に取って、中の水面を見つめるように、口をつけて。

少しずつ傾け水を飲む・・・そんな横顔に、ちょっと気付いたようなココさんは口の中の物をもぐもぐしながら、アヴェへ向けてた顔の口端を持ち上げてた。

コップの水を、少しずつ飲んでいたアヴェが、目を横に、ココさんが見てるのに気がついて。

どきっとしたように、すぐ顔を俯かせてた。

コップを口に付けたまま、顔を紅くしたままで。

隣のエルが、ちょっと、不思議そうに、見たみたいだけど。

ココさんはそんなアヴェの横顔を、口元を見てた。

口元にソースが付いてる。

でも、ココさんは細めていた目を、目の前の料理に戻してた。

拭き取ってあげるのはあとででいいかって、そう想い。

お皿の上の、ソースたっぷりのミンチバーグにフォークを伸ばして、切り分けた柔らかいそれに挿して口に運んだ。

もぐもぐと、美味しくて、ちょっと笑顔になるココさんで。

それから横目で少し見れば、アヴェのちょっと気にしたような目が、すぐに自分の食事に戻すのが見れて。

ココさんは構わずに、お皿のパンを手に取った。

別に、アヴェが何かを話しかけたいわけじゃないのはわかってる。

アヴェの癖みたいなものだ。

にしても、本当に2人とも静かというか、何も話さない子たちだ。

「引っ越し終わったけど、今のところは困った所ない?」

ココさんが尋ねてみると、エルは・・・ふるふる、首を横に振って。

それからアヴェを見てれば、ココさんの視線に気が付いて、ちょっと慌てたように首を横に振るわけで。

「そっか。上手くいってるみたいね。元々仲良しだから、あまり心配してなかったけど。」

エルはココさんを瞬いてて、アヴェはぴくっとしてたけど。

彼女たちが口を開かないのを眺めながら、ココさんはパンを口に入れた。

それを見たアヴェはやっぱり、ちょっと俯いて。

・・フォークを伸ばして、お皿のポテトを静かにまた食べ始めたみたいだった。

その隣でエルザが少し、じぃっと、アヴェを見てたのだけれど。

アヴェはちょっとだけ、首を動かして。

エルの瞳を気にしてるようだ。

「ここのご飯は美味しい?」

そう、ココさんが、ふと、そんなエルに聞いてきたのを。

エルは、気付いたように瞳を上げて、ココさんを見つめてくる・・・。

「・・・・・・」

瞬く瞳のエルは。

動かないのは・・・もぐもぐと、食べてる口の中のものが邪魔なようだった。

そんなエルの仕草に少し目を細めて、笑うココさんは、傍のアヴェにちょっと目を移して。

アヴェは向こうを向いてて、そんなエルを少し俯き加減にだけど、不思議そうに見てるみたいだった。

エルが何かを言うのを待ってるみたいで。

・・と、エルが口の中のものを飲み込んだような、・・だけれど。

「・・・」

・・特に、何も言わないでこっちを見ている。

・・・ココさんは、少し不思議に思って。

エルを見てた目が少し瞬いてた。

アヴェは、・・そんなココさんと、エルをきょろ、きょろと、2人の間で不思議そうに、遠慮がちに見回してた。

・・・えっと、何かを言うべきかしら、とココさんはちょっと口を開きかけたりしてたけど。

「えっと、・・気に入ったかな?」

「・・・あの、」

と、エルが、ちょっと何かを言いかけて。

ぴくっとアヴェは、エルに振り向いた。

「お母さんの、料理の方が、」

って、エルは。

「・・美味しいです。」

そう、言い切ってた。

微笑んだようなままのココさんは、瞬きつつ。

「・・ぇ?」

ちょっと、調子の抜けたような声だけど。

振り返るアヴェが、ココさんが、ちょっと、驚いてるみたいなのを見てて。

「あは、そうね。」

ココさんはちょっと、納得したみたいだった。

・・エルを、振り返れば、・・不思議そうに、きょとんと、ココさんを見つめてたみたいで。

そんな不思議そうな瞳が、それから、アヴェに向けられたのを。

アヴェは、ちょっと、瞬いて。

・・・ちょっと、アヴェは、唇を、むにむにさせたまま、なにかを、言いたげに。

「・・あは、お母さんの料理が一番好きよね。」

・・って、ココさんが、ちょっと、笑うのが、聞こえて

アヴェが振り返ったら、ココさんは、エルを、見てて、ちょっと笑ってた。

「何が好きなの?」

ココさんは、あの人、料理できるんだなーと思いつつ。

「・・・」

エルが、また少し考え始めるみたいだ。

そうするといつもよりももっと大人しい、というか、手も止まったりして、どこかを見て瞬いてる。

なんとなく、この子の仕草もわかってきた気がするココさんだ。

こうなるとたぶん、ゆっくりと考えているんだな、って。

・・・アヴェの、まだちょっと、驚いてるような目を、エルに向けてたけど。

エルは、・・ふと、気付いたように。

アヴェを見た瞳を、少し、じっと、瞬く。

ぴくっとしたアヴェは、ちょっと、目を泳がせたり、瞬かせてたけれど。

でも、お互いの目を合わせていて。

・・・エルが、お皿の方を見て。

・・白いナプキンを、手に取ると、アヴェの方に。

どきっとして、アヴェは身を竦ませようとしたけれど。

顔に近付いてくる、じぃっと覗き込んでくるようなエルに、ちょっと、動けなく・・。

ナプキンが、そっと、唇に触れるのを、アヴェはぴくっとしたように。

アヴェは、身をちぢ込めたまま。

口元を軽く、触れるエルの。

擦るような、手と。

それを見つめてる、綺麗な瞳を、見てて。

・・・そっと、離れた、ナプキンに。

覗き込んでくる、エルの瞳。

・・そんなアヴェに、気付いたように、エルが、ほのかに微笑んだのを。

アヴェはまた、どきっとしたけれど・・。

目を、瞬かすように、ずっと、見つめてた・・・。

エルが、白いナプキンを、両手に包んで折りたたんで。

テーブルの横に置くのを。

それから、またエルが、静かに食べ始めるのを。


「・・えーと、美味しい?」

ココさんが、ちょっと困ったような苦笑いに聞いていた。

ふと、気づいたエルが瞬いて。

ぴくっと、なにかに気が付いたように、止まって。

それから、また考え始めたような。

さっきの質問を思い出したのかもしれない。

「まあ、いいから。」

ココさんは笑ってそう言っといた。

「食べて、食べて。美味しいね?」


・・・ちょっと、気付いたアヴェは・・・。

・・その、白いナプキンの中に隠れたソースの色に。

さっきまで、エルが自分の口元に見てたものを想像して、顔を紅くしてて。

エルが・・フォークを静かに、器用に扱ってるのを、見つめてたけれど。

口に差し込んだフォーク、気付いたようなエルが、ふと気が付いたように瞳を開いてアヴェを見る。

フォークを抜いて、顔を上げたのを、不思議そうに瞬いたのを。

アヴェはどきっと、ちょっと慌てて、紅い顔を前に戻して、食べかけのお皿を見つめてた。

エルは、そんなアヴェの紅い横顔を、見つめてるようだったけれど。

そんな2人を、目を細めて見てたココさんは。

少し困ったように。

お皿に目を戻して、けれど可笑しさを堪えるように。

笑ってるみたいだった。

やっぱり、なんだか不思議な間を持つ2人だな、って思ってた。



****


『ダメでしょ、ああいうときはちゃんと、美味しいです、って言わなきゃっ。』

マリーが、ちょっと、・・怒ってるみたいだった。

「・・だって・・」

そう、静かに声を上げかけるエルは。

それでも、口を開きかけたまま、静かに閉じてた。

なぜなら、廊下を歩く寮生たちの中だから。

隣の、あの子を、少し気にして。

・・エルが見た横の、ふとこちらを見てたアヴェと、目が、合っていた。

『『だってぇ』、じゃないのっ、そういうのはマナーよ!あのココって人に、『ちょっと生意気ねー』、って思われるわよ・・っ!』

ちょっと、エルの真似か、ココの真似か、変な声で言ったマリーは、もっと、どんどん言ってくる。

『ああいう場合は、『とっても美味しいですぅ~・・』、って言っとけば喜ぶのよ、あっちも!それが淑女のマナーなの!』

とてもふんぞり返って、世渡りの秘訣を教えてくれる、マリーだけれど。

「・・・でも、」

そう、エルは、口の中で呟いてて。

『ん、なに。』

ちょっと、眉間に皺を寄せていそうなマリーの声が聞こえてた。

「・・お母さんの方が、美味しい・・・」

と、エルが小さく呟くのを。

少し俯き加減に、呟くエルは。

ちょっと、泣きそうな。

『うぅー・・・っ、』

それを見て、怒ってるようなマリーは。

『・・わかったわ・・。そっちの方が、ぜんっぜん美味しいのね・・っ』

って、やっぱり、怒ってるように言うけど。

「・・ぅん。」

少し考えたように、エルは小さく頷いてた。

『そんなに美味しいの・・・?』

ちょっと、怪しんでる、不思議そうな声だけれど。

「うん・・。」

エルはこっくりと頷いてて。

『ふぅん・・、でも、さっき食べたのも、そんなに不味くは無いんでしょ・・?』

って、知りたそうに聞いてくるマリーに。

「・・・・・んん・・?」

素直に、小さく唸ったような、エルで。

『・・え、ダメ?』

首を傾げかけるくらいまでのエルに、マリーはちょっと心配そうだ。

「・・・・・」

でもじぃっと、前を見てるような。

宙を見つめてるエルは、まだ美味しさを思い出してるのか、考えているのか。

『・・わかった・・、もう。』

ちょっと、諦めたような、マリーは。

『エルは、あの人の方が、美味しいのね。』

そう、言うから。

「うん・・。」

エルはそう、控えめに、素直に頷いてた。

『・・ふぅん・・・。』

・・マリーの、ちょっとつまらなさそうな、力の抜けたような声が聞こえてたけど。

『でも、にこっとくらいしときなさいよ。ま、エルは笑うのも下手だけどね。』

エルはちょっと、宙を見上げたように、瞳を瞬かせつつ天井を見ているようだった。

・・・と、ふと、隣のアヴェと、エルは目が合ってて。

『・・・・・・・・・』

・・なにか、言いたそうな、ちょっと、覗くように見てる、紅い頬のアヴェだけれど。

・・・さっきから、もしかして、じぃっと、エルを見てたようなアヴェは。

・・2人はお互いの顔を見つめたまま、前を見ずに歩いてて。

少しの間、心配そうに覗く目と、不思議そうな瞳とを瞬き合ってた。




―――・・・ふと、顔を上げたアヴェは。

隣のエルの、横顔を、横目に、・・見てて。

勉強机の椅子に座ってるエルは、ノートを、見つめてる。

手の動きも止まってるけど、宿題を、やってるはずで・・。

アヴェは、同じ様に、やってたノートの、宿題を、もう一度見なおしたけれど。

もう、最後まで終わってる・・・。

・・・だから、あの子が、真面目に見つめてる、横顔を、ちょっと、もう一度、・・・見てた。


あの子の瞳が少しずつ、色を変えるように、動くのを、見つめて。

・・静かな、部屋の中で、あの子の音はそんなに聞こえないけれど。

あの子が、僅かに眉を動かしたり。

口元を少しだけ歪めたりする表情が、・・ちょっと、気になって。

そうしてると、眉がちょっとだけ、急に跳ねたみたいに、瞳が瞬く。

瞳の色も軽くなって、それから、指がすらすらと動き始めるあの子が、ちょっと、書くのに夢中みたいなのを。

・・目を瞬いたアヴェは、ちょっと、・・ほっとしてた。

あの子は、それから、ちょっと上から下に、読み直してた、みたいだけれど。

・・顔を上げてふと、アヴェを見てきたのを、アヴェはちょっと、どきっとしたように。

眉を軽く上げて、ぎこちなく、唇を細めて。

そんな、少しの表情を見せたアヴェに。

だから、エルは、ちょっと、微笑んだみたいだった。

アヴェはだから、またちょっと、どきっとして。

恥ずかしそうに俯いたけど。

目の前のノートを見つめてるアヴェは。

少し頬を染めて、唇をむにむにしてるみたいだった。



ふと立ち上がったエルは、静かに歩いて。

縫いぐるみたちの棚の前で、立っていた。

・・何かするわけでもなく、縫いぐるみたちを、その瞳で見ているだけみたいで。

そんなエルを、アヴェはちょっと、ちら、ちら、見ていたけど。

・・エルは、暫くそうしているみたいで。

・・・だから、アヴェは、ノートに目を戻して。

小説の続きと、横には消音した動画のニュースが流れていて――――。



――――オルスティは、激しく動揺した。

それは彼が探し求めたもの、『そのもの』だったからだ。

天はいくつもの竜巻が荒れ狂い、地平を見渡す限りの洪水に見舞われる。

逃げる動物たち、勇猛なる森の主たち、天を貫くほどの巨大な角を持つ『老貴の巨鹿』でさえ、ありとあらゆるものが巻き込まれ、壮麗なる山が世界が壊れる音と共にいくつも崩れ落ちていく、空を逃げる鳥も竜も無数の飛竜人たちさえもが、嵐に吹き飛ばされていく。

それは幾度も夢の中で見た地獄・・・、オルスティは吹き付ける強雨を全身に叩きつけられながら、とうとう両膝をつく。

悪夢はそこで終わる。

・・気が付くと、噴き出す汗と共に彼は嗚咽を漏らしていた。

意識が飛んでいた、その全てを映し出すと言われる鏡から逃げるように石床に崩れ落ちていた。

「どうした、ラエゴルの探索者とやら。続きを見ないのか?」

「こ、こんな恐ろしいものを見せて、君は何のつもりだ?わ、私に何をさせようと・・・?」

「ここからが重要なのだ。空をよく見ろ」

世界が壊れゆく姿を見ていろとそいつは言う。

世界を統べるという彼が、重要だと言った。

穢れを感じる、拒絶したくて震える手で床を抑え、力を籠め顔を上げた。


荒れ狂う嵐の最中、暗雲の空に白く光る『何か』が静止している。

それは畏怖すべき大いなる光景の中では小さすぎる、粒のような存在だった。


「我が貴様に求むるは、かの『燐光の乙女』よ」

「・・・燐光・・の乙女・・?」

あれは人間・・か・・・?・・いや、あの姿、見覚えが――――――


「――――・・・あの、」

・・・って、話しかけられたのに気付いて。

アヴェはふと、顔を上げる。

あの子が、見つめてきてたのを見つけて。

「は、はい・・」

アヴェはエルにそう、返事をしていた。

部屋の中の距離の近い。

隣同士の2つだけの机から、見つめてくるエルは。

いつの間にか、戻って来てたみたいで。

じっと、その瞳でアヴェを見つめていて。

そっと口を開くのを、アヴェは少し緊張したように目を瞬きながら、見つめてた。

「・・私、家に帰ります、明日に・・・」

エルは、そう静かに言って。

・・そっと、口を閉じた。

・・・それだけを、言って。

・・・きょとん、と目を瞬くアヴェは。

・・エルを見つめてる目を、じっと。

・・全く反応がなく。

そんな、アヴェを。

エルは少し、不思議そうに見てた。

・・・と。

「・・・え・・?」

アヴェの、少しばかり掠れた様な声が、して。

じぃっと見つめてるエルは不思議そうに、小首を傾げてた。

でもアヴェは、眉を、顰めてて。

・・・エルの、きょとんとした、不思議そうな顔をじぃっと見てた。

そうしてると、アヴェが、静かに、次第に、・・慌て始めるのも、全然・・、すぐ、なわけで・・。

―――・・じ、実家に・・・。

帰る・・・、か、帰らせて、頂きます・・って・・いう・・・こと・・?・・

ぇ・・・、・・・・え・・?・・なんで・・?・・・、いけないこと、した、かな・・おこらせたなんて、エル、に・・・・え、えと・・そ、そんなこと・・あ、あったっけ・・・・・っ・・・あ、あやまらないといけない、とか・・・・・え?・・―――

・・・静かにパニクるアヴェの、口が、開きかけたり閉じたりもしてるのを。

エルはじっと、見つめてるのだけれども。

そろそろ、目もぐるぐる回り始めてきたアヴェをちょっと、エルは瞳を丸くして見てた。

それでも、すごく何かを言いたそうなアヴェだから、エルはじっと。

アヴェの顔は、もう赤くなってきてた。

「・・な、」

アヴェの、ようやく、小さな声が。

「・・な、な・・・、なんで・・。」

慌ててるのに、消え入るような細い声が。

エルはまたその瞳を不思議そうに瞬いてた。

「・・お母さんに、休日に、帰ってきて、ください、って、言われまして・・。」

・・・ってエルが。

・・そう、丁寧に説明してくれたのを。

・・・アヴェは、目を瞬かせていた。

そんなアヴェにエルも、瞳を瞬き返したけれど。

「・・え・・・?」

アヴェの声が、小さく、ちょっと、拍子の抜けたような。

見つめてくるアヴェに、エルは、くりっと不思議そうに小首を傾げてた。

「・・・?」

そう、エルが尋ねてきたような感じに。

さっきから微かに空いたままだった、アヴェの口が少し、動く。

「・・・・・・・・・えっと、」

音の無い部屋で、そんな、小さな声が、聞こえたけど。

まだ不思議そうな瞳のエルは。

小さな息の音を、微かに、ほぅ・・っと出して。

「・・・ぉ、お母さん・・、が・・?」

アヴェがやっと。

ちょっと、難しそうにそう、呟きかけたのを。

「・・はい・・・」

エルはすぐこっくりと頷いてた。

目を瞬かせるアヴェは。

・・・えっと。

・・体育祭のときに。

微笑む、優しい、美人のお母さんを、思い出してて・・・。

目を、瞬いてたけど。

「・・え、っと・・・」

そう呟いたけど。

ちょっと、考えてるように、目を細めて、難しくしたような顔を背けたまま少し動かなくなる。

・・・少し、そんなアヴェを見つめてたエルの瞳が、ちょっとだけ、揺れると。

「・・寂しいって、言ってました。」

「・・・・・・」

・・アヴェの口が、静かに、完璧に閉じた。

「・・・?」

そんなアヴェを、エルはまだ瞳を瞬いて見つめてたけど。

口を、ぎゅっとしてる、アヴェは。

じっと、エルを見つめながら。

・・・って、途中で、エルのそんな様子に気付いたように。

表情を変えて、少し困ったように、強張ったような表情に唇をむにむに、動かし始めてて。

そんなアヴェを、じぃっと、無表情に見てた、エルだけれど。

「・・・ぁ、」

・・と。

何かを、思い出したように。

瞳を煌かせた。

だから、アヴェが、少し、眉を上げる前に。

「・・お家へ、」

エルの唇が、吐息と一緒に囁いてた。

「いらっしゃいませんか?」

エルは、綺麗な瞳の奥をまた煌かせて。

「良かったら・・。」

・・・。

・・って。

嬉しそうに。

エルが・・・。

「・・・・・・えっ・・?」

アヴェが・・少し、怯えたように、びくっと。

少し、大きく震えて、ぶるっと。

ちょっと、反応の遅かったアヴェだけれど。

それは震えたのかもしれないけど。

エルは、微笑みが溶けるような表情で、見つめてて。

・・喉の奥から声を出したアヴェは、ちょっと顰まる眉のまま、エルを見つめてる。

エルはそんなアヴェに、ちょっと、楽しそうに、微笑みを見せてまでいて。

そんなアヴェを見つめててもエルの瞬く瞳が、とても綺麗に煌いている。

・・・まるで、エルはとても、良い事を思いついたように。

・・明らかに戸惑ってるアヴェを、・・・とても、エルは可愛く微笑んで見つめてた。

「・・えっと・・・」

と、アヴェが。

「はい。」

何かを言いたい・・・。

・・でも、エルは綺麗な微笑みを返してて。

「・・・・・・」

微笑みのまま見つめ返してくる、エルに。

・・アヴェは。

開きかけてた口を。

・・口を、閉じてた。

エルはちょっと、不思議そうに、微笑んだままだけど。

瞳を瞬かせて、小首を傾げてて。

・・アヴェが、・・口元を、形を、・・むにっと。

なんとなく、動かしてて・・。

だから、エルはちょっとだけ、眉を上げかけたけれど。

2、3度、瞳を瞬くエルは。

・・すぐにまた、楽しそうに、微笑んで。

アヴェがちょっと、無理して歪めたのかもしれない、不器用な口元だけど。

ちょっと、困ってるような気持ちが、隠れてないアヴェの紅い顔に。

もっとエルは、アヴェの、無理のある微笑みにとても、嬉しそうに微笑んでた。





「うん?いいよ?」

少し眉を上げたココさんが、そう、頷いて。

見上げるようなアヴェは、逆に、呆気に取られたように、少し目を瞬かせていた。

ココさんは腰掛けてるテーブルの席を少し座りなおして、そんな隣のアヴェにまた眉を上げてみてた。

「・・あ、そうか。アヴ・・・」

そう、気付いたように、ココさんは。

静かに呟いたココさんは目を移して、アヴェの隣の席に座るエルへ。

瞳を瞬かせて、こちらを少し見上げてるエルを、ちらっと見たようで。

まだ目を丸くしてるアヴェが、その目の先をふと追えば。

エルが、ココさんに不思議そうな瞳を瞬いてるだけで・・。

「・・・寮から出た事ないのよねぇ・・」

・・・って、小さく呟くように言った、ココさんの声が、アヴェの耳に、はっきりと、届いてた。

・・振り返って、ココさんを、見上げれば。

・・・ちょっと、苦笑いを我慢しているみたいに、アヴェを見てたから。

アヴェは、・・ちょっと、唇を結んだように、顔がなぜか赤くなってた。


急に呼び出されたから何事かと思ったら、そんなことだったので、ココさんは心の中でちょっと拍子抜けしてたけど。

他の寮生たちは気兼ねすることなく、好きに外出してる。

でも、そういえば、この子たちにとっては初めての事なのだから。

「あぁ、えっとね。寮から出るのに、特別な許可はいらないの。門限にまで、帰ってくればね。それより遅くなるんだったら、寮長に申請すれば良くて・・、まぁ、ちゃんと理由があれば問題ないんだけど、宿泊場所の報告とかをちゃんとしてれば大丈夫。」

って、ココさんはちょっと俯いたようなアヴェにも、エルにも教えてあげる。

「今回は、そんなに遅くはならないんでしょ?」

・・・俯いたままのアヴェに聞いても、まだ少し、アヴェは顔を上げてくれそうにはなく・・・。

「はい・・・」

と、隣のエルが小さく頷いてくれていた。

「なら、大丈夫ね。」

そう、ココさんは顔を上げて、エルに微笑んでた。

エルも少し、微笑んだように。

「遊びに行くの?」

ココさんがそう聞けば。

「はい・・」

エルはこっくりと頷いて。

「・・ふーん。・・どこにかな?」

ちょっと、続きを待ってみはしたような、ココさんは、そう、なるべく、何気なく、さりげなく。

「・・・」

・・・装ったつもり、だけれど、エルは、瞳を少し瞬いたままに。

「・・私の、お家に。」

ちょっとの間の後に、静かに、答えてくれてた。

「へぇ~、」

ココさんは少し、眉を上げて、少しだけ驚いたみたいだった。

「そっか・・、」

そう、エルに少し微笑み。

隣で少し、顔を上げてエルを覗き見てるようなアヴェの頭を見てて・・。

「エルのお家へ、アヴも一緒に行くのね。わかった、いってらっしゃい。」

そう微笑んだまま、ココさんはエルに微笑んでた。

気付いたように、少し、顔を上げたようなアヴェが。

向こうを見てたココさんが、こっちを見たのを。

ちょっと、どきっとしたように、紅い顔のまま唇を結んで。

少し、俯き加減にだけれど。

「・・はい。」

顔を赤くしたまま、小さな声で、少しだけ頷いてた。




――――エルのお家に行く・・・。

私は。

明日・・。

エルのお家・・・。

―――・・・ご挨拶・・、ちゃんと、しないと、いけなくって。

・・エルのお母さんの、あの人が、いて。

・・・それから、お父さん・・も、いると思うし・・、家の家族の人たちだから・・。

あと、・・お兄さんも・・・あの人・・・。

・・ほかに兄弟いるのかな・・・。

・・・・本当に、行っちゃっていいのかな・・。

・・・邪魔じゃないかな・・。

エルは、来てって、言ってたけど・・。

お母さんは、エルを・・、待ってるんじゃないかな・・・。

・・ぅ・・・ぅ・・。

・・・ど、どんな、お家だろ・・。

エルの、住んでるお家は・・・。

・・・ぁ・・、そ、そうだ・・っ、お、お兄さんに、・・ぉ、お礼を・・、あのときのお礼、言ってなかった、から・・・。

い、言わないと・・・、言おうと思ってたから・・。

・・・い、言わないといけなくて・・・。

・・助けてくれた・・・・。

あのときの・・・。

・・ぅぅ・・・・。

・・・・・・うぅ・・・。

・・・どきどき・・・してばっか・・・・。

・・ぁぁ・・・ぅぅ・・・っ・・―――。

―――暗い中の、ベッドの中で、もぞもぞと。

照明の薄い部屋の中で、まだ。

なかなか、寝付けないらしいアヴェは、布団の中に閉じこもったまま、身をよじったりしてたけど。


・・・隣の、ベッドの上では。

「・・・すぅー・・」

エルが、静かな寝息を立てて、無垢な寝顔に眠ってる。

賑やかに散る縫いぐるみたちと。

脇に抱いた、小さな人形と一緒に。

『・・あの子まだ寝ないの?ロロノ・・っ、んぅ・・・』

傍で、小さな小さな声が、口惜しそうに、息を潜めてた。



****


――――目が、覚めたときに。

―――・・暗い影が、明るい光の、影から、瞬いてて・・・。

「・・・・・・」

・・・それは。

『・・・・・・・・・』

・・・瞳で。

星が煌めくような・・・。

「・・・ぅ・・っ・・」

びくっとしたアヴェの、眠い目が僅かに歪めば。

その覗き込んでた瞳は、静かに瞬いてた。

アヴェは、もぞもぞ・・・。

「・・おはようございます。」

アヴェは、もう、布団の中に隠れながら。

・・エルの・・朝の挨拶・・・聞こえた・・・。

「お、おは、おはよ・・ございます・・・」

・・私の、ベッドの傍で、エルが静かな佇まいで立っていた・・・。

「・・・・・・」

まるで、お化けを見たようなアヴェの反応に。

・・エルは、瞳を瞬かしていて。

布団の中で震えてるようなアヴェを、見つめてて。

・・・それから、少しだけ。

・・ほんの少しだけ、口元が微笑んだのは。

隠れてるアヴェには見えなかったけれど・・・。

・・エルは向こうの方に振り返って。

口元の静かな微笑みと一緒に、テーブルの方にまで歩いていってしまって。

・・・それを、スリッパの音を聞いてるアヴェは、布団の中から、ちらっと覗き込んでた。

・・エルが、もう、寝巻きじゃない、ワンピースのスカートに着替え終わってるのを。

向こうの、テーブルの席に腰掛けて、向こうの方を、棚の縫いぐるみたちの方を見てて。

こっちを見てなくなってたから・・・。

・・・ピピピピッ・・っ!!

びくっと身体を震わせたアヴェは。

急に鳴り始めた音に、枕元の目覚ましを手でぱぱぱん、と慌てて探してた。

手にぶつかった堅い感触のそれを掴んで、すぐ止める。

・・ピピ・・・っ・!

・・・ちょっとほっとするアヴェは。

・・布団の中で、またぺたっと、突っ伏したまま、力が抜けてた。

・・・そのまま、ぼうっと。

・・・・・ぼうっと・・・。

・・目覚まし、鳴るの、エルは、知ってるんだから・・。

わざわざ、いつも、起こしに来なくてもいいのに・・、って。

布団の中で、眠い顔で、ちょっと思ってた。




――――・・・ようやく、布団の中からもぞもぞと這い出てきたように、ベッドから降りて。

・・スリッパを突っかけたままベッドの傍で、立って。

部屋の真ん中の方、テーブルの方へは背中を向けながら、・・・まだ少しゆらゆらしてるような、眠いアヴェは。

・・パジャマを、脱ぎ始める・・・。

・・・そんなアヴェにエルは、顔を向けていて、綺麗な瞳を少し、瞬かせる。

清暖な白い光と共に、エルは淡い光彩に瞬く。

アヴェの、白い素肌の肩や腕が、部屋の中に差してる白い光に映えている。

背中に広がる黒くて長い髪の毛の艶が僅かに揺れて。

ぼさっとして、跳ねてるけれど、黒髪が揺れるようにときどき流れる。

そう、アヴェが、横手の台からシャツを取ろうとして、手を伸ばしたのを。

・・で、ふと、こっちを、肩越しに窺うように目を向けてきたのを。

・・・少しだけ、目が合ったエルは、・・瞬いて。

・・首を、横に向けて、前の方に、誰もいない方に、顔を向けてた。

影の出来ている部屋の向こうへと、エルはその瞳を少し煌かせて、瞬く。

陽光の、ほのかな色の光は床に広がり、鮮烈な光がテーブルの端傍に落ちている。

卓上で寝そべってるふわふわの縫いぐるみたちは、気持ちよさそうにしてた。

少し、小首を傾けて。

その子達を、瞳を細めて、見てた、エルは。

首をそっと、動かして。

・・もう一度、ちょっとだけ、着替えてるはずの、アヴェのほうを、・・見てて。

・・さっきよりも、背中を縮めてるアヴェは。

・・・さっき見られてたのを気にしてるのかもしれない、もっと恥ずかしげに、してて。

ズボンを、片足を上げて履いてる、アヴェの後ろ姿を。

エルは少し瞳を瞬かせて。

・・それから、ちょっと口元を微笑んで、見つめてた。

「・・・ん」

それから、小さく鼻を鳴らして。

「・・・うん・・、」

ふと、瞳を微かに上へ。


煌く髪が、色づく光を移して。


小さく頷いたように。

微かに動いた唇の。

「・・おやすみ・・・」

優しい、口元の囁きが聞こえた。




廊下を歩く、あの子の。

足元に揺れる、ワンピーススカートの裾を、見つめてて。

・・・あの子に似合う、優しい感じのワンピースは、また初めて見るもので。

涼しげな可愛いサンダルは、ちょっとだけヒールが入ってて、ワンピースの足元と合わせてあるみたい。

お出かけ用の格好だから、柔らかい色のカーディガンを着て、ポーチを肩に掛けてて。

なんか、・・・大人っぽい。

今歩いてるのは廊下だけど、なんとなく、眩しい太陽の下を歩くあの子が可愛いのも、わかるような気がしてた。

・・・。



白い日の光よりも少し淡く。

包まれるような光が優しく広がる出入り口のロビーは、上の方の大きな窓を透過した模様が床に映ってる。

そこは外への出入り口がある綺麗な広場で、生徒のような私服の子達や大人の人たちがベンチに座ってたり、少し談笑をしてるみたいだった。

あの子と、私は、案内看板を見たりしながら、道を確かめながら、ロビーへ来て。

私は、たぶん、初めて来た気がする、ここに・・・。

ロビーを横切って、外へ続くドアへ歩いてく、あの子を追ってく。

いくつか並んで立ってる少し大きなセンサーに、学生カードを翳して開けて。

隣のあの子と少し目が合った。

あの子も隣で、開いたドアを歩いてく。

白い日差しの境界は、レンガの木々の道へ続いていた。


一緒に外へ出れば、外はもっと眩しい、白い光に溢れてる。

立ち止まった、あの子が手を翳して、瞳を細めて、眩しそう。

太陽の光から私も、顔を横に向けて、手を翳してて。

あの子が、手に持ってた、つば付き帽子を被るのを。

・・完成した、あの子の、お出かけ着、大人っぽくて可愛い。

・・・私を見る、あの子の瞳が、日の影の奥に煌いてるのを。

私はちょっと、どきっとして、見てた。

青々とした木々が沿うレンガの道を、あの子が1歩、踏んで。

眩しそうに、帽子のつばから太陽を・・ちょっと覗くように、瞳を細めてるあの子を、私も、眩しい太陽から、顔を背けるようにだけど、隣で見てて。

あの子の、細めてる煌く瞳がふと、私を見て。

・・微笑んだみたいだった。

私は、だから、ちょっと、口を、むにむに、したけど・・。

それから、あの子は、1歩、大きめに足を踏み出したみたいに。

足下を見てる、あの子の白いスカートの裾が、少し広がって。

地面にふわりと着いたサンダルで、あの子が、歩き出す。

眩しい日の光が照り返るレンガと木々の道を、楽しそうなあの子を。


私は、ちょっと、慌てて、置いてかれないように。

寮から飛び出すように、あの子の傍を、追いかけてた。

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セハザ《no2EX》 ~ エルにアヴェエ・ハァヴィを添えたら ~ AP @AP-san

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