第3話 三年生
今年は例年より桜前線が早く訪れた為、めでたく卒業式の今日、満開の桜に見送られて、俺はこの学園を去ることができた。
三年前のあの日は鬱陶しくて見たくなかったこの桜並木の景色も、今は見ていると泣きたくなる別れの景色だった。
月日はこんなにも人を変えてくれるのか。あの中学では何も変わらなかった俺なのに。この高校三年間は実に充実していたと思う。
でも、そう思えば思うほど、罪悪感というか、居たたまれない気持ちになるのも事実。そう考えると辛い三年間だったとも思える。
まあ、それも今日で終わりだ。今日でこの門を潜るのは終わり。そして、向こうから駆けてくるあの人もそうであってほしいものだ。
「・・・卒業おめでとう、限梨くん」
「ありがとう永遠さん」
「お、流石に先輩って呼ばないのに慣れたね」
「うん、時間かかったけどね。同級生だし」
「結局君だけだったな、そうやって対等に接しようとしてくれるの。他の皆は敬語が抜けなかったりよそよそしかったり。先生だってそう」
「そういう意味では本当の高三生活は味わえなかった?」
「かもね。でも、君のおかげでサッカー部は全国優勝。いい夢を見させてもらったわ」
「じゃあ、思い残すことは無いですね、そろそろ卒業しませんか?」
「君はずっとそれね。高校生活最後のつもりでって。でも、その前に君の話を聞くのが先よ。一年越しの話、どんな話が聞けるのかしら?」
「大した話じゃないです。俺も実はコールドスリープを使ってたってだけで」
「え!?」
永遠さんはひどく驚いていた。そんな彼女がますます愛おしく思えた。
「驚くほどじゃないです。だってコールドスリープはありふれた装置でしょ?」
「で、でも」
「・・・俺、中学の時イジメにあって不登校だったんです。勉強ダメ、スポーツダメ、コミュ力ダメの三拍子でした。そんな時、家族会議で決まったことが、アニキたちが俺を鍛えに鍛え、スーパー人間にするって事。社会の荒波に出ても通用する強靭な精神と学力を身につけさせたいと。その為には時間がかかります。だからコールドスリープを使って、数年がかりで俺を鍛えてくれました」
「それであんなにサッカー上手くて勉強もできたのね。君は他の人とはちょっと違うって思ってた。どことなく大人びていて」
「・・・永遠さん、お互いもうゾンビは止めましょう」
「ゾ、ゾンビ!?」
「そうです、歳を偽って、いつまでも同じ時代にしがみつくのは。もうお互い手と手を取り合って前に進む時が来たんじゃないでしょうか。この門を潜った後のことは任せてください。就職も決まりました。俺がきっと娘さんの分まで働いて、永遠さんを幸せにして見せます。そう、普通に歳をとってもこんなに楽しいんだって生活を見せ続けます・・・」
永遠さんは俯き暫く考え込んでいる様子だった。春風が心地よい。俺らの後ろを他の卒業生たちがお先とばかりに門を潜って去っていく。彼らに会うことはもう二度とないだろう。達夫も四月から県外だ。
そう、これが自然なんだ。僕らが不自然過ぎた。この門を潜っても絶対充実した世界が待っている。いや、俺が作っていく。彼女と一緒に・・・。
そして永遠さんはゆっくり顔を上げた。その目は潤んでいたが、悲しそうではなかった。
そしてゆっくり俺の目の前にその手を差し出す。
「・・・ほら、手に手を取るんでしょ?」
「・・・ありがとう。そういえば結局お互い何歳なんでしょうね?」
「いいんじゃない?そんなことは・・・」
そう言って微笑む永遠さんの手を取り、俺たちは静かに門を潜った。さっきまで悲しみの景色だった桜並木が、二人の門出を祝う、祝福の景色へと変わった。
限りある永遠 セイロンティー @takuton
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