第2話 淋しさを埋める為に

母方の祖父が亡くなって7年位、祖母は1人で暮らしていた。

定年後、祖父母は暮らし慣れた東京~祖母の姉のいる栃木に移り、新築の家を構えた。

真っ白い2階建てのお家。


ここに祖父は1年住んで、ガンで他界してしまった。


一生懸命せっせと2人で働いてお金を貯めて、キャッシュで建てたお家。

祖母が1人で住むには広すぎた。

祖父がガン宣告されて数ヶ月で生活は激変した。


祖母は葬儀でも気丈で、取り乱す事もなく、泣き言も一切言わなかった。


おじいちゃん子だった私や妹、母は悲しくて悲しくて、とにかく泣いた。

私は、気丈な祖母を気にかける事はなかった。

むしろ、おばあちゃんは何で泣かないんだろう?と思っていた。

泣くこと=悲しいと思っていたからだ。


祖母は猫を飼い、趣味の民謡や三味線の仲間と旅をしたり、宝石やバック、着物などにお金を使った。

誘われたり勧められると断れない性格、気前が良くて人に奢る事も多かったし、ほんわか明るい性格だった祖母の周りにはいつも人がいた。


大型連休になると私達の住む千葉に遊びにきて、このバックは20万、このメガネは40万などと言って、どこぞのセレブ?と思う様な事を言って家族中を驚かせた。


母は、話に顔をひきつらせながらも、祖母は小さな時~祖父と出逢う迄は本当に苦労してきた人だし、自分と弟を女手一人で育ててくれたから…

おじいちゃんの保険金もあるし、いい年だから好きに暮らしたら良いと言っていた。


そんな暮らしが何年か続いて、みるみるうちに貯金や保険金も全て失くなった。


年金だけの暮らし。

それでも勧められると断れない祖母は分割払いで買い物を続けた。


母の堪忍袋が切れた。

母は購入店に電話して、『分割とかカードまで作らせて高齢者に物を売りつけるのは止めて下さい!』と抗議。


祖母には、『お母さん、何やってるの!お金ないのに買っちゃダメでしょ。生活出来なくなるじゃない。いつ病気するかだって分からないのに、蓄えが全くなくてどうするの?

洋服も宝石もバックももう沢山あるじゃない!これ以上買ったって仕方ない。一体どこにつけて行くつもりなのよ!』と。


祖母は『あらヤダ、怖い顔して~』と笑いながら、『宝石や着物は貴方達に残るものだし…』と。


母は『そんなのいらない。お母さんと私達はサイズも全く違うし、好みだって違う。私達に残す気持ちでやってるなら、もう止めて!二束三文よ』と。


母の言葉は強かった。

そこまで言わなくても…と祖母を気の毒に思う私の隣で、祖母の表情は曇ることなく、ケタケタかわいい顔で笑っていた。


今思えば、祖母の認知症はその時すでに始まっていたんだと思う。

祖母の認知症は壮絶だった。

めんどくさいな、嫌だな…おばあちゃん、おばあちゃんのせいで…と何度思ったか知れない。


それでも、祖母が人生をもって教えてくれた事は大きかった。


亡くなって10年以上経つが、今でも気づかされる事がある。

あの時もっと気づけていれば、してあげれた事もあったかもしれない。


祖母が亡くなる数年前…寝たきりになって、認知症も悪化した祖母を見舞った母は『話も出来ないし食欲もないから、もうヤバイかも…』と言って、『あなた達(私と妹)も、どんどん会いに行ってあげて!』と言った。


祖母は、食べたもの、人の名前などは全て忘れてしまったけれど、昔の記憶は微かに残っていた。

大好きだった歌、大好きだった場所(上野アメ横)の話をしながら好きだった歌手の曲を流してあげると涙を流した。


『おばあちゃん分かるの?』と言うと頷きながら涙をこぼす。

『おばあちゃん、大変だったね。良くここまで頑張ったね』と声をかけて、私も一緒に泣いてしまった。

仕事と育児、母の更年期に悩まされていた私は、おばあちゃんのベッドの脇でワンワン泣いた。

おばあちゃんは一生懸命生きている。


祖母は教えてくれた!認知症は記憶を失くしても、心は失くさないという事を。


そして、音楽の力も大きかったと思う。音楽が昔の記憶を呼び戻した。

川中美幸さん、香西かおりさん、坂本冬美さん…祖母が好きだった歌手。ありがとうございました!!


おばあちゃん…長い間よく頑張ったね!おばあちゃんの涙は、あの日初めて見たよ。

大事な事を教えてくれて、ありがとう☆





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