第2話 大掃除

12月29日。遅延が起こることなく、時間通りに集合し、徒歩で目的地に向かう。住宅街にある普通の白い家が横田の祖母の家だ。ガーデニングが趣味なので、庭が華やかだ。流石に寒い時期なので、花は咲いてはいないが。


「入れよ」


 前日に貰った家の鍵を使って開ける。


「おじゃまします」


 近くに傘立て。靴の棚。普段履いている靴が玄関に置いてある。マットはシンプルな緑色。3人は靴を脱いで、家に上がる。


「こっちに台所か?」

「その前に手洗いとうがいだっ!」

「へーい」


 自由奔放な多田を力でどうにか制御して、洗面所でいつもの事を行う。2人はダイニング兼リビングの方に向かった。初めてこちらに来ているため、不自然ではない。横田は掃除で使う道具などを1階の階段下の収納ペースから取り出し、出来るだけ、2人のいる方に向かう。


「掃除用品、こっちに置いと……おい」


 入ったら、2人は暇なのが嫌になったのか、少女キャラが描かれたデッキケースを鞄から取り出していた。


「デッキを出す前に掃除しろ!」


 思わず突っ込みを入れてしまった。


「つい癖でやっちまった。わり。どっからやってくの」


 切り替えが早い2人である。さっと鞄の中に戻している。


「台所からやってこうかなと思う」

「台所……コンロ……油」


 既に終えている岩尾がぼそぼそとキーワードを言う。面倒だったのか、思い出したくもないという顔だ。


「心配するな。落とす奴もある。それにIHだからまだマシだぞ」

「珍しいな!?」


 岩尾が走って、台所に行き、実際にある事を確認し、叫んだ。


「しかも食器洗いまであるのかよ。すげえな。こっちもやるのか」

「いやそっちは良いって聞いてる。IHのと、流し台と、この辺りと床もやるぞ」


 3人の大掃除開始。1人だけだと相当かかる範囲だが、サクサク進む。重い物を運ぶ事が出来るぐらいの力もあるのも大きいだろう。


「このマット、洗濯するか?」

「そのまんまにしろ。浴室とかそっちに行くぞ」


 台所から出て廊下に出る。目の前に玄関がある。右の方に浴室やトイレがある。


「岩尾がトイレやってくれ。俺と多田は浴室の方をやる」

「ここって改築してんのか?」

 

 岩尾がトイレを入った瞬間に言った。


「ちょくちょくな」

「お前ん家、やっぱ金持ちだよな」

「普通じゃねーかな」


 そんなこんなで昼になり、ダイニング兼リビングで昼ごはんを取る。


「すげえな。お前のビビンバ、辛そう」


 多田の指摘通り、岩尾が持参した弁当に若干赤めのビビンバが入っている。


「俺の母さん、残り全部使いやがって。夜もこれだったけど、めっちゃ辛かった! ヨーグルトがデザ―トで助かったよ本当に!」

「そりゃ途中でヨーグルト買うわな。ちょっと貰ってもいい?」

「自殺行為だぞそれ」

「へーきへーき」


 会話をしながら、昼食を食べ、作業を再開する。1階の部屋の床をクイックルワイパーで拭いたり、布団を干したりし、2階に突入する。

 

「すげえ! 昭和のテレビだよ! ちょ」

「なんでそんなに興奮してんだ」


 祖母の作業室に入ると、多田が興奮していた。箱型のテレビでチャンネルをグルグルと回して変えるタイプだ。


「古いアイロンもあるぞ!」

「すっげ!」


 祖母の家に行く度に見かけるものなので、横田は忘れていた。そう言えば古いものだったなと。興奮するよなと納得する。


「さっさと掃除機かけるぞ!」

「はーい。さっさとどかすか」


 とは言えキリがないので、声をかけて、掃除をしていく。


「今年の大晦日どうするよ」


 横田が掃除機をかけている時に、多田が話題を提供してくれた。


「そりゃ年末の番組見るに決まってるだろ」


 横田は自分の好きなアニメが年末に番組をやるため、そっちを見る予定である。


「俺どうすっかな。いつものやらないっぽいし」

「お前そっち派だったもんな。いい歳してるし、限界が来たんだろ」


 多田はお笑い芸人がたくさん出ている番組を見ていたが、今年はやらないようなので、迷っているようだ。


「岩尾はどうすんだよ」

「見る番組ないから、家族全員オンラインでゲーム大会だよ。あの格闘ゲームな」


 任〇堂の〇マブラで競い合うつもりのようだ。ゲーマーとしては羨ましいものだ。


「くっそ楽しそう。でもお前ガチ勢じゃん。どうすんだよ」


 横田の言う通り、岩尾はランク戦上位が入れるレベルの腕を持つ。家族内だとどうするのだろうという純粋な疑問がある。


「縛りをかけてやるよ。それならイーブンで戦える」

「なあ横田。此奴に縛りもへったくれもねえって思うんだけど、どうよ」

「分かる」

「おいこら」


 掃除機をかけたり、クイックルワイパーで拭いたり、ゴミを回収したりする。2階はそこまで広くないので、時間はかからない。


「すげえ。写真白黒じゃん」

「いつの時代だよ。これ。戦中?」

「勝手にアルバムを覗くな!」


 曾祖父が戦中撮ったという写真を見たり。


「この古臭さ、昭和の漫画って感じする」

「分かる。言葉って変わって来るもんだな」

「歴史ものだから変わるに決まってるだろうが、それよりさっさと手伝え!」


 古い歴史漫画を見たり。このように、普通に寄り道をしていたので、グダり気味だったりした。それでもトラブルが起こることなく、終わると思われていた。そう思われていたのだ。


「げ!? 彼奴出やがった!」


 布団を押入れに入れる時に出てきた。黒くて、光っていて、触ると湿っていて、生命力がめちゃくちゃある虫だ。


「冬なのに出るのか! スプレー取りに行くわ!」


 横田は専用の殺虫スプレーを取りに、階段下の物入れに向かった。


「もう面倒だから此奴で仕留める!」

「ちょ!?」


 岩尾は近くにあるハエたたきを取って、装備する。


「畳の上はマズイからな!?」

「あったりめえだ! フローリングでやるに決まってるだろ!」

「ですよね! ホッとしたわ!」


 ギャーギャーと叫ぶ2人。ようやく、横田が戻って来た。大きい殺虫スプレーを持っていた。鶏のマーク。某有名なあれだ。


「奴は何処にいる!」

「こっち!」


 無事に対処し、袋に入れ、ゴミ箱に入れ、終了。


「最後の最後でこれって」


 仕留めた本人が疲れたように言った。


「まあいいじゃねえか。終わったし」

「こっちに持ってきたデッキの中にあれ入ってるんだけど……使いたくねぇわ」


 岩尾のデッキに黒くて光った虫に関するカードが入っている。便利な効果を持つが、遭遇しちゃった今日は使う気が失せている。


「それな」


 リビング兼ダイニングに戻り、デッキケースを取り出す。


「ちょっくらやってから帰ろうぜ。オフ会に向けて、調整しねえと」

「俺は色々と報告すっからな」


 これで大掃除は無事に終了。ちょっと遊んでから、家に帰る3人だった。最後に奴と遭遇したためか、カードの運が良かったとか。


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オタク3人組の大掃除! いちのさつき @satuki1

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