オタク3人組の大掃除!

いちのさつき

第1話 お誘い

 街の中のとあるカードショップ。学生が冬休みに突入し、午前中から賑わっている。3人の学生も同じだ。朝から集合して、遊んでいる。


「やべえ。吐きそうなぐらい事故ってる」

「マジか」


 大会なら焦るレベルの手札が酷いが、フリー対戦のため、ゲラゲラと笑っている。ふわふわとした黒髪の青年の岩尾は考えながら、机にカードを1枚、裏向きにして置く。


「伏せてターンエンドで」

「ま。まだ始めたばっかだから大丈夫だろ。ドロー」


 茶髪の青年、横田はポンポンとカードを表向きに置いたり、移動させたりと忙しい展開だ。


「あ。察したわ。これ。俺死ぬ奴」


 岩尾は負けそうになっても笑いっぱなしである。初回ターンでフルボッコされたら、それはそれで笑いになるものだ。


「はえーよ!」


 もう少し場を整えてから、攻めていこうと考えた茶髪の男はスマホのバイブ音に気付く。複数のデッキケースを入れている大きい鞄から取り出す。


「わり。ちょっと待ってくんね?」

「おう?」


 横田は操作をする。SNSではなく、メールの報せだ。送って来た主にギョッとする。彼の母からだ。


「横田?」


 タップをして、メール内容を見る。


『お母さんが肺炎で入院しちゃった。年末にお母さんの家、掃除しておいてくれる?』


 と言った感じだった。緊急性の高い内容のため、早めに母に確認をしておきたいと思う横田である。


「おーい」

「多田。引継ぎできっか?」


 観戦している横田の右隣にいる長髪の男、多田に話しかける。


「……いきなりどした?」

「ちょっと緊急事態。お袋に電話かけてみる」

「いってら」


 横田は立ち上がって、店の外に出る。店外とは言え、大きい建物の中にあるため、寒さはそこまででもない。だからコートを着ていない。


「いっちまったな」

「なーにがあったんだろうな」

「家族関係じゃねーの? あ。戻って来た」


 2人の予想以上に横田が早く戻って来た。


「思ったよりも早かったな。ほい」

「あーまあ。そのまんまだったからな」


 多田と横田の席が元通りになる。横田の表情がやや暗めだ。俯いているように見える。察しの良い方である岩尾が声をかける。


「何かあったろ」

「何も」

「あったろ?」


 岩尾の笑顔の圧に屈せられ、横田はため息を吐く。


「おい。そのため息はなんだよ」

「いやまあ。マジで大掃除頼まれてよ。1軒家だからまだマシだけど、1人だとハード過ぎるんだよな」


 話を聞いていた2人は納得した。そりゃああいう表情になるわと。


「あーだろうな。俺ん家、家族全員でやるし」

「俺も。手伝おうか? 日にちによるけど」


 多田の言葉に横田はガバッと急に顔を上げる。


「マジ!?」

「びっくりした!? 日によるってだけで、まだ確定じゃねえけどな!? 岩尾はどうなんだよ」

「俺はまあ終わってるからな」


 計画性がある岩尾は既に大掃除を終わらせている。同級生時代にそれを知っている横田はだろうなと思った。


「知ってた。12月29日にやろうかなって思ってる。30日はオフ会あるし、31日はネット配信があるし」

「だろうな」


 岩尾と多田は口を揃えて言った。オタクでカードゲーマーならでは組み方だと即座に理解したからだ。


「多田。大丈夫か」

「おう。いけるいける」

「それなら待ち合わせ決めようぜ。あ。此奴でダイレクトアタックな」


 話し合いをしている最中、さり気なくトドメを指す横田である。


「しれっと鬼畜な事言いやがった。これでライフゼロだよ! ばあちゃん家知ってるわけじゃないしな。何処だよ。最寄り」

「○○駅」


 多田がスマホで検索をかけている。普段降りない駅だからだろう。眉が少しだけ動いている。


「近いのか遠いのかさっぱりだな。複雑じゃないだけマシか。待ち合わせはそっちにするとして。歩く距離は」

「15分で着くな。昼も買ってこうぜ。近くにスーパーマーケットあるし。あ。弁当屋あるからそっち使うのもありか」

「金飛ぶだろそれ」


 年末年始となるとお金が飛ぶ。一応社会人ではないので、横田家ではお年玉が貰えるが、他の2人はもう貰えていない。バイト代でどうにかするしかないのだ。


「あり合わせで弁当作るか」


 地味にハイスペックな岩尾の発言に、多田は感心したように言う。


「岩尾すげえな。俺、ぜってえ無理だわそれ」

「夕食の余り分、詰めれば問題なくいけるぜ。てか。俺いつもそうしてる」


 横田家の弁当は大体余った物を詰め合わせただけだ。朝に作る時間を少なく出来るためだ。


「そういう手があるか」

「ま。今回は買うけどな。冷蔵庫大掃除キャンペーンで、お袋の邪魔をするわけにはいかねえし」


 冷蔵庫と冷凍庫の食材整理をするのも年末年始だ。期限が切れそうなものから優先的に使っていく。計算を狂わすわけにはいかないため、今回、横田は適当に昼食を買う予定だ。


「時間はどうするよ」

「10時で良いだろ。異存は」

「なし」


 楽しそうに笑う。12月29日、大掃除をすることになった。グダグダなお話はまた次回に。

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