第5話 隠しトラック

私の友人GくんはCDコレクターである。しかし彼が集めるのは市販されているものではない。ラブホやテレクラの音声を盗撮した音声CDや音楽マニアでも知ってるのがごく一部なほど無名なバンドのCDといった、一般には流通していないものを集めている。曰く、「こういったマニアックなものを買って自分の知らない世界が見たいんだよ。」と


ある日、Gくんはとある音声CDを手に入れた。それはとあるカルト教団が教団内で歌っていたオリジナルソングをまとめたものである。その教団は今は存在せず、眉唾ものな話だが教祖が集団自殺を行い全員死んだという。早速GくんはこれをCDラジカセに入れて聞いた。


全7曲で、順々に聞いていきとうとう最後の曲になった。もう少しでこの曲も終わるしCDを取り出そうと思いCDトレイを開けようとした瞬間、8曲目の表示が出た。Gくんはエッと思いながらも隠しトラックかなあと考えて聞き続けることにした。


8曲目は音楽ではなく多分教祖のであろう、説法であった。会場で直接録音したようで時折信者の祈りの声が聞こえた。ただ録音環境は悪かったみたいで

教祖が何言ってるのかわからない部分が多かった。


10分、20分経っても終わらずうんざりしたGくんは早送りボタンを押した。しかしなぜかラジカセは言うことをきかず通常再生のままだ。故障かな?と思った瞬間今まで聞こえづらかった音声が急に鮮明になった。

「これから私と皆様はこの汚い現世から抜け出して神のいる次元に行きます。」

直後に一斉にザバァとなにか水のような液体をかける音が聞こえた。まさか


次の瞬間燃え上がる音がした。

「熱い!熱い!燃える!」

このような叫び声が聞こえた。焼身を図った......

Gくんはそう察した。ただでさえ恐ろしいのだが更に戦慄することがあったという。

「笑ってたんだよ、全員。普通焼身自殺なんて図ったら泣いたり叫んだり苦痛の声を上げるのに笑ってるんだ。」

そのため最初Gくんは実は本当は焼身なんてしてないのではないかと考えた。ところがその考えはすぐに捨てなければいけなくなった。最初はうるさかった叫び声や笑い声が徐々に少なくなっていき最後には燃え盛る炎の音しか聞こえなくなった。我に返ったGくんはコンセントをぶち抜いた。早送りができなかったように停止ボタンも効かないと思ったのだ。


CDラジカセは先程のおぞましい音楽を停めた。

Gくんはすぐにトレイを開けた。するとCDは溶けていた。まるで火で燃やしたかのように。だが再生中はトレイからケムリが出ることもなかった。まるで

CD自身が焼身自殺を図ったかのようだった。


このようなことがあったためGくんはそのラジカセとCDをすぐに処分したという。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

怪談袋 石原陽光 @yoko42

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ