第10話 ミランダ・ドロレスによる処刑時間
練習部屋でみんなが声を揃える。
「ミランダ・ドロレスに見てもらえるなんてすごいね!」
「私ね、ミランダに憧れてこの学校に入ったの! やばい! 嬉しすぎる!」
「サイン駄目かな」
「どんな感じなんだろう」
「なんか怖いこと言われるかなぁ?」
「よし、俺達の魔法見せてやろうぜ!」
「ルーチェ」
トゥルエノが眉を下げた。
「さっきから何してるの?」
「土下座の練習」
「こら、遊んでないで練習しないと!」
(遊びじゃねえんだよ!!!!)
これはミランダ様に破門を言われた時のためのチャンスをください、お願いします、のポーズなんだよ!!
(やばい。とにかく、強い心を持って出来る限りやろう! 絶対叩かれる! 突かれる! 刺される!! 殺 さ れ る !!)
「ルーチェ、ほら、立って。やるよ」
「ん……うん……」
あたしは立ち上がり、昨日寝る前にアイスを食べながらトゥルエノと話し合ったことを思い出す。
「観光客に見せる魔法ってことは、つまり、この街を盛り上げるための魔法ってことだよね?」
みんなは海や湖の方に行ってたから、多分、そういう系統で来ると思う。被るのが一番つまらない。人がやってることをやっても相手が飽きる。
「じゃあ、やっぱり私達は森だね」
観光地を盛り上げるものって何なんだろう。
「紙に書いていこう」
・歌
・ダンス
・楽器の演奏
・サーカス
・名物
・その土地でしか見られないもの
トゥルエノが眉をひそめた。
あたしはスマートフォンにキーワードを入力した。幻想 森 検索。
(……あ)
「トゥルエノ」
スマートフォンの画像を見せると、トゥルエノも目を丸くした。
これなら明日でも出来るよね?
「これなら、確かにそんなに練習しなくてもいけると思う。でも、……緑魔法でここまで出来るかな?」
いや、……これなら、
あたしはスマートフォンで撮影した東の森を画面に映した。
「あたしが幻覚魔法使えば、どうにか出来ると思う」
あたしとトゥルエノがイメージする。森の景色を思い出す。あたしはいつでも思い出せる。だから幻覚魔法でその姿を見せる。トゥルエノは何度かスマートフォンで撮影した写真を見て、またイメージする。あたしとトゥルエノが杖を構えた。練習する。一回目。練習する。二回目。練習する。三回目。この時にはもう45分が経っていた。あたしとトゥルエノはもう一度集中してやってみる。四回目。五回目。六回目。みんなが座り始めて、もっとどうしたらよく見せれるか打ち合わせをし、だんだんお喋りを始めてきた。だけどあたしとトゥルエノは一切関係ないことは喋らない。トゥルエノが余計なことを言いそうになったらそれを切って練習しようと言ってやろうと思ったが、トゥルエノは一切余計なことは言わなかった。あたしと同じように、練習に集中してくれた。
「5分休憩。水飲もう」
「うん」
水を飲みながらトゥルエノと再度話し合う。もう一度東の森の写真を見てイメージを固める。お昼になった。
「ルーチェ、ランチ行く?」
「……ミランダさ……さんに見せるのって、何時だっけ?」
「14時に各チーム順番ずつ。終わったら16時まで自由時間」
「……その時間って……食堂空いてるよね?」
「夜ごはんもあるけど」
「トゥルエノ食べておいで。あたし、心配だから……見せてから食べる」
「……じゃあ」
トゥルエノが杖を握った。
「私もいらない。心配だもん」
「……」
「みんなが食べてる間に、練習しよう」
「……ありがとう」
「ううん。私がやりたいからやるの」
みんなが部屋から出て食堂に行ってる間、あたしとトゥルエノが部屋に残って練習を続ける。少しでもクオリティを上げるために。少しでも綺麗に見せるために。数時間ぽっちの練習で出来る事なんてたかが知れてる。この時間設定にしたの誰なんだろう。本当に無理。でもやるしかない。これがマリア先生やフィリップ先生、もしくはまた別の先生に見せるとかであれば、あたしは間違いなく食堂でランチを取ったことだろう。
見せるのは他の誰でもない。ミランダ様だ。
(出来の悪い弟子を持ったなんて思われたくない)
杖を振り、何度も唱える。
(やばい。間に合わない)
20回しか練習出来てない。もう一回、というところで、マリア先生が来た。
「それでは呼ばれたチームから隣の部屋に移動してください。名前が前の人からいきます」
(まだ時間ある!!)
「わっ、ルーチェ!」
「ぎりぎりまでやろう!」
あたしがトゥルエノを引っ張ると、トゥルエノも頷いて杖を握る。
(やばい。集中しろ。集中しろ!)
「ただいまー」
「お疲れー」
「なんて言われた?」
「もっとこうした方がいいよって」
「優しかった」
「お待たせ。次のチーム来てちょうだい」
「行こう。ベリー」
「うん!」
(大丈夫、大丈夫、大丈夫!)
「……なんかベリーとサーシャ遅くない?」
「あれ、いつ行ったっけ?」
「結構さっき」
(はっ、やばっ!)
「ルーチェ、一旦ストップ!」
「ご、ごめん!」
「大丈夫だよ。落ち着いてやろう」
「そ、そうだね! やろっ……」
「ぐすっ……!」
――泣いたベリーが部屋に戻ってきた。あたしは固まる。クラスメイト達がベリーとサーシャを囲んだ。
「え、どうしたの?」
「何言われたの?」
「やー……結構きついこと言われちゃって……特にベリーが……」
「ぐすん! ぐすん!」
「リンとメルは何言われた?」
「もっとこうした方がいいよって言われたー」
「優しかったよ?」
「あれじゃない? 子供組には優しくして、大人組には厳しくってタイプじゃない?」
「あー……」
――ここで、行く前は元気はつらつだった顔が沈んだ10代前半の子供組が戻ってきた。クラスメイトが二人を囲む。
「お帰り」
「二人は何言われた?」
「……障害者って言われた」
部屋の空気が凍った。
「どっちも……魔法……向いてないって……」
「障害者だから……別の道に行けばいいって……」
「向いてないのかな……」
「え、なんで……え……?」
「次のチーム」
呼びに来たマリア先生が部屋の空気に気づいた。泣いてる生徒が数名。しかし、何も言わない。
「次のチーム来て。ミランダが待ってるわよ」
――始まった。
(ミランダ様による……処刑の時間が……始まった……!)
それは子供組も大人組も関係ない。ミランダ様が良いと思えばOKだし、駄目と思えばNGだし。
「(殺される!!)トゥルエノ! やるよ!」
「はっ、あ、う、うん!」
「ぎりぎりまでやろう! 呼ばれるまで!!」
「う、うん!!」
「次のチーム」
(びびるな! 呼ばれるまであとまだ3チームある!)
あたしとトゥルエノが魔法を試す。一回。二回。三回。「え? 全然優しかったけど?」きょとんとした顔のクラスメイトが戻ってきた。次のチームが呼ばれた。あたしとトゥルエノが必死に魔法を繰り返す。一回。二回。「ぐすっ!」泣いてクラスメイトが戻ってきた。次のチームが呼ばれた。一回、二回、三回の途中で「怖かったー……」「私って障害者なの?」と喋りながら戻ってきた。マリア先生が呼びに来た。
「次のチーム。トゥルエノ、ルーチェ、来なさい」
練習してた腕を止めて、二人で顔を見合わせる。汗を流すトゥルエノが頷く。
「……行こう。ルーチェ」
「……あ、待って。水飲む」
「あ、私も」
「二人とも、書くもの持ってった方がいいよ。アドバイスくれるから」
「あ、ありがとう。そうする」
(うわー……こええー……)
ノートとえんぴつを持って二人で隣の部屋に行く。
「失礼します!」
「し……失礼します……」
部屋に入ると、奥で足を組んだミランダ様が待っていて、長テーブルにはセーレムが転がって遊んでいて、あたしを見て動きをぴたっと止めた。
(……やっほー。セーレム……)
おう。やっとルーチェが来たか。俺もお前の魔法見てやるよ。せいぜい頑張れよな!
「にゃー」
(っていう目だな。あれは……)
「研究生クラス。トゥルエノ・エルヴィス・タータと……」
「同じく、研究生クラス。ルーチェ・ストピドです」
「「よろしくお願いします」」
「……じゃ」
ミランダ様が両手を上げた。
「好きなタイミングでどうぞ」
トゥルエノが息を吐く。あたしは深く深呼吸した。マインドコントロール。あたしは今から『お客様』に『魔法』を『楽しんでもらう』。
目を開ける。トゥルエノと目が合う。頷く。トゥルエノが杖を構えた。あたしは杖を構えた。息を吐き切って――思い切り吸う。
さあ、魔法を始めよう。
「地面よ壁よ、姿を変えよ。我の思う通りの姿となりて、頭を見よ、思考を見よ、我はこの姿を求める」
瞼を閉じて、あたしの魔力が幻覚を作り上げる。頭の中に思い描くイメージを魔法として表に出す。この空間はあたしのテリトリーだ。ミランダ様、ここは部屋ではありません。東の森です。二番目に意地悪な森です。あたしは目を開けた。森が出来上がっている。大きな木が立ち並び、いつまでもいつまでも木が続いている。ここにいると迷子になってしまうだろう。そんな森の空を見上げてみよう。黒い雲が流れているではないか。ゴロゴロと音が鳴り、今にも雷が落ちそうだ。その通り。落ちるのだ。
「雷よ、稲妻の光と共に落ちていけ。闇夜を駆ける竜のよう。暗闇走る落雷よ」
雷が木に落ちた。セーレムがびくっとしてミランダ様の肩に走った。雷が落ちた木には色がついていた。ピンク色。トゥルエノは踊るように杖を振った。するとまた雷が落ちた。当たった木には色の電流が流れ、光り輝く。今度はもっと濃いピンク。また雷が落ちる。色はどんどん濃くなってどんどん紫色になってくる。気が付けば、まるで森がアートのような光に包まれていた。夜にやれば美しいことだろう。光魔法とは違う電気魔法が木に光をもたらす。電流がばちばちと音を鳴らしてぶつかり合うが、不思議と怖くはない。花火のようなワクワク感がある。電流の色が混じりあい、ここはただの森ではなく、美しい電流の光で包まれたグラデーションに彩られたアートの森となる。
「フィナーレ」
あたしが唱えると、闇が電流の光を徐々に覆っていく。どんどん光が小さくなっていく。どんどん、電流が、弾いていた光が薄くなって、小さくなって、どんどん、見えなくなっていき――あたしの幻覚魔法が切れた。部屋は部屋に戻る。
「……以上、です」
トゥルエノが頭を下げた。
「ありがとうございます」
「……ありがとう……ございます……」
頭を下げながら、あたしは思った。
(噛んだ)
最後のフィナーレの呪文。
(噛んだ。言葉滑った。「フィ」がふにゃんってなった)
ミランダ様が息を吐く。
(よし、終わった。……終わったんだ……)
――さーあ! 愉快で楽しい処刑タイムの始まりだー!
(ルーチェ、逝っきまーす!!)
あたしは震える手でノートとえんぴつを持った。お手柔らかにお願いします……!
「……今のは、東の森だね?」
「っ」
「あ、そうです」
言葉を詰まらせたあたしの代わりに、トゥルエノが返事をした。
「ストピドさんが隠れスポットを教えてくれて、東の森を参考にしました」
「ここは港町のはずだけど、観光客に森を勧めるのかい?」
「海や湖が素敵なところだというのは、この街にきた人であれば見てわかると思います。だからこそ、裏側にある森にも魅力があるということを、魔法で表現しました」
(トゥルエノ、コメントが素晴らしい……!)
「なるほどね」
ミランダ様が考え込み、口を開いた。
「勿体ないね」
「え?」
(ん?)
「あの電気魔法、触れると感電するだろう? 危ないよ。子供が真似したらどうするんだい?」
「……あ……」
「感電しない電気魔法を研究するんだね。案外、簡単に出来るよ」
「感電しない電気魔法ですか?」
(それって、もはや電気魔法なのか?)
「静電気はどうして起きると思う? 衣服の摩擦、花粉、乾燥。色々原因はあるけど、一番は人間の体に電気が流れていて、そのバランスが悪くなると静電気が起きやすくなる。魔力でバランスを整えれば手が触れても全く感電しない電気魔法が出来上がる」
「あ……」
「知り合いの電気魔法使いもそういう研究をしている」
「ロアンヌ・マクベガーさんとかもそうですよね?」
「ああ。そうそう。あいつもそうだよ。魔法で人に迷惑をかけないように研究を続けてる。魔法は人を助けるものだからね。だから勿体ないんだよ。電気の魔法自体は綺麗だった。すごくね」
「っ、あ、ありがとうございます!」
「で」
鋭い視線を感じて、あたしは目をそらした。
「お前だよ。そこの灰色」
「……あい……」
「……幻覚魔法発動時の魔力の調節がちゃんとコントロール出来てる。このクラスで唯一幻覚魔法を使ってたのはお前だけだよ。もっと自信持ちな」
「……。……はい(あれ?)」
「依頼を頼みたい人間は自信のない魔法使いに仕事は頼まないよ。お前は「私なんて全然駄目な魔法使いなんです」って奴に大切な依頼を頼むかい?」
「……いいえ。頼みません」
「出来てることのレベルは落とさず、そのまま経験値を上げていきな。魔力のコントロールが出来るなら次は発声や滑舌を優先させて、それが出来るようになったさらにその上のレベルでの魔力のコントロールを目指す。そうやって積み重ねて、ようやく自分のものになる。天秤ってあるだろう? あれが元の位置に戻らず、どんどん上に伸びていって伸びていってっていうイメージだよ」
(なるほど)
「発想も悪くなかったし、この短時間でまともに見れる状態まで持ってこれたのは偉いって褒めておこうかね」
(え!? ミランダ様がお褒めの言葉を!?)
「ま、当たり前なんだけどね」
(デスヨネー)
「ありがとうございます! 頑張ります!」
「あ、そうそう。マリア先生から二人に昨夜のペナルティについて頼まれてたんだけどね」
トゥルエノとあたしに絶望の雷が落ちた。
「エルヴィス、16時からB館6階廊下の清掃」
「……はい……」
「ストピド、お前は説明するから一旦ここに残りな」
「ひぇっ!」
「今回のペナルティは魔法を使っての実習も兼ねてる。廊下の清掃は魔法でやりなさい」
「わかりました……」
(ランチ行けるかな……)
「ん。そういうわけで、おしまい。エルヴィス、5分後に次のチームが来るよう伝えてくれるかね? お疲れ様」
「はい! ありがとうございました! ……じゃあね、ルーチェ。お先」
「……うん……」
トゥルエノが先に部屋から出ていく。
「失礼します!」
「はいはい」
トゥルエノがドアを閉めた。――途端に部屋の中が静かになった。あたしは呼吸が出来なくなった。しかしその一方で、セーレムは大きく伸びをして、穏やかな欠伸をした。
「ふわああ。見学も案外楽じゃねえな。あと何チーム残ってんの?」
「5チームだね」
「ミランダ、俺思ったんだ。障害者は言いすぎじゃね?」
「何が言いすぎなのさ。びっくりしたよ。魔法使いになりたいくせにプロの魔法は見ません。でも私の魔法は見てください。なんだい。成功例を見ないでどうやって成功する魔法を研究するっていうんだい? 何の魔法を参考にするっていうんだい? とんでもない天才がいて、独自で世界に通用する魔法を生み出す奴がいるならぜひ会ってみたいけどね、そんな奴は私の知ってる限り会ったことがないんだよ。生き残ってる魔法使いは全員誰かの真似をして、真似なんて出来るはずがないから真似と真似をミックスさせて、それを自分のものにしていってる奴らばかりさ。それも研究のたわものだよ。それを苦だという奴は一人もいない。みんな楽しくてやってる。馬鹿みたいにね。だから人の真似事だとしても、自分の技として磨いて生き残って活動して生活出来てるんじゃないのさ。それをしてない、興味ない、でも魔法使いになりたいです。支離滅裂。『障害者』って言って何が悪いんだい? 差別用語だなんて関係ないね。この業界はね、『障害者』は通用しないんだよ」
「熱くなるなって、面倒くせーな」
「『いつもやろうと思ってるけど結局出来ないから諦めてる』ってなんだい? でも『魔法使いになりたい』。なりたいならつべこべ言わず反復練習するんだよ。繰り返すんだよ。繰り返してない奴なんていないよ。一日100回、200回。それを一ヶ月繰り返せば3000回。31日になら3100回。そこまでやっても出来ないならもう向いてないよ。でもプロはやってるからね。やらなきゃいけないから睡眠時間も食事する時間も削るのさ。だけど闇雲に練習するだけでは成功しない。だから成功例を見るっていう近道が存在するのに、どうなってるんだい。このクラス。だからプロになれないんだよ!」
(ひい!)
ミランダ様があたしに書類を投げつけてきた。怖いよ! あたしは震える手で書類を拾い集める。
「出会った頃のお前を思い出したよ。こんな空気感なら腑抜けたお前がいても納得する」
「み、み、みんな泣いてましたよ? そんなに酷かったんですか?」
「最低レベルで、お前達くらいまでの出来で仕上げてこないとこっちも何も言えないからね。持ってこない奴が多かっただけさ」
「(うわあ……。ランチ抜いてまでやって良かった……)でも練習時間が足りない中、みんな頑張ってここまで仕上げたんですよ……?」
「頑張ったら未完成でもいいのかい? この業界、そんなに甘くないよ。発表はこの時間だって事前に連絡があったんだろう? じゃあ間に合わせるのがお前達の仕事だよ。8時間ぐっすり寝てる暇があったら一時間でも早く起きて練習するべきだったね」
(それはマリア先生の魔法がかかってて……いや、言うのやめておこう……。こうなったら何言っても止まらないし……)
「研究生クラスだろうがなんだろうが関係ないよ。こっちはプロだよ。プロに見せる以上、それ相当のものを仕上げてこない奴には、かける言葉もないんだよ。でもお前達からしてみれば、これは絶好のチャンスだったはずだよ。このミランダに魔法を見てもらえるんだからね。私、この魔法で貴女以上の魔法使いになりたいんです! ぐらいの奴がいてもいいと思ったんだがね! お前含めて!!」
(ぐさっっっ!!)
「ったく、イライラするね。なめられたもんだよ。思い出作りならさっさと辞めちまえばいい!」
「……その……叱ってない子達は……仕上がってたということでしょうか……?」
「もちろん。魔力のコントロールも出来てて、発声も綺麗で、魔法も安定してる。そういう子は見込みがあるからね」
「あの、トゥルエノは……どうでした?」
「あの子は見込みあるよ。顔が可愛いからアイドル枠から行けばすぐデビューできるんじゃないかい? あの見た目は金になる」
「……」
「ルーチェ、ビジネスはそんなものだよ。そういう形でプロの魔法使いとして伸し上がっていった若い子も、私は見てるよ」
「……嫌な世界ですね」
「志望人数が多いくせに規模が小さい業界だからね。……はあ。もうこんな時間かい。ペナルティの話をするかね。このチェックが終わり次第すぐに東の森に行く。ルーチェ、ついてきなさい」
「(え、東の森?)あたしがですか?」
「ペナルティだからね。雑用だよ」
「ああ、そういう……」
「そういうことだよ。知らない奴よりお前の方が勝手がわかるだろ」
「ああ……」
「わかったら魔法書でも読んで待ってな」
「はい……」
あたしは拾った書類達を長テーブルに置いた。
「じゃ、これ……」
「ん」
「それじゃあ、あたしは、あの、これで……」
「……正直、お前をどう突いてやろうか、わくわくしてたんだけどね」
(うっ!)
「他のがレベル低すぎて、お前を突く言葉が出なかったよ」
ミランダ様が書類に目をやった。
「障害を持ってるのはお前なのにね」
あたしは瞬きし、ミランダ様は顔を上げないまま書類を見る。そこには、クラスメイト全員の顔とプロフィールが載っていた。
「もういいよ。行きな」
「……はい」
「細かいところはまた後で言うからね」
「うぐっ! ……し、失礼します……」
「じゃあな。ルーチェ。また後で」
あたしは部屋から出ていき、隣の部屋に戻った。次のチームの人達が嫌そうな顔をした。クラスメイトに囲まれる。
「お帰り。ルーチェ」
「遅かったね。何言われた?」
「あ。……もっと、じ、自信持ちなって」
「あー」
「レイラは何言われた?」
「私はねー」
(……)
「あ、ルーチェ」
トゥルエノがあたしに歩いてくる。
「大丈夫だった?」
「あ、うん。ペナルティの話さ、されただけだから」
「内容は?」
「ミランダさ……ミランダさんがし、ひ、東の森に行くから、そのお手伝い。雑用だって」
「え、大丈夫?」
「うん。まあ。ペナルティだから」
「……ごめんね。ルーチェ。私が様子見たいとか言わなければ……」
「いや、あれは……仕方ないでしょ。部屋で待機してる方がおかしいって」
あたしとトゥルエノが時計を見る。15時。
「ち、ちょっと時間あるね」
「ランチ食べてく?」
「そうだね。軽く食べよう」
「「……」」
「はー……」
「終わったー……」
二人で安堵の息を吐き、食堂に歩いて行った。
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