第9話 現在
「というわけで、こ、こ、ここに……来た……す、次第……です」
変な香水の匂いがあたしの背筋を撫でる。
「あ、あ、貴女の家だとは、知りませんでした」
目の前にいる魔女は紹介状に目を通している。
「色々、悩み……まして、……でも……何かしないと納得で、で、できないと思って……覚悟を、決めてきました」
紺色の瞳があたしを睨む。
「ミランダさん」
あたしは深く頭を下げた。
「弟子にしてください!」
「帰れ」
「……」
「弟子は取らない」
「……え……いや……あの……」
顔を上げると、ミランダがマリア先生の手紙を破いた。
「あっ!(ド♪)」
ミランダがマリア先生の手紙を丸めてゴミ箱に投げた。
「あっ!!(レ♪)」
ミランダは更に指を鳴らすと、ゴミ箱が燃えた。
「あーーーーーーーー!!(ミ♪)」
「こんな事故物件を私に押し付けるなんて、マリア先生にはクレームを出さないとね」
「先生の手紙が! ああ! 燃えてる!! チ、チリ、チリと化している!」
「さ、わかったら荷物を持ってさっさと帰るんだよ」
「ミ、ミラ、ミランダさん! あ、あ、あたし、アパートは丁度契約更新時期だったので、っ、更新しませんでした!」
「だから来るのがこんなに遅くなったのか。あの事件から何か月経ったと思ってるんだい」
「帰る場所はありません! こ、ここ、ここで寝泊まりできないと、あたし」
「なら外で寝ればいい」
「でも!」
ミランダが指をぱっちんと鳴らすと、強い突風が吹き、あたしを家から追い出した。家の前に転がると、持って来た鞄がほっぽりだされ、扉が閉まった。
「っ! ミランダさん! ミランダさん!」
あたしはドアを叩いた。
「弟子にしていただくまで、こ、ここ、ここからい、一歩も動きません! あたし、覚悟を決めたんです!」
あたしはそう言って、土の上に膝を抱えて座り始めた。
第一章:魔法学生の憂鬱 END
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