最終話 ありがとうスライムマスター
「ん、んん……」
ガンガンする頭を揺すりながら、体を起こす。
どうやら寝過ぎたみたいだ。今は何時だ……?
「おろ?」
目を開くと、そこは不思議空間でした。
俺はいつも通り自宅で眠っていたはずだ、それなのに目の前には真っ白くて何もない空間が広がっている。どこなんだここは?
「攫われたのか? いやでもあいつらがいるし、そう簡単に攫われるとは考えにくいけどな……」
となると後は夢ということになる。
ここまで鮮明な夢は見たことがないけど、まあ偶にはそんな変な夢を見てもおかしくはない。
なんせここ最近は大変なこと続きだったからな、脳が疲れてこんな不思議な夢を見てしまったんだろう
「そうと分かれば……寝るか。寝れば起きたとき元の場所で目を覚ますだろ」
夢の中で慌ててもしょうがない。
俺は開き直ってその場にごろんと横になり目を閉じる。
さて、寝るか…………
『キクチよ。目を覚ますのです』
「へあっ!?」
突然頭の中に流れる声。
驚き飛び起き辺りを見渡すが誰もいない。いったいなんなんだ!?
『ここです、あなたの正面にいます』
「正面……?」
声の通り正面を見るが誰もいない……と思ったけど、ようく見てみると僅かに空間が歪んでいる。
恐る恐るその部分に手を伸ばしてみると、ぷに、よ指に柔らかい感触がする。この感覚は身に覚えがあるぞ。
「もしかしてスライム……?」
目の前にあったのは、超巨大なスライムだった。
全長十メートル以上はある、規格外のデカさ。体が透明だったので気がつかなかったぜ。
『いかにも、私は全スライムの母『マザースライム』です。お会い出来て嬉しいですよキクチ』
「はあ……それはどうも」
謎のスライムに頭を下げて挨拶をする。
ひとまず敵意はなさそうだ。仲間のスライムが一人もいないこの状況で襲われたら太刀打ち出来ないのでホッとしたぞ。
「この不思議空間に呼んだのもあんたなのか?」
『はい。ここはこの星の魂の休憩所『
「いや、それは別に構わないけど……帰れるのか俺は? 俺って死んだわけじゃないよな?」
『はい、もちろんです。そもそも今のあなたは魂だけの存在。肉体は元いた場所でぐっすりと眠ってますよ』
「そうか。なら良かった」
ほっと胸をなで下ろす。
仲間も増えて楽しくなってきたというのに、寝てる最中に気づくことなく死ぬなんて御免だ。
それに空たちも悲しむだろうしな。あいつらを置いて死ぬわけにはいかない。
「それで話ってなんなんだ?」
『……私はあなたに謝罪しなければいけないことがあります』
「謝罪?」
考えてみたけど謝られる理由が思いつかない。そもそも初対面なのに何を謝られるのだろう。
少しの沈黙の後、マザースライムは驚きの事実を俺に伝える。
『キクチ、あなたをこの世界に呼び出したのは私なのです』
「……え、ええ!?」
明かされる衝撃の事実。
そういえば何でこの世界に来たのか、最近全然考えてなかったな。
なんか次元の歪みに巻き込まれて……みたいな超常現象なのかと思っていた。まさかこの大きいスライムのせいだとは。
しかし……だとしたら納得だ。
俺の体に宿った謎能力『スライムマスター』。
一体誰がこの能力をくれたのかと思ったけど、スライムマザーだったんだ。
「しかしなんで俺をこの世界に? しかもスライムマスターなんて能力をくれたんだ?」
『キクチ、あなたはスライムが好きですか?』
「へ?」
なぜか質問を質問で返された。
しかしこの質問にも意味があるんだろう。ちゃんと答えなくては。
「スライムたちのことは好きだよ。みんないい子でかわいいからな」
『そうでしょう、我が子たちはみないい子なのです』
スライムを褒められ、マザースライムは嬉しそうに体を振るわせる。
『我が子たちはとてもかわいく、聡く、そして強い。しかし発音能力を持たなかったために他の種族と交流を持つことが出来ませんでした。彼らはスライム同士で話されば十分と思っていたので不満はなかったようですが、私は他の種族にもスライムの素晴らしさを知って欲しかった。ただの弱いモンスターだと思われたままなのは余りにも可哀想過ぎます』
「なるほどな、気持ちは分かるぞ。あの可愛さを知らないのは罪と言ってもいいからな」
『ふふ、あなたとは仲良くなれそうですねキクチ』
マザーと心を通わせてしまった。
クリスも連れてきたらスライム談義は尽きないだろうな。
『私は探しました、スライムと他の種族の間の架け橋となってくれる存在を。しかしこの世界の人間には「スライムは弱い存在」という既成概念が根付いており、その役割は担えないと判断しました。中にはスライムが好きな人間もいましたが、逆にそのような人にスライムマスターの能力を与えてはスライムに入れ込みすぎると判断しました。必要なのはスライムを対等に接してくれて、そして他の人との架け橋になってくれる理知的な人物でした』
「なるほどね、それでこの世界の人じゃない俺が選ばれたってわけだ」
『はい。そして見事あなたはスライムと他種族の架け橋となってくださいました。おかげで我が子たちも以前より楽しそうに暮らしています。本当に感謝しています』
感謝したいのは俺の方だ。おかげで元の世界にいた時よりも、充実した生活を送れてるのだから。
「だけど俺以外にも俺の世界にはたくさん人がいるじゃないか。なんで俺だったんだ?」
『こちらの世界に連れてこられるのは亡くなって間もない方のみです。偶然私が呼び出そうとした時の少し前に、あなたは亡くなったのです』
「じゃあ俺が選ばれたのは本当に偶然だったんだな」
『いえ、完全にそうではありません。私があなたの世界の人を呼ぼうとした時、何百人か候補がいました。その中であなたを選んだのは、その心に暖かさを見出したからです。見知らぬ人に我が子を預ける、不安もありましたが私は賭けに勝ちました。その能力を託したのがあなたで良かった』
そんなに褒められると恥ずかしくなるな。
誤魔化すように頭をポリポリと掻きながら俺は答える。
「俺の方こそありがとう。こんな素敵なセカンドライフを送れるなんて夢みたいだよ。あ、そうだ、あんたも俺たちの村に来ないか? 騒がしいが中々楽しいと思うぞ?」
『ふふ、それは魅力的な提案ですが、それは出来ないのです。私は世界の楔。ここから離れることは出来ません』
楔?
よく分からないけど、なんか複雑な事情があるみたいだ。残念だな。
「じゃあ、何かお礼をさせてくれよ。こっちに来れないなら俺にも何か出来ることがあるんじゃないか?」
『そんなに気を遣わなくても大丈夫ですよ。私の願いは既に果たされています。今まで通り、子どもたちと楽しく暮らして頂ければそれ以上の幸せはありません』
「……そうか。分かった。じゃあしっかり俺があいつらを幸せにしてやる。だから安心してくれ」
『はい。我が愛し子たちを、よろしくお願いします』
マザースライムが慈愛に満ちた声でそう言うと、俺の体が透け始める。
どうやら帰る時が来たみたいだな。
「じゃあな、また会おう」
『はい、星が巡り合うその時、また
――――こうして、俺とマザースライムの不思議な時間は終わった。
あれからしばらく経った今でもこうして覚えているってことは、多分夢じゃないんだと思う。
ありがとうマザースライム。ここに呼んでくれて、スライムと出会わせてくれて。
おかげで俺は今日も楽しい時間を過ごせている。
「おい空! お前また俺の分も食べただろ!?」
「しらないもーん」
「キクチ様! まだあるので安心してください!」
だからそっちで安心して過ごしてくれ。
こっちの事は俺に任せな。
「キクチさん! おっきなモンスターが村の近くに現れたっす!」
「何だって!? この前もドラゴンを追払ったばかりじゃないか くっそ! お前ら準備しろ!」
今日も俺は謳歌する。
騒がしく、愛おしいこの日常を。
「行くぞ野郎ども! スライムマスター菊地、出陣だ!」
完
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【あとがき】
「謎スキル『スライムマスター』のせいでスライムにモテモテになった件」を最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
本作は3年前に執筆した作品になります。拙い箇所は多々あったとは思いますが、楽しんでいただけたなら幸いです。
もしよろしければページ下の【☆☆☆】ボタンから評価して頂けると嬉しいです!
現在他にも面白い小説を書いておりますので、そちらも読んでいただけると嬉しいです。
よろしくお願い致します!
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謎スキル『スライムマスター』のせいでスライムにモテモテになった件 〜最弱と名高いスライムですが実は最強の力を持っているみたいです〜 熊乃げん骨 @chanken
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