バレンタイン2022

『パッション・オブ・セント・バレンタイン』

 

 

◎タイムスリップ事件簿シリーズ◎

 

 

 

◎馬蓮太院◎
馬蓮太院和尚。カカオ豆を投げて鬼退治をした逸話が伝わる。各地に創始した寺院が存在する。

 

 

◎カカオ豆◎
暖かい地方でとれるとされる野菜。チョコレート加工装置に投入することでチョコレートが精製される。中央アイサにおける重要な輸出品。



さて今回の事件は!ある年のバレンタインの出来事だったおまえたちはご存知だろうが今回礼三郎の坊ちゃんが向かうのは九姫市の外れにある大超克寺。馬蓮太院和尚が創立した寺である!『ここがそうっすよ』彼らを先導するのはコートを着た自販機、ウリヒコである。『なるほど』礼三郎は乗り気ではない。


なぜならば今日は秋那の誕生日であり、なおかつなぜか秋那がついてきたからだ。なぜ彼らがここに来たかというと、手紙が来たからだ。しかもその送り主の名前は“タイムスリップ・チョコヒコ”。チョコヒコはかつて礼三郎に敗れ消滅したはず。バレンタインの魔力が彼を幽霊めいて蘇らせたのだろうか?


『すごい!ふんいきがあるわね!』秋那は適当なふわふわしたことを言っている。秋那は自販機が歩いているのをみて一瞬たじろいだが、先輩なれしたおかげでそういうものと自分を納得させることができた。『ここに新手の先輩がいるのね!』秋那は先輩とタイムスリップ者の区別がついていない。


おまえたちはご存知の通り、タイムスリップ者は筋肉という現実改竄能力を最大拡張し次元を昇格し邪悪なる現実改竄志望者と化したミーム汚染の受肉めいた存在である。『まあちょい違うっすけどね』自販機の説明に頭を抱える秋那だったが先輩のちょい違うやつとの認識を得た。『ありがとう自販機先輩』


自販機先輩、つまりおまえたちの認識するウリヒコにチョコレートを渡し説明の礼とした。だが雰囲気がおどろおどろしくなってきた。『ふんいきがおどろおどろしくなってきたわね』晩冬にも関わらず肝試しの雰囲気だ。『きもだめしのふんいきね』寺の前に墓地があるのだ。しかも!ゾンビが倒れている!


『いや、ゾンビではない!即身仏だ!』即身仏とは生きながら仏を目指すもの達であり、この世界で言うならアレだ。まあともかくおまえたちはこの者達がチョコレートを食らい続け全身をチョコに置換しようとチャレンジした超克即身仏である。だが秋那は知らないので『だいじょうぶ?』


彼らはチョコレートを食べすぎた結果、このようなチョコゾンビと化してしまったのだ。そのため、彼らにチョコレートは逆効果である。だが非常に運が良いことに秋那の配るチョコレートに微量のアーモンドが含まれており、そのアーモンドが彼らの生命を救ったのだ。秋那は知らないのでそのまま進んだ。


そして奥に進むと元凶が居た。筋肉隆々の尼である。後ろにある書道が恐ろしい書体で“馬蓮太院”と書かれている。『よくぞきた』『おまえは何者だ!』自販機が尋ねた。『外道タイムスリップ者よ、我はタイムスリップ・チョコヒコ』『もういるぜチョコヒコは』『なんだと』チョコヒコ尼が顔をしかめた。


『ならば我が名はタイムスリップ・真チョコヒコとでも名乗ろうか?』『ふざけているのか?』礼三郎がしびれを切らした。かつてのチョコヒコと決闘を愚弄されたと思ったのだ。そして礼三郎が放ったタイムスリップの拳はチョコヒコ尼ではなく中空に撃たれた。牽制ではない。『ぬう、やはり気付くか?』


尼の身体の上からチョコレートの亡霊が姿を現した!『貴様!馬蓮太院だな!』自販機が叫んだ!『然り、よくぞ気づいた。我こそはマッスル聖教の伝道師馬蓮太院である!邪悪なるタイムスリップ教団よ!滅びるが良い!』チョコレート亡霊馬蓮太院が指を振るとチョコ書道が展開される。“まっすぐにmuscle”


『待て!ウリヒコはもう野良タイムスリップ者だぜ!』『む、そうか?ならば我が要件を聞くが良い!』馬蓮太院はペースを崩さない!『のっとっているの?』秋那が口を挟む。『そうではない、我はこの者の身体を借り礼三郎、おまえを試そうというのだ』『試す?』『然り』馬蓮太院が実体化していく!


馬蓮太院は先程述べたチョコ即身仏への修行を完遂し全身をチョコレート置換することに成功しそのことによってタイムスリップ昇格を果たしタイムスリップ者となった。馬蓮太院はタイムスリップに至ることによって真理の一端に触れこの世界の裏に潜む邪悪を知覚してしまったのだ。だからこそ馬蓮太院は!


『さあ、アームヘッドに乗れ!デンジャラスパーティを始めよう!』本堂を破壊しながらチョコレートに包まれたアームヘッドが出現!『このアームヘッドは我が盟友の名を取り霊場庭院と呼ぶ!』霊場庭院が礼三郎に向かって一撃を放つ!純白のアームヘッドがそれから3人を庇う!エーデルワイスだ!


『離れているんだぜ』秋那をウリヒコの自販機弥生に託しエーデルワイスはチョコレート霊場庭院と対峙する。『100万カロリーといったところか、言っておくが我は1億ギガカロリーである!』チョコレート霊場庭院が合掌すると半壊した社屋と墓場の景色から一転、銀色の地面と無限に広がる地平と変わる。


『さあ我に最大の技をみせてみよ。絶望させてやろう』霊場庭院が挑発的に手招きして両手を広げ、避けない意志を表現する。礼三郎の現時点での最大の攻撃手段は二重タイムスリップを乗せた秋那直伝の必殺技万物破壊手刀ジエンドである。二重タイムスリップは必中、単タイムスリップ者に対して無敵だ。


礼三郎は挑発に乗ることにした。馬蓮太院はおそらく邪悪ではない。このタイミングで馬蓮太院が姿を現したのはタイムスリップ・サダヒコと最終決戦に挑む自分に足りぬものを教えるため?馬蓮太院が礼三郎にはすべてストロング達とダブって感じられた。『行くぜ!馬蓮太院!』『さあきたまえ!』

二重タイムスリップとはタイムスリップ中にタイムスリップすることによってタイムスリップ者が非タイムスリップ者に対しするようにタイムスリップの一撃を与えることができる。おまえたちは不意の時間から放たれる一撃をかわせるだろうか?二重タイムスリップの必中とはつまりそういうことだと。


『たしかに、その通りだ。タイムスリップは現代改竄能力と言えよう』二重タイムスリップの必中の一撃は馬蓮太院に当たった。しかしそれは更なるタイムスリップによって無かったことにされた。『な……』『タイムスリップの本質はバタフライエフェクトにある!』『バタフライ?』『教えてやろう!』


チョコレートとは!蝶!と刻!バタフライと時間から構成される!全身がチョコレートである馬蓮太院にはその本質がすぐに理解できた。強大なタイムスリップ者になればなるほど蝶程度の挙動で時間を操作できる!『タイムスリップ・サダヒコは最大の現実改竄をしようとしている!それがヤツの救世だ!』


『な……!』礼三郎には話のスケールのせいで馬蓮太院に絶望させられる暇などなかった。『我々はそれに対抗するため、霊場庭院を結集しその数のパワーでこの世界を守らねばならん!』『……』礼三郎は無言で更に構えた。更なる筋肉対話をなすため、馬蓮太院の真意を理解するため。そしてサダヒコの、


あり得た自分自身の絶望をどうすれば乗り越えれるのか。秋那に会えた自分はサダヒコの運命から救われたのか?『まだやる気か?』馬蓮太院の霊場庭院はバタフライエフェクトのタイムスリップチョコレート鎧に因果的に守られている。馬蓮太院のいう圧倒的なカロリーがこれを実現させているのだろう。


チョコレートのカロリーをタイムスリップパワーに変換しバタフライエフェクトのパワーにより相手のタイムスリップを上回り因果的に無敵になる能力を調和ゴーストハスクと名付けた。無数の必中のはずのジエンドが虚無のタイムスリップの彼方へと消え去った。だが礼三郎の心に絶望は浮かばなかった。

かつてタイムスリップ・アキヒコは言った。自分は初めて二重タイムスリップに達した者だと。ならば二重タイムスリップの歴史は浅い。たとえ馬蓮太院が三重四重のタイムスリップをしたとしてそれを上回るタイムスリップすれば良いだけでは?考えるまでも無いことだった。『真チョコヒコと言ったな?』


馬蓮太院の感情は憐憫から呆れ、驚きへと代わることになった。『ちょうどいいぜ!サダヒコがなにを考えているか知らないが、あんたがちょうど良いスパークリングパートナーになってくれそうだぜ!』エーデルワイスの筋肉が増していく!


秋那とウリヒコが気付くと大超克寺の本堂に居た。『終わったぜ!チョコくれたし良いお坊さんだったぜ!』『礼三郎くん!だいじょうぶだったの?』『秋那さんのチョップめっちゃ強かったぜ』


寺から去っていく3人をあたしと馬蓮太院は腕を組みながら眺めていた。『どうだった?』『メアリー・スー、おまえの言う通りだった。いや予想以上だった。我が、プッタネスカに飛ばした礼三郎のチョップはプッタネスカをかなりオルタナに後退させた』それをあたしに言う表情がおまえたちにも見える?


『だがプッタネスカのカロリーは5000兆テラカロリーをゆうに超える。人智を超えたカロリーをプッタネスカを我々は、いや彼らと退けねばならんのだ』馬蓮太院は顔を引き締めた。


終わり

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