アームヘッド・ホリデー・コレクション

みぐだしょ

2021クリスマス

『俺の家にサンタが来たことはなかった』

親父パパはいつも言っていた。ウチにはサンタは来ない。プレゼントが欲しければ、自分で会いに行け。そう言っていた。


『クリスマス・ギフト』(レター・デイ・オブ・カタストロフ)


 力の6時間!それは12月24日21時から12月25日の3時までのことである。多くの男女が愛の道場ジムに行き、筋肉を鍛えているのはおまえたちのご存知の通りである。力の6時間とはイチリュウマンバイビの如く筋肉を鍛える効率が良い日ボーナスデーなのである。それは聖人の威光が筋肉に作用しているからだと思われる。だがそのようなボーナスデーでも筋肉を自ら鍛えることを忌避する者達も存在する。トレーニングをせず筋肉を得ようとする者達が群がるのが筋肉自販機である!このようなクリスマスの日ですら筋肉自販機には人々が群がる!

『ハムストリングス!』

『下腕の筋張るところ!』

様々な筋肉が売っているのだ!筋肉自販機とはいったい!おまえたちはチカラ・パワー錠を売っていると思うだろう!だがここはそんな非効率な方法を使わない!ここで筋肉を買うと直接そこの筋肉が不思議な力により強化されるのだ!しかも邪悪なことに筋肉自販機は無料では無い!無料だと怪しまれるからだ!

『うおおお!安い!どんどん買うぜ!』

『全部の筋肉を買おう!』

『腹筋を6つ買うぜ!』

だがこれが罠なのだ!

『ククク、人類は愚か』

自販機が喋った!だがそれに驚く者はもう居ない。筋肉を買った者達は全員運命彦神徒サダヒカントと化しているからだ!この邪悪な計画を考え出したのはタイムスリップ・ウリヒコなるタイムスリップ者だ。そうタイムスリップ・ウリヒコとはおまえたちの予想通り、筋肉を鍛えてタイムスリップした自動販売機である!彼はタイムスリップ教団における聖騎士、ウォッチャーだ。

『これで我々の安易な筋肉を求める者達を運命彦神徒にする計画は順調よ!さあ行け!おまえたち!クリスマスを筋肉で彩るのだ!』

運命彦神徒と化した筋肉乞食達はクリスマスの街へ消えた!このままクリスマスに邪悪な筋肉によって汚されてしまうのか!だが喋る自動販売機に向かって蹴りを放つ者が居た!自動販売機荒らしだろうか⁉︎否!礼三郎である!

「筋肉が救い」「神は言った、鍛えろ」などというポスターが乱雑に貼られている。アームヘッド最終反乱以降の混乱で人々は破滅から逃れようと筋肉を鍛え始めた。いわゆる筋肉終末思想である!そのような群集心理をついた邪悪なタイムスリップ教団の邪悪な計画は礼三郎に察知された!

『タイムパトロールの姉ちゃんが言った通りだぜ!』

『チッ、テメーは礼三郎!』

おまえたちは知らないだろうが私達タイムパトロールは、タイムスリップ犯罪者を追う正義の組織である!頭がハンドルの怪しい男やメガネとネコのコンビ、タイムスリップ教団の邪悪を捕まえるのが使命である。今回は現地の協力者の不良を派遣した!ちなみに私はメアリー!よろしくな!一方で礼三郎は!


エーデルワイスに乗り、自動販売機フラガラッハと対峙していた!二機の人型ロボ、アームヘッドがクリスマスの街中に立つ!先に仕掛けたのはエーデルワイスだ!すでに礼三郎はウリヒコレベル実力の時間聖騎士たちを葬ってきた!この程度の弱敵は軽く倒せると踏んだのだ!だが、それは甘かった!

『フン!』

自動販売機フラガラッハの筋肉が肥大!自分で売る筋肉によるドーピングなのだ!『俺をただの自動販売機だと思っていたのか?甘いやつめ。俺は自ら売る筋肉によってパワーアップできるのだ!』恐ろしい筋肉肥大した自動販売機フラガラッハはまさに恐るべき筋肉達磨と化している!その速度は異常!

エーデルワイスは一旦距離を取る!

『距離を取ったか!甘い!ジュースのように甘い!』

自動販売機フラガラッハの自動販売機のお釣り口から小銭が発射される!青白く光る小銭はまさしく超光速のタイムスリップ速度!

『ぐわーッ!』

エーデルワイスが吹っ飛び!礼三郎の乗るコクピットが大きく揺れる!

『これで終わりか?未来のサダヒコ様も大したことねえなぁ〜!』

自動販売機フラガラッハがニヤリと笑う。

『チッ』

その時だった!一つのビルの上に赤と白の存在!老人だ!赤白のコスチュームを纏った筋肉隆々の老人が腕を組んで立っている!ビルの上に立っている!まるでサンタだ!

『ホッホッホ』

『ワシの名はタイムスリップ・アカシロヒコ!そこの髪型が特徴的な若者!苦戦しているようじゃな!ワシのプレゼントでパワーアップせんか?』

『テメーは誰だ!怪しいヤツ!』

自動販売機フラガラッハがアカシロヒコを訝しんだ!

『ワシはタイムスリップ教団じゃったが目覚めたのじゃ、チカラをやろう』

サンタが俺のもとにやってきた?礼三郎は思った。ここでパワーアップすればこのチーター自販機を倒すことができる。だが礼三郎の頭に過ぎったのは父と思い出とある日のクリスマスの事だった。アームストロング家のクリスマスは近所のマッスル峠を登ってそこにいるサンタに会ってプレゼントを貰う事だった。マッスル峠は父ダディ三郎の作ったマッスルトレーニングタワーでありその頂上に父とサンタが待っていた。さらに思い出は続く。


そうサンタはウチに来ない。サンタは会いに行くものなのだ。そして俺のサンタは……。あれは最終反乱の前のことだった。俺がただの不良をやめたクリスマス。俺はティガーの家に遊びに行った。そこで俺は世界で一番美しいサンタに会った。たまたまサンタの格好をした秋那さんに会ったのだ。


『俺のサンタはッ!』

『俺のサンタはこんなところに居ねえッ!』エーデルワイスはビルごとサンタめいた老人をチョップ破壊!『なぜわかった!』タイムスリップ・アカシロヒコが邪悪な正体を現した!頭がトラバサミのフラガラッハだ!『俺様はタイムスリップ・ワナヒコ様よ!』アカシロヒコはワナヒコだった!

メアリーが別のビルの上でその様子をみて言った。



『サンタの
正体みたり
トラバサミ』


『安易なパワーアップが良くないのはおまえ達が教えてくれた事だぜ』

『ちぃ、俺達の運命彦神徒を量産してその中から新たな救世主を選別する計画がおじゃんだぜ!』

自動販売機フラガラッハが笑う!

『なあにこいつを倒して再開すれば良い事よ!』トラバサミフラガラッハも笑う!

『それはできない相談だぜ!』エーデルワイスが消えた!

『トラバサミィィィィ!』

トラバサミフラガラッハの悲鳴!

『トラバサミィィィィ』

2撃!

『トラバサミィィィィ』

3撃!エーデルワイスの筋肉が肥大する!

『な、何をするッ!』

自動販売機フラガラッハが狼狽える!

『パワーアップさせてくれるって言ったのはこいつだぜ?パンチ力増大を頼もうかと思って』

雪が降り始めた。トラバサミフラガラッハのフレームを流れる赤い擬似体液がその雪と交わりまるでサンタのような赤白となった。

『メリークリスマス』

メアリーは呟いた。聖なる夜は邪悪なタイムスリップ者の存在を許さなかった。

『トラバサミ……』

トラバサミフラガラッハは断末魔をあげた。邪悪なるタイムスリップ筋肉トラバサミ存在は爆発四散した。

『次はおまえだ』

エーデルワイスがゆったりと歩み寄る。

『ひいぃい』

自動販売機フラガラッハは悲鳴をあげた。かつて彼がただ自動販売機であった頃には存在しなかった感情である。恐怖だ。

『おまえの作った運命彦神徒はレインディアーズのクニヒトが全部始末したぜ』

エーデルワイスが腕をポキポキと鳴らした。

『つまりクリスマスはもう終わりだ』

『許して』

自動販売機フラガラッハが命乞い。

『二度と悪さはしないか?』

『はい、一生エナジードリンクの自動販売機として過ごします』

自動販売機フラガラッハは自ら腕をもぎ歩く自動販売機と化す。

『二度と悪さするなよ、もし悪さをしたらわかっているな』

『はい』

おまえたちは甘いと思うだろう、だが礼三郎は聖夜の邪悪なやりとりに飽き飽きしていたのだ。

自動販売機は感動のあまり号泣した。だが、自動販売機フラガラッハの足が切断!

『甘いですね、先輩は』

『フユヒコ!』

『フユヒコ様!』

『ウリヒコでしたか、よくやりましたね。このままタイムスリップに還りなさい』

『許して』

『は?』

フユヒコのイペタムがチョップを構えた!

『逃げろウリヒコ!』

エーデルワイスが手足の無い自動販売機を蹴り飛ばす!自動販売機フラガラッハはそのままタイムスリップ消失!

『あのような者を庇うとは……』

『俺とやるか?フユヒコ』

『ふふふ』

イペタムが構えた。

『やめましょう、もうクリスマスも終わりですしね』イペタムは構えを解いた。

『また会いましょう』

そういうとタイムスリップ・フユヒコのイペタムはタイムスリップ消失し何処かへさった。

こうしてクリスマスの悪夢は終わった。遠い未来、傷ついたエナジードリンクを売る自動販売機が終末の世界で人々の希望となったのはおまえたちの知るところである。彼は言っている。

『メリークリスマス』

メアリーはこうしてクリスマスの報告書を書き終えた。

『クリスマス・ギフト』終わり

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