平等な街
僕らの街は誰もが平等だ。誰かが言ったんだ。
「人々には個人差がある。身長、体重、顔、頭の良さ、色々ある。こういうのが良くない。こういう差があるから我々は他人を見下したり、妬んだりしてしまうんだ。だから、我々は個を捨てなければならないのだ」
その人に同調した人々がこの街を作った。その人たちは初めにある一定の基準を作ることにした。50メートルを何秒で走れるとか、この問題は何分で出来るとか、そういう基準を作る。そうやって人々を画一化していく。そして、ある一定の基準に合致しない奴は、皆殺しにした。彼らは速く走れる者を許さなかったし、同時に遅い者も許しはしなかった。彼らには、そういう者たちは不要だったらしい。最初に呼び掛けた奴もその基準に見合わなかったせいで殺されたらしかった。
その基準が制定されて街の人々から表情が消えた。顔にも人それぞれ違いがあるから、どうやらそこから人間という奴は差別に繋げるらしく、全員が仮面を被らされるようになったらしい。肌にはいつも緑のペンキを塗って、皆一緒の色に染まった。
その街の主は、どっかの自称天才科学者が作り上げた人工知能で、そいつが街の管理運営をしていた。街の管理というのはつまり、人間の管理も含まれる。人々は自らの運命にさじを投げてしまったらしかった。
この街の純培養人間である僕にとって、緑の肌は当たり前の事だったし、仮面は必ず付ける物であって、別に自分を偽るための道具と言う訳でもなかった。仮面も、緑の肌も、僕等を縛る為にあると言う意見は多分、正しい。
僕らは誰かを傷つけるのが嫌だから個を捨て、自分達を画一化する事で邪念を殺した。そうやって自らを縛り付けていかないと、僕らは他人が許せなくなってしまうのだろうと思う。
自分とは違う、他者と比べた時の自分の情けなさにむせび泣き、つまづいてしまう。人間というのは、そういう弱い生き物なのだと思う。だから彼らは優れた人々も、劣った人々も抹殺してしまったのだろう、と僕は考えている。妬みや劣等感、そして優越感に対して、彼らは抗うことが出来なかったから、その前に「やってしまおう」そういう単純な理由だったと思う。
……そういえば、僕はこの街の主であるAIとやらと話したことがあるんだ。やけに人間くさいAIもいたものだと思ったよ。人間を殺したくない。そう嘆いていたよ。
どうして、悩み、苦しむように作ってしまったんだろうね。彼は凄く苦しそうだった。……彼はね、僕に変わってほしいと言ったんだ。もちろん断ったけれど。え? どうして断ったって、そりゃあ僕はそんな恐ろしい選択なんて、責任なんてとてもじゃないけど要らないよ。人間が制御出来なくて、さじを投げたものを背負うなんて、僕は出来やしないよ。
瞳の色。前々から思っていたけど、君の瞳って凄く綺麗だよね。まぁ、君にとってはくり抜いてしまいたいものかもしれないけど。でも、とても良い色だと思うよ。赤色の瞳なんて僕は素敵な色だと思うけど。君の色だから。
その仮面を取ってよく見せて欲しいな。ほら、素敵な色だよ。それに、綺麗な顔立ちだと僕は思うよ。君だけが持つ、仮面を外した君だけの顔だから。
おっと、そろそろ僕の番みたいだね。ま、規格外の奴が処分されるのは仕方のないことさ。
君に会えて良かったよ。こういう出会いがあるから、人と違うっていうのは辞められないんだよね。
殺されるのを君に見てほしくないから、目をつぶっていてほしい。
君の瞳には、似合わないから。
腫れ物の夜雨他 サトウ @satou1600
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