喫煙宣言

東 哲信

喫煙宣言


 「タバコは哲学だ、タバコは私なのだ!」 そういう熱にうなされた主張をしていた時代もあったような、なかったような。

 尤も、科学が証明できることはタバコが体に悪いという事実や、その詳細についてのみであり、これもかなりの値打ちを有する存在ではあるけれども、彼我が吸うべきか否かを決定するのは顛末として個人のココロ、人生観、もっと当たり障りなくいうなれば哲学観なのである。したがって、タバコで30年の寿命が縮むという科学による事実を目の前にしても、タバコを吸い続けるバカというか科学より哲学が勝ってしまう人間もよくあるもので、喫煙者の中にも少なからずこの部類が存在するのではなかろうか。尤も、はなっからタバコで寿命が縮むはずなどないよ、さぁ、どんどん吸ってこう、などという人もあるけれども、彼がやっていんのは雅な紫煙じゃなくて宗教だろう。いずれニコチン陛下バンジャイなんて言って死ぬるのか、無様に泣き散らして死ぬるのかは知れないのだけれども、科学を見ないふりしちゃいけない、現実を見ないふりしちゃならんよ。いつだってそうだ、こいつらに反して行動するときは決して後悔せぬ決心を見据えなきゃならんのだ。だから、覚悟を据えてタバコを吸わねばならない、タバコを吸うということは、その無気力なあり様のうちに秘められた反科学、超唯心論的行為の極みであり、この点を了解できぬものはちり紙でも巻いて吸っていればよい。


 だけれどもだね、こいつには副流煙というやつがあって、主流煙よりよっぽどの実害があるそうな、尤も、周りの人間が吸い込むであろう副流煙は、喫煙者との間にある空気に何倍も希釈されたものだから、こいつが主流煙より実害があるとすれば、タバコのフィルタってやつはすごいよ、三元触媒にも劣らん。まぁ、なにはともあれ、タバコを吸ってない人間からすればこの副流煙ってやつはたまったものじゃなかろうね。彼らはタバコが健康に悪いという科学に基づいて生きている。もっと言えばタバコという価値をあらかじめ棄却して生きているわけなのだから、彼らが喫煙者に受けてきた仕打ちといえば十字軍の進行と変わらんね。だから喫煙者だって配慮が必要だし、もっと言えば国家は公共財として副流煙に暴露されない環境を創生すべきなのだ。僕は国になんでもやってくれとすがるのは嫌いだけれども、しかし一部の喫煙者ってのは宗教家で、十字軍で、科学は偶像だ、ニコチン陛下バンジャイと言っている連中なのだから、市民運動では手に負えないね。法という人権侵害で制圧せねばならないよ。というか、これはもうすでに実行されている法律で、健康増進法とかいうものらしい。つまるところ、今のご時世にあっては、タバコを表で吸うこともできないどころか、パチンコに飲み屋と、そういった類のところまで禁煙だといわれるのだ。しかもこの流れに乗じてか、実際に法律に定められているのかは知れないが、喫煙所の数も格段と減っているという徹底ぶりだ。

 話しは変わるが、おいアメ公、オッペンハイマー、ピカだってそうじゃないか、お前ら、原爆が理論上可能ということをたたき出したは良いけど、ありゃやっちゃダメだろうね。戦争ドンパンガッシャラポンは兵隊さんでやり合うべきだよ、女、子供を巻き込んじゃならん。ピカを作れるという科学がもたらした事実は、必ずしもピカを落としてよいという価値につながるものではなかったはずである。というか、これはどのことにも言えて、事実と価値に因果律なんてものは、はなっから無い。だからこそ、いくらタバコが悪いという事実があるにしても、いくら副流煙がワルだとしても、少数派の価値も尊重しましょう!なんて馬鹿な手間のかかる民主主義で国を回している以上、喫煙場所を減らすという行為は甚だ誤りなのである。やるべきなのは分煙である。多数派で社会を仕切る、これを全体主義という!健康増進法は戦後まれにみる全体主義、ホロコースト、カポネを生み出しかねない悪法である。     

 我々喫煙者はこの非道なるファシスト共に対して聖なる灯火をもって戦うのである。ほこりとけむりある民主主義人民として戦うのである。

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