空職人

藤枝伊織

第1話

 私が空に黄昏色のパネルを貼り付けていると、となりで只野ただのくんがぶつぶつと呟いた。


「黄昏はせわしないですねぇ」


 私は時計を確認する。

 そうだ、せわしないのだ。秒針をみながら少しずつパネルの色を変えていく。完全に暗くならなくては夜部門に交代ができない。このパネルも毎回その部門の人たちが紙を重ねて作り色を塗る。あえてムラがあった方がきれいに見える。均一すぎると嘘っぽくなってしまうから。グラデーションを作るのだ。ただ紙がよれていてはいけない。空が捲れていたら恰好がつかない。責任者が一つ一つ丁寧に確認をする。そうやって黄昏の短い時間のために毎日毎日作っていく。


 大まかな天気は決まっている。だが、雨のやつらは許さない。

 気まぐれが過ぎるのだ。急に雨を降らせることがあるからその都度私たちの仕事が変わってしまう。

 昼間の部門は特にごまかせない。晴れの予定だった場合手持ちのパネルは晴れしかないから、空は青いのに雨という状態になってしまう。でも私たちは職人だからその時々に合わせて色を瞬時に塗り替える。せっかく塗った熟れたオレンジのような色を、泣く泣く灰色に塗り替えたことが何度あっただろう。


 仕方ない。黄昏を作るのが私の仕事なのだから、私は責任をもってやっていくだけだ。

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空職人 藤枝伊織 @fujieda106

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