お~ま~け~

「ミリア…ただいま。」

ある春の日の午後、昼を少し過ぎた時間帯。

黒い髪に黒い瞳の中年のおっさんが、小さな石碑の前で膝を付いて花を供えた。

豪奢な甲冑を身に纏い、光を反射して輝く金色の剣を腰に佩いて、鮮やかな赤いビロードのマントを風に靡かせていた。

「聞いてよ。俺さ、魔王倒すのに15年もかかっちゃったよ。んでさ、知ってると思うけど途中で結婚したのよ。娘が8歳、息子が5歳。かわいいよぉ。旅の途中の王都で、うっかり巨乳のお姫さんに手ぇ出しちゃってさ。あ、もちろん愛してるよ。そこは安心してよ。んで、…遅くなってごめん。頑張ってきたよ。」

いい年したおっさんが、少年の様な口調で石碑に話しかけた。

後ろに控える騎士たちは、それを見て聞いていても表情を変えず微動だにしなかった。

「結局、もふもふのケモミミに触れなかったなぁ。絶対気持ち良かったと思うのに、残念だよ。ミリア。俺さ、明後日にはこの国の王様になるんだよ。英雄王だってさ。ただの生意気な小僧だったのにね。笑っちゃうでしょ。」

ほんのりと口元に笑みを浮かべながらも寂し気な様子のおっさんの頬を、風が優しく撫でて行った。

「この国は、亜人・獣人・人族関係なく笑える国にするよ。あと、今、醤油と味噌の開発に勤しんでる。昔、二人で懐かしがってたじゃん?今更だけど、最初のあの時に衝撃を受けたトイレの改善もしてるよ。俺、頑張るからさ、見ててよね。師匠。」

そう言って、おっさんは立ち上げって、綺麗に直角な礼をして帰っていった。

その後ろを何人もの騎士が、付き従っていく。

石碑のあった丘に優しい春の風が吹いて、今日も賑やかな街の喧騒が届いていた。

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勇者の育成とか、マジめんどくさいって… あんとんぱんこ @anpontanko

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