さよならは、笑顔で
「ミリア、俺行くよ。今まで、本当にありがとう。絶対に魔王倒して、帰ってくるからさ。帰ってきたら、今まで一度も触らせてくれなかった、そのもふもふのケモミミを触らせてよ」
23歳になったタイシは、私にそう言って宿を引き払って出て行った。
「無事に帰ってくることを願ってはあげるけど、耳は触らせるわけがないでしょう?おバカさんなの?さっさと行ってこぉい。ほら、みんなが待ってる。」
私は、いつも通りの言葉と態度で、タイシを送り出した。
宿屋の外には、タイシと共に魔王討伐に旅立つ仲間が4人、タイシを待っていた。
彼らは、私に頭を下げてくれた。
タイシを育成する間に亜人獣人の人権は、この街ではだいぶ改善された。見下した視線も消えたし、騙されたり蔑まれることも無くなった。
私は、ソロとしての活動もしながら、最近増えた初心者への講習会の先生的な依頼もチラホラとしている。
他の亜人も獣人も暮らしやすくなったらしく、たまぁに、ホントにたまぁにお礼を言われる。
私が何かをしたわけではないのだけど、彼らが日々を穏やかに過ごしていられるなら嬉しい。
タイシは、組合の巻き毛巨乳ちゃんに昨日出立の挨拶もしてたし、宿屋のおっちゃん夫妻にもお礼と挨拶もしてた。
ちゃんとやれば出来る子じゃんか、タイシ。
6年前は、あんなにめんどくさくて、うざくて、暑苦しくて、我儘で、勝手な男だったくせに…
タイシは10日ほど前に組んでいた冒険者の付き添いで教会に行った時に、あの「いかにも女神」からの神託を享けたらしい。
「しばらく息を潜めていた魔王がもうすぐ目覚めるから、なんとかして。国王とか偉い人とかには、さりげなくタイシが勇者の素質ありとして何とかしとくから。」
との言葉を受けて突貫で支度を整えていた。
やっと、(仮)が取れて本物の勇者になる。しかし、頼むにしてももっと厳かにとか、なんかあるだろう…「いかにも女神」は本気でポンコツなのか?と疑いたくなる。
タイシの姿が見えなくなって、私はやっと、宿屋の入り口からダイニングの様な場所に移動した。
はじめてタイシと食事をした時から、もぉ6年ほどになる。次に一緒に食事をするのは、いつになることやら…なるべく早いと嬉しい。
この世界の獣人は、成長が早い代わりに短命だ。人族の2倍速で成長して、平均寿命は40歳。
亜人は反対に倍の時間をかけて成長して、平均寿命は150歳。人族の平均寿命は80歳。
タイシが帰ってくる頃には、私はおばぁちゃんか骨になってるか…
まぁ、まだしばらくは冒険者でいられるし稼げるし、「いかにも女神」からふんだくったお金も実はまだ残ってる。
もし、私が死ぬまでに戻ってこなかったら、私の遺産は孤児院か教会に寄付してやる。
あと私のやることは、「いかにも女神」に頼んでいたことの結果を聞く事くらいだな…早く教えろよ、のろまなポンコツ女神め…
まぁ、なんとなくわかっているとは言え、気になるっちゃ気になるよね。
また、明日から老後に向けて頑張ろうかね…
「ミリアさん…生きてます?」
上から覗き込む「いかにも女神」。相変わらず、いかにもな感じで長くてうねうねした髪を揺らしている。
「なに?あんたがお迎えなの?嫌なんだけど。イケメンにしてしてくんない?」
「ふふふ。相変わらず、お口の悪い人ですね。私は、調査結果を伝えに来ただけですよ?」
綺麗な微笑みを綺麗に返してくる。以外と強かな女だな…この女神。
「遅くない?待ちくたびれたんだけど。私、もぉご老人なんだけど?」
私は、多分もうすぐ死ぬ。
30歳で、冒険者は引退した。実際には、もっと前からヨボヨボのロートル扱いだったしね。
その後は、たまに聞こえてくる勇者の活躍を聞きながら後進の育成に心血を注いできた。42歳を迎えて、送り出した冒険者は人族・亜人・獣人まとめたら100を超える。
今は、動きにくくなった体を必死に動かしながら生きている。
「だって、早くに聞いたら忘れちゃうでしょ?だから、待ってたんですよぅ。貴女はいつでも私を待たせてるんですぅ。」
迷惑な…そんなこと、知るかよ。出会いからして、迷惑な女神だったけども…
「あっそ。ところで、タイシは魔王討伐できそうなの?もぉ、10年以上でしょう。あんたも助けてやんなよ。あんたが連れてきたんだからさぁ。丸投げは、女神としてどうかと思うよ?」
「タイシさんは大丈夫ですよ?それに、女神チートで補佐してるじゃないですかぁ。これでも結構頑張ってるんですよ?私。」
やっぱりその綺麗な微笑みなんだね…なんかムカつく(笑)
「まぁ、それならいーけど。で?報告は?」
「あ、やっぱ気になります?聞きたいです?あ、殴らないで。言うから。」
うっかり出会った頃くらいの勢いで殴るところだった…っても、体動かないんだけどさ。
「貴女が記憶を持っていた理由は、タイシですよ。神谷大志を勇者タイシに育てるため。ご苦労様でした。ご褒美は、何がいいですか?私、これでも女神だし、ある程度は、ご希望を聞きますよ?」
「そんなことだと思ったよ。苦労が半端なかったからね。どうせ、亜人獣人の地位の向上も聖女で失敗したから勇者に絡めようとしたんだろ?まぁ、いいや。そか。ご苦労さん」
私は、何となくわかっていた答えに、妙に納得して息を吐いた。ご褒美か…まぁ、決まってるわな。
「で、ご褒美だけどさ…まず、死ぬとき痛いのは嫌。そんで、次は記憶とかマジで要らない。覚えてたら殺す。で、金持ちで健康で美しくて強くて、愛されて生まれて愛されて死にたい。優良物件と結婚したいし、子供も2か3人は産みたいね。孫やひ孫に囲まれて死ねるような幸せな人生を送りたい。それと、あんたとは二度と会いたくないかな。どうせタイシには、もう会えないだろうし。あと、私のことはタイシには教えなくていい。こんなもんかね。」
言いたい放題だったかな?ま、言うだけタダよね♪
「色々と多いんですけど。まぁ、記憶に関しては胸を叩いて請け負いますし、死ぬ時も痛みは消してあげれます。私からは報告はしないことにします。ひ孫まで見れるかは分かんないですけど、幸せになって下さい。んじゃ、聞くだけ聞いたんで帰りますねぇ~」
ひらひらと手を振って遠ざかる女神に怒鳴りたい。しわがれた声しか出せないとしても…
結局、テキトーじゃねぇか!なんだよ、「幸せになって下さい」って!
最後まで責任もって私を、幸せにしやがれぇぇぇぇぇ‼
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