料理は得意……?
Ψ
「へっくしゅん! へっくしゅん! へっ……」
くしゃみのし過ぎで呼吸ができなくなる、ということはあるのだろうか。
少しずつ収穫をしているのだが、近所に配っても配っても配っても配っても、いっこうに無くならぬ大豊作。ここしばらく天気が穏やかなので、収穫時に使用する
そんな雑然とした景色の中。落ち葉を
あのような厚着、腕が自由にならず、掃除も大変なのではないかと思う。見かねた宗克が代わってやろうとしたのだが、見た目によらず強情なきぬは、受け入れない。それならばと箒を奪おうとしたのだが、半纏で隠すように抱きかかえられてしまい、断念した。
今日は休講日である。小試験を終え、一心地着いた時期なので、日中からミルクホールで新聞を読んで過ごした。昼食後、家の門を出る時までは、きぬはあれほど
「へっくしゅん!」
また一つ、くしゃみが響く。案外大きな声だった。
「義姉さん、そろそろ中に入った方が」
呆れ半分に言ってみれば、きぬは
「そうだね」
その声は、まるで変声期の少年のようで、申し訳ないとは思いつつも、笑いをかみ殺すのに難儀した。
朝晩は底冷えする時期。けれども陽射しが
しかしきぬが、あまりにも寒そうにするので、長火鉢に火を入れて玉露を淹れた。湯呑を手渡す時に微かに触れた義姉の指先が、冬の井戸水のように冷たい。対照的に、襟巻の上に乗った顔が、発熱のために赤らんでいる。
「今日は早く休んだ方がいいですよ」
「でも」
「でももかももないですよ。良いから早く寝てください」
「うん、だけど宗克さんたちの晩ご飯……」
そのような心配は無用である。外食に行けば良いだけのこと。高熱があっても腹が減るのだろう食欲お化けのきぬには、土産でも買って来てやればいい。それか、一人分の病人食くらい、宗克にだって作れる。
宗克が答えようとしたところ間が悪く、玄関で引き戸が滑る音がした。義真が帰って来たのだろう。日中は出版社に行くと言っていた。
帰宅の気配を察し、健気なきぬは腰を上げる。
「お帰りなさい」
聞き慣れぬ
「きぬ、か?」
「うん、きぬです」
義真は黙ったま眉根を寄せる。きぬは今にも眠りに落ちるのではないかというほど、ぼんやりとした
「兄貴、今日は外食にしよう」
きぬを
「別に、兄貴と出かけたいとかじゃないけどさ、風邪ひいている義姉さんに負担かける訳にはいかないだろ」
「熱があるのか」
やっと合点がいった、という様子の義真。そしてその口から、恐ろしい言葉が発せられる。
「では、俺が夕餉を作ろう」
「あ、ううん。大丈夫!」
「いや、外食にしよう!」
きぬと宗克の必死の声が重なって、二人は顔を見合わせる。この時ばかりは、きぬの意識も明瞭になったようだった。
義真は、何をどうしたらそうなるのだろうか、というほど、料理が下手である。米を炊かせれば歯が折れるほどのおこげ
「遠慮するな」
いや、遠慮とかじゃなくて、と口をついて出かけた言葉は、きぬののんびりとした声に阻まれた。
「二人こそ遠慮しないで。それより、おいしいお土産買って来てね」
にこやかに言われてしまえば、実は尻に敷かれている義真のことだ。素直に頷く他ないのである。宗克は今宵の晩飯として、無事文化的な料理を食すことができるとわかり、胸を撫で下ろして兄を促す。
「ほら、義姉さんもああ言っていることだし、早く行こう」
義真は
きぬは、出されたものが人間用の食材であれば、何でも胃に放り込むのだろう。例えそれが
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