ねごと

◇2022/3/2(水) 晴れ◇




 冬高に放課後がやってきた。

 今日も俺とふたりの後輩は、部室で掘りごたつに入り、ぬくぬくだらだらしている。


 外は寒くてもこたつはあったかい。心地よすぎて、後輩たちは寝てしまった。ぬくもちゃんは仰向けになり、メラニャちゃんはこたつ机に突っ伏して。風邪引くぞとたしなめたけれど、「ひきませーん……」「問題はない……」とか言ってそのまま寝息を立てている。俺は仕方なく、膝掛けを引っ張り出してふたりの体にかけてやった。


 こたつに座り、漫画・ジョジョの奇妙な冒険第七部(いまアニメやってるのは第六部)を読みながら穏やかな時間を過ごす。

 ジャイロとウェカピポのバトルが佳境に入ったあたりで、ぬくもちゃんの声が聞こえてきた。


「むにゃむにゃ……もう食べられないですよぉ……」


 寝言だ……。

 しかもすごい古典的な寝言だ。


「もう食べられらい……歯がないので……」


 ぬくもおばあちゃん。


「もぐもぐ……」


 結局食べるんだ。


「一方そのころ、モヒカン男は……」


 何が始まんの?


「へぇー、ここがモヒカンレストランかぁ……入ってみよう……」


 モヒカンレストラン、何?


「ウィーン」


 自動ドアが開いたな。

 だめだ、読書は後にしよう。ジャイロとウェカピポの激闘も気になるけどこんなの聞かせられていたら集中できない。


「ん……うぅーん……」


 今度はメラニャちゃんが吐息まじりの声を漏らす。


「おい、モヒカン……さっさとキャットフード出せにゃん……」


 寝言でモヒカンに反応してる。奇跡だ……。


「キャットフードですね。ご注文は以上でよろしいですか?」


 そしてぬくもちゃんが応える。何で寝言で会話が成立するんだよ。

 メラニャちゃんが猫?の役で、ぬくもちゃんがレストランの店員かな。


「よろしいでモヒか?」


 モヒカン店員の個性出してきたな。


「いいから早く持ってこにゃいとじたばたするにゃんぞ……」


 かわいい。


「お待たせいたしました。牛丼のオムライス~味噌ラーメンを添えて~でございます」


 キャットフードどこいった。


「おいしそ~。いただきにゃ~す」


 違和感を覚えろ。


「お客様、召し上がる前に返り血を拭いていただかないと……」


 レストラン来るまでに何があったんだよ。


「この血の刻印が見えるということは、貴様……僕が皆殺しにしたモヒ族の末裔かにゃん?」


 シリアス展開きた。


「モヒヒッ、その通り……そしてこちらが当店の人気メニュー・チャーハンです……私はあの恨みを片時も忘れたことはない……」


 料理はちゃんと出す。


「ほう……これが『私はあの恨みを片時も忘れたことはないチャーハン』かにゃん……」


 メニュー名だったんだ。


「ではいただくにゃん……もぐもぐ……これは青酸カリ……」


 死んだ!?


「トッピングの世界樹の葉が絶妙だにゃん……」


 HP全快で生き返った……。


「おいしくなーれ……おいしくなーれ……」


 ぬくモヒカンちゃんがオムライスにおまじないをかけている。


「萌え萌えスンッ」


 冷静になっちゃってるじゃん。


「んぅー……むにゃ……」

「ふぇ……」


 それきり寝言タイムは終わってしまった。俺は唖然としながらふたりの奇跡的な会話を聞いていたのだが、今のをスマホで録音しておけばよかったと気づく。

 またいつ劇が開幕してもいいようにスタンバっとこう。

 ……。

 ……。

 でもなかなか来ないな。

 奇跡はなかなか起こらないから奇跡ということか……。


「むにゃ……第二話『死闘』」


 きたああああああああ!!!!!!

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