フェブラリー斎藤、参上!w
◇2022/2/28(月) 曇り◇
部室の掛け時計の音がコッチッコッチッ鳴っている。
俺と後輩と後輩その2は掘りごたつに入り、各々が各々のことをしていた。
俺はぼんやりとしながらみかんを剥き。
後輩のぬくもちゃんはこたつ机に置いたスマホを指先でスワイプし。
後輩その2のメラニャちゃんは真剣な面持ちでトランプタワーを建造している。
話のネタが一旦尽きてしまったのだった。沈黙が訪れ、暇になったメラニャちゃんが建築を始めてから数分が経つ。既に三段になっている。構造を見ると、たぶん、五段のタワーを建立するつもりだ。
集中しているところを邪魔してはいけないと、俺はみかんをひょいぱくしながら黙っている。ぬくもちゃんもそれは同じなようで、固唾を飲んで見守っている。
四段目が完成した。メラニャちゃんはすぐに最上段に手をつける。
ここまでくる早さもすごければ、正確性もすごい。全然ズレとかがなくて安定している。かなり順調だ。
最後の二枚が尖端となり、遂にタワーは完――――
「フェブルァリィィィィィィイ!!!!!!!(勢いよく開く扉と現れる変人)」
完、成――――
「あなたがたがこたつ部の皆さんですね? お初にお目にかかります! 私、冬北高校の冬季限定部活動のひとつ! 『二月部』の部長・フェブラリー斎藤でぇっございます! ンンン~~~ッッFebruary!!!!!(『2』の形の決めポーズ)」
か、かん――――
「えー皆さんのなかには二月部って何なの?と思われている方もね、いらっしゃるかもしれません! ですのでね、まず説明のための紙芝居を用意してまいりましたのでね、ここで披露させていただきます~。オッフンエッフン。……むかぁ~しむかし、あるところに……」
かん……
「あるところに二月が二十八日しかないことに憤慨する私フェブラリー斎藤がおったそうな……」
「ブチッッ」
「ああ~メラニャちゃんがキレた音~~」
しばらくして、部室外の冬空の下、パンツ一枚の姿で十字架に磔にされたフェブラリー斎藤は荘厳な表情で目を閉じ、うなだれた。その様子を俺とぬくもちゃんはこたつでぬくぬくしながら窓越しに眺める。そうこうしている間にメラニャちゃんのトランプタワーが完成した。
「よし。フェブラリー斎藤とやらの墓標代わりのタワー、完成だ」
「お墓立ててあげるなんて、キャロチュピカさん優しいです」
「ふふん、そうだろう。あ手が滑った」
墓標はメラニャちゃんの気まぐれで破壊された。斎藤の目に一粒の涙が光った。
「ところでぬくもちゃんはさっきからスマホで何見てんの?」
「助けてくれないのか!?」※斎藤
「
「ぬくもちゃん優しい。そうだな。楽にしてやろう」
「その言い方だと別の意味に聞こえます」
結局フェブラリー斎藤を助けた。それどころかこたつに招いてもあげた。ぬくもちゃんの提案である。
「(ガチガチガチ)ありがとうございます(ガチガチガチ)」
「あ、はい……せいぜいあったまってください……」
「で、フェブラリー斎藤。二月部って何なんだよ」
「二月は二十八日までしかない。明らかに不公平だ。二月にも二十九日と三十日と三十一日を追加すべきだ! そんな問題意識から爆誕したというのは建前で真相はおれ自身が総合型選抜で既に大学合格が決まっちゃって時間が余ったから高校最後の思い出にと思って暇つぶしに設立した謎部活なんだよね」
「ぶっちゃけるなあ。てか俺と同じ三年なのか」
「君がこたつ部部長? 初めまして。斎藤卓也、十月生まれです」
「オクトーバーじゃん」
俺は斎藤に熱い緑茶を注いだ湯呑を寄越してやる。「ありがて~」と言いながら斎藤はちびちびと飲んだ。そんな彼を、ぬくもちゃんは特に意識するでもなくスマホを眺め、メラニャちゃんもまた完全無視で文庫本を読んでいる。
「高校最後の思い出ねえ。全裸で磔にされてたけど思い出になった?」
「パンツだけ温情で残してもらえたが? いや、こたつ部とかおでん部とか、いろいろある中で、おれもなんか名を残したかったんよ。冬高の七十七不思議に名を連ねたかったんよ。で、実際に『冬高秘密探偵団』に接触することに成功してさ」
「冬高秘密探偵団って、『七十七不思議大全』を編纂してるっていう、あの?」
冬北高校には七十七不思議がある。七不思議のやばいバージョンのそれは、謎の集団によって規定されているらしい。その名も冬高秘密探偵団。俺もよく知らない。
「で、登録されたわ。七十七不思議に。二月部が」
「へー、おめでとう」
「次の目標は三月部を設立してまた七十七不思議入りを果たすことだな」
「もう来週俺ら卒業だけど大丈夫か?」
「ガハハ」
「
メラニャちゃんが嫌悪のトーンで言う。斎藤めっちゃ嫌われとる……
「すみませんな後輩女子。体を温めたら帰るさかいなー」
「冥府に?」
「それは死ねって言ってる?」
「でもなんか斎藤、初対面なのにすげー話しやすい。こたつ部の準レギュラーにならね?」
「想井先輩!? こたつ部にはこの僕がいるというのに何を言い出すんだ!?」
「はっはーん? 想井、こんな僕っ娘の年下彼女がいるのかよ。うらやましすぎて
「違う違う。メラニャちゃんは彼女じゃないよ」
「そうなんだ? まあ何でもいいや。ここにいたらおれの彼女があらぬ誤解をしてきそうだし帰るわ」
「彼女持ちなんだ斎藤。意外。友達いないタイプかと」
「あんま可愛くないガールフレンドがおるよ」
「アドバイスくれよ」
「アドバイス?」
俺はぬくもちゃんに目をやった。
「俺もかっ、かの、彼女ができちゃのよね~フヒ」
「うわあ! 急にキモなるな!」
「で、その彼女がさ……」
頬を染めながらジト目で見てくるぬくもちゃん。
俺は構わず言う。
「可愛すぎて……困るんだよね~~~~~」
「はい死ね~~~~~~」
斎藤は帰っていった。
「帰った……」
「あ、それと(扉から顔だけ出す斎藤)二月部は今日の23時59分59秒まで部員募集中だからよろしく! じゃあな!」
斎藤は今度こそ帰っていった。
「いや~楽しい奴だったね。痛っ何で蹴るのぬくもちゃん」
「なんとなく……」
「僕も蹴っていいか?」
「ダメ」「いいですよ」
「えい」
「痛い。争いはやめようぜ」
「キャロチュピカさん、蹴る時はもっとこう、脛を狙って、ねじ込むように放つといいですよ」
「こうか?」
「痛っ痛い痛いよ?」
「その調子です! キャロチュピカさんには人を足蹴にする才能があります……!」
「ふふん……やはり僕は天才というわけだ」
「いいのかそれで~?」
二月が終わる。
ひとつ思うのは、こたつ部の日々は月が替わろうと大した変化は訪れないだろうということだ。
ここで過ごす時間は、とてもゆったりとしている。
俺とぬくもちゃんはそういう間柄になったけれど、今のところ、やっていることとしてはあまり変わっていない。
だけど、なんだか……
安心している。
前よりも、ずっと。
「ぬくもちゃん」
「先輩?」
「ありがとね」
ぬくもちゃんは、黒縁眼鏡の奥の目を細め、黒髪を揺らして微笑んだ。
「はい。こちらこそ」
この子も、俺と一緒になれたことで、何かが定まり始めているみたいだった。
……きっとこたつ部は、大丈夫だ。
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