途切れぬ追求、覆い隠す暗澹。
◇
訪問者は、日も地平線の向こうに沈む頃に、とぼとぼと茜に染まる帰路をひた歩む。
呼ばれは『鉄』の勇者。評は数ある勇者のまとめ役。如何にも協調性のない連中を何とかパーティとして取りまとめた、勇者の中でも
この国に於いて、勇者とは民草の希望の象徴と言って差し支えない。有事の盾、無事の語られ草。人智の究極に至りし者、世界の歩みを進める者。
人は彼等に望みを託す。それは物語への自己投影、己が為せぬ事を他者に任せ夢想する栄光への希求。
故に或いは、彼等もまた人の進化を妨げる者やも知れぬ。諸人全てが更なる進歩を、深化を求む事が我等の最終目標。否、それを前提とすべきが求むる世界。
——ならば、この者らを一度摘むのもまた手か。
今暫くすれば、日は沈む。月明かりが仄かに照らし、その燐光が我等の世界を創り出す。
この黒刃は闇を蓄え、血糊さえも虚に葬ろう。
◆
王都を外れ、地平線の向こうへと太陽が沈み切り、緑から黒へといろを変じた野原が視界を埋める。ふと見遣れば、遠方に、どうやらこれから王都入りするらしい馬車が見えた。
国土の中央に王都を据え、周縁の街との間にはこの見渡す限りの平地が横たわる。外敵が魔獣のみであった時の名残で、こうした広大な場所を確保しておかないと戦闘の余波から逃れられないという事情故の措置であった。何せ今の王都が建つ所は、血で血を洗う凄惨な戦いで荒れ果て、農地や牧地にはまったく向かないと太鼓判を押された場所である。煉瓦で敷き詰められた地面は、あの惨劇の痕を表に出してなるものかという建築家らの無言の意思表明でもあった。
結論として、此度の調査は無為に終わった。クルスのシキガミから絞り込んだ範囲、捜査して得られたのは一つの機関の存在。
曰く、魔術開発部門の所有する地下研究施設。国が誇る魔術知識を結集させ、更なる高位位階への到達を目的とする特務機関。
その性質上、表に出しては無用の混乱を招く技術、知識が密集しており、如何に勇者とは言えその中身の開示は出来ない、と言う。
「——どう思う、クルス」
『隠し事は地下でするのが一番ですよ。ネズミなどは誰に教授されずとも自ずからそうします』
浮遊する紙の人型、シキガミからの同意の声に、顎を撫でて思案を広げる。
秘匿すべき物があるというのならば、おかしな点が一つ。
「前まであそこは普通にシキガミが通れていた、そうだな?」
『えぇ。今になって態々妨害術式を組んだというのならば、秘匿するべきものが彼処に無かったか、誰にも気付かれる筈はないとタカを括っていたか』
「仮にも『国の技術知識を結集する』機関ならば、尚更扱いは厳とするべきだろう。とくれば」
『元よりそんな機関は無かった、と見るべきかと』
暗躍の気配。それも大掛かりな、計画性の伴ったそれ。
威を借るには、国という語は大言が過ぎる。看破された時には相応のしっぺ返しが来るだろう、しかし敢えてそうするのなら幾らかは本当の事なのやもしれん。巧妙な嘘は、その筋書きに幾らかの真実を織り込むものだ。
ならば、その金糸とは何か。
「国の技術云々を本当の事とするならば、問題はソレで何をするつもりなのかって事だな。腐っても国家麾下の組織だ、外様も多い勇者には幾らでも腹を見せない理由がある」
『……例の死体、碌な研究に使われてないと見ます』
「同意する。事もすればもしや——」
思考を広げ、推察を重ねんとする此方の儀に——
「……ッ、クルス!」
体内式を立ち上げ、即座身体を闘争に耐え得る様作り変えようと全身の魔力を顕在化させる。同時にクルスに対し緊急事態を伝えようとしたが、目論見は何方も出鼻から挫かれる。
術式に魔力が満ち、一瞬の空白。起動に充分な魔力量を叩き込んだにも関わらず、ほんの刹那分、反応が遅れた。
そして視界の傍ら、力を失った羽虫の如くぽとりと墜ちる紙の人型が見えた。
「ッグ……!」
頼るは身命に備わる原初機能、死からの手招きを払い除ける本能。
重なる不足の最中、それだけが過不足無く機能する。頭と体を逸らし、傾ける。数瞬前の己との立ち位置を異とする。
疾るのは鋭痛、感ずるのは僅かな頬への衝撃。後背より来たりしは、黒塗りの刃。浅く右頬を裂いた後、前方の闇へと還っていく。
転瞬、全身に刻まれた術式が漸く使い物になる。先の『不具合』が嘘の様に。
「『
対象は全身、効果は皮膚構成への術式介入。魔力分子と皮膚細胞との高密度結合による硬化——否、鉄化。
纏うは、黒鉄の
「——!」
「……間に合ったか」
脊髄を穿たんとする黒刃は、服を貫くのみで終わる。皮肉を抉る感覚の代わりに臓腑に鋭い衝撃が届く、刃の形を取った殺意が鐘を鳴らす様に全身を響かせた。
つまりは致命でない。
右足が地を蹴り、跳ね返る作用が身体を回転させる。左脚を軸とした右回転、後ろ回し蹴り。
切り返しは即座故——。
「ぅ……ゲっ!?」
振り抜いた踵が黒尽くめの脇腹に深く沈んだ。骨格内臓諸々を砕く感触が、今や尋常の人でない体を疾る。
その感覚を最後まで味わう事なく、下手人は横合いに吹き飛ばされる。見渡す限りの黒い草原に勢いよくバウンドを繰り返し、たっぷり五秒程地面を転がって漸く静止した。
「……」
残心。ただ、何を相手としてそれをするべきか、僅かに惑い——目前の闇を見据えた。
状況確認、襲撃は
シキガミが墜ち、己の術式起動も一瞬遅れた。クルスが言っていた、術式妨害の技術。此方の術を完全に封殺出来なかった所を見るに、恐らくは成せる所に限界があるのだろう。少なくとも術者本人が現場にいる時は、その効力は発動までの遅延に留まるか。
何処の差し金か……ぱと思い付くのは、やはり。
「対応が早いな。いや、それ程切羽詰まっていると見るべきか……」
件の王国直属を騙る謎多き組織。
辺りを見遣るも、薄暮の暗闇は肉眼で過不足無く見通せるものではない。その上で、恐らくは隠形術式が使われている。魔力の波長を弄る事で、空間そのものが彼等の存在を呑み込んでいるのだ。
サカキが言うには、看破るのは容易いと。『自然』に近い性質を纏うのが隠形であり、己に同調せよと自然を動かせば『不自然』が浮き上がるのは自明と、何とも酷評であったが生憎とアレの眼をこの場で真似るには練度が足りぬ。寧ろその理屈を理解出来る者がこの魔法の国では特異と言える。
即席で、その理を宿した眼を作るのは不可。しかして、それをこれよりの戦術に組み込むは可也。
「『我が左腕が 変化せしは 即ち塵屑也』」
先に発動した術式は、己が身を金剛の如き堅固を誇る鉄に換える魔術。土属性の系譜を継ぐこの術には、追加で式を書き込む為の『空き』がある。
鉄とした体を、此度更に変ずる。
左腕、目前に掲げたそれは、肘の先から瞬く間に微細な粒子と成り果てた。宛ら砂鉄の様相、霧の如き鉄の群体。
それを周辺に撒いた。黒々とした微鉄どもは常闇の世界に広がり続け、やがて夜の黒との判別が付かなくなった、その時。
ヴ、と。
「……!」
浮かぶ違和感。それはある意味必然、それこそ自明の働き。
視界を席巻する景色のブレ、黒で縁取られた輪郭はおおよそ人のソレ。
自然を己の気配に順応させるのであれば、それは即ち環境利用の粋と見て良い。周囲環境に対し上位に立つその仕儀は、成る程仕組みが理解出来ねば出した手の矛先も定まらぬだろう。
故にこそ、この瞬間は己の絶好機。
鉄片というこの場の自然にそぐわぬ異物を前に、隠形術式の方は実に優秀だった。即座にその異物さえも順応すべき自然として計算に入れる。
が、その須臾。
大まかな位置が、視認さえ可能。
「『我が右腕が 変化せしは 即ち刃也』」
追加術式編入、右腕にその変質を呼び起こす。鉄となった身体を再構築、形を整える。
今回は、鉄が形成する最も原始の暴力に。
右腕上部が一瞬その輪郭を失い、創り上げるのは
腕刃が展開を完了する。
即座、脚部に魔力を巡らせ強化するは出力。瞬発を期待し身体の発条を絞り。
「『裂雷』」
伴い励起する術式が身体の各部で繋がり、一つの容を編み上げる。
体に埋めた式を連結する事で、その相乗効果を引き出す。此度使用するのは傾向として『強化』、『反応』。属性として風と水を元手に『雷』。
魔力消費は属性の適性不一致からそこそこのものだが、引き起こす現象はそれに見合うものだ。
即ち、雷光の閃く一瞬が如き速度。
「シィッ」
土を抉り、体は打ち出される。知覚の限界を超えるとまでは言わないが、それも一流の戦士なら対応出来るというだけの話である。
騙し討ちがこの者らの主戦略ならば遅れを取る筈はない——その思考は一人目の胴を両断する事で証明された。
横合いに飛び込みながら腕刃を振るうだけで討伐は成った。此方の刃の鋭さたるや、彼方の防備を容易く優越する。
「剣が無くとも問題無さそうだな」
感慨なさげにその言を口走りながら再び足に力を込める。警戒を緩和せんと得物を置いて来た事が少しばかりの不安材料だったが、この程度ならば。
——視界が、ぐらり。
「………………ぐ!?」
足から力が抜ける。必然、加速の乗った体の制御など出来ようはずも無く、草原に体を転がせる事になった。骨肉に響く衝撃さえ遠のく。
不意の事態、不測の事象——否。
筋弛緩だ。脚だけではない、四肢の筋肉がその機能を放棄する。見遣れば先に鉄片とさせた左腕が元の形となって戻って来ている。術式の強制解除、そう見るべき。
明らかな変調は身体のみではない、前後左右の不覚を自認する。平衡感覚の喪失を確認。
知っている。胡乱となった脳でも、この感覚はその強烈さ故に骨身に刻まれている。
この毒性を。
「シテツ、グモ……ッ」
『術式不徹の八足』、『魔族絶やしの毒』、『世界の零地へ還す蜘蛛』。
呼ばわりは幾つかあるが、示す所はただ一つ。それが為す事は単純にして明快。
魔力の毒性変換。顕在化させた魔力にこの蜘蛛の毒が触れれば、暫しの時間を経て、それは身体を侵す神経毒となって全身を廻る。
かつてこの鉄面皮を歪ませた数少ないモノ、その内の一である。初期症状の筋弛緩および麻痺を経た後に全身を疾る針金が渦回るかの如き苦痛と不快感は、魔術を主な戦力とする者が数十日はその行使を躊躇う程に強烈、というのが定説だ。
この身にとってコレほど致命的な毒はない。
「っ、ぐ……!」
魔術式の用途は多岐に渡るが、発動形態に関しては取れる方法はそう多くない。というのも、今現在確立されている中でも完成度の高い二種、これを使い分けるのが賢い魔術の運用法であるという周知が為されているからだ。
その片方、『埋没式』。体に術式を直接刻み込み、魔力を通す事での即時発動を可能にした発動形態。
コレを全身に張り巡らせ、魔力を通して稼働させる事で戦力を得るイクスにとって、シテツグモの毒は正に天敵と言える物である。
「……あの、ナイフ……ッ」
初手で頬を掠めた黒塗りのナイフ。恐らくはアレが毒の塗られた物だったのだ。初手の奇襲、術式発動の遅延、塗る毒の種類。
全て、綿密に仕組まれた罠。
「その通りです、『鉄』の勇者」
頭上より降る声に聞き覚えはない。男にしては甲高い、女にしてはやや低い。首も動かせない今では目を向ける事も叶わぬ。
しかし、恐らくは此度の襲撃部隊の長。そう当たりをつけた。
痺れの回って来た舌を動かし、辛うじて音声を紡ぐ。
「お、まえ、は……なにもの、だ」
「申し訳ないのですが、お教えする訳には行かないのです。護国の最前線を疾る英雄様には、何分失礼な対応で御座いましょう。ご寛恕賜りたく存じますが……その必要も最早ないと思われます」
金属——恐らく刃物——と衣服の擦れる音。隠形を解いたのか、草を踏み分ける音がそれに続く。
全身を苛む麻痺と、いよいよ走り始めた激痛が僅かな動作さえも蝕む。術式の立ち上げなどはもっての外だ。
この男の継戦能力は剥奪された。
——そう、思えるだろう。彼方には。
「そのお命、頂戴致します」
「——、だ」
「?」
耳聡く、口より溢れた音を聞いた様である。しかしソレが意味する所には、もう少し早く気付くべきであった。
「早計だ、と言ったんだ」
動かぬ筈の身体。麻痺と激痛が疾る全身。内も外も例外なく些細な身動ぎも叶わぬ躰。
ソレが言葉を発した——舌が動いているという違和。
「——ッ!?」
無力化された筈の男の身体が跳ね起きる。
今まさに頭蓋を貫かんとした短剣を蹴り上げながら。
「!? 何故」
ナイフに塗布されていたシテツグモの毒は、例え一塗りでも並の魔術師が悶絶する程に強力な毒性を持つ。寧ろ魔術師として完成された魔力運用をしていればしている程に、罹患者により強い作用を引き起こすのがこの毒だ。
故にこそ、イクスの埋没式に覆われた身体にはこれ以上ない程の有効打として使われた。
「その毒の世話になるのは二度とごめんだったからな……尚更対策は必要だろう?」
「対策……まさか」
「随分と手間取った。解毒術式を新たに刻むにしても、もうこの身体には式を書き入れるスペースが殆ど無かった」
埋没式には、その利便性と裏腹に一つのリスクがある。一度身体に埋めた術式は、尋常の方法では消す事が出来ないのだ。
故に汎用性の高い術式が好んでこの方法で使われるが、イクスの場合は違う。
自身の身体に何の術式を書き入れるか、それにより如何な状況に対応出来るのか、戦闘に於いてどんな展開を試行出来るのか、術式を重ねる事でどこまで出力出来るのか。
想定出来る全てのパターンを把握、理解した上で、凡ゆる状況に対処する為にほぼ全身に埋没式を埋め込んだ。更には意図的に空けた余白部に追加で即席の術式を編入させる事で対応の幅は更に広がる。その一身にて、イクスは万能の戦士であった。
問題は、戦闘行為のソレと比べ、些か毒などの搦手に対応が利きづらいという所だが。
「だが指向性を強め、ただ一種のみに特化したなら、その限りではない」
「シテツグモ毒専用の、解毒術式……!?」
「いつでも癒し手が側にいる訳ではない、となれば残り少ない完全な余白を埋めるにやぶさかではない、という事だ……とは言え」
声を低くし、その変質を悟られぬ様に努める。
あくまでこの身に書き込めたのは毒の症状緩和に留まる。特定の毒に反応して自動的に発動する術式、即応性はあるものの即座に完全治癒とまでは行かない。まだ体にはあの忌まわしき毒が残っている。
感覚からして、戻ったのは身体機能のみだ。魔力及び魔力回路が使える様になるまでには、まだ時間が掛かる。
事態の好転というには半端だ。一瞬の断頭が、一方的な嬲り殺しに変わったという程度。
「……! 展開、十重二十重に抉れ!」
「……まだ戦うというのなら付き合ってやる」
未だ物量は彼方が勝る。加えて魔力が使えない今、個としての戦闘能力の優越さえ失った。
であるならば、己がこの場を切り抜ける確率は万に一つもない。
己一人ならば。
「——アイツが、な」
にやり。ほんの僅か、口を孤月に歪ませ。
遥か頭上の存在に手番を寄越した。
◇
「『出で立つは 尾の数ひふみ 焔霊』」
宙空にソレは居る。今正に、『鉄』の勇者が削り殺されんとする現場の頭上に。三つの尾の先に群青の焔を浮かべて。
左手には開いた手帳。眼下へ向ける眼は灰色。王国とは趣を異とする服装の男は、頭頂に生える狐耳を一度震わせる。
空中に浮けるのは彼の故郷にて『妖獣』と呼ばれる者ならば誰しもが持つ技能である。原理は兎も角利点は明確。
飛び道具を使う者にとって、高所を取れるのは無条件で尊ぶべき事である。
「『揺らぐ形象 こころが如し』」
朗々と紡がれる詠唱。空泳ぐ雲を吟じる様な、高名な歌手の詩を諳んじる様な。
呼応するが如く手帳の頁から溢れる光、文字、文字、文字、文字。
糸を縒り合わせるかの如く、ソレらが創り出すのは——巨大な楕円形の術式。
「『辻褄合わせ 縁繕い 夢現 眠りこけ 土草根 頬なぞれ 朝の風』」
形は結界の基本的な式に近い。広範を過不足無く守り切る為の——術式の影響範囲を広く取る為の構成式。
結界式の守護を担う術式の代わりに火焔を吹かせる術式を入れれば、それは立派な広範囲焼却術式である。今回、仕込まれた式は——。
「『夢見目録』」
パタン、と手帳が閉じられる。同時に術式から、十重二十重では利かぬ燐光の群が溢れ出た。
尻尾を一つ、蠅を払う様に揺らせば、ソレらは闇夜に溶け込む者らに殺到して行く。
「……ッ! 退避しろ! 隠形を展開して振り切——」
隊長格が鋭く警告するが、言葉半ばで脳天を光に貫かれ、糸が切れた様に崩れ落ちる。周囲では、闇に溶け込んでいるつもりだったのだろう黒尽くめらが続々と虚空から現れ、草を枕に倒れ伏している。
時間にして五秒も掛からない。深緑の草原に、黒く斑模様が掛かった。
同時に其処彼処で上がるのは——寝息といびき。
「……いつ以来だ? 君が此処まで力を披露したのは」
傍らに着地した狐の獣人にイクスは気怠げに問う。手帳を懐にしまいつつ、クルスは気息を吐きながら応えた。
「さて、どうでしたかね。まぁこれ程頁を使ったのが久しいというのは否定しませんが……朝まで眠ってもらいました。今の内に」
彼の固有、『夢見目録』の全容は依然として知れぬが、対象に強制的な睡眠状態を付与する事だけは理解している。本来の用途はまた別の所にあるらしいが、事此処に至っては大した違いもない。おかげでこの危機をどうにか瀬戸際で回避出来た。
「あぁ……悪いが、肩を貸してくれないか。正直なところ、相当キツイ」
「かなり急いだのですが、貴方程の戦士がそこまで追い込まれるとは」
「そこら辺は後で共有する。今は離脱を、援軍が来ないとも限らん」
「承知」
クルスに抱えて貰い、重力を逃れて空中に踊り飛ぶ。遠退く地上を暫時眺めつつ、王都付近から退却した。
きな臭いものがあると言う事は確信出来た、後はそれをどう叩き出すか。
「一先ず、王に報告しておくべきか……」
思案を回す、という所で瞼が重くなる。不意の、というより緊張の糸が解け、毒の回る身体の倦怠感を漸く自覚したのだ。
流石に魔術師殺しの毒、そう容易くはない。
「すまん、クルス……後は任せる……」
「委細承知。ごゆるりと」
しかし、この国の彼方此方には仲間がいる。彼等彼女等とは時に主義主張を違えども、国の危機に団結出来る事を疑わない。
勇者のまとめ役と揶揄されるこの身の背には、後を任せられる仲間がズラリと続く事を知っている。
信頼を寄せる者らが居る事の幸福に身を浸し、瞼を閉じた。
「『果報者だ』、か……その通りだよ、サカキ……」
血狂い問題児が勇者パーティを割と妥当な理由で追放されるお話 @Underrain
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