学生生活
右肩の痛みは治まった。
部屋中を見回して、他にブレザーと鞄を発見した。みれば、学生手帳も所持している。
学生手帳を見ながら、少年のスマホを操作した。ロックはかかっていなかった。無用心な子供である。
調べると、この少年が高校生であること。そして、今日が四月七日であることが判明した。
「四月七日!?」
驚いた。確か、朦朧とする意識の中、会社に向かい自殺者を助けたのもその日付だったような。
ということは、どういうことだ。
「わからん」
色々起きすぎて、脳の整理が落ち着かない。
「タカヒロ、朝よ。起きなさい」
「うひゃあ!」
パニックを起こしている中、突然部屋の扉が開くものだから、僕は飛び上がった。
「え、何」
「あ、ああ。別になんでもないっす」
「そう?」
「うす」
「早く支度しないと遅刻するよ」
この少年の母親だろうか。母親は、不審そうに僕を一瞥して、部屋を出た。
「遅刻、するのか?」
自分の高校生時代の時間感覚など遠に忘れ去った。彼女にああ言われてもわからない。
「オッケー、グー○ル」
起動しない。よく見たらリンゴ社製のスマホだ。
「ヘイ、シ○」
起動した。
「高校の始業時間は?」
『すみません。よくわかりません』
「使えねー」
ポチポチとスマホを操作した。
「始業時間は、八時二十分頃」
声に出して読み、右上の時計と見比べる。ただいまの時刻は、八時。
「あと二十分。高校までの距離は、と」
マップアプリで現在地から高校までの距離を調べた。所要時間は、電車で十五分。歩いて三十分。
「やべえじゃん!」
慌ててブレザーに着替えて、朝食も食べずに家を飛び出した。
「おお」
僕は感嘆の声を上げた。この体、軽いだけでなく足も速い。この少年、中々なフィジカルエリートみたいだ。
駅にたどり着き、ICカード乗車券を改札に翳して、ホームに飛び込む。
発車ベルが鳴り響く。丁度、電車が飛び出すところだった。
「ちょっと待った」
そう叫び、電車に飛び乗った。まもなく、扉が閉まる。
「ちょっと、大丈夫?」
汗だくで、扉にもたれながら肩で息をする僕を見て、声をかける少女がいた。見れば、この少年と似た制服を着ている。多分、同じ学校に通う生徒だろう。
「遅刻するかと思った」
「まったく、ヒロちゃん。計画的に行動しないからだよ」
ヒロちゃん、とはこの少年のことだろうか? 随分と親しい間柄らしい。
というか、
「いや、お前も遅刻ギリギリじゃないか。この電車に乗っているってことは」
思ったことを指摘した。
「エヘ、寝坊しちゃった」
この女、どの口から計画的だなんて言葉を出したんだ。申し訳なさそうに舌を出して、謝ってきた。謝る気は恐らくないようだ。
「まあ、良いけど」
目くじらを立てるほどのことでもないか、と思い、そっぽを向いた。
「そろそろ着くよ」
「そうだな」
結局、この少女の名前は何なのだろう。まあその内わかるか。
僕は名も知らぬ少女を連れて、学校に向かった。
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