とある愚者の話



 ユーラミが経営する店、ユーラミ商店は王国で1位2位を争うほど人気があり毎日大繁盛していた。


 だがそれは唐突に終わりを告げることになる。


 とある日、突然ユーラミ商店が独占で仕入れている行商人から果物の仕入れが断られてしまったのだ。

 仕入れが滞り果物が売りのユーラミ商店は、またたく間に倒産してしまった。


 だがユーラミは、一度倒産したが自身の夢である王国1の商店を目指し諦めず小さい出店を構えた。


 彼は20年以上商売の道にいたのだ。

 売り方、値段、商品の置き方。

 最初は数ある普通の店にすぎなかったが、その店を求め少しずつ顧客を確保し経営は順調に進んでいた。


 だが、突然現れた知らない男に出店を壊されすべてが台無しになった。

 半壊ではなく全壊なのでもちろん再起不能。

 出店や、商品を仕入れるときに借りた大量の借金だけがユーラミの手の中に残ってしまった。


「クソっ!!」


 ユーラミは自身が被っていた店のトレードマークである、黄色い帽子を地面に叩きつける。


「なにが、頑張りは報われるだよ……。なにが、挑戦しないと道は開けないだよ……」


 ユーラミは昨日酔った勢いで、自分の身にふり掛かった不運包み隠さず全て飲み友達に相談した。


 「残念だったな」などと、親身になって言葉をかけてくれるのだと思った。だがそいつは、絵本に出てくる英雄が言っていたことを丸パクリしまるで自分が考えたことのように声高らかに言った。

 ユーラミが怒るのも無理ないだろう。


『扉を開けるな』


 ユーラミが飲み友達から縁を切ろうかと考えていたとき唐突に、脳内に一人の男の声が入ってくる。


 ユーラミは困惑した。 

 この部屋には、自分以外誰もいない。

 あたりを見渡すがもちろん、誰もいない。


 疲れていた自分の幻聴なのだと

 まだ酔いがさめていないのだと

 ユーラミはなんの根拠もないが、結論づけようとした次の瞬間。


「ドンドンドンドン!!」


 後ろにあったこの部屋唯一の扉から、殴りつけたような乱暴なノック音が聞こえてきた。

 ユーラミは急なことだったので、ビックリしまるで劇団俳優かのようにその場にとびあがってしまった。

 

「ドンドンドンドン!!」


 そのノック音は途切れることなく鳴り続けている。


 このままでは、近隣住民に迷惑がかかってしまう。

 ユーラミはそう思い、乱暴にノックしている人を叱る気持ちで扉を開けることにした。


 だがドアノブに手をかけたときピタリとその手が止まり、先程聞こえた声を思い出す。


『扉を開けるな』


 なんの前触れもなく急に脳内から聞こえた声。

 まるで扉の先にあるものを喚起するような言葉。

 その後、乱暴なノック音。

 

 ユーラミは今起きたことを冷静に整理した。


「はぁ〜……」


 これじゃあまるで神からのお告げじゃないか。

 そう思い、考えを一掃し扉を開ける。

 ユーラミは無神教者だ。


「おま……誰ですか?」

  

 ユーラミは人の家にノックしてきた相手に強気な態度でいこうとした。だが、開けた先にいた人たちを見て怯え口調が変わる。


 目の前に立っている人は、ユーラミより1回りいや2回りガタイのいい男3人組。


 ユーラミは口調こそ変わってしまったが、相手に舐められまいと弱そうな細い体を少しでも強そうに見せようと胸を張り問いかける。


「えっと……」


 その問いかけに男たちは答えず、ユーラミのことをまるで障害物をどかすかの体を払い、無断で部屋に入る。


 ユーラミは倒れそうになったが、唯一自慢できるが自慢する機会が滅多にない体幹でなんとか耐えることに成功した。


「カチッ」


 部屋の鍵を締めた音が体の芯から響く。


(――あぁ……)


 全身が震え、肌から凹凸が浮かび上がる。


「なぁ、おっさん。金どこだ?」

 

 部屋に入るまで一言も発していなかった男たちの先頭に立っている男が、カチカチに固まったユーラミの耳元で囁く。


「し、知らねぇよ」


 外見を見れば力の差は歴然。

 だが愚かにもユーラミは虚勢を張り、男を睨めつけ反抗的な態度を取ってしまった。


「チッ……。どこにあんのか聞いてんだよ!!」


 当然男は、生意気に反抗してきたやつに腹が立ち手を出した。


「グッ……」


 ユーラミは殴り飛ばされ、背中を扉に強く叩きつける。そして、体から力が抜け床に崩れ落ちてしまった。


「なぁ……こいつ生意気だし殺さねぇか?」


「バカ野郎。そんなことしたら雇い主が怪しまれるだろうが!」 


「「兄貴、どうしやす?」」


「少し黙れ。今考えている……」


 ユーラミは見下ろし体を舐めまわすように見ている男が自分の命を握っているのだと勘づき、お得意の弱々しく頼りない目で訴えかける。


「……よし、好きにやれただし殺すのは厳禁だ」


「「了解です。兄貴!!」」


 ユーラミは自分の訴えが届き、相手の慈悲に助けられたと安堵していた。

 だが、それは完全に勘違だった。

 ユーラミは気づいていない。

 殺すことが厳禁ならば、殺さなければ何をしてもいいのだと言うことを……。


 

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