第3話 謎の液体



「お前かぁ!!!」


 リアリーは、目を見開き叫びながら起き上がる。

 体が悲鳴を上げているが復讐で燃えた心は、そんなこと気にしなかった。


 サボットは、あまりの迫力に腰を抜かし倒れ込んでしまう。


「殺す……殺す…………殺すッ!!!」

「ちょ……ちょ、ちょ、ちょっと落ち着いてくれ。何か勘違いしてないか……?」


 サボットは弁明しようとするが、今のリアリーには何の言葉も届かない。


「黙れッ!! 親の仇!!!!」

「リアリー様。傷に悪いです。もしここで殺し合いを始めると、体が一生動かせなくなりますよ?」


「そんなこと知るかッ!! 私はこいつを殺すために生きてきたんだぁああああああああ!!!!」


 小さな木の小屋に、一人の復讐で染まった怒声が響き渡る。


 リアリーは勢いで、右手に拳をつくりサボットの顔面めがけて、今の自分にできる渾身の一撃をくらわせる。


「はぁああああ!!!」


 だがその拳は、片手で容易に受け止められてしまった。


「僕のことを殺すために生きてきたのなら、こんなことしても無駄だと言うことはわかることだろ?」


 サボットはその手を離し、ため息をつきながら子供をあやすように言った。


 リアリーは正論を言われ、たしかにそうだと納得したがそんなことで復讐心は消えることはない。


 今度は、左手で。

 そう思ったのだが、


「君は何か勘違いしてるみたいだね。

 僕は世間からは血の奇人とか怖い異名で呼ばれてるけど実は、人を殺したことなんてないんだ」


 リアリーはその言葉に啞然とし、口がぱくぱくとエサを待っている鯉のようになってしまっていた。


 サボットはそんな様子を見て、満足そうに笑みを浮かべる。


「血の奇人は僕以外に、二人いるんだ。

 一人は『時代の変化』が好きすぎて歴史に傷をつけてしまい、ラァーに監禁されている馬鹿な“ヤミズリ”」


 サボットはいつの間にか用意された椅子に座り、前髪をいじりながら淡々と語る。


「もう一人は、血の奇人の力を超越した人間には見ることができない超次元の存在。まぁ……超次元とか言っても、本人は対して強くないけど。

 圧倒的な頭脳を使い、『ここ世の闇』として君臨している巧妙な“ベミルナンダ”。

 君が言っているその……両親?? を殺したのはたぶんこいつだと思う。

 なんで見ることができたのか、わからないけど」


 リアリーはサボットの言っていることが怒り狂った自分をなだめるためだけに考えた、ただの嘘なのかもしれないと思った。

 だが、サボットの落ち着いた目と声色をきいて不思議とその言葉を受け入れていた。

 

 そしてリアリーはそう言うことにしておこうと考え深呼吸をしたときには、先程まで頭の中で渦巻いていた強い復讐心が綺麗サッパリとなくなっていた。

 

「じゃあなに? あなたは良い血の奇人で、悪いやつは別にいるって言いたいの??」

「あぁ……? まぁそうなるかな?」


 リアリーはサボットの疑問形での返答に、すべてが腑におちたきがした。


「ねぇあなた。遊びであっても血の奇人っていう二つ名を語るのはやめなさい」

「えぇ……なんで……?」


「そもそも、この世界に血の奇人は一匹しかいないの。だからあなたの言っていることはすべてでたらめよ」


 リアリーは、訓練校で習ったことをしたり顔で説明する。


「と言うかあなた達。怪我を治してもらったのはありがたいけど、早くここから出してもらえるかしら。  私、まだ昼食食べてないんだけど」


 サボットは、リアリーの生意気な態度に腹がたち椅子から飛び上がった。


「ふん!」

 

 そして、リアリーに向かって自分が怒っているのだとわかるように勢いよく鼻息をし、先程より重い靴音を立てながらドアの前に立っている執事の前へと行く。


「あいつ、死にぬかもしれない怪我を治してやったのになんであんなに偉そうなんだよ……。

 奴隷商会に売り渡してもいいよな?」

「サボット様。ご自身がつけた傷を治してあげたいと言って連れてきた女性を、生意気だからと言って奴隷に堕とすのはいけません。しっかりと面倒を見てください」


 リアリーは二人が狂犬のように睨み合いながら話している中、その会話を聞いて妄想癖のある人たちに助けられてしまったと、ブルブルと体を震わせていた。


「でもあいつ……」

「サボット様」

「な、なんだよ」


「……ご自身が生きている意味は?」

「……はぁ……お前はずるいなぁ」


 その言葉を最後に再び靴音がリアリーの耳に入ってきた。そして気づいたらときには、目の前にサボットの顔があった。


 リアリーは鋭い目に睨まれているのにもかかわらず、怯む様子を見せない。なぜなら、サボットの左手に持っている赤い液体が入った謎の瓶に目線がいっているからだ。


「これを飲め。飲んだら体が完治する」


 サボットはそっけない態度で、リアリーの口へあやしそうな瓶を近づける。


「何それ、いやよ」


 リアリーは反射的に、口を閉じ拒否する。


「い、い、から飲め!」

「わっ……ゴクゴク……」


 リアリーはサボットに無理やり口をこじ開けられ謎の液体を入れられた。そして、このままでは窒息死してしまいそうだったので仕方なく飲み込んでしまった。


 それは、不思議な味。

 最初は腐ったバナナのような味がしたのだが、みかんになったり、肉汁たっぷりのステーキの味になったり。

 体がおかしくなるような味だった。


「寝ているうちに道端に置いておくから………」


 サボットがなにか言っているがリアリーの耳には、その先の言葉は聞こえなかった。

 

 そして、次の瞬間。


 体から急にすべての力が抜けベットに倒れ込んでしまった。

 何がなんだかわからないリアリーは、最後にこうなった原因であろう液体を無理矢理飲ませた男の驚きが隠せていない赤い目を見て、意識を完全に失った。


 

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