第2話 衝撃の告白



 目の前には、激しく燃えさかっている大きなお屋敷がある。

 なんで私、ここにいるんだろう。

 リアリーは疑問に思う。


「リアリー様ッ!! こちらにおりましたか……。良かったご無事で……。本当に良かった……」


 リアリーは呆然と燃えている屋敷を見ていたら、後ろから両手で体をギュッと抱きしめられた。

 何事なのかと後ろを振り向くと、そこにいた人はタキシードを着た白髪が少し生えた紳士。

 なぜお父様の執事がこんなにも、必死になっているのかとリアリーはまた疑問に思う。


「おじちゃん。どおちたの??」

「それが……大変申し上げにくいのですが、旦那さまと奥様が今お屋敷の中に……」


 執事は、気まずそうに目をそらしならがら言った。

 リアリーは言っている意味がわからなかった。


 なんで守る側のおじちゃんがいて、守られる側のお父様とお母様がいないんだと。


「お父様!! お母様!!」

「リアリー様ッ!! 燃えているお屋敷に行くなど自殺行為ですッ!!」


 リアリーは涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら、小さなこぶしをポコポコと執事のお腹に叩きつける。

 だが抱き寄せている腕はびくともせず、リアリーと執事はただその燃えさかる屋敷を見ることしかできなかった。


「やぁ!! ……ぐす。……お父様……お母様……死んじゃやぁ!!」



 ▼ △ ▼



「はぁ……はぁ……」


 目覚めた場所は見覚えのない木の天井だった。

 体から、いやな汗がにじみ出ているのがわかる。

 過去の夢を見るなんて、最悪の目覚めだ。


 リアリーはここがどこかわからないため、取り敢えず体を起こすことにした。


「痛っ……」

「あぁ……まだ体を起こしてはいけません。背骨をたくさんやられましたから……。お休みになっていてください」


 聞こえてきた声は老人のような掠れた声だった。

 リアリーは、どこかの農家さんの小屋なのだろうかと予想する。


 そして反論することもないので言われた通り、背骨に負担がかからないようにゆっくりと仰向けになり寝ることにした。


「どうした? うなされてたぞ。なにか嫌な夢でもいめいたのか??」

  

 目を閉じようとしたとき聞こえた声は、先程聞こえた老人のような声とは別の、青年の声だった。


「えぇ……。両親を亡くした時の夢を……」


 リアリーは普段、決して周りに自分の過去のことは言わないのだが、体が弱っていたのだろう。

 なぜか言ってしまった。


 この話を聞いた大抵の人は、偽善者の様なつくった笑顔を見せ、まるで自分がすべてわかったかのような口を聞いてくる。

 それが不快だった。

 なので口にしない。


 リアリーは、そのことに気づき口をおさえたがもう遅い。


 今のは聞かなかったことにしてください。


 そう言おうとしたが

 次の瞬間、青年の口が開いた。


「そうか……。それは、苦しいな」


 不思議と、リアリーはその返答に不快感を覚えなかった。

 

 なぜだろう。

 その言葉に重みがあったからなのだろうか。

 リアリーは疑問に思い、こう考える。

 

 もしかするとこの人は私のように、両親を亡くすという同じ苦痛を味わったことがあるではないのだろうか。

 いや、そんなことを思っても言えない。

 リアリーはその考えを一掃した。


「………はい」

「そうだ。自己紹介がまだだったね。僕はサボット」


 リアリーは上から見下される形なのが少し不愉快に思ったが、にこやかな笑顔を見てその心は和らいでいった。


 その男、サボットは黒を基調とした珍しいロングコートを着ており、瞳は赤。

 リアリーはどこか既視感のある姿を見て、違和感を覚える。

 その違和感が何か大切な事だった気がし、全脳細胞をフル稼働させ思い出そうとしたがすぐ諦めた。

 弱っている体では集中力がすぐきれる。


「私はリアリー」

「いい名前だね」

「ありがとう」


 二人は、まるで絵本にあるお世辞のような受け答えをした。


 サボットと名乗った青年はリアリーの名前を聞いて満足したのか、後ろを振り返り靴音が遠ざかっていった。

 リアリーは、寝る邪魔をするのはまずいと思い部屋から出ていくのだと思った。


 だが途中で足音が止まり、老人とサボットの小声でのやり取りが耳に入ってきた。


「あれ? ねぇ執事。自己紹介したんだけどリアリー気づいてなくない??」

「サボット様……いきなり本名をなのられても世間にはあまり聞き馴染みがありません。二つ名の方を名乗ってみてはいかがでしょう……??」

「それだな」


 リアリーはそのやり取りに疑問を覚えていたが、考える暇もなく、浮き足立っているような靴音がリアリーの方へと聞こえてきた。


「おっほん……いいかな??」

「はい……」


 リアリーはその言葉に微笑みながら待っていた。


 かがみ込み、サボットは顔を覗き込むような体制で見てきた。


 赤く鋭い眼光がリアリーの目を貫く。

 リアリーはつい、その目を見て慌てて目線をそらしてしまった。


「実は僕は別の名前で呼ばれることが多いんだ。

 そっちを名乗っていいかな??」

「ど、どうぞ」


 取り敢えずリアクションをとらないと。


 リアリーは、少し怖いが再びサボットの目を見る。 

 そして、何を言われても対応ができるよう脳細胞をたたき起こす。


 だが、次の瞬間。


 サボットの口から発せられる衝撃の告白は、リアリーの理性が崩壊するほど破壊力のある、予想外の言葉だった。

 


「僕は世界の人々から、“血の奇人”と呼ばれている」




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