メモリオン王国編
第4話 嫌いな女
「サボット様。遅くなりましたが、この度のご活躍お見事でした」
「よせ。これくらい普段どおりだ」
静かになった小屋の中。
髪をオールバックで固めた白髪頭の執事がサボットに向かって深く頭を下げる。
そうサボットがこの王国に来た理由はただヴィーガに追われ、負傷した女を救うためではない。
今回ある貴族の屋敷に潜入した。
その貴族は地下で、人を燃料に使った恐ろしい兵器を作ろうとしていた。
なのでその破壊と説得をしにこの地にやってきたわけだ。
そして用事が終わりその帰り道、たまたま不注意で
コケた拍子に目を見られヴィーガに追われてしまったわけだ。
「あなた様が成していることは、周りの人間から称賛されるべきことなのです。数少ない理解者が称賛せずしてなんのための理解者なのでしょう?」
執事は椅子に座っているサボットを見下ろす形で、饒舌に喋る。
サボットは執事が言っていることに確かに一理あると納得し、自分が間違っていたと謝ろうとした。だが、なぜか先に執事の方から再び頭を下げられた。
「執事の分際で、でしゃばった真似を。申し訳ございません」
執事はサボットが何も言わず黙っていたので、自分が怒らせてしまったのだと勘違いをし謝罪をした。
もちろんサボットは怒ってなどいない。
「気づかせてくれてありがとう。あといい加減すぐ頭を下げる癖、やめろよ」
「はっ。申し訳ございません。して、次はどちらへ行きましょうか?」
「あぁ……」
血の奇人であるサボットは、人智を超えたありとあらゆることができる。
意識を空気中、分子へと分散させありとあらゆる場所の人の動きや言動までも聞き取れたりする。
サボットは執事が、会話の流れを考えず次の行き先聞いてきたということは少なからず自分が先程の女にとった対応が良くなかったのだと腹が立っているのだろう。
普段怒らない人が、遠回しに怒るのが一番怖い。
サボットは執事が本気で怒る前に力を使い次の行き先を探すことにした。かなり力を消耗するが、それを惜しみなく使い全世界へと意識を巡らせる。
「まったく……。最近隣のもんが……」
農家の愚痴。
「やん。ダーリン♡」
路地裏でいちゃついてるカップル。
「シャー!!」
「シャー!!」
喧嘩中のねこ。
意識を巡らせるが、どれもサボットが求めている情報ではない。
なので、さらに範囲を広げる。
その時だった。
『………これからは俺たちの国だ』
見覚えのある真っ黒な布でできた玉座の上。
そこに座りながら放った、低く喉を潰したような声を確かに聞き取った。
「つかまってくれ」
サボットは自身の右腕を執事へと突き出す。
急なことだったが執事はうなずき、困惑することなく言われた通り両腕でつかまった。
「次の場所はどこでしょう?」
執事は少し笑みを浮かべながら、目をつぶっているサボットに問いかける。
「ここから北東、メミリオン王国」
▼ △ ▼
「ふぅ……」
転移が完了したのでサボットは目を開けあたりを見渡す。
一本のロウソクの光が部屋全体を照らしている。
そしてそれが、部屋から不気味な雰囲気をかもし出している。
ここはいつ見ても変わらない。
サボットが部屋を見て干渉に浸っていたら、右腕に捕まっていた執事が急に腕から離れた。
サボットが疑問に思い執事を見る。
すると執事は、サボットのことを目をこすりながらありえないものを見たような顔で見てきた。
「えっと……サボット様ですよね?」
執事は、さらに距離を離しサボットに問いかける。
サボットは言われた意味がわからず困惑していた。
だが、すぐに自分の体に起きている違和感に気づき執事の疑問がわかった。
髪が肩下まで伸びており、胸が強調されている。
その姿はまるで女性のようだった。
サボットはこれじゃあ執事がビックリするのは仕方ないよなと、苦笑しつつ口を開く。
「あぁすまない……。よっと。……これでどうだい?」
執事は、元に戻った姿のサボットを見て安心し足から力が抜けその場に崩れ落ちた。
「よかった……。そうですよね………。よかった……」
執事の目から涙がこぼれ落ちる。
サボットは、執事が思っていた以上に自分の身を心配してくれてたことに同じく涙きそうになっていた。
だがそんなことしている暇はない。
目的がありこの国に来たのだ。
サボットは自身に訴えかけ気持ちを切り替える。
「ほら。立てよ」
床に崩れ落ちた執事に手を差し伸べた時だった。
「――ガシャン。――ガサガサ。――ドカン!」
近くにあった扉から、ドシャガシャとゴミをどかしたときのような音や爆発音までも聞こえてきた。
日常生活で聞こえるような音が聞こえたのだだが、二人には聞き覚えがある。
サボットと執事は同時に少し扉からはなれる。
そしてサボットは、なにがきても怪我をしないように執事を盾にする。そして、横から顔を出し扉を伺いながら待っていた。
「バタッ!! ベフ………お、お、おおまひゃてしまひた!!!」
ドアを勢いよく開け、なにもない地面で転びその勢いで舌をかみ何を言っているのかわからない金髪の女性がその扉から入ってきた。
彼女は、シア。
超絶ドジっ子で何をしても失敗してしまう“失敗の呪い”をかけられているが、本人はなぜかいつも楽しそうなので皆微笑ましく見ている。
サボットはそんな脳天気な彼女を苦手としている。だが、この場から案内してくれる人物は彼女しかいない。
サボットは転んだシアのことを見下ろしながら苦笑いをし、口を開く。
「シア。久しぶり。僕がなんでここに来たかはもうわかるよね?」
サボットはシアが喋りだすときりがないことがよくわかっているので、さっそく本題に入った。
シアはその言葉を聞いて、一瞬何を言っているのかわからないような顔をしたが「ぽん」と手を叩きわかったかのような動作をし口を開く。
「はい。私が先日作った人形を見に来たのですよね??」
「いや、そうじゃ」
「いやぁ〜あれは私の中でも最高傑作なんですよ。まぁ……そんなこと言っても、サボットさんお得意の覗きで、どんな形かはわかってると思うんですが。にゅふふふ……執事さんもいるという事で私から言おうと思います」
サボットと執事は以前会ったときよりも饒舌に喋るシアに啞然としてしまってい、口をはせめなかった。
「おっほん……人形作りを始めて今年で早100年……。いままで様々な苦難が私を襲いました……。ですがッ!! この作品をいつか作りたいと思いそのためだけに頑張ってきました!! その作品が今回やっとの思いで作れた作品です……。作品名はサボットさんですッ!! 」
シアが楽しそうに語りながら、懐から取り出したものはゴミのようなものだった。
目玉はバネのように伸びており、縫い目も完璧ではなくあらゆる方向から綿が飛び出ている。それは原型が留まっておらず、とてもじゃないが人形だと言えるものではなかった。
「ちょっと待ってくれ。僕がメモリオン王国に来た理由は、シアの人形を見るためじゃなくてクーデターを阻止しに来たんだ」
サボットは人形を見て目を覚まし、慌てつつもシアの演説のような語り口調を止め、むりやり本題へと話をもっていった。
「そちらでしたかッ!! 勝手に勘違いして語り始めてごめんなさい」
「で、実際の所どうなんだ?」
「クーデターのことでしたら私ではなく、今ちょうどおくの部屋で会議をしている者たちがいるのでそちらに聞いたほうが手っ取り早いと思いますけど……」
サボットがクーデターのことを聞いた途端、シアからは先程までのおちゃらけた雰囲気が消え、真面目な顔に変わった。
「じゃあ、そこに案内してくれるかな?」
「えっ……でも、そこは関係者以外立入禁止なので案内はできません」
「シア。僕から一生分のお願いだ」
「い、い、一生……? 一生ってことはつまり、ずっとこれからもたくさんお願いがあるのかな……? うひひひ。サボットさんのお願い。い、いやん! そそそそんな破廉恥なことはまだ早いです!」
「案内。頼めるか?」
サボットはなにか小声で呟いているシアのことを無視し問いかける。
「はい! よろこんで!」
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