第6話
車にたどり着き、持っていた枝を捨てて車の中に入った。
そして車を発進させようとしたのだが、なんと車のキーがなくなっていた。
――えっ?
確かにさしたままのはずだ。
魚人が抜いたのか。
抜いてどこかに持って行ってしまったのか。
小暮は座席の下を探したが、キーは落ちていなかった。
やはり魚人がどこかに持って行ってしまったようだ。
――やばい。どうしよう。
小暮は両手でハンドルをつかみ、考えた。
いくら考えても同じだ。
キーはやつらが持っている。
やつらから取り返さないと。
そして取り返すためには、やつらを全員殺さないといけないのか。
それに殺す前に、キーのありかを聞きださなくてはならないのだ。
キーのありかを聞き出し、キーを取り返してやつらも殺し、そして車で逃げる。
そんなことができるのか。
たった一人で。
小暮はハンドルから手をはなし、両手で頭を抱えた。
小暮はしばらくそうしていたが。そしてふと顔を上げた。
目の前にいた。鎌を持った魚人が。
小暮は周りを見わたした。
一、二、三、四、五、六。
車は六人の魚人に取り囲まれていた。
さっき見た時には誰もいなかったというのに。
こいつら一体、どこに隠れていたと言うんだ。
そしてさっき捨てた枝は、車の外だ。
小暮が身動きできないでいると、運転席側のドアが開けられた。
ロックはかかっていなかった。
目の前に一人の魚人がいて、その後ろに五人いた。
小暮が何も言わずにそのまま魚人を見ていると、目の前の魚人が自分のあごのあたりに手をかけた。
そしてその手を強く引き上げた。
するとそこには老人の男の顔があった。
人間の顔だ。
その手に持っているのは魚人の顔。
小暮はそれを見て気がついた。
仮面だ。
魚の顔は仮面で、中は普通の人間だったのだ。
小暮が殺した三人もおそらくそうだろう。
小暮が呆然と老人を見ていると、老人が言った。
「ここに戻ってくると思って、みんなで待っていました。どうですか。楽しんでもらえましたでしょうか」
「はい?」
「村おこしですよ、これは」
「村おこし?」
「ええ。孫に聞いたんですが、ネットではなんとか村という山奥の村に、化け物や幽霊なんかがいて、それがたいそう話題になっているようですね。それならうちの村も、それで有名になって、いっぱい人に来てもらおうということになったんですわ」
「はあ」
老人は仮面を小暮に見せた。
「これよくできているでしょう。本物の魚みたいで。これ、けっこうお金がかかったんですわ。それでも話題になって人がいっぱい来てくれれば、元は取り返せますがな」
「ええ」
「で、あんたもお願いだから、ついったーとか2ちゃんとか5ちゃんとかいうやつに、書き込みとかしてくれませんかね。山奥に恐怖の魚人の村があった、とかなんとか。それ、お願いできませんかね」
「……」
小暮は考えた。
しかし小暮はもう何も考えることができなくなっていた。
終
魚人村 ツヨシ @kunkunkonkon
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