第5話

小暮は獲物を見つけるために森をさまよった。

さまよってさまよってひたすらさまよい続けた。

しかし一人の魚人も見ることがない。

――あいつらどこへ行ったんだ。

それでも小暮は、不思議なほどの高揚感を覚えながら歩き続けた。

三人を殺した枝をその手にしっかりと握りしめながら。

どれほど歩いただろうか。

さすがに疲れてきた。

小暮は休むことにした。

武器を持った魚人と戦うのだから、体力は回復しておかないと。

しばらく休んだ後、小暮は立ち上がった。

そして再び歩いた。

闇雲に歩き回り、もはやどこをどう歩いたのか全く分からない。

それでも小暮は気にしなかった。

小暮の頭の中にあったのはただ一つ。

魚人を殺すことだけだった。

小暮は興奮状態にあった。

そのまま歩いていると、ふと道に出た。

山道はどこも同じに見えるが、そこはなんとなく覚えがあった。

小暮が車で通った道だ。

――そうすると……。

車はこの先にあることになる。

魚人の村の入り口の先に。

小暮は車まで行ってみることにした。

村には魚人がいるかもしれない。

それも複数。

しかし小暮は考えた。

魚人はおそらく小暮を探して森の中にいるのではないか。

そうなると今車にたどり着ければ、そのまま逃げられるのではないのかと。

一種の賭けだが、それに賭けてみることにした。

小暮はいつの間にか魚人を殺すよりも逃げることに思考が移っていた。

車への意識がそうさせたのだ。

歩くとすぐに見つけた。

魚人村の看板だ。

村の入り口、そして車まではそう遠くはない。

小暮はそのまま歩いた。


途中で魚人に会うかと思ったが、誰にも会わなかった。

そしてすんなり村の入り口に着いた。

少し離れたところに車が見える。

小暮は車の周りを見渡してみたが、誰一人いなかった。

小暮は走った。

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