調査を要請しました。

 エステルにゲームのストーリーを教えてもらったところ、「ルート」によって細部は異なるものの、おおむね王家とアハシュロス公爵家の関係を断絶させるようなものばかりだった。


 アハシュロス公爵家はシュチパリア王室とも関係が深いが、ダルマチアやダルマチアの宗主国であるオストマルクとも縁が深い。クセルクセス殿下の婚約者であるアミィ公女は順位こそ高くないものの、三か国の王位継承権を持っているのだ。

 そんなアハシュロス公爵家とシュチパリア王室が対立したところで、我が国にとっては百害あって一利なし。シュチパリア北西部にあってダルマチアやスルビャといった微妙な関係にある国々との緩衝地帯であるアハシュロス公爵領は、万が一独立されたり隣国に併合されてしまえば、周辺国との交通や交易にも支障が出る。


 さらに、北部で深刻な軍事衝突が起きれば、そのすきに南部でまた山賊……じゃなかった、南の隣国エルダの独立派組織であるエルダ山岳党クレプテインが破壊工作を行うかもしれない。

 念のため、南部に人を送って何か動きがないか探る必要がありそうだ。


「どうしたヴォーレ、また学校で厄介ごとか?」


 憂鬱な気分で帰投すると、相棒のエサドが気づかわしげに声をかけてきた。


「ごめん、心配かけて。たぶん大丈夫なんだけど……」


 エステルの件を相談しようかとも思うのだけれども、あんな荒唐無稽こうとうむけいな話を信じてもらえるわけがないと思うと躊躇してしまう。五年前にこの部隊に来てからずっと兄弟同然に過ごしてきた彼を怒らせたくはない。


「もしかして転生者とかいう奴が関係しているのか?」


「え? なんで知ってるの?」


 口ごもる僕にエサドが何気なく言った言葉に仰天した。

 なぜ知っているのだろう。そしてなぜあんな支離滅裂しりめつれつな話を全く疑っていないのだろう。


「小侯爵が小隊長に知らせてくださったんだ。学校で学生だけでは対処しきれない可能性のある事態が起きるとすぐにお知らせいただいている」


 小侯爵とは次期侯爵という意味。この場合、スキエンティア侯爵家の跡継ぎであるコニーを指すのだろう。


「……全然知らなった……」


 今までも学校で面倒なトラブルが起きたとき、絶妙のタイミングで任務が入ったり何かのついでのように部隊の仲間が現れたりして大事に至らなかったんだけど、どうやら偶然ではなかったらしい。


「学校は内部からの要請がない限り、いくら怪しいことが起きていても軍の介入が難しいからな。いつも学校内の様子を知らせてくださっていたんだ」


 なるほど、学生からの協力要請があれば、閉鎖的な学園がいくら拒んだところで捜査の手を入れることができる訳か。

 全く知らない間にもずっと守られてきたんだと思うと、自分を不甲斐なく思うとともに、心優しい友の気遣いに心が温かくなる。


「それで、今はどんな状態なんだ? 俺たちに何かできることはあるか?」


「うん、実はね」


 気にかけてくれているならちょうど良いと、「ゲームのシナリオ」のこと、エルダ山岳党呉ぷテインの動きが気になっていることを話してみた。結局、僕たち二人の手にはあまるという判断で、小隊長に相談して部隊の仲間が南部の調査に行ってくれることに。

 これで何か破壊工作が計画されていても、早めに対応できそうだ。


 あとは「ゲーム」が思い通りに動いていないことにじれた虹色女神イシュチェルがどう動くかだけど……

 こればかりは相手の出方を待つしかなさそうだ。


 さて、次はどう動いてくるのやら?





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