月蝕女神とお話してみました。
神と世界、双方の存在意義を守るため、神々はむやみに力をふるって自分の思い通りに世界を操ってはならないのだという。
そのために、たいていの神は己の力や行動に自ら制約をつけているのだとか。
「例えばわたくしの場合、楽園に迎え入れられるのは自ら望んで生贄になったり、誰かの生命を救うために死んだ者だけ。わたくし自身が受け取る生贄はお花や手芸品、美味しい料理くらいなので、楽園に迎えられる者はいても、眷属にできる存在はなかなかいなかったんですよね」
「なるほど、それで僕より前に眷属になった者はいなかったんですね」
「ええ。他の神に捧げられた生贄はそちらが魂を食べてしまうことが多いですし。あなたの場合、他者の生命を守るために、自ら生命と魂を捧げましたからね。しかもイシュチェルちゃんを抑え込める者、すなわちわたくしの力を欲していたために眷属にできたんです」
僕を眷属にできたのは
肝心の僕自身は半ば無意識だったうえ、
それにしても、料理や手芸品も生贄になり得るんだね。
いやまぁ、生贄って習慣そのものがもうかなり昔に廃れたものだから、もともとそういうものを捧げる儀式だったのかもしれないんだけど。
「なるほど。ところで、手芸品や料理が生贄って……ご主人様はそういうものを捧げられると力になるんですか?」
「それはもう。美味しいものを食べれば元気になるでしょう? 手芸品も、心を込めて作ったものは良い贄になりますよ。手作りのお守りだって、丁寧に祈りを込めて作ったものにはご利益があるでしょう? あれは手作りする時に込めた祈りが贄として捧げられてるからなんですよ」
「そうだったんですね」
……知らなかった。
家族や恋人にお守りになる紋章を刺繍してプレゼントすると、特に魔力などを練り込んでいなくても簡単な護符として作用する事があるけど、それってこんな理由だったんだね。
「それで、話が脱線してますがあの
「イシュチェルちゃんは落差から力を引き出す子ですからね。調子に乗りやすい人をおだてて高いところに上らせて、そこから人を巻き込んで転落させることで発生する因業と因縁を自分の力に取り込むつもりじゃないかしら? 大規模な天災や戦災で生活が壊れて不幸になる人がいれば、その因縁もあの子の力になるでしょうし。苦しんで死んだ人々の魂を生贄として喰らいたいって気持ちもあるでしょうね。とにかくどんなことをしても少しでも力が欲しいし、力が得られたら誇示したがる子ですから」
「うわ面倒くさい子供……」
「そうね。あの子の本質は小賢しい子供だから、小細工はいろいろするけど、そんなに深く考えてはないんじゃないかしら。あんまり介入しすぎたり、むやみに混乱を招いたりすると世界そのものが衰退して、創世に携わった神ごと滅びてしまうんだけど……それをあまりわかってないかもしれませんね」
「それってもしかして、
「そうね。あまりに干渉しすぎると使える力が強くなる代わりに、魂そのものが消耗してしまって神でいられなくなるかも。それがわからないまま、少しでも多くの魂や因業を喰らって強い神になりたがってるんでしょう」
つまり自分の力を増すために、あちこちに戦乱の種を撒いておきたい。
そのために、小国で混乱を起こしやすい割に広くあちこちの国に繋がっていて影響が大きいシュチパリアを選んだという訳だ。
自分が直接出てきて干渉する事で自分の魂を消耗して世界ごと衰弱してしまう危険があるのだけど、そのリスクを理解できていないから好き勝手やっている。そして『前回』わざわざ自ら動いてあれこれ画策していたにもかかわらず、目的をほとんど達成できず不満がたまっていた。
だから今回は躍起になって周りが見えず、余計に墓穴を掘って世界ごと自滅しかねない。
これは思っていたよりもかなり厄介そうだ。
女神の思惑通りに国を乱されるのはもちろん、女神が消耗しすぎて世界が維持できなくなる事も避けなければならない。
「あとはわたくしがこの世界を乗っ取れるくらいに力を回復させられればイシュチェルちゃんがへたばっても構いませんよ。そういう訳で、わたくしが早く力を取り戻せるように美味しいものいっぱい捧げて下さいね」
この人はただ単に食い意地が張ってるだけだと思う。
とにもかくにも、内乱を起こそうという虹色女神の悪巧みを阻止しつつ、直接介入しすぎて弱ったりしないよう誘導しながら、我が主の力を増すよう立ち回らなければならないらしい。
めんどうな事おびただしいが、失敗すれば大量の人が死ぬ。心してかからねば。
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