夜なべをしました。

 それにしても、自分の作った世界を混乱させて虹色女神イシュチェルは何をしたいのだろうと思う。

 彼女は他の神の力を「神の死体を世界の材料にする」という形で利用しなければ、自力で世界を作る事ができないほど未熟な神らしい。それなのに、そこまでして作った世界を荒らしてどんなメリットがあるのだろうか?


 自分の思い通りに動かない現エステルに「自分はリリア・アピリスティアだ」と思い込むように暗示をかけていたことを考えると、かの偽聖女のように戦乱を起こして多くの人々の死を招くことがかの女神イシュチェルにとっては非常に喜ばしい事なのだろう。

 リリアになりきった現エステルは、暗示がかかった状態で「因業を重ねてたくさんの魂を刈り取り、創世神イシュチェル様の糧となす」と言っていた。

 となると、戦乱や陰謀で惨めに亡くなった犠牲者は生贄として性悪女神イシュチェルの糧となるのだろう。

それとも「世界の礎」となっている腐乱死体イシュタムが力を取り戻す事をはばみたいのか?


 おそらくその両方なのだろう。


 とにもかくにも、あの邪悪な創世神イシュチェルが出てくるのは間違いない以上、何とかして僕も主と意思の疎通をしたり、力を使いこなせるようになりたいものだが、いったい何をどうしたら良いのか見当がつかない。

 正直、僕は感覚的にものを覚えるのはあまり得意ではないので、その力がどんな原理で作用するのか理詰めで教えてもらった方が楽なんだけど……

 僕の主は能天気なんだか何なんだか、眷属にしたままほったらかしで、何が出来るのかも全く説明してくれないもんだから、イマイチ勝手が分からないまま「なんとなく出来そうだから試したら出来た」の積み重ねで試行錯誤している状態だ。

 お陰で未だに自分で何ができるのか把握しきれていなくてものすごく歯がゆくてならない。


 幸いなことに、ある日自分の身体を把握するために全身に魔力を流している時に、自分の意識の奥底の方に主に繋がる暗闇が潜んでいる事に気付くことができた。

 そこに意識を集中し、闇の中に潜るようにしていると月蝕を呼び出すことができるようだ。

毎日練習しているうちにだいぶ高確率で月蝕を呼べるようになり、少しずつそこから瘴気を操れるようになってきたのは僥倖ぎょうこうと言うべきか。

 まだまだ使い物になるとはとても言い難い状態なので、日々練習を積み重ねるしかないだろうが。


 そんな事をつらつらと考えているうちに、ふと気が付くとお守りが完成していた。

 本当は殿下や他の側近たちにも渡しておいた方が良いんだろうけど……間違ってもつけてくれないだろう。むしろその場で突っ返される未来が見えるような気がする。

 仕方がないから今日はもうさっさと予習復習と宿題をやって寝る事にしよう。

 夜更かしは健康の大敵。


 いい加減、夢でもいいから主と連絡取れるといいんだけど。……いやまぁ、夢で遭えたら遭えたでホラーなんだけどね。

 何しろ僕の主は首吊り腐乱死体だから。

 わざわざ好き好んで液状化するほど腐乱した死体の夢を見たがるのも変な話だよな~、と思いながら床につく。

 コニーたちはもう眠っているのだろうか?願わくば、彼らに良い夢が訪れますように。


 おやすみなさい。

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