少し反省しました。

 いろいろと話し合ってみて、虹色女神の目的はこの国を混乱させること、できればその混乱が諸外国に波及する事だろうと見当をつけた。

 シュチパリアが置かれている地理的環境に加え、根強い民族間の対立をうまくあおられれば近隣諸国を巻き込んで大規模な戦乱が起きるのは間違いない。

 そのために都合の良い駒にするためにエステルや僕たちを洗脳して操ろうとしてくるかもしれない。


 とりあえず一番危険なエステルと、一緒にいる事の多いピオーネ嬢に一つずつ精神操作系の魔法を阻害するお守りを作って渡しておいた。

 念のため何かあったらすぐに駆けつけられるように、お守りに血液が付着すると、その血の持ち主とおおまかな位置が僕に伝わるような術をかけてある。


 今日のところはお守りを渡して解散して、今後エステルはピオーネ嬢とできるだけ一緒に行動するようにしてもらう。もちろん休み時間などはコニーと僕もできるだけ一緒に過ごすようにするつもりだ。

 しばらく起こる時期が決まっているイベントはないらしいから、ランダムイベントとやらが発生しないか気を付けながら、おかしな動きをする者が他にもいないか注意するようにしよう。


 それにしても、コニーも狙われるかもしれないと先生に指摘されて肝が冷えた。

 虹色女神イシュチェルが手駒として連れてきたであろうエステルや、彼女と敵対する月蝕女神イシュタムの眷属である僕はともかく、戦うすべを持たない普通の人間であるコニーまで狙われるかもしれないなんて。

 学校にいる間なら僕が何とか対処できるけれども、一人の時に襲われたらと思うと不安でならない。

 

 帰宅後、訓練と勤務を終えて私室に戻ると、ちょうど材料があったので先生とコニーに渡すお守りを作ることにした。

 手を動かしながらここ数日あった事をつらつらと思い出しすと、時間が巻き戻ってからうかつな行動の連続で、反省ばかりが積もっていく。


 まず、安易に月虹亭に近付いてしまったこと。

 とてつもなく厄介な人外が関わっている事はわかっているのだから、もっと慎重に行動すべきだった。

 まさか学園にいるエステルが拉致されるとは思っていなかったが、僕の中に宿る月蝕女神イシュタムの力を感知されて警戒されたらしい。僕の認識の甘さが彼女の危機を招いたと言えるだろう。

 幸い月蝕を呼び出して避難することができたけれども、まだうまく力を使いこなせないのでむやみに頼るべきではないだろう。


 それから仕掛けられた際の対応について。

 次にまた毒を盛られたら、寿命が縮んでもいいから魔法で何とかしてくれと懇願されて、色々と反省した。

 僕なんかは殉職する同僚もそれなりの数いるし、自分も一回死んでるものだから、何はともあれ生存率重視で、少しでも確実に救命できて身体に負担が軽い方法を迷わず選んでしまう。


 でも、年頃の女性にとっては目先の救命率や安全性よりももっと大切な事もあるようだ。

 人前で派手に吐くくらいならば多少寿命が縮んだ方がマシだと言われてしまい、ハッとした。

 そう言えば火災で建物の三階に取り残された女性が、下着が見えてしまう事を嫌がって避難のために飛び降りることを拒み、そのまま焼死した事件があったことを思い出す。


 やはり妙齢の少女にとっては人前で「恥ずかしい」思いをすることは死にも勝る恐怖なのだろう。

 配慮が足りなくて本当に申し訳ない事をしたと思う。


 いろいろと不安もあって浮足立っていたことは否めない。

 いくら先生やコニーが協力してくれているとはいえ、大まかな事情を知っていて対処すべきは僕なんだから、もっと慎重に考えて行動するように心がけなくては。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る