対策を考えてみました。

 

 システム上あり得ないはずのハーレムエンドを迎えるため、虹色女神イシュチェルがキャラクター、すなわち僕たちを洗脳して思考や感情のパターンを変えようとしてくるかもしれない。

 そんな話をしているうちに、ふと思い当たることがあった。



「あ、そっか。前回、僕が洗脳されそうになって命を落としたのって月虹亭を探って女神の邪魔をしようとしたからだと思ってたんだけど、もしかして『ハーレムエンド』のために僕の頭の中を直接いじって思考や行動パターンを変えさせようとしたのかも」


「なるほど、一理あるな。それなら、次はスキエンティアが狙われるかもしれん。スキエンティアも『ハーレム不可能』な『設定』持ちなんだろう?」


 先生が推測を重ねてリスクを提示してくれる。

 コニーが狙われる事は全然想定していなかった。戦うすべのある僕ならばともかく、彼が全くの無防備な時に襲われていたらと思うとぞっとする。


「いずれにせよ、天人朝顔の蜜を使ってお前たち三人の誰かを洗脳しようとしてくるのは間違いないだろうな」


「う~ん……思考操作系の魔法はお守りである程度防げると思うんですが、使ってくる毒が天人朝顔だとすると、解毒剤も劇物だから素人が扱えるものではありませんね」


「全くだな。専門医でなければちょっと……少なくとも俺は自信がない」


「僕もです。身体強化魔法であらかじめ肝機能をあげておいて、中枢神経に効いてくる前に毒を分解することは可能ですが、眠くて授業どころじゃなくなりますし……術者だけじゃなくて術をかけられる側も生命力を消費するからあまり濫用しない方が良いでしょう」


「盛られた時だけ発動するようにはできんのか?」


「盛られてすぐなら吐いた方が早くありません? その方が身体への負担も軽いですし。生命力を消耗するって、早い話が寿命を削るって事ですよ?」


「人前で吐くくらいなら寿命が縮む方がマシです」


 先生と毒物への対処を話し合っていると、エステルがボソッと呟いた。

 まるで別人のような低い声に驚いてまじまじと顔を見ると、完全に目がすわっている。


「うわ、そんなに嫌だったんだ」


「いえ、先ほどは処置していただかなければ生命の危険がありましたから仕方ないとわかってはいるのです。わかってはいるのですが、やはり人前で吐くなんて……」


 無理やり笑顔を作ってはいるけれども、目が完全に泳いでいる。これはよほど嫌だったに違いない。


「さっきは本当にごめん。緊急時だからとっさにやっちゃったけど、そこまで嫌な思いをさせるとは思わなかった。今度から気を付けるね」


「いえ、私も不用意に何か飲んだり食べたりしないよう気を付けます」


「とりあえず、何かあったらすぐわかるようにしておきたいから、さっき渡したお守りくれる?」


 もう一度髪を数本抜いて、受け取った飾り紐と一緒にさっきとは違う術式で魔力を練り込みながら編みこんでいく。最後にまた僕の血を一滴垂らしてからエステルとピオーネ嬢に一つずつ渡した。


「今回も思考操作系の魔法を防ぐようになっているんだけど、ついでに使用者の血液が付着すると、その血の持ち主と距離、方角が僕に伝わるようになってるんだ。手首にでも巻いておいて、何かあったら血を垂らしてくれる? すぐ駆けつけるから」


「便利な術ですね。ありがとうございます」


「……ところで、また毒盛られたらどうする? 吐く方が身体への負担も軽いし確実だけど……寿命削ってでも解毒魔法かける? その場で寝ちゃうリスクもあるけど」


「……お願いですから魔法の方にしておいてください」


 女の子が人前で吐くのってそこまで嫌なことだったんだね。騎士団の同僚たちと一緒にしてはいけないね。

 生命がかかってるからってかなり乱暴な事をしてしまって、ちょっと反省。今度から念のため解毒剤も用意しておくことにしよう。

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