虹色女神の目的を推測してみました。

 何だか特大の爆弾を落とされたような気がするがいったんスルーすることにして。

『前回』のエステルが執拗にこだわっていた『ハーレムエンド』とやらはシステム上あり得ない事がわかった。


「あれ? そうすると、前回の『エステル・クリシュナン』ってなんでそんな無茶な事しようとしてたんだろう? ハーレムエンドがシステム上あり得ないってみんな知ってたんでしょう?」


「あ、そういうデータ上の設定は公表されてませんので。私はゲームのデータをいじろうとソースを見たので知ってますが、ほとんどのプレーヤーは知らないんじゃないでしょうか」


「「「……」」」


「……それで、達成できたの? ハーレムエンド……」


 うわ、キャラクター改造してまでクリアしようとしたんだ。

 目の前の現「エステル・クリシュナン」が本当に複数の男性と同時に肉体関係を持ちたがるような人にはとても見えないんだけど……


「それが達成前にどうも転生させられてしまったようで。それに、皆さんがたとえ異世界であってもこうやって実在して生きていると知っていたのであれば、そんな真似はしなかったです。ただのデータ、情報をいじっていろんなパターンを試す遊びとしか認識してなかったので」


「そのデータをいじって試すというのがよく分からないのだが」


「チェスのタクティクスパズルみたいなものだと言えばわかりやすいでしょうか?」


 なるほどね。

 チェスの提示された局面の続きを考えるのと同じで、どんなパターンがあるかシミュレートしてみただけ、と。実際にそういう恋愛をしたいという気持ちは全くなかったようだね。


「しょせんは机上の空論だからこそ色々試して楽しめるんですよ」


「なるほどな。それで、ハーレムエンドができたとして、一体何がどうなるんだ?それがわかれば、その『女神』とやらがそれを通して何を狙っているのかわかると思うのだが」


「正直、わかりません。そもそも可能かどうかもわかりませんし。ただ、常識的に考えて王族や高位貴族の令息がこぞって筆頭公爵家のご令嬢を貶め、たかが男爵家庶子へのちょっとした嫌がらせ程度で処刑しようとしたら内乱になるのでは?」


「それはその通りだな。となると、目的は内乱か。カロリング王国の革命以来、未だに西の方は戦乱続きで不安定な状態だが、今度は東のシュチパリアから東方にまで混乱を広げようという魂胆だろうな」


「アハシュロス公女はシュチパリアだけでなく、隣のダルマチアの王位継承権もお持ちですし、攻略対象者の派閥はバラバラです。それぞれの派閥の中でも内紛が起きそうですよね」


 ここシュチパリアは大陸西方オクシデントと東方マシュリークの境界に位置する小国で、温暖な気候と海洋交通の便を活かし、太古より商業都市および保養地として交易と観光で栄えてきた。

 政情が不安定になればこれらの産業は大打撃をこうむり多数の失業者が出るだろう。

 また、小国とはいえ、交易と血縁を通じて洋の東西を問わず係累の多いシュチパリアが本格的な内乱になれば、オクシデント、マシュリーク双方の世界に直接影響を及ぼす。


 特に混乱の中心になりそうなアミィ公女はシュチパリアおよびダルマチアのみならず、ダルマチアの宗主国であるオストマルクの王位継承権も持っている。

 カロリング王国の革命から始まった西オクシデントの混乱が東方のマシュリーク諸国にも波及すれば、大陸全土を巻き込んだ戦乱の時代が始まるかもしれない。


「『前回』のエステル・クリシュナンがぽんこつで本当に良かった……」


 送り込まれた虹色女神イシュチェルの手先がリリア・アピリスティアのような人間だったら、シュチパリア一国ではとどまらない混乱と暴力があちこちに振りまかれ、多数の人の人生が踏みにじられる事だろう。

 それだけは何としてでも防がなければならない。

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