『ハーレムエンド』について訊いてみました。

「ところで、前回エステル・クリシュナンと名乗っていた人は『ハーレムエンド』を達成すると隠しキャラがどうとか言ってたんだけど、何かわかる?」


 『前回』のエステルは『ハーレムエンド』を迎えてアミィ嬢を処刑させることにものすごくこだわっていた。もしそれが達成できたとして、そこから一体どうするつもりだったんだろう?


「『ハードモードでハーレムエンドを迎えると、隠しキャラが現れてボーナスステージを遊べる』という噂がファンの間であったのは確かですが、達成した人はいないと思います。なぜならそのままのデータではハーレムエンドはあり得ないので」


「え、それはなぜ?」


 あっさりと返ってきた意外な答えに驚いた。『前回』のエステルがあれほどまでにこだわっていた『ハーレムエンド』は、実はシステム上達成不可能だったらしい。


「『ハーレムエンド』というのは全ての攻略対象者の好感度が『本命』以上で、かつ全員と肉体関係がある状態なんです」


「「「……」」」


「……クリシュナン嬢。その……あまり殿方の前ではしたないことはおっしゃらないほうが……」


 あまりに生々しい話で男どもは沈黙してしまった。

 ピオーネ嬢も顔を真っ赤にしてつっかえつっかえしながらエステルをたしなめる。


 この国では女性が婚前に異性とそういう関係を持つというだけでも非難される。

 まして、複数の男性とそういった関係のある未婚の女性など、まずまともな結婚はできないと考えた方が良い。


「失礼しました。あくまでゲームのシステム上のお話であって現実に私がそういった事をするわけではないのでご安心ください」


「た、確かに『ゲーム』の中のヒロインと現実のクリシュナン嬢では別だものね。今の君がゲーム上の設定とは違うのはわかってるよ」


「ご理解いただきありがとうございます。システム上、他のキャラの好感度が『恋人』以上になると、好感度の上限が『友人』まで下がるキャラがいるので『ハーレムエンド』は実現不可能なんです。肉体関係を持とうとすると同じように上限が『友人』まで下がるキャラもいますし」


 それはそうだろう。

 六人全員が一人の女の子を「本命」扱いして肉体関係を持つとか、気持ち悪すぎだよね。

 恋人が他の男性と親密になりすぎたら嫌がるのが当たり前だし、そもそも婚前に肉体関係を持ちかけられるだけで違和感や嫌悪感を覚えても不思議ではない。


 しかも更に隠しキャラ……別の男性をわざわざ探し出してまでそういう関係になりたがるとか。

 正直、そんな願望を持つ女の子ってだけで、好感どころか関わりたいとすら思えない。実現できない仕様になっていて当然だと思う。


「つまりその『ハーレムエンド』とかいうものはシステム上できないようになってるんだね」


「その通りです。不正にプログラムを改ざんすればできなくもないかもしれませんが……それって強制的に行動や思考、感情のパターンを変えるって事ですから、元のキャラとは言えません」


「確かに。本人に何かきっかけがあって考え方が変わるならともかく、無理やり書き換えられたのではとても元の人格と同じとは言えないだろうな」


「ちなみに浮気されると攻略不能はスキエンティア様、肉体関係を持ちかけると攻略不能になるのはポテスタース卿です」


「「……!!」」


「二人とも耳まで真っ赤だぞ」


 くっそやかましい!!

 キレなかっただけ褒めてほしいとこだよ。というか先生は浮気とかされて平気なんだ?


「……クリシュナン嬢、一言余計だってよく言われませんこと?」


 ジト目のピオーネ嬢が放った一言に心の底から同意した僕たち三人だった。

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