ゲームのシステムを説明してもらいました。

 とりあえずこれから起こるであろう『イベント』をできるだけ回避するため、覚えている限りの『イベント』の予定を全て書き出してもらうことにした。

 エステルが集中して書いている間に検査も終わったようで、今はパラクセノス師も僕たちと一緒に彼女の走り書きを見守っている。


「えっと……今は十二月ですから今月末に太陽節のパーティーイベントですね。それから年越しの祭りがあって……」


 やはり季節に応じた行事は全て『イベント』になっているらしい。

 その間に細かな『イベント』があって、更にランダムに発生する『イベント』で特定の条件を達成すると『フラグ』なるものが立って新たな『イベント』が起きるらしい。


「せっかく学園に通うのだから穏やかに楽しく過ごしたいので『ゲーム攻略』はしたくありませんね。攻略対象者の方々とはあまり関わりたくありません」


 大真面目に言うエステル。

 とにかく平穏無事に過ごしたいという強い意志を感じる。


「あ、先生やスキエンティア様、ポテスタース卿は別ですよ? 好感度を上げて攻略しようと思わないというだけで、こうやって相談に乗って下さっている事には本当に感謝してます」


「大丈夫、ちゃんとわかってるよ」


「それにしても、大きなイベントの間にずいぶんと細々としたイベントが起きるんだな」


「そうですね。小さなイベントを積み重ねて大きなイベントの前にどんな条件を達成しているかで次のイベントの展開が決まりますので」


「なるほど。どんな仕組みになっているのか大雑把で良いので教えてくれないか?」


 ざっと教えてもらった「ゲーム」の中身はこんな感じ。


・下町で平民として生まれ育ったエステルは、母親の死をきっかけに実父であるクリシュナン男爵に引き取られ貴族籍を得たため、全ての貴族子女が入学が義務付けられているアルディエイ王立学園の五年(最高学年)に転入学する。

・入学後、卒業までの半年で六人の攻略対象者と親交を深めつつ、恋愛を楽しむのがゲームの趣旨。

・攻略対象者との交流の内容によって「好感度」が変わり、その値によってその対象者との関係が「他人→顔見知り→知人→友人→恋人→本命→溺愛」と変化する。

「恋人」以上になると攻略成功で各種ハッピーエンドを迎える。ただし「友人」のままエンディングを迎えても「友情エンド」を迎えられるので攻略失敗とも言えない。

・プレイングが悪いと「他人→嫌悪→敵対」とネガティブな変化をする事もあるので要注意。

・発生したイベントで特定の条件を満たすと「フラグ」が立ち、それに伴って先の展開が変わる。

・好感度の上がる条件はキャラクターによって違う。

・課金アイテムを使うとイベントの結果いかんによらず好感度を上げることができる。

・イベントを楽に成功させるためのアイテムも存在する。


「この好感度っていうのはどうすれば上がる訳?」


「そうですね。例えばクセルクセス殿下だと、とにかく話を聞いて同調する、良いところを褒める。後はコンプレックスを感じている部分を否定しない、ですね。勉強や鍛錬に誘ったりするときは細心の注意を払わないと下がります」


「……なるほど」


「彼はエルダ系を好んでダルマチア系を嫌うので、民族的な話題が出た時は要注意ですね」


 いろいろとコンプレックスの強いクセルクセス殿下らしいというかなんというか。

 きっと他の「対象者」にもそういう地雷みたいなのがあるんだろうな。


「『好感度』は通常モードだと数値で確認できるんですが、ハードモードだとプレイヤーからはわかりません。もちろん攻略対象者の反応である程度はわかるんですが……けっこう簡単に下がったりもするので、いったん『攻略済み』となった後も対応次第では『敵対』まで下がる事もあります」


「一度『攻略』成功したからと言って、ずっとそのままではないんだね」


「その通りです。それに、対象者は立場上仕方なく愛想よく振舞ってる事もありますからね。にこにこ言う事を聞いてくれてるからといって必ずしも好感度が高い状態とは限らないんですよ」


「な……なるほど」


 ピンポイントで僕の事を言われたような気がしてドキッとしたんだけど、思い過ごしだよね?


「『前回』のエステルは『悪役が詰められれば詰められるほどヒロインが輝く』って言ってたけど……」


「確かに『悪役』からのイジメを上手にアピールすれば好感度が能率よく上がります。ただ、それだけで上限まで上がりきることはありませんね。きちんとそれぞれのキャラが抱えているトラウマと向き合ったり、勉強して自分の魅力や能力を磨きませんと」


「なるほど、他人を下げているだけでは自分の魅力も能力も上がるわけじゃないものね」


「その通りで、地道な努力は必要不可欠です。そちらで底上げが充分にできない場合は、課金アイテムを使って強制的に好感度を上げるしかありませんね」


 このゲーム、『前回』のエステルが言っていたような単純なものではないようだ。

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