ゲーム情報を整理してみました。
ほどなくしてパラクセノス先生がエステルを連れて戻ってきた。
「胃洗浄をかけてきたが、ほとんど異物は残っていなかったようだな。処置が早かったのでもう大丈夫だそうだ。念のため眩暈やふらつき、幻覚、幻聴があればすぐ私に言うように」
「先生、ありがとうございます。ポテスタース卿もありがとうございました。処置が早かったおかげで大事に至らなかったと言われました」
お礼を言うエステルの顔色はすっかり元に戻っていて、足取りもしっかりしている。
どうやらもう心配は要らないようだ。
「いえ、むしろ危険な目に遭わせてしまって申し訳ありませんでした。先生、サンプルはこちらでメタノールに浸して抽出しています」
「あ、ゴボウ入れなかったのか。それじゃ結果が出るのは明日になるな。明日の放課後、また話をすることにしよう」
「「だからなぜゴボウ……」」
なぜかゴボウに引っかかりを覚えるらしいエステルとピオーネ嬢が二人同時にツッコミを入れた。
「さっきも説明したように、ゴボウは特定の薬物を吸着する働きがあるんだよ。だから毒物を早く吐き出させたい時も役に立つし、検査の際サンプルに混ぜることでより精度の高い検査が素早く行えるんだ」
「ごく限られた薬物にしか使えないが、今回使用が疑われている薬品については大幅な検査時間の短縮が可能だ」
「なるほど、それで事前にゴボウのすりおろしを飲むようおっしゃっていたんですね」
先生と交互に説明をすると、ピオーネ嬢は首をひねっているがエステルは何やら納得した様子。
彼女の言う「元いた世界」では魔法が存在しない代わりに科学がこちらの世界よりも発達しているのだという。おかげでこういった話も理解がしやすいのかもしれない。
「事前に飲んでいたのか。それで処置がスムーズだったんだな。いずれにせよ検査の結果が出るのは明日になるので、今日はいったん解散することにしよう。明日結果が出てから今後の事を話し合うので、放課後研究室に集まってくれ」
こうしてこの日はいったん解散して、明日の放課後に改めて研究室にお邪魔することとなった。
翌日。
エステルたちと合流して先生の研究室にお邪魔すると、分析にはまだ時間がかかるとのことで、しばらく待たせていただくことにした。
「そういえば、気にしていた『イベント』って今日は起こったの?」
「いえ、何も。もともとゲーム通りならしばらく大きな『イベント』はないはずです。時々廊下で足を引っかけられたり、水をかけられる程度の嫌がらせは不定期にありますが……『ゲーム』の『イベント』なのか、ただの幼稚なイジメなのかわかりません」
困ったように微笑むエステル。確かに「ゲーム」の筋書きとは無関係に、突然やってきた平民育ちの転校生にくだらない嫌がらせをする生徒がいないとは言いきれない。
「まぁこの年齢にもなって、そんな幼稚なイジメをする奴なんて、ある程度の躾を受けて育っていればそうそういないと思うけど、全くいない訳ではないからね」
「念のため、今わかっている『イベント』とやらをできるだけ書き出していってもらった方が良いでしょう。ついでに『攻略対象』だったか?『ゲーム』で接触するように指定されている人物の情報も頼みます、クリシュナン嬢」
「かしこまりました。紙をいただけますか?」
コニーが今のうちに『ゲーム』の情報を整理しておこうと言い出した。
確かに先生の分析を待っている間に、こちらでもわかっている情報を書きだしておけば後で話し合うときに能率が良い。
エステルも納得した様子で、用意した紙に所狭しと『ゲーム』の『イベント』と、その他の『設定』を箇条書きにして行く。しかし、『攻略対象』を書き出している最中に、いきなり神妙な顔で固まってしまった。
何やらとても気まずそうな表情だ。いったい何があったのだろうか?
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