待ち伏せされていたようです
「それで、どうしましょう? いつまでも店の前で騒いでいる訳にもいかないと思うのですが……」
コニーの知らせで駆けつけてくれたエサドにお説教されていると、ピオーネ嬢がおずおずと切り出してくれた。
うん、こんなところでいつまでもわいわい騒いでいたら迷惑だよね。
決して「これ以上頭ぐりぐりされたらハゲそう」って思ってたからほっとした訳じゃないよ。
「とにかく、ご令嬢がたに店に入っていただくのは却下だ。危険すぎる」
「それじゃどうする?」
「お前が女学生の制服でも着て入れば良いんじゃないか? 全く違和感ないと思うぞ」
うわ、冗談めかしてるけどエサドの目が笑ってない。これは本気で怒ってる。
エサドはいつも穏やかで物静かな分、怒らせるととても怖いんだ。当分逆らわないようにしておこう。
結局、あれこれ話し合った結果、エサドが店のすぐ外に待機して僕が客として店内に入ることに決まった。その間にコニーに女性陣を学校まで連れて帰ってもらう。
ちなみに女装は勘弁してもらった。
ちりりん
涼やかな鈴の音とともにドアが閉まり、奥のカウンターに座った女性と目が合った。
ありふれた茶色の癖のある長い髪と栗色の瞳。一見地味だがきわめて整った顔立ち。
朱唇の両端がくいっと持ち上がって
うわ、これはまずいパターンだ。
やっぱり待ち伏せされていたようだ。
身構える間もなく店のカウンターを立った店番の女性が僕の傍らにやってきた。
不自然なまでになめらかで素早い動き。滑るよう、というよりはもはや一瞬で空間を飛び越えたかのよう。
「うふふ。せっかくヒロインを挿げ替えて巻き戻したのに、あいつの臭いがプンプンすると思ったら、アンタだけ巻き戻らなかったのね。マジめんどくさい……」
店番の女性は僕の真横に立ったかと思うと、きゃぴきゃぴと可愛らしい声で憎々しげに言った。
やはり今回の巻き戻りは
「なんのことでしょう、レディ?」
あえて気障ったらしく訊いてみるがあいまいな笑みでごまかされる。若い女性客でにぎわっていた店内にいたはずが、いつの間にか真っ白な何もない空間に移動していた。
「腐臭がすごいわよ、あのいけ好かない女のね」
「おかしいなぁ。僕ちゃんと毎日風呂入ってるんですけど」
そういう問題ではないのはわかっているけれど、相手の出方がわからない以上、軽口で受け流すしかない。
「店番の女性」も、既に整ってはいるが地味な外見から、本来のキラキラと虹色に輝く女神の姿に戻っている。
「うふふふふ。わかってるくせに。何度も何度もあたしの邪魔しやがって……消えて。あたしの世界にアンタはいらない」
「僕を強制的に消すことがあなたにできるんですか? 僕の主はあなたの世界を内包してますよ」
「……っ」
あえて挑発すると悔し気に唇を噛んで睨みつけてくる。
こんなところに長居は無用だ。
白く発光する空間を月蝕の闇が切り裂く光景を脳裏に描きながら付近の瘴気を練り上げ開放しようとすると……
何の気配も感じなかったのに、唐突に後ろから誰かに抱きつかれた。
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