準備は念入りにしましょう。
僕たちはさっそく月虹亭に行って前回使われた毒物を扱っているか確認する事にした。
と言っても、あそこには間違いなく
まずはできる限りの対策をしておかなければ。
僕は髪をほどいて編み込んでいた飾り紐を外した。
自分の髪も数本抜いて、魔力を練り込みながら紐と編み合わせる。
「な、何をしておられるんですの?」
「簡単なお守りを作っているんです。危険が予想できるのですから、当然できる限りの準備をしてから突入しないと」
「……」
戸惑った様子で問いかけるピオーネ嬢に答える間も手は休めない。
仕上げに指先を切って血を数滴垂らすと簡単なお守りの出来上がり。
「急ごしらえだけど、念のため身につけておいて。少しなら精神操作系の魔法を防げるはずだから」
「あ……ありがとうございます」
「お……お守りってこうやって作るんですのね」
あれ? エステルもピオーネ嬢も少々退き気味に驚いている。
こういった簡易的な護符の作り方を初めて見たらしい。
軍人や運送業、船乗りなどの危険を伴う職に就いていると、こういったものを自前で工夫して用意する事も多いから珍しくもない事なんだけど……
教養クラスの貴族令嬢だと魔法そのものを学ぶ機会がないから馴染みがないのも仕方ないのかな?
何も知らずにいきなり親しくもない男性の髪の毛をもらっても、そりゃ戸惑うし、どん退くよね。
「自分の身体の一部を使うと魔力を練り込みやすいからね。気休め程度だけど、何をしてくるかわからない相手と会うのだから少しでも減らせるリスクは減らした方が良いでしょ?」
簡単に説明すると、一応納得したのか、二人ともひきつった表情で髪に結んでくれた。
「あと、できれば事前に粉末状の炭とすりおろした生ゴボウを飲んでおいてほしいんだけど……」
「「なぜゴボウっ!? しかも生っ!?」」
二人で仲良く目を剥いている。
う~ん……これから薬物盛られるかもしれないってところに行くんだからゴボウはともかく炭は基本だと思うんだけど。
戸惑う二人をよそにいつも持ち歩いているゴボウをすりおろして炭の粉と一緒に練る。
「炭もゴボウも、毒物の入ったものを経口摂取させられた時に有毒成分を吸着してくれるんだ。だから万が一なにか盛られても、予め飲んでおいた炭やゴボウと一緒にすぐ吐き出せば、薬物の影響を最小限に抑えられるよ」
「え、吐くんですか? 解毒剤は?」
「今回使われそうな毒物は中枢神経に直接作用するから、解毒にも中枢神経に直接作用する向精神薬を使わなきゃならない。拮抗剤といって、ちょうど真逆の性質を持つ毒同士で効果を打ち消しあわせるんだ。もちろん匙加減を間違うととんでもない事になる薬だから、できるだけ炭とかで吸着して腸から吸収される前に吐き出す方が安全なんだ」
「そ……そうなんですか……」
「うん。ちゃんと圧舌子持ってきてるし催吐剤もあるから安心して」
「あ、圧舌子……持ち歩いてるんだ……」
「全然安心できませんわ……」
青ざめた顔でぼやく二人。
エステルは何やら遠い目をしているけれども、いったいどうしたんだろう?
「ちなみにゴボウは調理してキンピラとかにすると効果が半減するから生がいいんだって。はい、これ飲んで」
「は、はい」
「いただきます……う」
説明しながら用意したゴボウと炭の粉を溶いた水を飲ませると、二人ともなんとも微妙な顔をした。
「あ、あとこれ催吐剤ね。殿下の護衛務める時に毒見をすることもあるから持ち歩いてるんだ。何か飲み食いさせられたあとに、耳鳴りがしたり頭がぼーっとしたりしたらすぐ飲んでトイレに行ってね」
何とも微妙な顔で受け取るエステルと半眼になるピオーネ嬢。
考えられるリスクのうち、極めて可能性の高いものに対処してるだけなのに、二人の目が冷たいのはなぜだろう。
「そ、その……どうしても持っていかなくてはなりませんか?」
「もちろんだよ。考えられるリスクのうち特に高いのが毒物を使われることだからね。生存確率を少しでも上げるために出来ることは全部しておかなきゃ」
「せ、生存確率……」
「さて、コニーに置手紙も書いたし、さっそく行ってみよう」
あまり考えていても仕方がない。準備が出来たところでさっさと出発しよう。
さて、あの
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