どうやって信じてもらえば良いでしょうか。

 放課後、クセルクセス殿下たちがエステルを下町に遊びに行こうとしつこく誘っていたのは「シナリオのイベント」だったらしい。

 「ゲームのシナリオ」とやらを回避しようとしていても、結局はイベントが起きてしまうのであれば、同じクラスに協力して「破滅」を回避してくれる人がいた方が良いだろう。

 というわけで、エステルは同じクラスで何かと世話を焼いてくれるピオーネ嬢に事情を話すことにしたらしい。


 確かにピオーネ嬢はとても善良で人が好い。弱い立場の人が本当に困っていれば放ってはおかないだろう。

 しかし、良くも悪くも常識的で社会通念から外れる事のないピオーネ嬢が、いきなりゲームやら転生者の話をされたところで、素直に信じてくれるかははなはだ疑問だ。

 僕のそんな逡巡をよそに、エステルは僕たちにした「ゲーム」や「転生」の話を始めてしまった。


「えっと……この世界が「ゲーム」……? 物語を疑似体験する遊びの世界……? 一体、何をおっしゃってるのか……」


 案の定、ピオーネ嬢は何を言われているかわからず困惑している。エステルが彼女を騙そうとしていると思って怒り出さないだけマシなのだろう。


「急に言われても何の事かわからないよね。にわかには信じられない?」


「当然ですわ。他の世界だの、女神に連れてこられただの……」


「たぶんね、クリシュナン嬢は嘘は言ってないと思うよ」


「ポテスタース卿は本気でこんな話を信じるのですか?」


「うん。僕、実は前にもこの時間を経験してるんだよね。その時は『エステル・クリシュナン男爵令嬢』という人が、『自分はこの世界のヒロインだ』と言い出して、薬や魔術を用いてクセルクセス殿下たちを操り好き勝手するのに巻き込まれて、酷い目に遭ったんだ。スキエンティア侯爵令息やパラクセノス先生の協力で何とか解決したんだけど、それからしばらくして昨日に時間が巻き戻っていて、『エステル・クリシュナン男爵令嬢』が全くの別人になってた」


「ポテスタース卿までそんな荒唐無稽な……」


 呆れたように首を振って嘆息するピオーネ嬢。やっぱりなかなか信じてもらえないよね。

 むしろすんなり信じてくれたコニーや先生の存在がすごくありがたいと思う。


「前回パブリカ嬢にもけっこう協力していただいたんだけど、その時は毒物を使っている証拠とか中毒症状と思しき常軌を逸した言動とか、わかりやすい証拠があったからなぁ。この調子じゃ全然『前回』の記憶は残ってなさそうだし」


 魔術に詳しい先生やコニーは瘴気を操って魔法を分解するのを見て納得してくれたけど、あくまで常識的な一般人のピオーネ嬢にそれを期待するのは無理がある。

 はて、いったいどうやって信じてもらえば良いのだろうか。

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