殿下が目をつけたようです。
翌朝、鍛錬を終えて登校するついでに教養科の教室の様子を見に行った。
エステルはピオーネ嬢と何か楽し気に話している。
昨日のような警戒しきった表情ではなくなっているので、特に変わったことがなければ大丈夫そうだ。そのまま教室に行こうと踵を返すと僕に気付いたらしく、エステルが小走りでこちらに来た。
「おはようございます、ポテスタース卿。昨日はありがとうございました」
「いえいえ、大したことはしてないので。困ったことがあったらまた気軽に相談してね」
「はい。昨日はじめて登校した時は不安でいっぱいで頭の中が真っ白でしたが、皆さんにご相談できてすっかり落ち着きました。お見苦しいところをお見せして申し訳ありません」
「お役に立てて何より。それじゃ授業が始まるからそろそろ行くね」
軽く言葉を交わして教室を立ち去ろうとすると、殿下がこちらをじっと見ている事に気付いた。
う~ん……殿下を放っておいて転校生の相手してるから気に障ったのかな?それとも目の前をウロウロされて目障りとか。
僕もコニーも勉強しろとか公務を早く済ませろとか、余計な事ばかり言う奴だって嫌われまくってるんだよね。
とにもかくにも二人とも落ち着いていた様子だったので、お昼休みは予習復習とついでに宿題を終わらせてのんびり過ごした。
放課後、念のため教養科に様子を見に行くと、並んで座るエステルとピオーネ嬢の前にクセルクス殿下と取り巻き二人が立っていて威圧的な口調で何か話しかけている。
「クセルクセス殿下、お気遣いには心から感謝します。しかし、クリシュナン嬢はわたくしと今日これからマナーを学ぶお約束をしておりますの。下町に遊びに行くのはまたの機会にお願いします」
ピオーネ嬢が毅然と返しているが、どこか困り顔だ。
どうやらエステルが放課後ピオーネ嬢にマナーの基本を教えてもらおうとしたところ、クセルクセス殿下たちに下町へ遊びに行こうと誘われて断り切れずに困っているようだ。
「クセルクセス殿下におかれましてはご機嫌麗しゅう。アハシュロス公子、コンタビリタ侯爵令息もごきげんよう。パブリカ令嬢とクリシュナン令嬢に何か?」
とりあえず声をかけてみると、殿下に親の仇を見るような目で睨まれてしまった。……いや、ちゃんとご両親は健在だけどね。もののたとえとして。
取り巻きのうち、アハシュロス公爵家の継嗣であるアルティストは殺気立った顔でこちらをにらみつけているが、コンタビリタ侯爵家の嫡子アッファーリは困り顔だ。
どうやら止めるに止められず、途方に暮れているらしい。お人好しで流されやすい彼らしいが、ゆくゆくは国王となる人の側近としてはいささか頼りない。
決して頭が悪いわけではないのに成績が振るわないのも殿下に合わせて勉強をさぼってしまっているせい。
そういうところを忖度して殿下に合わせるのではなく、やるべきことにきちんと向き合えるように支えて差し上げなければ……と、思うんだけど、ちょっとでも忠告すると殿下は逆上するからなかなか難しい。
「ごきげんよう、ポテスタース卿」
挨拶を返してくれたピオーネ嬢が目で助けてと訴えている。
コニー同様記憶は残ってないはずだけど、前回同様エステルの力になってあげようとしてるところを見ると、この人も本質的に人が好いんだろうな。
「これからスキエンティアと合流して勉強会の予定なのですが、殿下もご一緒にいかがですか?」
そんな約束はしてないんだけど、勉強会と言えばこの三人は逃げてくだろうからね。コニーのことは苦手みたいだし。
心にもないお誘いをかけてみると、案の定「予定があるなら今日のところはもう良い」と逃げるように立ち去って行った。
やれやれ。どうやら殿下に目をつけられてしまったようだ。
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