看過できません(コノシェンツァ・スキエンティア視点)

「ああ、それは僕が死人だからですね」


 能天気な声や笑顔と裏腹の、物騒な言葉に肝が冷えた。

 何を言ってるんだお前は。何も考えずにそう言えたらどれほど気楽なことか。


 出会ったころから漠然とした不安があった。

 幼い見た目や明るい立ち居振る舞いに似合わず生真面目で利他的な彼は、自分がなすべきと決めたことのためならためらいなく自らの生命も差し出してしまうだろう。


「この健康優良児のどこが死人だって?」


 冗談めかして頬に触れると、ちゃんと暖かいし柔らかい。

 良かった、今は生きている。


 足元から崩れ落ちそうな安堵を内心に押し込めて何事もなかったような顔をする。

 平静を取り繕うのは得意だ。何しろ俺の表情筋は見事なまでに動かない。動いてほしい時も勤務怠慢気味なのはいささか閉口するが。


 生贄だのゾンビだのと不穏な言葉が並ぶが、要は創世神と名乗る子供がどこぞの世界のままごと遊び

をやってみたくてこの世界の人間を駒に使おうとしているのだろう。

 その駒として選ばれたのが異世界から連れてこられたクリシュナン嬢というわけだ。「攻略対象者」や「悪役令嬢」とやらにされてしまった俺たちやアハシュロス公女も同様だな。


 冗談ではない。そんなくだらない事のために人生をもてあそばれてたまるものか。俺自身も、大切な友人も。


 とにもかくにも俺一人の手には余る事態だ。こういう時こそ借りられる手は借りておくべきだろう。


 帰宅後、俺は急いで手紙を二通したためた。

 あの人たちなら必ず動いてくれることだろう。



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