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 三人でパラクセノス先生の研究室に行って、エステルの「ゲーム」知識のこと、僕の「前回」経験したことなどを相談してみた。


 僕の正体というか、人外になってしまった話をしたらコニーに思い切りほっぺを引っ張られて「どう見ても死人に見えない」と言われたんだけど、瘴気を操って簡単な魔術の無効化ができるところを実際に見せたら、先生には信じて貰えたらしい。


 何となくコニーの視線が怖いような気がするんだけど、もしかして怒ってる?


「とりあえずは女神イシュチェルとやらの目的を調べることだな。どうやら『 ゲーム』とやらを再現したいようだが、それでどんな利益が得られるのかが皆目わからん」


 混乱からいち早く立ち直ったらしいパラクセノス先生が気を取り直したように疑問点を整理してくださった。


「そうですね。『前回』はやたらとゲームを再現する事にこだわってましたが……たしか、『人間がさかしらぶって他人を陥れたつもりで、周囲を巻き込みながら自分が破滅していくから面白い』って言ってました」


「随分と根性が曲がっているな」


「自分が特別だと思い込んで調子に乗って散々好き勝手やってた奴が自業自得で転落していく、その落差が世界を動かすエネルギーを産むんだとか。破滅した人々の無念と怨嗟えんさも。そして、そうやって紡がれた因業と因縁が世界の歪みとなって、イシュチェルの力になると言ってました」


「私が転生させられた時も『あなたがヒロイン、あなたのための世界でたっぷり愛されて身も心も癒されてきて』と繰り返し言ってました。世界がヒロインのために用意されてる、と言わんばかりの口調でしたが……自分が特別な存在だと思い込ませて、周囲を巻き込んで破滅させるつもりだったんでしょうか」


 僕たちの会話を聞きながら「現在の」エステルが口を挟む。


「おそらくそうだろう。他人の不幸は蜜の味、を地で行ってるわけか。それにしても、人間の苦境を見たいだけなら天災を起こしても良さそうなものだが」


「ただ単にたくさん死ねばいいってもんじゃないそうです。もっとも、大規模な災害を起こしたくても女神イシュタムの体内であるこの世界の中ではあまり極端な事ができない、という事情もあるようですね」


「そういえば、伝説にもあったな。創世神は信仰を忘れた不埒な人間を罰すべく、地上を覆いつくすような大洪水を起こしたが、救いを求める声に応えて二週間後に水を退かせたと。そして二度と天罰としては洪水を起こさないと誓い、その証として天に大きな虹を架けたと」


「天虹暦の起源伝説ですよね。伝説通りなら今から3860年前」


「まあ、伝説は伝説だと思いたいが……ポテスタースの話を聞くとその限りではなさそうだな」


 きっと調子に乗って何かをやらかした挙句、大規模な災害を起こすだけの力を失ったのをいい感じにごまかしたようにしか思えない。


「それで、イシュチェルは力を蓄えて何をするつもりなのだと思う?」


 納得した様子で頷くパラクセノス先生。問題はその次、力を手に入れた後の話だ。


「それは特に言ってませんでしたが……そういえば僕の『主』がよそ様にちょっかいをかけるつもりか?とか訊いてました」


「つまり、他の世界に干渉する力を手に入れたいのか」


「もしくはイシュタム様の影響下から抜け出したいとか? 主の体内であるこの世界の中では思うように力をふるう事ができないと言ってましたから。主も力に制限を受けて身動き取れなくて困ってるようですが、女神イシュチェルはそれ以上にこの世界の中に変な風に縛られて不満がたまってるように見えました。」


「なるほどな。いずれにせよ常識や価値観の違う『異世界』の存在であるクリシュナン嬢にこの世界の秩序をひっかきまわさせて、できるだけ多くの人を破滅させたい、というのが女神イシュチェルの目的なんだろう」


「では、私ができるだけこの世界の常識に従って、秩序を乱さないように心がければあの根性悪の狙いはあらかたつぶせますね。私のミッションは『この世界の常識を身に着けて平穏無事に過ごす事』というわけです」


 最初の目標は見つかったようだ。

 やるべきことが決まったエステルはだいぶ気が楽になったようで、目を輝かせて力強くうなずいている。

 どうやら混乱はおさまったようで本当に良かった。


 さて、あとは僕たちがやるべき事を考える番だ。

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